闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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ディーヴァアンドナイト・4

 

 

アスナからノーチラスの相談を受けて半日経って現在は深夜、俺は三十九層フィールドに1人で来ていた。最前線のフィールドに、しかも夜に、さらに1人で向かうなど自殺行為にしか見えないが俺の現在のレベルは57で、たとえ絶不調だとしても三十九層クラスのモンスターに囲まれても返り討ちに出来る。

 

 

そもそも、俺が1人でフィールドに来ている目的はレベリングや素材集めでは無い。呼び出されたからだ。

 

 

時折湧いてくる〝バルーン・ルーセット〟という風船の様に丸く膨らんだ身体のコウモリを一刀で両断して辿り着いた先はなだらかな丘陵地帯。そこでは黒いコートに片手剣を装備したキリトが十数匹の〝バルーン・ルーセット〟相手に戦っていた。

 

 

この〝バルーン・ルーセット〟というのは回避力は高いが毒やブレスという特殊能力を持っていない為に単体なら戦いやすいモンスターだが知覚範囲が異常に広い。その知覚範囲はこの丘陵地帯丸々が範囲に入ってしまう為にここのどこかで〝バルーン・ルーセット〟と戦えば、どこからともなく〝バルーン・ルーセット〟が集まってくる。攻略組でもソロでこの時間帯にここに来ようなどと考える者は殆どいない。

 

 

だがキリトは違う。十数匹の〝バルーン・ルーセット〟をわざと集めて見てから反応するという後の先で〝バルーン・ルーセット〟の翼を斬り落として動けなくし、範囲ソードスキルで殲滅するという超高効率の狩りをしていた。確かに効率だけを見ればキリトのやり方は間違っていない。しかしこの方法は自身の安全を全く考えていない方法だった。

 

 

「うっすキリト、来てやったぞ」

 

 

新たに集まって来た〝バルーン・ルーセット〟を斬り捨てながらキリトに近寄る。それに対してキリトは初めから俺に気付いていたらしく特に反応も見せずに〝バルーン・ルーセット〟の殲滅を優先していた。俺は〝色絶ち〟は使っていないが〝隠蔽〟は使ってこの場に来ていた。それなのに気づかれたと言うことはキリトの〝看破〟が俺の〝隠蔽〟を超えていた、もしくはキリトのシステムに頼らない気配察知が〝隠蔽〟を超えたかのどちらかだ。

 

 

攻略に参加しているプレイヤーが強くなることは嬉しい。だが今のキリトは自分の命を勘定に入れていない危うさを感じさせる。

 

 

数十秒で〝バルーン・ルーセット〟の殲滅を完了し、丘陵地帯から少し離れた場所にある細長い岩に向かう。ここはフィールドに設置された安全地帯らしく、モンスターが湧かないのだ。

 

 

「今レベルは幾つだ?」

 

「……さっき62になった」

 

 

岩の側面から湧いている水を飲んだキリトは振り返りもしないで淡々と告げた。

 

 

キリトのレベルは間違いなく攻略組でもトップだ。攻略組ではフロア数プラス15を攻略マージンとしている。それを考えれば現在の攻略マージンは55、誰もがそれ以上のレベルだろうが精々1、2レベルくらいだろう。俺は最近は〝ラフィンコフィン〟狩りのせいでレベリングをサボっていて、最後にレベルが上がったのは三十八層辺りだった筈だ。ソロプレイという最も効率の良いレベリングをしているがそれだけではキリトのレベルの高さの説明はつかない。

 

 

キリトの高レベルの理由、それは今日の様なレベリングをここ数ヶ月の間ずっと続けているからだ。

 

 

攻略組のメンツはキリトの様子がおかしい事を薄々察して、アスナは間違いなく気がついているだろう。だが、誰もそれに口出しはしていない。何かあったことは予想出来ても、それに口を出すことは出来ないのだ。

 

 

だって、それはキリトが解決しなければならない問題だから。

 

 

「ふぅ……んじゃ、今日も頼む」

 

「あいあい」

 

 

キリトが右手でウインドウを操作すると俺の前に〝決闘(デュエル)申請〟のウインドウが現れる。キリトが言った通りに俺はキリトに頼まれてほぼ毎日、俺の都合がつく限りキリトに頼まれて〝決闘(デュエル)〟をしている。始まりは確か四ヶ月程前だったか。その頃のキリトは今とは比べ物にならない程に酷かった事を覚えている。

 

 

決闘(デュエル)〟の内容がいつも通りに〝半減決着〟である事を確認してからYESボタンを押す。

 

 

そして始まるカウントダウン。キリトは右手に片手剣を、()()()()()()()持つ。対して俺は右手にサブ武器である片手剣〝ルーンブレード〟一本だけ。SAO内トップの反応速度を持つキリト相手にサブ武器で相手をするとなると舐めている様に思われるかもしれない。

 

 

だが、相手は所詮反応速度が速いだけの相手だ。剣を二本持っていようが対処出来る。

 

 

カウントダウンがゼロになり、俺とキリトはほぼ同時に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーなぁウェーブ、俺って強くなってるのかな?」

 

 

地面に転がるキリトは荒れる前の様な声色でそう尋ねて来た。

 

 

「強くなってるさ。俺の()()()()()()()()()()()()

 

 

強くなっているかと聞かれれば強くなっているだろう。何せキリトは俺の左腕を斬り落としているのだから。

 

 

だがその代償はデカい。倒れているキリトの四肢は右腕を残して斬り落とされて、2つある目の1つは潰れている。HPは〝半減決着〟で〝決闘(デュエル)〟したというのにレッドゾーンに突入している。俺のHPはグリーンだがあと数ドットで半減を示すイエローになるところだった。

 

 

間違いなく大快挙で大金星だろう。〝決闘(デュエル)〟の結果としては。〝決闘(デュエル)〟だからキリトは今の状況で済んでいるのだ。これがもしガチの殺し合いで俺が殺すつもりでいたら今頃キリトは俺の左腕を斬り落とす代わりに首を斬られて死んでいただろうから。

 

 

「お前に何があったのか分からない、何がしたいのか分からない、何を目指しているのか分からない。お前がお前の事で手一杯な様に俺も俺の事で結構キツいからな。だけど、困ったら頼れ。大人としてそれくらいはしてやるから」

 

「……ありがと」

 

「差し当たっては回復結晶かポーション寄越せ。流石に部位欠損のまま帰ったらバレる。バレたら何されるか分からないんだよなぁ……」

 

「相変わらずカースト低すぎやしないか?一応ギルドリーダーだろ?」

 

「ギルドリーダーイコールカーストが高いじゃないんだよ。おら、早く寄越せ」

 

「ったく……あ、回復結晶もポーションも無いや。買い忘れてた」

 

「ちょっとぉぉぉぉ!?」

 

 

キリトから〝決闘(デュエル)〟を頼んでおいて回復結晶もポーションも用意していないという事態に俺は叫ばずにいられなかった。

 

 

仕方ないので俺が自前のポーションを使う事になり、腹癒せにキリトを麻痺毒入りポーションで麻痺らせてから何故かアイテムボックスに入っていたユウキとシノンの服を着せてキリトをキリトちゃんにし、記録結晶でキリトちゃんの勇姿を撮っておく事で済ませた。

 

 

 






ブラッキー四十層段階でレベル62というクレイジーレベリング。時期を考えると黒猫後でクリスマスイベント前だから荒れてる時期なんだよなぁ。つまり、黒猫イベントは消化済み。

レベル差が5あっても左腕だけでブラッキーをボロクソに出来るキチガイがいるらしい。まぁ母親から格上殺しを教えられている上に反応速度お化けの対処法知ってるから当たり前。むしろ倒せない方がおかしい。

そしてブラッキーがフィールドでブラッキーちゃんになっていたらしい。アイテムボックスにユウキチとシノノンの服が入ってた理由?マーキングだよ。


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