闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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ディーヴァアンドナイト・3

 

 

 

〝ウタちゃん〟の歌を聞き、気分良くその日を過ごせた俺は翌日になってからその気分のままに二十五層の迷宮区に居た。〝ザ・ファフニール〟を倒してからも圏内設定は解除されたままで、休める場所などどこにもないこの階層は攻略組にも中層プレイヤーにも敬遠されている階層だ。しかし、好き好んでこの階層に集まる奴らもいる。

 

 

前後から同時に迫る短剣を視認する事なく知覚。鼻で感じられる臭いから刀身には高濃度の麻痺毒が塗られていて、麻痺耐性を高めているプレイヤーでも麻痺しかねない。前から来る短剣は鉄板を仕込んでいるブーツで蹴り上げ、後ろから来る短剣は振り返りもしないで〝名刀・正宗〟で短剣ごと下手人を斬り裂く。

 

 

〝ウタちゃん〟の歌を聞いた事でリフレッシュが出来たのか、俺のコンディションはかつてない程に良い。五感が冴え渡り、どこに何があって誰が何をしているのかが手に取るように分かる。

 

 

蹴り上げられた事で体勢を崩した下手人の足を払い、前に進むついでに顔面を踏み砕く。頭部を無くした事で下手人のHPはゼロになり、そのまま死ぬ。

 

 

「クソッ!!なんだよあいつは!?」

 

「騒ぐ暇があったら人呼んでこい!!」

 

 

奥から聞こえて来るのは人の言葉、突然現れた俺に混乱しているのか明らかに統率が取れておらず自分が助かるために好き勝手に動いている。

 

 

俺が二十五層に来た目的、それはここにいるレッドギルド〝ラフィンコフィン〟を狩る為だ。俺たちのギルドを勝手に名乗って犯罪者として振る舞うこいつらを殺す為に、俺は誰にも告げずに二十五層にいる。

 

 

犯罪者プレイヤーというのはMPKでも無い限りはカーソルの色はオレンジや赤になっていて圏内に立ち入る事は出来ない。攻略組、中層プレイヤーから敬遠されているこの二十五層は圏内設定が存在しないので、こうした犯罪者プレイヤーたちの温床になっている。〝ラフィンコフィン〟の奴らもそれを知っていてここに巣食っていた様だ。

 

 

「死ねぇ!!」

 

 

曲がり道を曲がったと同時に槍が突き出され、空いている手で穂先を払い除けて踏み込み、〝名刀・正宗〟で首を斬り落とす。即死攻撃でオレンジプレイヤーはそのままHPをゼロにして死んでいった。

 

 

プレイヤーを殺しているのに俺のカーソルはグリーンのまま。それはSAOのシステムで、グリーンプレイヤーはオレンジやレッドのプレイヤーに攻撃しても色が変わらないと定められているから。いつもの俺ならオレンジやレッドでも攻撃したらカーソルの色を変えるべきだとかいうかもしれないが今だけはこの設定がありがたかった。

 

 

人を殺しても、人を殺したとバレないから。攻略組の面子なら殺しても気にはしないだろうが、中層下層プレイヤーはこのことを騒ぎ立てる。俺やPoHはそれを気にせずに受け流せるだろう。だが俺たち以外は軽くか重くかは分からないが間違いなく受け止めてしまう。過去にシノンが中層プレイヤーから石を投げられた事があった。その時は炸裂矢でそのプレイヤーをズドンした事で気が晴れたと言っていたがシノンの表情はいつもより暗かった。

 

 

子供は能天気に笑っていれば良い。辛い事や汚い事は大人がする仕事なのだから。

 

 

だから俺は1人で〝ラフィンコフィン〟を狩っている。殺される心配などしていない。攻略組レベルなら未だしも、遊び半分で人を殺す様な屑どもに遅れは取らない。

 

 

斬りかかって来た片手剣使い2人を纏めて斬り捨てる。上半身と下半身が分かれて死んでいく2人。攻略組なら最低でも手足を使えなくしてから死ぬだろう。そのくらいの覚悟を持っている。だがこいつらはそのまま死ぬだけ。死んでも後に何も残さずに、人を殺しておいて死にたくないと泣き喚いている。

 

 

「巫山戯てるなぁホント」

 

 

偽物だろうが〝ラフィンコフィン〟を名乗るのならその程度はしてみせろよ。弱い者イジメをして強くなった気でいるこいつらが不愉快極まりない。

 

 

「おいお前!!俺たちが誰だか分かってるのか!?俺たちは〝笑う棺桶(ラフィンコフィン)〟だぞ!!」

 

「奇遇だな、俺も〝笑う棺桶(ラフィン・コフィン)〟だよ」

 

 

偶々即死を避けたレッドプレイヤーが傷を抑えながらほざいた言葉にそう返して斬り捨てる。

 

 

斬って、斬って、斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って……全部で37人程斬って、二十五層の〝ラフィンコフィン〟狩りを終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二十五層で〝ラフィンコフィン〟狩りを終えて四十層に戻ると同時にアスナから〝血盟騎士団〟の拠点に来て欲しいと頼まれたので向かう事にした。

 

 

現在の〝血盟騎士団〟の拠点があるのは三十九層の主街区〝ノルフレト〟。これといった特徴がない典型的なファンタジー世界の田舎町といった佇まいだがヒースクリフが意味もなくこんなところを拠点に選ぶ訳がない。

 

 

拠点の近くのフィールドには鉱石や薬草の採取ポイントが豊富に存在し、防御は高いが攻撃力が低い戦闘訓練の相手に最適なモンスターが湧きやすい。その上、そのモンスターは上等な素材をドロップするという旨味まである。ギルド全体の強化を図るのに現状では最も適した階層だった。

 

 

「で、何で俺を呼んだんだよ?恋愛相談か?」

 

「巫山戯た事を言ってると穿つわよ?」

 

 

〝血盟騎士団〟の拠点の応接室に通された俺はソファーに腰を下ろし、テーブルの上に足を組みながらタバコを吸う。アスナが額に青筋を浮かべて武器に手を掛けているがいつもの事だ。手を出したらそれをネタにして余計に煽ってやろう。

 

 

「言っとくけど俺はキリアスを応援してんだからな?他のポッと出に掻っ攫われる様な真似はしないでくれよ?」

 

「ポッと出って……キリト君にそんな相手は……」

 

「いやいや、攻略組ってだけでプレイヤーにもNPCにもモテるんだぜ?何かキッカケがあってそのまま……なんて事もあり得なくないんだよ」

 

「……忠告ありがとう御座います」

 

「良きに計らえ」

 

 

やはりアスナも恋する乙女の様だ。ギルド〝笑う棺桶(ラフィン・コフィン)〟はキリアスを応援しているのだから頑張って欲しい。くっ付いた時にはアルゴを通してアインクラッド中に伝える手筈は整っている。

 

 

「で、本題は?」

 

「……実はウチのギルドの〝ノーチラス〟というプレイヤーについて相談があるんです」

 

 

アスナの口から語られたのは先日に行われた四十層の中ボス攻略の最中に起きた出来事だった。

 

 

迷宮区で〝ルースレス・ワーダーチーフ〟というモンスターと戦っている最中にノーチラスというプレイヤーが突然動けなくなったそうだ。これまでのノーチラスの戦闘には問題が無かったのに初めて迷宮区の攻略に関し、中ボスクラスの大型モンスターとの戦いの時に竦んで動けなくなったと言う。その場は偶々やって来たキリトの手によって何とかなったがヒースクリフにノーチラスの症状を相談したら、ノーチラスは軽度のFNCの可能性があると指摘された。

 

 

FNCにより戦うと判断している理性ではなく、死にたくないと命令している本能が優先された結果、恐怖で動けなくなったのではないかと。

 

 

勿論これはあくまでヒースクリフの推論に過ぎず、経験を積めば解決される可能性も有り得る。だがそうであればノーチラスの攻略組への参加は絶望的だ。能力は高く、性格も真面目で優秀な人材、だが戦闘職なのに戦えないとなれば攻略組に置いておける筈がない。使えない者を斬り捨てると言うのは組織としては当たり前の判断だ。〝血盟騎士団〟の副団長としては他のメンバーの命を守る責任がある。しかしアスナ個人としてはそれに納得ができない様だ。

 

 

「……つまり俺にノーチラスをどうにかして欲しいって事か?」

 

「そうです。四十層のボス戦にはノーチラスは参加させませんから、出来ればその間でどうにかして欲しいんですが……」

 

 

アスナからの相談を聞いて紫煙を吐きながら俺に何が出来るのかを考える。

 

 

仮にノーチラスが本当に軽度のFNCだったとしたら俺が取れる手段は1つだけ。理性よりも本能が優っているから動けなくなる、ならば理性を強くするか本能を弱らせれば良い。それが出来るだけの経験と技術はあるがそれはほとんど洗脳と変わらない、出来れば取りたくない手段だった。

 

 

「洗脳チックな手段なら思いつく」

 

「ダメです」

 

「なら俺には何も出来ないな。一応見かけたら気にかけてはおくけどあまり期待するなよ?」

 

「それでも構いません、よろしくお願いします……あ、これがノーチラスの写真です」

 

 

アスナから手渡された写真に写っているのは〝血盟騎士団〟のギルドカラーである白と赤のカラーリングのされた鎧を着た朽葉色の髪をした少年だった。

 

 

「……あれ?」

 

「どうかしましたか?」

 

「こいつどっかで見た様な……」

 

 

ノーチラスの顔は初めて見た筈だが不思議と見覚えがあった。恐らくはここ最近で見た事がある。俺の最近はひたすら〝ラフィンコフィン〟を狩る生活をしていたのでほとんど人と会っていない。会う機会があったのは昨日の夜の〝ウタちゃん〟の歌を聞いた時くらいでーーー

 

 

「ーーーあ、思い出した」

 

 

ノーチラスの顔、それは昨日〝ウタちゃん〟が帰る際に手を引いていた〝血盟騎士団〟の少年の顔だった。

 

 






ウェーブによる偽ラフコフ狩り。黒鉄宮に送るなんて生温いことはしない。偽ラフコフに所属している時点で全員ギルティ。躊躇いなく迷いなく、全員殺す。

アスナからの相談は恋愛相談では無くてギルメンのトラブルに関しての物。波アスだと思った?んなわけねぇよ!!

ノーチラスはオリジナルでは無くてオーディナルスケールで登場するキャラです。分からない、知らないという方は調べてください。


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