ディーヴァアンドナイト
「ただいま〜……」
四十層主街区〝ジェイレウム〟の宿屋に疲れた身体を引きずりながら戻る。三十九層のフロアボスから獲得したLAボーナスの強弓〝タイタンアロー〟の強化素材を集めるためにソロでモンスターを狩っていたのだがやり過ぎてしまった。手持ちの矢は尽きかけて弓の耐久値も限界寸前。強化素材は必要数集まったが、アイテムによる収入と矢の補充に弓のメンテナンスの出費を考えればギリギリプラスになるかどうかと言ったところか。どう考えても割に合わない。これなら情報収集に行ったアルゴに着いて行ったユウキかシュピーゲルかストレアでも誘えば良かった。
「あら?」
部屋の明かりが点いていたのでまだ寝ていないかと思ったが、ウェーブは椅子に座りながら腕を組んで寝ていた。テーブルに散らばっている資料を見る限り、作業中に眠ってしまったらしい。それはウェーブが休む暇が無いということなのだが、現状を鑑みれば仕方のないことだと言える。
SAOが開始されてもう10月、ほぼ一年が経過しようとしていた。今日の時点で三十九層まで攻略されていて、攻略組は最前線である四十層の攻略に励んでいる。この時点でプレイヤーは大きく四つに分類されるようになった。一つは私たちが参加している攻略組。一つは安全マージンを取った上でゲームを楽しむ、もしくは攻略組に入ろうと奮起している中層プレイヤー。一つは第一層に引きこもってゲームがクリアされるか外からの救出を待つ下層プレイヤー。一つは鍛治や商売などの生産職に勤しむ職人プレイヤー。
その内の中層プレイヤーと下層プレイヤーが、私たちのギルド〝
無論私たちは誰もやっていない。唯一可能性があるとすればPoHぐらいだが、彼は彼で雑魚なんて殺してもつまらないと否定していた。つまり、どこかの誰かが〝
それを聞いてすぐにウェーブは動いた。そして半日ほどで〝
そしてその3人のプレイヤーを拷問し、ウェーブとPoHを名乗るプレイヤーに誘われて〝
ギルドの名前とエンブレムは、SAO内では重複出来ない。しようとしてもシステム的にブロックされる。だが、このカラクリをヒースクリフは見抜いた。
まずギルド名だが私たちのギルドは〝
カーディナル仕事しろ。
ともあれ、SAO内には二つの〝ラフィンコフィン〟が出来上がってしまった。攻略組に参加しているプレイヤーたちからはこれまで一緒に戦ってきた信頼から疑われていないが、中層下層プレイヤーからすればそうはいかない。前にアイテムの為に二十層に降りた時に、見知らぬプレイヤーからPKギルドと罵声を浴びせられて石を投げつけられた。圏内だったのでダメージは無かったが、心が少し軋んだのを今でも覚えている。
その後、反撃に炸裂矢を連射してスッキリしたけど。
そしてウェーブはここ最近、〝ラフィンコフィン〟の情報を集め、それを元に〝ラフィンコフィン〟狩りをしている。彼は自分への風評被害はもう諦めているのだが、私たちへの風評被害は認められないようで、攻略にも参加しないでひたすらに〝ラフィンコフィン〟を名乗るプレイヤーを狩る日々を送っていた。
テーブルの上に散らばっている資料はここ最近の〝ラフィンコフィン〟の被害報告だ。見れば一番新しいもので半日前の情報まで揃っている。
「まったく……」
彼に守られていると思うと少し寂しくあるが、それ以上に嬉しいと感じてしまう。漣不知火という人間は赤の他人には無関心な人間だ。例え隣の家で殺人事件があったとしても、そうかの一言で片付けられる程に関心を持たない。だが、彼が身内だと、非常に親しいと思った人間に対しては甘くなる。現在なら〝
ウェーブの身体を冷やさぬようにベッドから毛布を引っ張り出し、少し考えてから膝の上に座ってウェーブと一緒に包まれるように毛布に包まる。リアルではよく眠れない時にこうやってくれたことを思い出し、久しぶりにやってみようと考えて実行した。
「フフ……懐かしいわね」
背中にウェーブの温もりを感じる。こうやって彼に触れられているだけで安心感を覚えてしまう。リアルで事件に巻き込まれ、正当防衛だったとはいえ人を殺して精神を病んでいた私を立ち直らせてくれたのは彼だ。夜にあの時の事を夢に見て発狂しかけた私を慰めて、銃を見るだけで発作が起きる程のトラウマを抱えてしまった私の側に居てくれて、そのトラウマを克服しようとした私を支えてくれた。
人によっては依存だと言われるかもしれない。それは恋ではないと言われるかもしれない。
だが、私にとってはこれが恋なのだ。依存?それの何が悪い。私は漣不知火という男に依存している。いつも側に居てくれて、私を支えてくれている彼の事を愛している。それはきっとユウキも同じだろう。ストレアはよく分からない。でもアルゴは多分、彼に好意を抱いている。十五層辺りからちらほらと、彼を見る時の顔が雌の顔になっている。
アルゴをどうするのかは彼に任せよう。私は彼と一緒にいられるだけで幸せなのだから。こうして密着出来るだけで幸福なのだから。
「んぁ……寝てたか?」
と、ウェーブが目を覚ました。組んでいた腕を解いて顔を擦り、寝惚け眼で膝の上に座る私のことを見つめる。
「お目覚めね?」
「……なんで膝の上に?」
「リアルでもこうしていたことを思い出してやりたくなったからよ」
「そっか……やりたくなったからか……なら仕方無いな。こうしてる分には俺も温くて良いし」
ウェーブは勝手に膝の上に座った私を退かそうとせずに、それどころか逆に抱き締めてきた。まだ寝惚けているのか思考が鈍いままだが、完全に役得なのでこのままでいてもらおう。そしてこの事をユウキに自慢して煽ってやろう。
「ねぇウェーブ、何かカッコいい事を言ってくれない?」
「いきなりどうした?」
「なんとなくよ」
「なんとなくなら仕方無い……お前の尻がやべえ柔らかで俺がやべえ」
「プッ、アハハ!!何それ!!」
「カッコいいセリフ言うと死亡フラグだからね……あぁ、俺の社会的地位の死亡フラグだ」
それはもうすでに死んでいると思う。主に私とユウキのせいで。
意識が目覚めたのか眠たそうな目では無くなったが、ウェーブは体勢を変えようとしない。役得役得と思い、背中から伝わるウェーブの体温に癒されていると、窓の外から歌声が聞こえてきた。
シノノンヒロイン回。可愛いシノノンが書きたくなったので。
そして現れる偽ラフコフ。原作のラフコフ立ち位置を偽ラフコフにやらせています。それに反応してウェーブはマジギレして出動します。これだけでもう偽ラフコフの死亡フラグなんだよな……
最後の歌声……一体誰なんだ?