闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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クォーターポイント・7

 

 

〝ザ・ファフニール〟がフィールドへと飛び出して〝ブランデンブルグ〟を壊滅させた翌日、〝ナイトオブナイツ〟の拠点にて二度目の攻略会議が行われる事になった。メンバーとしては昨日の会議が始まった時のメンバーにストレアとユウキ、そして物資補給の商人代表としてエギルが参加しているくらいで変更は無い。つまり、ディアベルが帰って来たと言うことだ。

 

 

「みんな済まない、1日も開けてしまって」

 

「もう大丈夫なのか?後24時間くらいなら平気だぞ?」

 

「これ以上開けるわけにいかないし、〝ザ・ファフニール〟を放置する訳にもいかないからな。〝ナイトオブナイツ〟も復帰させてもらう。だが攻略のリーダーはヒースクリフさんに頼みたいが……良いかな?」

 

「いつもならアスナ君に任せるのだがね……流石に今回はそうは言っていられないようだ。改めて、二十五層攻略のリーダーは私、〝血盟騎士団〟のヒースクリフが行う。異論は無いかね?」

 

 

そう言ってメンバーの顔を見渡すヒースクリフだが誰も異論を挟む事は無い。基本的に〝血盟騎士団〟が攻略のリーダーとなる場合は作戦の立案は副団長であるアスナが行う事になっている。それなのにヒースクリフがリーダーで大丈夫なのかと、不安に思う者はこの場に居ない。実力がありながら癖の強い団員たちを纏め上げるヒースクリフのカリスマ性を知っているから、攻略のリーダーも問題なく行えると信じているのだ。

 

 

「……異論は無いようだね。ならばコタロー君、フロアボスの現在の動向とウェーブが言っていた調査の結果の報告を」

 

「ハイ。〝ザ・ファフニール〟は夜明け頃に一度ボス部屋に戻り、30分もしないうちに〝ブランデンブルグ〟に戻りました。今は〝ブランデンブルグ〟に居座っている状態ですね。活動範囲は迷宮区の塔を中心として半径10キロほど、目に付いた物はなんでも壊すと言う具合に暴れ回って範囲内にあった村は全て壊滅、しかもモンスターであってもそれは変わらないようです。偶々範囲内にいたネームドボスが〝ザ・ファフニール〟に見つかって何も出来ずに捕食されてました」

 

「マジかよ……ネームドボスって言ったらやたら筋力が強かったリザードマンだよな?」

 

「〝リザードマン・テンペスト〟だな。あれが何も出来ずに食われるか……」

 

「早朝にボス部屋に戻った……なんだ、ワンチャンあるな」

 

「だが追い詰めてもボス部屋から逃げられてしまえばもう戻って来ないだろう。やるならそれで確実に仕留めなければならない」

 

「それでウェーブさんから頼まれていた調査の結果なんですが……驚きました。探したはずの砦からボロボロになって使い物にならないのですが大砲とバリスタ、それにそれらの弾が見つかりました」

 

 

コタローが地図を広げて、大砲とバリスタが見つかった砦を指差す。そこは他の二つとは違って〝ザ・ファフニール〟の活動範囲外、しかも〝ボーデン〟から3時間程離れたところにある比較的近い砦だった。

 

 

「よっしゃぁ!!これで〝ファフニール〟殺せる!!」

 

「イベントで解除されたのだろうけど……自信無くしますね。僕たちの諜報が未熟だと言われているようで」

 

「いえいえ、コタローさんたちの諜報は本当に役に立ってますから!!そんなに落ち込まないでください!!」

 

「その情報はすでに私の耳に届いている。大砲とバリスタの修復、そして弾の開発も資材と人手は集めようと思えば集められるが……」

 

 

そこでヒースクリフは言葉を区切り、テーブルの上に肘を乗せて手を組む。

 

 

「ーーーコルが、足りない」

 

 

たった一言で全てが理解出来た。それは純粋な資金不足。俺たちが攻略組だからと言って誰もが無償で手を貸してくれる訳じゃ無い。生産職としてサポートをしてくれるプレイヤー達にも生活があるのだ。労働には対価を出す、それが人間社会において至極当然の事。利益があるからこそ人は頑張れるのだ。利益を顧みずに無償で働く者など、聖人くらいしか存在しない。

 

 

「少なくとも〝血盟騎士団〟の貯蓄を全て吐き出しても予算の半分にも届かない。ちなみに予算の設定は……一億五千万コルだ」

 

「ヒェッ」

 

 

一億という想像出来ない金額にユウキが声を上げた。一番稼いでいるのは生産職か攻略組に参加しているプレイヤーだろう。それでも前者は大体数百万、後者は数十万の貯蓄しかない。攻略組が全財産を吐き出しても半分に届くかどうか。なら他のプレイヤーに頼むかという話になるが、それは難しい。プレイヤーにも生活があり、その貯蓄を吐き出させる事は誰にも出来やしない。無理矢理徴税した場合、先に待っているのは反乱だ。

 

 

フロアボス攻略の目処が付いたというのに資金不足で出来ないとか無駄にリアルだと思う。

 

 

「おいエギル!!どうにかならないのかよ!!」

 

「無茶言わないでくれ、これでも赤字覚悟してこの金額なんだ。言っておくがこれでもかなり妥協した方だぞ」

 

 

クラインがエギルに食ってかかるがエギルを責めても仕方ないだろう。エギルは商人だ。攻略組をサポートしてくれるが、基本的に商人は利益を求めている。フロアボス攻略に向けて今回は利益を度外視してくれたのだが、それでも許容できる損失の範囲はそのラインなのだろう。

 

 

「って言ってもよぉ!!」

 

「そこまでにしておけよ年齢イコール彼女いない歴の人生の負け組」

 

「ガハッ……!!」

 

「クライィィィイン!!」

 

 

年齢イコール彼女いない歴というワードに反応してクラインは血反吐を吐いて倒れ伏した。キリトがテーブルから思わず身を乗り出しているが、クラインはビクビクと痙攣するだけで何も反応しない。

 

 

そんなクラインの耳元で囁く。

 

 

「なぁ、知っているか?エギルってハタチの時点で結婚して自分の店を経営してるんだってよぉどっからどう見ても勝ち組じゃねぇかぁ。そういうお前はどうだぁ?22、3にもなって年齢イコール彼女いない歴を更新し続けて、どっかの会社に勤めてる会社員……どっちが優れているかなんて比べるまでも無いよなぁ」

 

「グェッ、ゴポッ」

 

「止めたげてよぉ!!」

 

「ストップ!!ストップウェーブさん!!クラインから凄い音聞こえてますから!!」

 

 

キリトとシュピーゲルに羽交い締めされてクラインから引き剥がされる。凄い音を出していたクラインは顔の穴という穴から血を流して凄い顔になっていた。それでもHPは減っていないのでダメージは受けていないのだろう。どこからどう見ても死にかけているように見えるのだが。

 

 

でもエギルがリアル無双しているのは事実なのだ。それは素直に凄いと思う。

 

 

「はぁ……ユウキ君、ストレア君、クライン君を適当に励ましてくれないか?」

 

「私は良いのかしら?」

 

「シノン君に任せると起きろと言って弓で射抜く光景が見えるのでね」

 

「流石に圏内設定解除されてるからそんな事はしないわよ」

 

「クライン、お願い立って!!」

 

「がぁんばれがぁんばれ」

 

「ーーーウォォォォォォォッ!!クライン、復ッ活ぁつ!!」

 

 

ユウキとストレアがハートマークが付きそうな可愛らしい応援をするとクラインはそれまでの反応が嘘のように立ち上がった。顔の穴という穴から出ていた血は拭かれていない筈なのに綺麗さっぱりなくなっている。

 

 

「ってかよぉ!!それなら波の字はどうなんだ!?俺よりも年上なんだろ!?」

 

「別に年齢イコール彼女いない歴だけど彼女欲しいとか思わないし。そもそも狙われてるから彼女作ろうとも思わないし」

 

「あっ……」

 

 

俺の事情を……ユウキとシノンに狙われているということを知っているクラインはそれを思い出したのか一気に冷め、憐憫の色を目に浮かべて静かに椅子に座った。何故憐憫の色を浮かべた、まるで意味が分からんぞ。

 

 

「さて話を戻そう。〝笑う棺桶(ラフィン・コフィン)〟からはギルド共通財産として一千万コル出せる」

 

「〝ナイトオブナイツ〟からは二千万、それと資材も出せる」

 

「……済まねぇけど〝風林火山〟からは七百万が限界だ。資材なら多少は出せる」

 

「あ、あの……じゅ、十万なら何とか……」

 

「ふむ……合わせてようやく一億を超えるくらいだな。あと五千万か……」

 

「ーーー失礼します」

 

 

手荒いノックと共に入って来たのは〝ナイトオブナイツ〟の団員。その顔にあるのは困惑と怒り。モンスターに何か動きがあったのなら焦燥辺り浮かべる筈だが……何があった?

 

 

「どうしたんだ?」

 

「それが……ギルド〝絶対正義(ジャッジメント)〟のギルドマスターが面会を求めています」

 

 

 





大砲とバリスタを発見!!これでファフニールと戦えるぞぉ!!と喜んでいたところに浮かび上がる資金不足とかいうゲームでもリアルでも絶対的なパワーワード。

年齢イコール彼女いない歴のクラインが!!ハタチで店持って結婚してるエギルに敵うわけないだろぉがぁ!!マジでエギルのリアル無双っぷりがやばい。

資金提供タイム。計画的に貯めてればこのくらいは貯まるかなぁと思いつつ。最後の十万しか出せないクソ雑魚ブラッキーは誰なんだ……


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