闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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クォーターポイント・5

 

 

フロアボスがフィールドに出て来たという報告から一時間後、迷宮区最寄りの街〝ブランデンブルグ〟はフロアボスの手により壊滅した。

 

 

幸いな事にプレイヤーの犠牲者はゼロ。最前線の階層にいるプレイヤーは基本的に攻略組か生産職のプレイヤーで、攻略組のプレイヤーはディアベルから緊急会議の報せが届いたのを見て何かあると前以て〝ブランデンブルグ〟から主街区の〝ボーデン〟に移動していたという。生産職のプレイヤーは普通は迷宮区の最寄りの街に移動するが二十五層の異質具合を見て〝ボーデン〟から出ようとはしなかった。

 

 

攻略組の察しの良さと生産職のプレイヤーの臆病が上手い具合に噛み合い、突然のフロアボスの行動に対して犠牲者無しという結果になった。

 

 

フロアボスがボス部屋から出た事が原因なのか、〝ボーデン〟は圏内設定が解除されていてフィールドと同じ扱いになっている。突然の圏内のフィールド化に混乱しかける攻略組だったが、ヒースクリフが声をかけて現状を説明することで何とか落ち着きを取り戻した。今の〝ボーデン〟の様子は俺が帰って来た時と変わらないように見える。だがそれはプレイヤーの様子だけで、NPCは武器や防具の用意をしていて慌ただしい。それが気になるところだがフロアボスの活動でそういう行動をしているのだと予想が出来る。

 

 

そしてフロアボスの監視はコタロー率いる〝風魔忍軍〟を始めとした偵察隊に任せて俺とヒースクリフは集めて来た情報の整理に当たる事にした。

 

 

「フロアボスの名前は〝ザ・ファフニール〟、タイプは竜型。体格としては四足歩行で背中に翼の生えた西洋竜の見かけか」

 

「攻撃方法は足でのスタンプ、尻尾での薙ぎ払い、空を飛んでのダイブ、特殊攻撃でブレス。弱点は喉元にあるらしい逆鱗。アルゴと集めた情報はそこまで。ディアベルからの情報によれば全長は50〜60メートル程、動きは緩慢だが筋力と耐久は高いらしい。重装備のタンクがノーガードで一撃食らって半分以上削られた上で行動不能(スタン)になったってさ。それに反撃で斬りつけても目に見えてHPが減っていなかったらしいし」

 

「まったく……これはそういう風に設定したカーディナルを恨めば良いのか、それとも手を出してくれた彼らを恨めば良いのか」

 

「両方恨むか無視すれば良いんじゃね?恨むだけならタダだし、無視するのもありだ」

 

 

俺の蹴りで気絶したセーヤは会議室にいた全員の決定で二十五層の攻略が終わるまでの間、黒鉄宮に送られている。あのまま放置してもどこかで乱入して引っ掻き回されるのがオチだ。空気を読まずに自分のやりたいようにやるアホ程危険な奴はいない。有能な敵よりも無能な味方の方が恐ろしいのだ。

 

 

「だが……空を飛べる敵か」

 

「正直言って厄介だぜ。ボス部屋みたいに限られた空間内ならどうにかなったが今はフィールドに出ちまってる。ジャンプしても届かない位置に陣取られてブレスされ続けたらどうしようもないぞ」

 

 

ボス部屋のように多少は広くても限られた空間だったら壁を使って飛んでいる〝ザ・ファフニール〟を斬る事が出来た。だが制限のないフィールドに出て来てしまった事でそれが出来なくなってしまった。爺さんから飛んでいるヘリコプターや戦闘機を落とす方法は教わっているが、それはどれもが遠距離攻撃の手段を前提としたもので今では参考にならない。

 

 

「シノン君やネズハ君の遠距離攻撃の出来る者を使って攻撃出来ないかね?」

 

「オススメしないし俺が認めない。ネズハは射程距離の関係で危険な距離にまで接近しないとダメだし恐らく火力が足りない。シノンなら届くだろうが狙われてダイブされて落ちたらそこまでだ。攻撃手段が無くなって戦線が崩壊するだろうよ」

 

 

流石に今の状況下で私情を語るわけにはいかずに客観的に考えた予想を告げる。そもそも遠距離攻撃で戦っている2人だが〝ザ・ファフニール〟がデカすぎる事が問題だ。ネズハの〝チャクラム〟じゃ火力が足らなくてダメ、シノンの弓でなら火力が出せるだろうが優先的に潰されてしまえばそれでおしまいだ。

 

 

「どうにかして引き摺り下ろすか、他に遠距離攻撃の手段があればな〜」

 

「そういえばあの〝朽ちた剣〟はどうしたのだ?」

 

「アルゴに渡して修復を頼んでる。必要なアイテムは二十五層で揃えられるアイテムばかりで市場で揃えられるし、集まらなくてもエギルのとこの商会に頼めば揃えてくれるだろうよ」

 

 

第一層からしばらくタンクとして攻略組に参加していたエギルだが、十五層辺りで攻略から離れて生産職として攻略をサポートする事にしたのだ。リアルでも店を持っていて、そのノウハウを生かした結果〝エギル商会〟としてアインクラッド有数の商会として名を轟かせている。

 

 

「失礼します。監視に出ていた者から情報が届きました」

 

 

そこでコタローが羊皮紙を片手に会議室に入って来た。礼を言って羊皮紙を受け取り、流し読む。

 

 

「今は〝ブランデンブルグ〟の廃墟に陣取っているのか」

 

「えぇ。どうも〝ブランデンブルグ〟へと真っ直ぐ向かって街を壊滅させてからそこに居座っているようです。その時に毒々しい色合いのブレスを吐いていたと報告がありました。恐らくは毒のブレスでしょう。そして観察した限りでは知覚手段は視覚と聴覚と嗅覚、加えて半径1キロ圏内に入ると〝隠蔽(ハインディング)〟状態でも警戒されたようです。気付かれてはいないけど何か来たと感じられたようだと監視に当たっていた者は言ってました」

 

「かぁ〜!!めんどくせぇなぁおい!!」

 

 

〝風魔忍軍〟の者たちは情報収集が主な為に全員が〝隠蔽〟のスキルを取っていて、少なくともシステム的な隠密に関しては優秀だ。それが1キロの距離を取っていても気づかれた。これで〝風魔忍軍〟を使っての奇襲は難しいと分かってしまう。

 

 

「僕とウェーブさんであれば気付かれずに近く事は出来るでしょうがたった2人ですから止めた方が良いかと」

 

「ならば待ち構えるのが上策か……しかしそうだとしてもまずは飛ぶ手段を奪わなければならない」

 

「飛んでいる敵ですか。翼をどうにかしたいですけど……大量の弓矢とか大砲とか欲しいですね」

 

「それには同意だけどアインクラッドには大砲なんて無い……ん?」

 

「どうかしましたか?」

 

「待って」

 

 

コタローの言葉に何かが引っかかった。確かに飛んでいる相手に対して弓矢や大砲が欲しくなるのは分かる。だが現段階では弓矢を使えるのは〝射撃〟のユニークスキルを持っているシノンだけ、火薬は〝調合〟のスキルで作れるが大砲はアインクラッドでは見つかっていない。

 

 

じゃあなんで引っかかった?弓矢はシノンだけのワンオフなので論外、大砲は見つかっていない……だったら、()()()()()()()()()()()

 

 

「ーーーあ」

 

 

心当たりがあった俺は二十五層の地図を引き寄せて目的地を探す。そして、二十五層にそれが三つもある事が分かった。

 

 

「コタロー、〝風魔忍軍〟で手の空いている者に連絡。こことこことここを調べるように」

 

「そこは……確か、廃墟になった砦ですよね?」

 

 

〝風魔忍軍〟の調べで二十五層には三つの廃墟となった砦がある事が判明していた。そして何かイベントがあるのではないかと思い隅から隅まで調べたのだが何も見つからずに、ただの廃墟であると判断されたのだ。

 

 

前に調べた時にはイベントの有無しか探していなかったので見落としている可能性がある。所詮は可能性で、もしかしたら何も無いが調べてみる価値はあるだろう。なければ俺とヒースクリフとキリト辺りが無茶をすれば良いだけの話だ。

 

 

コタローは俺の指示に困惑し、ヒースクリフは察したのかニヤリと笑みを浮かべていた。

 

 






一回も描写が出ない内に〝ブランデンブルグ〟壊滅。ただの街がフロアボスに敵うわけが無いっていう。

フロアボスは竜、竜は空を飛べる、竜はブレスを吐ける、つまり空を飛んでブレスを吐いてれば一方的に封殺される。筋力も耐久も高い。デカくて硬くて力強いという殺意に溢れた親切設計。


流石のキチガイも縦横無尽に飛び回られるとお手上げ。目当ての物が見つかればワンチャンあるらしいが?

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