闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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クォーターポイント・4

 

 

「駄目だ」

 

 

突如現れたフロアボスを攻略しようとして壊滅した〝絶対正義(ジャッジメント)〟のメンバーを名乗るセーヤというプレイヤーの戯言をヒースクリフは一蹴した。それはそうだ。ヒースクリフでなくても攻略組に参加している者ならばヒースクリフと同じ対応をしているだろう。

 

 

「どうしてですか!?」

 

「まず私たちは君たちのことを知らない。信用も信頼も出来ない相手に背中を預けろと?出来る訳がないだろう。次に君のギルドは今回の件で酷く消耗しているはずだ、攻略に参加した所でまともに動けないに決まっている。そして、君のレベルは幾つだ?」

 

「37です!!安全マージンには足りています!!」

 

「話にならない。攻略組には安全マージンとは別の攻略マージンというものが存在している。それに達していない以上、参加は認めない」

 

 

安全マージンとはその階層での最低限の安全を保障するレベルで、その階層の数値プラス10だ。少なくともそのレベルになっていれば問題無いだろうと五層辺りから設定されたレベルである。攻略マージンは攻略組に参加する最低限のレベルのことで、最前線の階層の数値プラス15に設定されている。無論、それはあくまで最低限なので基本的には攻略組はそれ以上のレベルになっている。

 

 

攻略マージンを取っていないセーヤは攻略組に参加することが出来ないし、そもそも心情から攻略組の誰もが参加する事を許さない。

 

 

「だったらレベルを上げます!!だから、参加させて下さい!!僕たちは……僕たちが、あいつを倒さなきゃならないんだ!!」

 

「……セーヤ君、君がどんな思いでフロアボスに挑んだのか私は知らない。だがな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。君たちが勝手に挑んだ事で死んだ42人に、そんな君たちを救う為に犠牲となった〝ナイトオブナイツ〟の5人。それだけの人間を殺した君たちを私たちは決して攻略組に参加させない」

 

 

ヒースクリフの眼光がセーヤを射抜く。セーヤはそれに怯み、助けを求めるように辺りを見渡すが誰の目もヒースクリフと似たようなものだ。

 

 

攻略組に参加している以上、この場にいる誰もが攻略の過程で死ぬ事を覚悟している。だが、それはあくまで攻略の過程でなのだ。無謀に挑んだ自殺志願者を救う為に死ぬ事を覚悟しているわけでは無い。

 

 

それに原因が何であれ、こいつらの為に〝ナイトオブナイツ〟の5人は死んだのだ。多少違うかもしれないが、今回の件はフロアボスを利用したMPKだと判断出来る。つまり、()()()()()5()()()()()()

 

 

この場にディアベルが居なくて良かった。居たらきっと激昂してこいつの事を襲って居ただろう。まぁ圏内なのでダメージは与えられないが、そこら辺は幾らでも裏技がある。

 

 

「……ッ!?朝田さん?新川君?」

 

 

そしてセーヤの目が俺の隣に座っているシノンとシュピーゲルに向かい、2人のリアルの名前を呼んだ。2人の知り合いかと思ったが、2人はセーヤの反応に疑問を浮かべている。反応から察するにあいつは2人を知っているが2人はあいつを知らないのだろう。同い年くらいに見えるからクラスメイトか何かか?

 

 

「……誰?」

 

「あ〜……なんか喉元まで出かかってるのに思い出せない不快感」

 

「僕だよ!!平塚星矢だよ!!同じクラスの!!」

 

「知ってる?」

 

「確かそんな名前の奴が居たような居なかったような……」

 

「2人が居るなら話は早い、ヒースクリフさんの説得を手伝ってくれ!!」

 

 

どうも2人は思い出せないがセーヤの方は2人の事を知って居たらしく、クラスメイト繋がりでヒースクリフの説得を手伝うように懇願している。

 

 

だが、攻略組に参加している以上2人の答えはもう決まっている。

 

 

「嫌よ。ヒースクリフと同じ理由で断らせてもらうわ」

 

「同じく」

 

「なっ!?」

 

 

断られるとは思っていなかったのか、セーヤは目を見開く。そもそも心情は最悪、ヒースクリフの理由も筋が通っていて否定出来ないともなればわざわざセーヤを擁護する必要は無い。

 

 

それに、誰が好き好んで半壊状態になっても戦い続ける自殺志願者と一緒に戦うものか。

 

 

「はぁ……もう良いや」

 

 

眠気も限界ギリギリ、一周間のフィールド暮らしでストレスが溜まった所でのセーヤの戯言に俺は限界を迎えてしまった。〝クイックチェンジ〟で登録していた武器ーーー〝イルファングブレード〟をインゴット化して、二十層のMVPボーナスで得たプラチナインゴットと組み合わせて作った〝妖刀・無銘〟を取り出して席から立ち上がり、シノンとシュピーゲルに掴みかかろうとしているセーヤの喉を突く。圏内であるので障壁に防がれてダメージは発生しないが、ノックバックにより壁に吹き飛ばされる。

 

 

「ガッ……!?」

 

「ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあうっせぇんだよ。発情期の猫かテメェは」

 

「あ、ウェーブさんキレた」

 

「ここに来た時から割と不機嫌だったからね」

 

「波っち、加減はしてやれヨ」

 

 

シノンとシュピーゲル、アルゴが何か言っているが気にしている余裕は無い。このアホに自分が何をやらかしたのかを教育しなければ。

 

 

「俺たちはお前を参加させるつもりは無い。実力を弁えずに嬉々として死んでいく自殺志願者に攻略組にいる資格は無い。自分がしたことの深刻さも分からずにいるお前の居場所は無い」

 

「それでも、僕たちは、僕はあいつを倒さなきゃならないんだ……!!死んでいった、みんなの為にも!!」

 

「成る程、敵討ちか」

 

 

被害者が加害者の事を恨むなんてリアルでもよくある話だ。アインクラッドでも特定のモンスターに仲間を殺されたからとそれと同じタイプのモンスターを倒し続けるプレイヤーもいる。復讐報復大いに結構。だがな、

 

 

「ただの戯言だな」

 

 

起き上がろうとしているセーヤの肩を蹴って妨害し、胸に足を乗せて体重をかける。圏内なのでダメージは発生しないが重みによって動けず、肋骨が軋む痛みは感じられる。

 

 

「力のある者が語る綺麗事は理想だ、何せいつか叶えられるだけの力があるからな。力の無い者が語る綺麗事は戯言だ、何せ叶えられるだけの力も無いからな。分かるか?お前の言っていることは全部戯言なんだよ。ディアベルのような数の利を活かし戦える指揮力も、ヒースクリフのようにこいつの為なら死んでも良いと思えるカリスマも、キリトのようにソロでも戦えるだけの実力も無い。煽って突っ込んで死なせた無能者、それがお前だ 」

 

 

何かを言いたそうにしながらも声を出さず、身体を起こそうとしていたセーヤの顔面を蹴り飛ばす。

 

 

攻略組(ここ)に、お前の居場所はどこにも無い」

 

 

その一撃が堪えたのか、セーヤは()()()()()()()()()()()……待て、血が流れている?圏内でダメージが発生しない筈なのに?

 

 

「おいウェーブ!!お前のカーソルオレンジになってるぞ!!」

 

 

静観していたキリトが俺の頭の上にあるカーソルを指差しながら叫んだ。確認すればさっきまでグリーンだったカーソルがプレイヤーを傷つけた証拠であるオレンジに変わっている。

 

 

「まさか……クライン、ちょっと攻撃してみるぞ」

 

 

クラインからの返事を聞かずに胴当ての上からダメージが発生する力加減で蹴った。いつもなら障壁が発生し、ノックバックと痛みだけで済む筈なのだが……障壁は現れず、クラインのHPが僅かに削れるという結果に終わる。

 

 

「圏内が解除されたのか?」

 

 

出て来たのはあり得ない予想。絶対安全圏である圏内設定が解除されるなどと信じたくなかったがこうして圏内にいる筈なのにダメージが発生しているのがその証拠だった。だが、同時に違和感も覚える。圏内設定の解除という重要な事をカーディナルは何の報告も無しに実行した。GMとして細かなことでも変更があれば報告していたカーディナルが報告無しでこんな事をした事が不自然なのだ。

 

 

考えられるとすれば、この圏内設定解除は想定されていた事。つまりイベントか何か。

 

 

「た、大変です!!」

 

 

コタローが慌てた声を上げる。彼の目の前にはウインドウ画面が現れていて、誰かから連絡があったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、フロアボスが……()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「「「「…………ハァッ!?」」」」

 

 





クソ雑魚ナメクジへの攻略組主催の説教回。何もかも弱いお前が悪いんだよ!!あ、あのクソ雑魚ナメクジにはまだ役割があるからこれで終わりじゃないです。


そして圏内設定解除にフィールドに飛び出したフロアボス。修羅化したクォーターポイントの本領発揮よ〜。

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