闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

30 / 121
クォーターポイント・3

 

 

「本日の早朝に、〝アインクラッド解放隊〟の6パーティー24人と中層プレイヤーのギルド〝絶対正義(ジャッジメント)〟の6パーティー24人、計48人のフルレイドが二十五層の迷宮区に侵入した」

 

「待ってくれ。迷宮区の入り口には見張りが立ってるって話じゃ無いのかよ?」

 

「黙れよ。今から説明があるだろうが」

 

「……もしかして波の字、機嫌悪い?」

 

「アルゴに付き添って一週間二十五層でフィールド暮らしですけど何か?」

 

「あ、すんません、黙ります」

 

 

ディアベルの説明に一番に噛み付いたクラインをフィールド暮らしで更に悪くなった目付きで睨みつければ萎縮して黙る。クラインの言う見張りとは十層辺りから現れた中層プレイヤーの中で、自分たちでもフロアボスを倒せるのでは無いかと勘違いした者たちが迷宮区に入るのを防ぐ為の者たちの事だ。基本は〝ナイトオブナイツ〟か〝血盟騎士団〟から何人か派遣するのだが、この二十五層では隠密に優れている〝風魔忍軍〟が担当している。

 

 

「それは僕から。その時間帯は丁度見張りの交代の時間だった上に、どうも彼らは圏内の〝ブランデンブルグ〟じゃなくて圏外の村から来た様ですれ違ってしまったんです。そして交代した見張りが念のために仕掛けておいた侵入者の有無を知らせる仕掛けを確認したところ……」

 

「侵入されていたと。こればかりは運が悪かったとしか言えないな」

 

 

基本的に見張りの交代は迷宮区の入り口と最寄りの圏内の街との中間で行われる。見張りの者が離れた数分の間に侵入されたのなら〝風魔忍軍〟には非はない。クラインはコタローの説明に納得したのか、遮った事を謝罪して頭を下げた。

 

 

「その知らせを聞いた俺は〝ブランデンブルグ〟にいたギルドメンバーに侵入したプレイヤーたちの保護をする様に命じたんだ。まだ迷宮区のマップが公開されていないのなら直ぐに保護出来ると思ったんだが……彼らは真っ直ぐにボス部屋へと向かっていた」

 

「恐らく〝アインクラッド解放隊〟が先導したのだろう。彼らも攻略組で、ボス部屋まで辿り着いてもおかしくないからな」

 

「そうしてボス部屋まで追いかけたところ、半壊状態になりながらフロアボスと戦っている彼らを発見、何とか6人は救出する事が出来た」

 

「〝アインクラッド解放隊〟と中層ギルドの混合とは言え辿り着いた時点で半壊状態ねぇ」

 

 

はっきりと言って〝アインクラッド解放隊〟の実力はSAO内でトッププレイヤーの集団だと言われている攻略組の中でも下の方だ。だがそれでも攻略組なのだ。それが中層ギルドが混じっているからと言って半壊状態になりながら戦っているとは考え難い。そんな状態になってでもフロアボスを倒したかったか、それか〝アインクラッド解放隊〟が退こうとしても中層ギルドがそれに逆らって戦ったのか。

 

 

それに助けられたのがたった6人だけだと言う。〝アインクラッド解放隊〟と中層ギルドの割合がどれほどか分からないが恐らく〝アインクラッド解放隊〟はこの先攻略組から距離を取ることになるだろう。フロアボスの攻略に向かったと言うことからそのメンバーがギルド内で上位者だと予想が出来、そしてそんな彼らを失ったのだ。再び攻略組に参加出来るような実力者が育つまでしばらく時間が必要だし、もしかするとこのまま攻略を諦める事になるかもしれない。

 

 

まぁ今回の件に関しては完全に〝アインクラッド解放隊〟と中層ギルドの自業自得で同情の余地は無い。攻略の中で死んだ者ならばその死を悼むくらいの仲間意識は攻略組の中にはあるが、これに関しては呆れる以外の感情を抱けない。ヒースクリフや俺なんかはそう感じているので変化は無い。キリトを始めたした若者や人の良いクラインは〝アインクラッド解放隊〟と中層ギルドの犠牲者の死を悼んでいるように見えるが()()()()()。死を悼むだけで、仇を取ってやるなどと考える者は誰もいない。

 

 

「んでディアベル、〝ナイトオブナイツ〟からは()()()()()()()()?」

 

 

そしてそんな空気の中で、俺は敢えてディアベルに訪ねた。実力は下の方で、中層ギルドと混合とは言え攻略組の〝アインクラッド解放隊〟を壊滅まで追い込んだフロアボスから助ける為に動いたのだ。何人か犠牲者が出ているはずだ。

 

 

「……5人だ。20人で半壊状態で戦おうとしている彼らを助けようとして、5人犠牲になった」

 

 

ディアベルは犠牲になった者たちの事を思い出しているのか悲痛そうな顔で絞り出すように告げた。ディアベルが会議室に入ってきた時から覇気が無かったのはそれが原因だろう。普通ならたった5人と考えるかもしれないが、この場にいる誰もが5人も犠牲者が出たと感じているだろう。攻略組に参加しているプレイヤーはおおよそ200に届くかどうか。その内の5人が死んだのだ。

 

 

そして、攻略組で初めて出た犠牲者でもある。

 

 

「……済まないが俺はこれからメンバーのフォローをしてくる。ヒースクリフさん、後を頼めるか?」

 

「問題無い。初めての犠牲者だ、しばらくの間は私に任せてくれ」

 

「……済まない。これは救出に向かった者から聞いたフロアボスの情報だ」

 

 

初めての犠牲者ともなればショックは大きい。それも自分のギルドとなればその大きさは計り知れない。だから、一番ショックを受けているのはディアベルだろう。ディアベルは勝つ為に戦うが、だからと言って死なせたいわけじゃ無い。ディアベルが考える作戦はどれもが手間はかかるものの、犠牲者を出さないような安全な作戦が多かった。

 

 

「ディアベル」

 

 

フロアボスの情報が書かれた羊皮紙を置いて会議室から出ようとしているディアベルを引き止め、

 

 

「死んだ奴のことを忘れるなよ。ギルドメンバーとそいつらの事を思い出して話し合うと良い。酒でも飲んで、そいつらの事を思い出して話し合って、思いっきり泣いて、そいつらの死を無駄にしないでやってくれ」

 

「ッ!!……あぁ」

 

 

犠牲になった奴のことを忘れないでくれと、犠牲になった奴の死を無駄にしないでくれと告げる。人は肉体が死んだ時に死ぬのでは無く、記憶から忘れ去られた時に死ぬと言うのが自論だ。俺たちは〝ナイトオブナイツ〟の誰が死んだのか分からない。きっと忘れてしまう。だがディアベルたちは知っている。ディアベルたちが彼らのことを忘れなければ、彼らはディアベルたちの中で生き続ける。自分たちがここにいるのは、立っていられるのは、戦えるのはお前たちのおかげだと。

 

 

俺の言いたかったことを分かってくれたのか、ディアベルは嗚咽を噛み殺した様な返事をして、会議室から出て行った。時間はかかるだろうが、ディアベルたち〝ナイトオブナイツ〟は攻略組に居続けるだろう。少なくとも、俺はそう信じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー諸君、まずは犠牲になった〝ナイトオブナイツ〟の勇者たちに黙祷を」

 

 

ヒースクリフの指示の元で行われたのは〝ナイトオブナイツ〟の犠牲者たちへの黙祷。冥福を祈る、安らかに眠ってくれ、お前たちの犠牲を無駄にしないと数分の間に誓い、そして引きずる事なく意識を切り替える。それは俺やヒースクリフだけでは無く、攻略組ならば誰もがやれる事だった。少なくとも攻略組に参加している者は誰かが死ぬと覚悟して参加している。なら、犠牲者が出たとしても直ぐに意識を切り替えられる。

 

 

ディアベルに任されたのだ。犠牲になった者たちの死を無駄にせず、フロアボスを封殺する作戦を考える。

 

 

「さて、これからの進行役は私が務める。アルゴ君、君はウェーブと一緒にフロアボスの情報を集めていた様だが結果は?」

 

「ボスの名前とタイプ、それに大まかな攻撃手段と弱点が判ったヨ。どうもフロアボスはこの階層で昔大暴れしていて英雄によって封印されたっていう設定らしくてナ、クエストの最後に登場したネームドボスから面白いアイテムをドロップしたんダ。ナミっち」

 

「あいあい」

 

 

アルゴの指示に従い、アイテムボックスからネームドボス〝シャドウヒーロー〟がドロップしたアイテム〝朽ちた剣〟を取り出して円卓の上に置く。名前の通りに錆び付いていて、シルエットと名前から剣だと予想出来る見た目のアイテム。金銭的な価値は無いに等しいが、これがフロアボス攻略の鍵になると俺とアルゴは睨んでいる。

 

 

「見た通りにクッソボロい剣だ。使える様にするには特定のアイテムが必要だがエギルのところの商人ギルドに頼めば集まるだろうよ。んで、情報が確かならこれは竜殺しの剣らしい。予想出来る効果は竜タイプのモンスターへのダメージ増加ってところだな」

 

「ふむ……ではそれを使える様にすればフロアボス攻略は出来ると?」

 

「そもそも俺たちが集めた情報からある程度作戦は考えてある。それにディアベルから貰った情報が合わさればメタの一つや二つは思いつく。あとは生存率上げるためにレベリングしたりプレイヤースキル磨いたりってところだな」

 

 

どんなタイプのモンスターなのか、どんな攻撃をしてくるのか、どの部位が弱点なのかが判れば嫌でも作戦は考えられる。その上にディアベルから提供された生のフロアボスの情報があるのだ。〝アインクラッド解放隊〟と中層ギルドとの戦闘で学習されたことを前提にしても、()()()()()()()()()()()()()。あとはどれだけ生存率を高めるかだけだ。

 

 

「そうか……ではアルゴ君はその剣を使える様にしてくれ。そしてその他の者たちは各自で準備を。私はそこのキチガイと一緒にフロアボスを封殺する作戦を考える」

 

「ヒースクリフ、俺、一週間フィールド暮らししてたから帰って寝ていい?」

 

「作戦考えてからな」

 

「ガッデム!!」

 

 

酒飲んでフカフカのベッドで寝て人間的で文化的な睡眠を取りたいと言うのにヒースクリフが許してくれない。シノンとシュピーゲルとクラインは苦笑いし、アスナは気まずそうに目を逸らし、キリトは指差してゲラゲラと笑っている。キリトだけは絶対に許さん。

 

 

「ーーー!!」

 

「ーーー!!ーーー」

 

「……何やら騒がしいな」

 

 

キリトをどう処すか疲れ切った脳内をフル稼働させていたところで外が騒がしい事に気がつく。声の質からして、止めようとしている者と押し入ろうとしている者がいる様だ。

 

 

「ーーー攻略組の会議はここですか!?」

 

 

そして扉を破らんばかりの勢いで入って来たのは茶髪の優しそうな風貌をした少年。恐らくはシノンやシュピーゲルと同じくらいの年頃だろう彼は汚れの付いた軽装の鎧姿のまま会議室を見渡し、進行役をしていたヒースクリフを見つけて駆け寄る。

 

 

「誰だね?」

 

「〝絶対正義(ジャッジメント)〟のセーヤと言います!!どうか僕たちを攻略組に参加させて下さい!!」

 

 

〝ナイトオブナイツ〟の犠牲者を出した原因のギルドを名乗ったセーヤと言う少年は、そんな戯言を言ってヒースクリフに向かって頭を下げた。

 

 






アインクラッド解放隊と中層ギルドが馬鹿やったせいでディアベルはんのギルドで犠牲者が出ました。ちなみにこれが攻略組で初の犠牲者。きっとディアベルはんなら立ち直ってくれる。そして他の攻略組たちは殺意メラメラ。

ヒースクリフ指揮によるフロアボス絶対殺す作戦。情報があるのならそれを元にメタ張って封殺するのは簡単なんだよぉ!!なおそのせいでウェーブの睡眠時間は削られる模様。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。