闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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二十五層
クォーターポイント


 

 

「ーーーはぁ……疲れた」

 

 

サンサンと降り注ぐ朝日を浴び、身体に残っている疲れを感じながら喫茶店の外に出されているテーブルの一つに座る。そして水を持ってきたウェイトレスの胸のサイズを確認して呪詛を吐いてからモーニングを頼む。

 

 

「ーーーあれ?シノン?」

 

「あら、シュピーゲル」

 

 

水を飲みながらボンヤリと景色を眺めていると幼い顔付きで金属の鎧を一切付けていない少年に話しかけられた。彼はリアルで私の友人の新川恭二。オンラインゲームではプレイヤーネームで呼びあうのがマナーなので、互いにそう呼ぶようにしている。

 

 

「今日は一人なの?」

 

「ウェーブならユウキとストレア連れてアルゴの護衛でフィールド駆け回ってるわ。私は昨日、キリトとアスナと一緒に商人の護衛やってたからオフなのよ」

 

「うーん二十五層でたった四人で歩き回るのは自殺行為なはずなのにウェーブさんなら一人で充分なんじゃないかなって思えてくるこの不思議」

 

「実際、アクティベートしてから半日は一人でフィールドに出掛けたらしいわよ」

 

「リアルでも頭おかしいと思ってたけどSAOでも頭おかしいなぁ」

 

 

座って良いかと聞かれたので了承し、シュピーゲルはウェイトレスにコーヒーを頼んだ。そして背中を向けて去っていくウェイトレスに中指を立てる。

 

 

「やっぱり胸?」

 

「胸ね。巨乳なんて死滅すれば良い……!!」

 

「ウェイト。希望はあるから絶望してからでも遅くないよ?」

 

「それは私が絶望する事前提なのかしら?」

 

 

〝クイックチェンジ〟で登録していた〝オークショートボウ〟を取り出し、矢をつがい鏃を向ける。両手を挙げて降参のポーズを取るシュピーゲルにここの支払いを押し付ける事にして〝オークショートボウ〟を仕舞った。

 

 

「ネタだって分かってるけど心臓に悪いよ……」

 

「ネタじゃなくてガチよ」

 

 

遊び一切無しの声色で言って信じてくれたのか、シュピーゲルは顔を引き攣らせていた。それ見て溜息を吐きながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

ゲーム開始から二ヶ月経った時に、プレイヤー全員にカーディナルからメールが届いた。それはアップデートの報告で、内容は時間に応じてアバターの外見が成長するというものだった。ヒースクリフはカーディナルは純粋にゲームを運営する為に作られたAIで、ルールの変更があれば知らせるのは当然だと考えているから知らせたのでは無いかと推測している。

 

 

ルールとはゲームをする上での法則だ。その法則に変更があれば、GMとして知らせるのは義務だろう。ウェーブはそれを聞いて、カーディナルは殺意こそ溢れているもののゲームをクリアさせたくない訳ではないと言っていた。確かにカーディナルは殺意に溢れると思う。この二十五層がその証拠だ。

 

 

新年をゲーム内で迎え、3月に入って二十五層に辿り着いたが、そこは端的に言えば地獄と呼べるフィールドだった。安全圏内とされているのは主街区〝ボーデン〟と迷宮区最寄りの街の〝ブランデンブルグ〟の二箇所だけ。間にいくつか村はあるが圏内設定されておらず、時折モンスターが入り込んでくる。しかもフィールドに湧いてくるモンスターはこれまで出て来たことのない竜型のモンスターで、最低でも十匹の群れで現れる。竜型ということが理由なのか攻撃力防御力体力は二十四層に湧いてくるモンスターよりも高く、それでいて数の暴力で襲ってくるから本当に厄介だった。

 

 

二十五層という百層あるアインクラッドの四分の一に当たる階層なので何かあると誰もが予想していたがここまで殺意に溢れるとは思わなかった。

 

 

「ゲーム運営しているカーディナルって本当にクソよね。二十五層っていう一区切りなのは分かるけどここまで殺意に溢れなくても良いじゃない」

 

「ホントそうだよね。お陰でAGI型の僕は怖くてフィールドに出られないよ」

 

「へぇ……〝影速〟のシュピーゲルが言うじゃない」

 

「ガブッ」

 

 

AGI型に特化した結果の影を残すようなスピードで偵察を済ませるからそう呼ばれるようになったシュピーゲルの二つ名を呼んでやれば何かを吐き出すような声を出してテーブルの上に突っ伏せた。コーヒーとモーニングを運んで来たウェイトレスに心配しないように伝えてそれらを受け取り、去り際に中指を立てる事を忘れない。

 

 

「グブッ……そ、そういうシノンは〝射殺〟とか呼ばれているじゃないか」

 

「だって事実じゃない」

 

 

そういう私も〝射殺〟という二つ名で呼ばれたりするが、それは私が得たエクストラスキルが関係している。

 

 

エクストラスキル〝射撃〟。本来なら投擲物しか遠距離攻撃が無いはずのSAOにあった弓を使う事が出来るスキル。しかも私以外に誰も習得しておらず、習得方法は不明。怖くなってヒースクリフに尋ねてみたところ、ユニークスキルと呼ばれるたった一人しか習得する事が出来ないスキルだと言われた。公表するかどうかを悩んだが、同時期にヒースクリフとウェーブもユニークスキルを獲得したと言ったので良い機会だと公表する事にした。その結果、私は弓を使って戦うからと言う理由で〝射殺〟なんて呼ばれる事になった。

 

 

シュピーゲルの〝影速〟のような厨二チックな名前とは違うのだ。

 

 

「リアルとは全然性格が違うね……本当に猫被ってたんだ」

 

「リアルでこんな風に居たら拒絶されるでしょ?そうするとウェーブが学校に乗り込みかねないのよ。まぁそれでも友達が出来なくてユウキにボッチと揶揄われてウェーブに心配されるのだけどね」

 

「僕は友達じゃないの?」

 

「友達というよりは……本性見せられる分その上の親友って括りね」

 

「親友、親友か……」

 

「その上に行きたいと思っている?残念、そこはウェーブ専用よ」

 

 

実は私はシュピーゲル……いや、新川恭二にリアルで告白されている。その時に好きな人がいるからと断って、どんな奴かと聞かれたので面倒臭くなって本人に合わせる事にしたのだ。そしたら一目見た瞬間に崩れ落ちて男として負けたと言っていた。それからも彼との交流は続き、ちょくちょく本性を見せて反応から問題無いと、彼の前ではウェーブとユウキと過ごすのと変わらない態度でいることにしたのだ。

 

 

「分かってるよ。ウェーブさんの話しをしてる時やウェーブさんといる時のシノンって女の顔してるから」

 

「そんなに分かりやすいかしら?」

 

「凄く分かりやすいよ。普段はこう、不機嫌そうなのにウェーブさん関連になると緩むから。ガッツリメスの顔になってる」

 

「……もう少し気をつけておかなきゃ」

 

 

普段は不機嫌な態度で、時折女の顔を見せる事で生まれるギャップを活かせとお義母様から言われているのに普段から女の顔を見せていたらギャップが生まれないではないか。ウェーブを落とすための努力は怠らない。普段の態度と女の顔の使い分けを意識しなければ。

 

 

「愛されてるねウェーブさん……年の差があれだけど」

 

「シュピーゲル、知ってるかしら?年の差なんて愛さえあれば関係ないそうよ。お義母様が言っていたわ」

 

「もう嫁入りしている気でいるなぁ」

 

 

砂糖とミルクを投入したコーヒーを啜りながら呆れ気味にシュピーゲルはそう言った。私だけではなくてユウキも似たような物なのだが敢えてそれは言わない。モーニングに運ばれて来たサンドイッチに手を伸ばす。

 

 

と、その時、メールが届けられた事を知らせる電子音が私とシュピーゲルから聞こえて来た。同時に聞こえたと言うことは恐らくは攻略に関係する事だろうと思い、サンドイッチを齧りながらウインドウ画面を開いてメールを確認する。差出人はディアベルからで、その内容を見て思わずサンドイッチを落としてしまった。

 

 

『アインクラッド解放隊が中層プレイヤーギルドと共にフロアボスに挑み壊滅。緊急会議を正午より行う』

 

 





クォーターポイントはここがすごい!!
・安全圏内は二箇所だけ。それ以外の村ではモンスターが普通に侵入してくる。
・モンスターが最低でも十匹の群れで湧いてくる、しかもそこそこ強い。戦いは数なんだよ!!
・それをソロでエンジョイしているキチガイがいるらしい。

新川きゅん登場。ここでは告白して、キチンと希望を持たせずに振られているのでアサダサァン……なブラック新川きゅんにはなりません。主に偵察班で、〝影速〟なんていう厨二チックな二つ名を付けられて苦しんでる。

とりあえず現段階でユニークスキルをいくつか解放。公式から発表されたのは〝二刀流〟以外出せるだけ出すつもり。

最近殺意が足りないなぁと思ったのでカーディナル様に頼んで殺意を充填させてもらいました。

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