「料理は揃った?じゃあ合掌!!いただきます」
「「いただきまぁす!!」」
「いただきます」
〝タラン〟のレストラン、所狭しと料理の並べられたテーブルに座って食事前の挨拶をしてナイフとフォークを手に取る。ユウキとストレアは真っ先に肉料理に向かって行ったし、シノンはそんな2人に呆れながらスープに手を伸ばしていた。
「がっつき過ぎだろ。飯食ってないのか?」
「食料は持って行ったのだけど計算間違えたみたいで足りなかったのよ。アスナと分けたのだけどそれでも足りなかったみたいな」
「ムグムグ……だって成長期だから!!」
「美味しい……疲れた身体に染み渡る……!!」
「ストレアはどうしたのよ?」
「素振り千回させたから疲れてるみたいだな」
「ストレアの武器って両手剣……お疲れさま」
ストレアの武器を思い出して素振りの大変さを悟ったのかシノンの目が優しくなる。だが、ストレアの胸を見た瞬間だけ親の仇でも見る様な目になったのを見逃さない。
「ガッデム巨乳め……!!あ、その内成長するから楽しみにしてなさいね」
「コメントに困る様な事言わないで欲しいんだけどな」
「ボクも成長するからね。しかもボクのお母さんは巨乳だから心配してない!!」
「ユウキの遺伝子サボれ。働いたら殺す」
「シノン怖過ぎない?」
「え〜?胸なんて大きくても邪魔なだけよ?肩も凝るし」
「「黙れ巨乳。削ぎ落としてやる」」
「2人とも怖過ぎ!!」
「ハッハッハ、楽しそうで何より何より」
ストレアの巨乳ネタでユウキとシノンのヘイトを稼ぐが3人の仲は悪くは無い。巨乳ネタさえ挟まなければ普通に仲の良い女友達にしか見えない。
だけど俺がストレアを連れて来た時、やっぱり胸なのかとソードスキルを叩き込んだ事は忘れない。
「そういえばウェーブって胸派なの?それともお尻派?」
「唐突になんて事抜かしやがる」
口の周りを肉料理のソースで汚したユウキが突然凄いことを聞いて来た。隣に座っていたプレイヤーがスープを吐き出し、窓の外にいたアルゴが凄い勢いで〝隠蔽〟を使って近寄って来たのが見える。少し離れた所にいたユイがキリトとアスナにどういう意味なのか聞こうとしてキリトは答えられず、アスナは顔を真っ赤にして口ごもっている。
「待ちなさい、ユウキ」
「助けて比較的マトモな常識人のシノンさん」
「ーーー太腿派なのか聞くのを忘れているわよ」
「そんなことだと思ったよコンチクショウ」
シノンの助けがあると思ったらユウキ側だった。普段だと割と常識的なシノンだが時折ぶっ飛んだ思考になるので容易に信用してはならないのだ。
2人にそんな教育をした母さんにリアルに戻れたらドロップキックをかます事を決める。
「で、そこの所どうなの?答えなさい」
「ハリーハリーハリー!!」
「2人とも酒入ってないよね?」
「あ、私も気になるな〜」
「ストレア、お前もか」
3人に囲まれて逃げ場は無い。それどころか店内のプレイヤーたちも気になるのか腰を少し浮かせている。俺が逃げようとしたら全員で押さえ込む腹づもりなのだろう。その中にはキリトも入っていて、アスナはユイの耳を塞いでいた。
「はぁ……まぁ拘りは無い、かな?」
こんな状況じゃあ逃げきれなくは無いが面倒になるのは目に見えて分かっているので頼んでいた果実酒を飲んでから正直に言う事にした。真面目な話、俺は女性のどの部位が好ましいとかは拘っていない。ストレアの胸に目がいく事が多々あるが、それはエロいと感じてるから見ているだけであって尻や太腿にエロさを感じるならそこを見る。
プレイヤーたちがつまらなそうに座る音が聞こえた。キリトもその中に入っている。お前らの顔を覚えたぞ。
「エロいから目が行くのであってどこが好きだから見てるってわけじゃ無いな」
「ふ〜ん……じゃあボクとシノンにそういうの感じたりしないの?」
「感じる時あるよ?」
店内にいるほぼ全員が立ち上がった音がした。立ち上がっていないのはユイくらいで、アスナもユイの耳を塞ぎながら立ち上がっている。
「凄い漢だ……」
「なんて勇ましい……」
「認めよう……貴方がナンバーワンだ……」
「やっぱりウェーブはロリコンなのか?」
「でもストレアさん連れてるし……」
「つまりロリコンじゃなくて女好き?」
「ハッハッハ。お前たち、月夜ばかりと思うなよ?」
にこやかに笑いながら店内を見渡すと誰もが揃いも揃って顔を青くさせた。そしてテーブルの上に残った料理を口に流し込んで慌てて出ていく。
残念だけど全員の顔は覚えたから。全員が攻略メンバーで見間違えるはずないから。
「一気に人居なくなったね」
「ウェーブの笑顔って怖いのよね」
「あ〜分かる。何かこう……お前の事殺してやるみたいな感じの笑顔よね」
「お前たちがそういう話を振って来た事が原因なんだけどなぁ」
もう風評被害は気にしない事に決めた。ロリコンでも女好きでもどんと来い。ただし鬼畜だけは勘弁してくれ。興味無いから、好きなジャンルは純愛だから。
「んで、なんで唐突にこんな人が居る場所でそんな話始めたんだ?」
「そりゃあ……ねぇ?」
「なんでって……ねぇ?」
「「牽制」」
「お前たちの思考回路に戦慄を禁じ得ねぇよ」
ユウキとシノンが俺の事を好いている事は知っていたがここまでガチで狙っているとは思わなかった。2人は牽制と言っているが風評被害で俺の人間的価値を下げる事でSAO内の数少ない女性プレイヤーから好意を持たれ難くしに来ている。
間違いなくこれを教えたのは母さんだろう。リアルに戻れたら半殺しにしてやる。
「ねぇねぇ、2人をそういう目で見るのは分かったけどどこが良いの?私は胸だとして」
「「削ぎ落としてやる……!!」」
「ステイステイ」
ナイフを持ってマジの目になって立ち上がった2人を落ち着かせる。ストレアはしてやったりと笑顔でダブルピースをしている。取り敢えずストレアの目の前の料理にタバスコを一瓶丸々かけておいた。
「まぁ……ユウキは脚でシノンは尻だな。日常生活で油断してるとグッと来る時があって焦る」
「そのまま押し倒してくれたら良いのに……」
「意気地無し……」
「流石に手を出したら社会的に死ぬからまだ出しません」
2人の怖いところは向こうから手を出すんじゃ無くてこちらから手を出させようとして来るところだ。母さんに教わったのだと思われる房中術紛いの事で俺の事を誘って来る。流石に薬を使うまではされてないが、ユウキの部屋にそういう類の薬が隠されてある事は知ってる。多分母さんが渡したのだろう。死んでくれないかなぁと思うが死ぬところがイメージ出来ないので死なないと思う。
「ん?まだって言った?」
「つまり私たちは予約済み?」
「もうそれで良いよ……」
ぶっちゃけた話、異性で好意を隠す事なく示してくれているのは今の所この2人しか居ない。アルゴにストレアと、他にも近い女性はいるのだが2人ほどはっきりと好意を示して居ないので不明なのだ。
つまり、現代社会にとって異物である俺の事を心から愛してくれているのはユウキとシノンになる。そんな彼女たちの事を、年齢という差があるもののそういう目で見るなというのは無理なのだ。
無論今は手を出すつもりは無い。その事を2人にも伝えているのだが、そんな事知ったことかと攻めて来るので困ったり嬉しかったり複雑なのだ。
無邪気に喜ぶユウキと得意げになっているシノンがハイタッチをし、タバスコ塗れの料理を食べたストレアが床に転がって悶絶し、窓の陰に隠れたアルゴが何かをメモ帳に書いている中で俺は疲れたように果実酒を飲む。
「明日からの俺の評価どうなってるんだろう……」
攻略会議の場面は丸々カットして食事……と思ったらいつの間にかウェーブの性癖暴露会。頭空っぽにして書けるから楽しい。