闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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ネクストステージ・4

 

 

「ーーーIt's show time」

 

 

流暢な英語と共に夜の暗がりからプレイヤーが現れ、躊躇い無しにナイフを二本突き出してきた。順手に持たれたナイフの切っ先は喉と心臓。誰が見ても殺しに来ている、()()()()()()()()()()だった。SAOなら喉は即死判定、心臓は耐久依存だが俺ならばHPの7割といったところか。心臓は兎も角、喉は避けなければ死んでしまう。

 

 

なので、突き出されたナイフ二本を()()()()()()()()()。刃が突き刺さるが根本まで埋まれば柄が邪魔をしてそれ以上進まない。ダメージは入るが死ぬよりはマシだ。

 

 

驚きからか動きが止まった瞬間にナイフの握られている手を掴んで離さない様にし、股座を蹴り上げる。体格からして襲って来たのは男、ペインアブソーバーでリアルの半分の痛みしか感じないと言え男ならば反射的に硬直する。そして頭突き、フードに隠れて見えない顔のど真ん中に額を叩き込む。額から伝わって来た感触から、鼻の骨が折れたのが分かる。

 

 

そこでプレイヤーの硬直が解けて無理矢理手を振り解かれ、左足を軸にした回し蹴りで蹴り飛ばされた。ダメージを受けるがこれで距離を取る事が出来て、仕切り直しにはちょうど良かった。両手の平がナイフで貫通して穴が空いているが動かせない程ではない。

 

 

「It's crazy」

 

「知ってるよ」

 

 

プレイヤーの言葉を適当に返しながら腰に下げていた〝アニールブレード〟を引き抜く。ポーションなんて使う暇は無い。使えばその隙をあいつは嬉々として襲い掛かってくるだろう。

 

 

あいつの最初の奇襲、あれは〝隠蔽〟を使ったシステム的な隠密では無く、俺の〝色絶ち〟の様な技術的な隠密だった。しかも、それを意識してやっている素振りを見せていない。折れた鼻の位置を元に戻している間も体勢は自然体のまま、つまりあの隠密を自然体で行える事になる。それに真っ先に殺そうとしている事から殺しに躊躇いが無い。殺す事になんの価値も持っていない壊れた部類の人間だと分かった。

 

 

きっとあいつは理由もなく人を殺して飯を食えて、食後の運動だと人を殺せるタイプの人間。現代社会では認められない異物。

 

 

現代社会の異物という点では俺も同じなのだが。

 

 

「成る程、成る程な……」

 

「日本語話せたのかよ」

 

 

意味ありげに日本語で頷いている姿に少し驚く。流暢な英語から外国人だとは分かったが日本語も達者だったから。

 

 

「あぁ、この感覚の正体が分かったぜ。()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()

 

 

その言葉に即座に同意する。こうして出会い頭に殺されそうになって傷付けられたというのに俺はこいつに嫌悪感を一切抱いていない。それどころか親近感さえ湧いている。

 

 

精神の壊れ方、目的を達成する為なら手段を選ばない、汚れた手段だろうが躊躇せずに行える。そしてーーー()()()()()()()()()。俺は爺さんと母さんからの教育で後天的にそういう風な思考にさせられたのだがこいつは先天的にそういう風な思考をしていたのだろう。

 

 

多少の差異や方向性の違いはあれど、俺たちは考え方的には全くの同類だと一目で分かった。

 

 

「PoHだ、brother」

 

「ウェーブだよ、兄弟」

 

 

自己紹介をしながらPoHはフードを外し、野性味溢れる整った顔を晒した。顔付きから純粋な日本人では無く、日系の人種であると考えられる。

 

 

「んで、ネズハに〝クイックチェンジ〟使った詐欺を教えたのはお前だな?」

 

「That's right!!中々coolな方法だっただろ?」

 

「あぁ、そんな手段があるんだと素直に感心したよ」

 

 

ライトエフェクトで目眩しをして、その隙にエンド品と入れ替えて破壊させるあの詐欺は初見では見抜けない。何度も失敗したら不審がられるだろうが、それでも現状では唯一のプレイヤーの鍛冶屋であるのでネズハがそうだと説明してしまえばそれで終いになる。

 

 

恐らく、俺だけじゃ無くてヒースクリフも感心していた筈だ。ゲーム開発者なのにこうしたルールの穴を突くような方法を喜ぶとか俺とは違ったベクトルで頭がおかしいと思う。

 

 

「んで、今日は何?殺しに来たの?」

 

「いいや、初見で俺の考えたIdeaを壊してくれた奴を見ようと思ってな。だがまぁ、予想以上の収穫だったぜ。まさか俺と同類がいるとはな」

 

「俺も驚きだよ。ぶっ壊れた野郎が俺以外にもいて、しかもSAO内で会えるとか……どんな確率だよ」

 

「だが、俺はこの出会いに感謝しているぜ」

 

 

そう言ってPoHは役者じみた動きで両手を広げる。可能ならばこの瞬間にでも殺そうかと思ったが、隙がある様で隙がない立ち振る舞いから、出来ないと判断する。

 

 

「ドブ底でネズミみたいに生きているだけの俺の人生にお前が希望と生きる喜びを与えてくれた。俺と同類が、胸を張って生きているってことは俺もそう生きて良いって事だ。感謝感謝、感謝しかねぇ。だから、あぁーーー()()()()()()()()()

 

 

殺意と歓喜の入り混じった狂気の視線を受け止める。俺にこれから逃げる権利などない。一歩間違えていたら、俺だってこうなっていたかもしれないから。

 

 

「俺はお前を必ず殺す。お前を殺せるのなら、その直後に俺は自分を殺したって良い」

 

「う〜ん……男からのプロポーズは勘弁して欲しいけど、残念なことに俺も同意見なんだよな」

 

 

そうだ、PoHが俺の事を殺したいと望んでいる様に、()()P()o()H()()()()()()()()()()()()()()。理由も理屈も無い。そんな物は邪魔だと言わんばかりに心がPoHを殺す事を望んでいた。

 

 

「でもSAO(ここ)でするのは勿体無いからリアルでしない?まぁ出来ればだけど」

 

「……お楽しみを取っておくのも悪くないな。良いだろう、リアルに戻ったら殺し合おうぜ?」

 

 

SAOをクリアしてリアルに戻ったら殺し合う事を約束して、俺たちは同時に武器をしまう。そしてその時にふと思い付いたのでPoHにフレンド申請をする事にした。突然目の前に現れたウインドウの内容に驚いていたPoHだったが、ニヤリと笑ってその申請を承諾した。

 

 

「じゃあな兄弟」

 

「俺が殺すまで死ぬなよ」

 

 

もうやることは無いと言わんばかりにPoHは〝ウルバス〟の街に背を向けてフィールドの奥に向かって歩いて行った。PoHのカーソルは俺に攻撃をして傷付けたことでオレンジに変わった。それは犯罪者の証で、圏内でグリーンのプレイヤーに一方的に攻撃されるなどのデメリットがある。それならば圏内も圏外も関係無い、目立たない圏外の方がまだマシだろう。

 

 

PoHはこれから間違いなくアインクラッドを悪い意味でかき乱す。PoHに触発されて犯罪行為を行うプレイヤーが現れるだろう。

 

 

だが、()()()()()。ああいう手合いは適度な刺激を与えてくれる。座り込んでヘタれている連中を危機感という暴力でブン殴って立ち上がらせてくれる都合の良い存在。将来的には殺し合うビジョンが見えているのだが、それ以上に利用価値がある。

 

 

それに現段階ではPoHは大きくは動かないだろうし、攻略メンバーに手を出すことはしないだろう。攻略が長引けば長引くほどにリアルの俺たちの身体が危ない事をPoHも理解しているはずだ。

 

 

動くとしたら第二十五層以上、四分の一を超えて攻略メンバーとそれ以外が明確に分けられた辺りだろう。

 

 

「さて、いつか飯にでも誘うとしてだ。これどうしようかな……?」

 

 

PoHに傷付けられた、穴の空いた手の平を見て、バレたら絶対にユウキとシノンが騒ぐだろうなと気落ちするのだった。

 

 

 





Pohニキ登場。そしてアンブッシュと共に熱烈なプロポーズをかます……これはヒロインですわ。

Pohニキ=ウェーブでは無く、Pohニキ≒ウェーブである。同類であるが同一では無い事を忘れない様に。

そして穴の空いた手の平はポーションぶっかけてしばらくしたら塞がりました。


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