「ゴメンナ、嫌な役回りさせちまっテ」
「いんや、あれはあれで俺も思うところがあったから。気にしなくて良いぞ」
攻略会議が終わり夜になって、〝トールバーナ〟の町では攻略メンバーによる宴が行われていた。親睦会と銘打っているがほとんどが飲みたいだけだろう。
ちょこんと飲めや歌えとはしゃいでいるメンバーを遠く離れたところから眺めている俺の隣にアルゴが座る。確保しておいたワインの樽の中身をグラスに入れて渡す。
「結果としてβテスターとビギナーのほとんど垣根は無くなったけド、反βテスター組に嫌われたゾ」
「これで負けん気でも出してくれれば結果オーライなんだけどな〜」
負けてたまるかとやる気を出してくれるのならそれは助かる。俺に負けたく無いと強くなろうとしてくれれば結果として攻略メンバーの質の上昇に繋がるから。だが逆に嫉妬を拗らせて変な方向に向かう可能性がある。アイテムやコルを得るために弱者から奪ったりとか。
まぁ、そうなったら俺が皆殺しにするけど。
「オレっちがしっかりしてれバ……」
ふざけたことを抜かすアルゴの頭をチョップする。障壁が現れてダメージは無いが痛かったのか頭を押さえてプルプルと震えている。
「バーカ、リアルの年齢知らんが大人に任せといてガキはガキらしく無邪気にはしゃいでれば良いんだよ。それに、女の尻拭いするのも男の役目だ。寧ろ使ってやるくらいの意気込みでやれ」
「ナミっちの癖に生意気ナ……今度ロリコンだって言いふらしてやるヨ」
「止めろ、社会的には死にたく無い」
俺の言葉で少しは気が楽になったのか、アルゴはニシシと笑ってワインを飲んだ。くだらない事かもしれないけど女には笑って欲しいと俺は考えているわけで、それに親しい奴が苦しんでいるところを見たく無いわけで、だから少しだけかもしれないがアルゴが楽になったのは俺にとって嬉しかった。
「ところデ、シーちゃんとユーちゃんはどこだイ?姿が見えないけド?」
「あそこに人集りが出来てるだろ?あそこで踊ってる」
「なんでそうなっタ」
「ユウキが悪ノリしてシノンがそれに付き合ったからだな……ちょっとロリコンども悩殺してくるって笑顔でサムズアップしてくるユウキには戦慄を覚えずにはいられなかったぜ」
「年の割に中身が黒すぎやしないカ……って、ナミっちの影響カ」
「変な納得の仕方しないでもらえるかな?」
悪影響=俺のせいって方程式がアルゴの中では立てられているかもしれないが俺はそんなことを教えた覚えは無い。あるとしたら爺さんか母さん辺りだが……あ、身内のせいなら俺のせいだわ。
「そういやあのサボテンどうしてる?」
「サボテン……いやサボテンだけどサ……あいつならここにはいないヨ。宿屋に仲間と一緒に引きこもってル」
「当然か。もしこの場に顔を出してたら煽ってやろうかと思ったのに」
キバオウのせいで攻略メンバーの士気が下がったがディアベルのおかげでなんとか持ち直し、アルゴが出したボスに関する攻略本を元にしてコボルドロードへの対策を立てることが出来た。6人で一パーティーを八つ作って計48人による集団戦で戦うという事。攻撃、防御などの役割をそれぞれのパーティーに持たせて、ローテーションしながら戦うつもりらしい。
その中で俺たちのパーティーの役割は遊撃。戦況を見て攻撃にも防御にも回って欲しいとディアベルから直々に頭を下げて頼まれた。理由としてはレベルが現段階で一番高い俺のいるパーティーなら頼めると思ったかららしい。特に反対意見も無かったのでパーティー全員に有無を聞いてから承諾した。
「でも意外だったナ。キー坊とアーちゃんがナミっちのパーティーに入るだなんテ。てっきりハブられて2人っきりのパーティーになると思ってたのニ」
「それはそれで面白そうだけど、するにしてももうちょっと余裕が出てからだな。初めの一歩は出来る限り不安定要素を無くして挑みたい」
「ナミっちが大胆なのか慎重なのかはっきりしないナ……ところデ、最後のパーティーメンバーのヒースクリフって奴とは親しげだったけど知り合いなのカ?」
そう、アルゴが言った通りに俺のパーティーメンバーにはしれっとヒースクリフが入っている。今はスキンヘッドの黒人さんとエールの飲み比べをしているあの無表情だが、話を聞く限りだと始まりの街でひたすらにアインクラッドでの生き方やフィールドでの戦い方をレクチャーしていたそうだ。つまり、デスゲームを始めさせた張本人が生存率の向上に手を貸しているというクソ面白い状況になっている。
「まぁリアルの関係でな。アルゴのお眼鏡には適わなかったか?」
「まさカ。どうしてあんなプレイヤーが今まで知られてなかったのか驚いてるくらいだヨ。派手さは無いけど堅実デ、しかもリーダーシップもあル。間違いなくこの先の攻略はあいつが中心になル」
「そりゃあそうだ。戦いに関して俺が認める数少ない奴だからな」
ヒースクリフは茅場晶彦であり、SAOの舞台であるこの世界の創造主である。俺もその一端に関わっていたが、間違いなくこの世界に一番長く関わっていたのはあいつだ。であるならば、弱いはずがない。
管理者権限が剥奪されたとはいえその経験と知識が失われることは無い。VRMMOだけで限定していえば、
まぁリアルだと俺の方が強いし、SAOでも殺せるだけの実力はあるけど。
「ところでアルゴって下着はどうしてるんだ?そのウインドウ消して答えてくれ」
「いきなりトチ狂ったことを言い出すから反射的に出しちゃったじゃないカ……シーちゃんとユーちゃんカ?」
「うん、あいつら俺を下着屋に連れ込んでどれが良いのか聞いてくるんだよ。普通のが良いんじゃないかなって思って言ったらそれは可愛くないとかで却下されるし」
「完全に思考がシングルファザーになってるゾ……それニ、オレっちにそんなことを聞くってことはオレっちのことを女扱いしてないナ?」
「まっさか。アルゴを女として見てるから聞いてるんだよ」
「……いきなりは卑怯だゾ」
アルコールが回ったのか、それとも照れなのか、アルゴの顔が僅かに赤くなる。出来れば後者であれば良いなと思いながらグラスに入っていたワインを飲み干す。
「ウェーブ!!」
「何隅っこで静かに飲んでるのよ」
ロリコンどもを悩殺し終わったのかユウキが膝の上に座り込み、シノンが背中から枝垂れかかってくる。そして2人からはアルコールの匂いがしてきて……
「ってお前ら飲んだのかよ!!俺飲むなよって言ったよな!?」
「らいじょうぶらいじょうぶ!!コップ一杯だから!!」
「呂律が怪しくなってるぞユウキぃ!!」
「ふふ……どう?私だって成長してるのよ?」
「当ててるのよってやりたいのか!?当たってねぇんだよシノォン!!」
「むぅ〜……てぃ!!」
この酔っ払いどもをどうしようか迷っているとアルゴが唐突に、何の前触れもなく抱き着いてきた。
「アルゴさぁん!?」
「オネーサンのことを無視するからだゾ?このままロリコン扱いされると良い……!!」
「畜生!!口調がガチじゃねぇか!!」
前にユウキ、横にアルゴ、後ろにシノンが張り付いた状態はもはやどう足掻いても言い逃れが出来る状況ではなく、翌日にはロリコン野郎のあだ名がつけられる事になった。
25歳の成人男性が複数の少女を侍らせていたとの通報がありました。アインクラッド警察は直ちに出動してください。