アンケート締め切り間近(2017/06/30現在)
詐欺としか思えなかったラーメン擬きを食べて翌日。五十一層のサロンにて攻略会議が開かれることになっている。とは言っても会議の内容はボス部屋の位置とアルゴが集めて来たフロアボスの情報の公開くらいしかない。正式なフロアボス攻略は〝ナイトオブナイツ〟か〝血盟騎士団〟が動けるようになってからする予定になっている。
サロンにいるのは俺、アルゴ、ストレア、クライン、キリト、コタロー、ヒースクリフ、アスナ。ヒースクリフが何時もよりも眉間に皺を寄せているのはきっと昨日のラーメン擬きが原因に違いない。珍しく一口口にしてフリーズし、再起動したら武器を抜いてバーサークしてたからな。
大袈裟だなと思って俺も食べてみて分かった。あれはラーメンじゃない。限り無くラーメンに近い何かだ。〝血盟騎士団〟と〝ナイトオブナイツ〟のみんなが止めてくれなかったらきっとヒースクリフと一緒にあの店を例え〝破壊不能オブジェクト〟だろうが破壊していたに違いない。
そして今もあの店の破壊は諦めていない。絶対に潰してやる。食べ物の恨みは恐ろしいのだ。
だが俺の目の前にはあの憎たらしいラーメン擬きを出す店よりも興味を惹く光景がある。それはヒースクリフの後ろに控えているアスナだ。立ち位置はいつもと変わらない。〝血盟騎士団〟の副団長らしく、ヒースクリフの後ろに立っている。しかし挙動がいつも通りではない。クラインと話しているキリトの方を見て顔を真っ赤にし、キリトがその視線に気がついてアスナを見れば慌てて顔を逸らすという奇行じみた行動をしているのだ。
一目見て分かった。ようやくアスナにも恋心が芽生えたのかと。
『アスナ君の様子がアレなのだがこれはアレだと思って間違いないかね?』
『アレ以外に何に見える?アレしかないだろうが』
『そうか……なんでだろうな、ようやくかと喜ぶ反面でまるで娘に彼氏が出来たとカミングアウトされたかのような心境なのだが』
『father……』
『止めろ、未婚なのに父と呼ぶのは止めろ。私はまだアラサーだ』
『その顔でアラサーとか言われても説得力無いんだよ。せめて俺くらいの若々しさを保ってから言え』
『肉体年齢を操作して老化を遅らせているキチガイに言われたく無いな』
『解せぬ』
ウインドウを不可視モードにした上でアレなどと誤魔化してヒースクリフとチャットの真似事をしているが気がついたらキチガイ呼ばわりされていた。ヒースクリフも実はキリアス推奨派の1人だったりするのでアスナがキリトを異性として意識したことは嬉しいらしいのだが完全に心境が父親のそれでしか無い。確かに2人が並んで歩けば親子の様に見えなくは無いのだが実年齢はそこまで離れていないのにだ。
完全にヒースクリフの父親化が進んでいる。これでアスナがキリトと付き合うとか結婚するとか言い出したらアスナが欲しければ自分を倒してみろとか言いそうだ。想像するだけで面白いのでやってくれないだろうか。
「ーーーゴメン、待たせてしまった」
ディアベルが謝罪しながらやって来たが遅れているものの時間は間に合っているので誰もそれを咎めない。ディアベルが空いていた席に座ったことで攻略会議が開かれる。
「ボス部屋はウェーブさんたちが見つけたとの事だけどマッピングデータは?」
「アルゴに渡してある。そんで〝ナイトオブナイツ〟と〝血盟騎士団〟の準備が整うまでマップの穴埋め作業でもするつもりだ。そっちの具合はどうよ?」
「人材はいるから然程苦労はしていないよ。精々連携の反復と戦闘経験を積ませるくらいだ。あと3日もあれば済ませられる」
「〝血盟騎士団〟はアスナ君とタンクプレイヤーたちに限定させて貰えばいつでも攻略に参加出来る状態だ。昨日3人の中層プレイヤーを迎え入れたのだが、彼らが物になるのにしばらく時間を貰いたいな」
「3人?昨日20人集まってなかったか?」
「〝歓迎会〟をウェーブに頼んだところ折られてしまった様でね、20人中残ったのは3人だけなのだよ」
「メンタル弱くね?」
「訳のわからない根性論を振り回すお前と一緒にするなよ」
「五十層で闇堕ちしたのは誰でしたっけ?」
クラインとキリトの煽りがウザいので〝キリトちゃん写真集そのよんっ〜このダメ犬を躾けてわん…〜〟をチラつかせれば顔色を変えたキリトがクラインの頭をテーブルに叩き付けてくれる。脅迫?弱味を見せる方が悪いのだ。
「フロアボスの情報だが、アルゴ君」
「えっとだナ、フロアの名前は〝ハーディス・オブ・スコーピオン・キング〟。情報と名前から昆虫とアンデットの
「アンデットか……俺苦手なんだよな」
「ウェーブさんにも苦手とかあったんですか!?」
「なんでそこまで驚く」
確かにキチガイと呼ばれてどんな状況下でも一撃必殺を狙っているが俺だって人間なのだ。苦手の一つや二つあっても良いだろう。
「アンデットとかすでに死んでいるって設定のせいなのか即死判定が無いんだよ。生きているのなら一撃死の攻撃してもクリティカルが発生するだけでまだ動くんだぜ?苦手意識の一つや二つは覚えるわ」
「うーん苦手意識の理由が一撃で殺せないからとか、ウェーブらしいナ」
例えばアンデットタイプで一般的なモンスターの〝スケルトン〟を挙げてみよう。見つけたので首を跳ねる。普通だったらそこで終わりなのだがアンデットタイプはその通りにすでに死んでいるのでクリティカルダメージが発生するだけで死なないのだ。
まぁその時は死ぬまでダメージを与えれば良いだけの話だが。
「ふむ……フロアボス攻略に関してはアスナ君に任せようと思うのだが良いかね?」
「ーーーッ!?ハ、ハイ!!問題無いです!!」
「……アスナさん大丈夫?」
「おいおい顔が赤いけど大丈夫か?」
「問題無いって言ってるから大丈夫よ!!えぇ!!」
キリトに心配されたからなのか、アスナの顔がさらに赤くなるがそれをキリトが心配してさらに赤くなるという面白おかしい無限ループが発生している。気絶して白目を剥いているクラインと純粋にアスナのことを心配しているキリトを除き、アスナの顔が赤くなっている理由を全員が察したが面白がってかそれとも馬に蹴られるのを嫌がってか誰も口を出そうとしない。
それは見ていてとても微笑ましい光景だった。1人を想い1人を愛し、1人から愛されたいと願っている極普通の人間としての恋愛。良くも悪くも真っ当からは生まれた瞬間から外れていた俺と、そんな俺に惹かれた彼女たちではあり得ないであろうその光景を微笑ましいと思っても仕方ないだろう。その事を後悔している訳ではないのだけど。
「さて、会議が終わりながらダンジョンアタックしに行きたいんだけど」
「ああ待ってくれ。実は攻略組に参加したいと申し出ている中層ギルドがあってだな、みんなに顔合わせをお願いしたいんだ」
ディアベルの一言でサロンの空気が変わる。さっきまで微笑ましい無限ループを見せてくれていたアスナでさえ、赤かった顔を元に戻している。
攻略組への参加の仕方は二通りある。一つは攻略組に参加している既存のギルドからスカウトを受ける事。昨日の〝血盟騎士団〟のがそれに当たる。こちらはスカウトをされる程の実力か将来性を持っていないと無理だがスムーズに攻略組に参加することが出来る。ただし、その場合は個人でのスカウトがほとんどなのでそれまで所属していたギルドから脱退しなければならない。もう一つは自分から売り込みに来る事。こちらはさっきの方法のように個人ではなくてギルド丸ごとを攻略組に参加させるので脱退しなくても良いのだが、実力を伴っていないプレイヤーまで攻略組に参加する可能性がある。
ちなみに、後者の方法は一度たりとも実現したことは無い。自分から売り込みに来る者の殆どが自身の実力を過大評価しているか、攻略組に参加する事で威張り散らしたいと考えている者しかいないから。
「じゃあ、入ってくれ」
ともあれ見なければ始まらない。ディアベルの指示と同時にサロンの扉が開き、アッシュグレーを基調としたユニフォームに身を包んだプレイヤー5人が入って来る。
少年が1人と少女が4人。その内の少女2人と少年には見覚えがあった。少女2人は一昨日にダンジョンから出た時に奇妙な戦い方をしていたパーティーにいた2人だ。
そして少年の顔を忘れる事など出来るはずがない。多少顔付きが変わっているが見間違うはずがない。何故ならそいつは、二十五層で〝アインクラッド解放隊〟だった〝アインクラッド解放軍〟と共に余計なことをしてくれた少年だったから。
「ーーーリーダーのセーヤだ。僕ら〝
キリアスが着々と進行していて攻略組ではようやくかという感想が。
そして裏で進行するヒスクリのパパクリ化。親バカになりそう。
〝キリトちゃん写真集そのよんっ〜このダメ犬を躾けてわん……〜〟とかいう写真集が作られたらしい。内容は犬耳装備のキリトちゃん。飼い主なのか、金髪の少女も出ているとか。もちろん閃光様には贈呈済みです。