闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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アンケート実施中(2017/06/29現在)


不穏な影・2

 

 

「ーーーさて諸君。君たちは我ら〝血盟騎士団〟がスカウトした中層プレイヤーの中では優秀なプレイヤーだ。それは私、ヒースクリフが保証しよう」

 

 

ダンジョンにてボス部屋を発見して翌日、〝ラディアン〟付近のフィールドで〝血盟騎士団〟の入団式のようなものが行われている。ヒースクリフの前に並ぶのは〝血盟騎士団〟の紅と白のユニフォームを着込んだ新たにスカウトされたプレイヤーの数は20人。それだけ聞くと多いかと思うだろうが、ここから振るい落として人数を削る作業が始まる。1人か2人残れば良い方だろう。5人も残れば豊作だ。

 

 

「だが、それは所詮中層プレイヤーとしてはということを忘れてはいけない。攻略組に参加するならば今君たちが持っている以上の技術と知識を身につけなければならない。それで初めてスタートラインに立ったと思いたまえ」

 

 

聞き手によっては挑発にしか思えない言葉でも、ヒースクリフが口にするだけで別の言葉に聞こえる。事実、スカウトされたプレイヤーはヒースクリフの言葉を聞いても憤る素振りを見せず、顔を強張らせて気合を入れている様に見える。これもヒースクリフのカリスマがなせる技だろう。

 

 

「そこでだ、まずは君たちには挫折を知ってもらおうと思う。ウェーブ」

 

「ウェーイ」

 

 

ヒースクリフに呼ばれたので五十一層になって新たに登場した両手斧にカテゴリーされる大鎌(デスサイズ)で二刀流を決めながら〝色絶ち〟と〝隠蔽(ハイド)〟の隠密を解いてヒースクリフの隣に立つ。側から見れば突然現れた様にしか見えない俺の登場に新入り達は驚愕し、俺のギルドタグを見て軽蔑する様な嫌悪の込められた目で見て来る。

 

 

偽物の〝笑う棺桶(ラフィンコフィン)〟は凡そ狩り尽くしたと思っているがその所業が消えたわけではない。それどころか中層プレイヤーでは偽物の〝笑う棺桶(ラフィンコフィン)〟と俺たちの〝笑う棺桶(ラフィン・コフィン)〟を同一視している傾向がある。

 

 

どうせ同じなんだろうと、情報を操作して自分たちの悪行を隠しているのだろうと、〝笑う棺桶(俺たち)〟を悪役に仕立てたがっている。

 

 

「彼は〝笑う棺桶(ラフィン・コフィン)〟リーダーのウェーブだ。攻略組に所属する以上は彼らともレイドを組んで攻略に望む事がある。中層プレイヤーたちの間で流れている噂の事は知っている。仲良くしろとは言わない、精々利用してやれ」

 

「う〜んこの鬼畜発言」

 

 

ハッハッハと高笑いしているが誤魔化されない。本人の目の前で堂々と利用してやれとか言うのかよ。

 

 

「と、言うわけで私は彼のことを利用する。形式は問わない。彼と〝決闘(デュエル)〟で戦い、()()()()()()()()()()。出来たのならば、五十一層のフロアボス攻略のパーティーに入れることを約束しよう」

 

 

言い終わるのが早いか、新入りの中から1人のプレイヤーが片手剣を引き抜きながら俺に向かって突進して来た。目に映るのは憎しみ、恐らく偽物の〝笑う棺桶(ラフィンコフィン)〟に仲間を殺されたとか理由があるのだろう。全くもって面倒な事この上ない。

 

 

溜息を吐きながら呼吸を読んで突進系のソードスキルに合わせて鎌の峰でそいつの喉を突き穿つ。たった一撃で気絶しイエローラインまで削られるHPにオレンジに変わる俺のカーソル。他の新入り達はその光景を見て唖然としていた。

 

 

「何をしている?私は〝決闘(デュエル)〟でと言ったはずだが?」

 

「オレンジになっちまったな。あとで贖罪クエスト受けに行かないといけなくなったじゃないか。どうしてくれるヒースクリフ」

 

「それは私の管轄外だ」

 

「ぶち殺すぞ」

 

 

ハッハッハと笑いながらわざとらしい隙を見せていると言うのに、気絶したプレイヤーを除いて新入り達は誰も動こうとしていない。流石は中層プレイヤー。()()()()()()()()()()。攻略組ならば隙を見せた瞬間に嵌め殺そうと行動すると言うのに無防備に立っているだけだ。

 

 

なので、先頭にいたプレイヤーの腕を斬り飛ばす。

 

 

「〝決闘(デュエル)〟でと言ったよな?」

 

「先に攻撃されたのはこっちだから正当防衛」

 

 

腕を斬られた事で発生した痛みに喚くプレイヤーを見て、漸く動き出した新入り達。正直遅い。その場で武器を抜くな、動きながら武器を抜け。それと同時に数の利を活かして囲め。これが最前線に立って命懸けで戦っている攻略組と、安全マージンを取って自分に合った階層で戦っている中層プレイヤーの違いかと思うと悲しくなって来る。

 

 

ともあれ、今回俺がヒースクリフに依頼されたのはこの新入り達のプライドをへし折る事。

 

 

〝血盟騎士団〟に入った事で攻略組に参加したとは言え、こいつらの心の中には中層プレイヤーの中でトップクラスだったというプライドで一杯なのだ。そんな状況で最前線での戦い方を教えたところでそのプライドが邪魔をして素直に身につけようとしないのだ。

 

 

死ぬのがそいつだけならばまだ良い。問題は他の奴を巻き込んで死ぬ事だ。それを起こさせない為に、まずは徹底的にプライドをへし折って上下関係を叩き込んでおく必要がある。

 

 

それが攻略組からの洗礼である、通称〝心折な歓迎会〟だ。わざわざ大鎌(デスサイズ)の二刀流とかいうゲテモノ装備なのも使い慣れていない武器で相手をする事で実力の差を教育するという心折プレイの一環である。

 

 

「来いよクソ雑魚ナメクジ共、遊んでやるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いくら数の利が向こうにあるとは言え、それを活かせる戦法を取らなければただの烏合の集でしかない。20人中の半分がソロで突っ込んで来たのでその場から動かずに全員迎撃し、これでは勝てないと判断して拙いながらにも連携を取ろうとしていた残り半分を素手で蹂躙して〝心折な歓迎会〟は終わりを迎えた。

 

 

所要時間はたったの一分である。

 

 

「ご苦労、後はこちらに任せたまえ」

 

「ったく、人手不足なのは知っているが俺に頼むほどの事だったか?アスナはどうした?」

 

「キリト君と一緒に探索に出かけているよ。最近、アスナ君が女の顔をするようになったのだけど何か心当たりはないか?」

 

「あ〜……ウチのユウキとシノンだな」

 

 

キリアスが中々実現されないことに業を煮やしたのか2人が何かやらかしたに違いない。それはそれで面白そうなので俺からは何も言わないが。

 

 

「贖罪クエスト行って来るから、報酬はギルドの誰かにでも渡しといて」

 

「了解した……ああ、〝ラディアン〟でラーメンを出す店があるらしいから良かったら一緒にどうだね?」

 

「夕方までには終わらせる」

 

 

ラーメンなんて久しく食っていない物がSAOにあるとは思わなかったのでアイテムポーチから〝転移結晶〟を取り出して砕き、速攻で贖罪クエストを終わらせる事を決意した。

 

 

 






〝血盟騎士団〟の入団式的な何か。20人って多いように感じるけど脱落する事が前提なので問題無い。ちなみにプライドをへし折られて17人が〝血盟騎士団〟を脱退した。

〝心折な歓迎会〟とかいう頭の可笑しな歓迎会があるらしい。プライドとかいう邪魔なものをへし折って攻略組に順化させる作業である。プライドを持つのが許されるのは強者だけなんだよ!!

ウェーブとヒースクリフは〝ラディアン〟で出されたラーメン擬きを食べてこれじゃないと発狂したらしい。


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