闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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活動報告でアンケート中デス(2017/06/28現在)


不穏な影

 

 

「ほら、あと四分の一だぞ。頑張れ頑張れ」

 

「鬼畜ぅ!!」

 

「後で絶対にズドンしてやる……!!」

 

 

ユウキとシノンからの罵倒を聞き流しながらダンジョンに配置されていた巨大な蠍であるボスモンスターの〝デッドリー・スコーピオン〟との戦闘を見る。ユウキが斬りつけ、シノンが貫通性能に優れた矢で射っているが両手の挟みと針の付いた尻尾を振り回しながら抵抗している。

 

 

今回、〝デッドリー・スコーピオン〟との戦闘に当たって〝部位欠損をしてはいけない〟という条件を付けた。五十一層で〝部位欠損耐性〟持ちのネームドボスが確認されたので、今後〝部位欠損耐性〟持ちのモンスターと戦う事になった時にどういう風に戦えば良いのかを覚えさせる為である。いつもならば戦闘開始と同時に〝デッドリー・スコーピオン〟の鋏や尻尾を斬り落として戦うのだが敢えてそれをさせていない。俺は〝色絶ち〟と〝隠蔽(ハイド)〟を使って壁に縋って見学している。

 

 

ともあれ、この戦闘も時期に終わるだろう。15分程で5本あったHPゲージは最後の四分の一まで削られていて、〝デッドリー・スコーピオン〟は生存本能からなのか激しく暴れ回っているがユウキを捉える事は出来ていないし、シノンの矢を躱す事も出来ない。

 

 

「ーーーせぇのっと!!(〝両手剣:メテオストライク〟)

 

 

ユウキが挟みをパリィし、シノンが尻尾を矢で射抜いた瞬間に上からストレアが振り下ろしのソードスキルを発動させながら落下し、〝デッドリー・スコーピオン〟に叩き込む。ストレアが使っている〝インヴァリア〟のボス特効効果が発動し、ヒビが入っていた甲殻が砕けてクリティカルダメージが発生。その結果〝デッドリー・スコーピオン〟のHPは消滅し、身体を震わせながらその場に崩れ落ちた。

 

 

「アイムウィナー!!」

 

「お疲れ〜ストレア、ナイス」

 

「ボス特効とか〝インヴァリア〟ズルいわね……」

 

 

ユウキが陽動し、シノンが牽制し、ストレアが仕留めるという自分の役割を果たした結果、条件が付いているのにダメージゼロでボスモンスターを倒した。これも彼女たち一人一人が自分の力を最大限発揮できる役割を把握し、それに徹していたからの結果だ。勿論、その役割は誰でも果たせるようには習得しているが実力を最大限発揮できるのならそれに徹していた方が良い。確実に勝てるのに要らない危険を冒す必要なんて無いのだ。

 

 

「お疲れさん。ほら、少し休んどけ。見張りは俺がやるから」

 

「ウェーブ、膝貸して」

 

「私も頼むわ」

 

「俺の話聞いてた?まぁ良いけど」

 

 

条件を付けたのは俺だし、その条件下でノーダメージという結果を出したので断るわけにはいかない。地面に胡座をかいて、左右にユウキとシノンの頭を乗せる。

 

 

「む〜2人だけズルい!!」

 

「ストレアもする?膝は空いてないけど」

 

「やーいやーい」

 

「羨ましいでしょ?残念だったわね、この膝枕は2人用なのよ」

 

「じゃあ背中貸して!!」

 

「うおっと」

 

 

言うのが早いか、ストレアは防具を脱ぎ捨てながら〝インヴァリア〟を地面に立てて俺の背中に凭れ掛かってきた。ストレアの防具は軽装で、金属製の防具なんて急所を守る最低限しか付けていない。それを外して背中に凭れ掛かられれば、俺の背中にはストレアの豊満な胸が押し付けられる事になる。

 

 

「「ーーー」」

 

「怖いよ!!2人とも怖いから!!」

 

「ゴメンね〜2人よりも大きくてゴメンね〜」

 

「ストレアも煽らない!!」

 

 

何も言わずにハイライトを亡くした目を限界まで見開くユウキとシノンを宥め、胸を俺に押し当てて笑いながら2人を煽るストレアを諌める事となった。

 

 

五十一層の迷宮区の一室で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五十一層の攻略が開始されて一週間が経過した。とはいっても今回の攻略に関しては〝ナイトオブナイツ〟と〝血盟騎士団〟は消極的だ。なにせ五十層攻略で犠牲者が出てしまい、その穴埋めに奔走しているから。

 

 

人数が多く、補欠もそれなりにいる〝ナイトオブナイツ〟は恐らくは早めに復帰するだろう。五十層の攻略で一番犠牲者が出ているが、それを補えるだけの人材は確保しているのだから。しかし〝血盟騎士団〟はそうはいかない。ヒースクリフの方針で少数精鋭だった〝血盟騎士団〟には補欠は存在しない。新たな団員をスカウトし、最前線で戦えるだけの技術と知識を身につけさせなければならないから。余程忙しいのか、ヒースクリフは俺にも手伝って欲しいと頼み込んで来る程だった。

 

 

そして犠牲者が出ていないギルドで五十一層の探索は行われる。既にフィールドボスは撃破済み、迷宮区の最寄りの街までの通路の安全は確保している。後はボス部屋の探索だけ。アルゴはユナとノーチラスを連れてフロアボスの情報を集め、俺はユウキとシノンとストレアを連れてボス部屋を探しに来ている。PoHは気がついたら姿を消していて、シュピーゲルは五十層でのシノンショックが続いているのかまだ立ち直れていない様子だった。五十層の防衛戦で泣き笑いながら爆弾をばら撒いて多少はスッキリしたかと思ったが余程ショックが大きかったらしい。こればかりは俺から何を言ったところで煽りにしかならないだろうから俺に出来ることは何も無い。戦犯は致すことを伝えたシノンに間違い無い。

 

 

〝デッドリー・スコーピオン〟を倒して休憩を終え、迷宮区の探索を再開する。基本的に戦闘は3人に任せ、俺はマッピング作業に集中している。時折トラップが仕掛けられているが偵察の技能を身につけているシノンが先に見つけて解除しているので安全だ。

 

 

「ふふ〜ふふ〜ふ〜ん」

 

「鼻歌なんて歌ってご機嫌だな」

 

「うん、だってウェーブと一緒にいるから!!」

 

「ガッデム巨乳め。このままだとボクの清純枠が奪われてしまうではないか」

 

「ハッ」

 

「おうシノン、今鼻で笑ったよね?」

 

「汚れ枠が面白いことを言っていたからつい。清純枠は私なのに」

 

「シノォンーーー!!」

 

「ユウキィーーー!!」

 

 

ユウキとシノンが武器を投げ捨ててクロスカウンターを決めてその場に倒れる。割といい音が聞こえて来たのだがダメージは発生していないので加減はしているのだろう。

 

 

そしてストレアはそんな2人の姿を見て苦笑している。スピリタスジョッキでゴー事件を得て、ストレアは俺への好意を隠す事なく曝け出すようになった。ユウキとシノンへ遠慮しているような素振りも見せるのだが好きだと公言するようになり、前よりもスキンシップを積極的に行うようにもなった。しかもネタを一切入れずに。地味にこれが重要で、2人からは清純枠の危機と取られているが俺の中では2人はイロモノ枠にドップリ浸かっている。

 

 

それでも愛していることに変わりないが。

 

 

倒れた2人を脇に抱え、ストレアに武器を持たせて探索を続行。そして十数分程で目的であるボス部屋を発見した。

 

 

「よし、ボス部屋までのマッピングは完成したな」

 

「頼まれてたお仕事は終わりね」

 

「視界が揺れる〜……」

 

「ユウキ、貴女の右は世界を狙えるわ……」

 

 

いつもならばこのままダンジョンを逆走して経験値とアイテムを荒稼ぎするのだが2人は未だにグロッキー状態。どうするのかを一瞬だけ迷って、〝回廊結晶〟のマーキングだけして安全に〝脱出結晶〟で脱出する事にした。流石にこの状態の2人を連れてダンジョン逆走は危ない。

 

 

〝脱出結晶〟でダンジョンから脱出し、2人が回復するまで待ってから最寄りの街の〝ラディアン〟へと向かう。その道中で、一風変わったパーティーを見かけた。2パーティー12人でネームドボス相手に戦っているのは珍しい事じゃ無い。確認出来るギルドタグに見覚えがない事から中層ギルドだと思われるがそれも珍しくは無い。

 

 

変わっていたのはその戦い方だ。10人がネームドボスに群がって手足に武器を刺して拘束しようとして、アタッカーらしき2人の女性プレイヤーがそれを離れた場所から眺めていた。10人はネームドボスに殴られようが蹴られようがHPがイエローに突入しようが武器を持って突撃を繰り返している。それを見てもアタッカーの2人は微動だにしていない。

 

 

「嫌な予感がするなぁ」

 

 

誰かが死ぬ前にネームドボスを拘束する事には成功したが10人のHPはグリーンがいない程に削られ、酷いものはレッドに突入している。そんな戦い方を見せつけられれば嫌な予感しかしない。

 

 

進路を変え、あのパーティーに絡まれ無いように距離を置きながら俺たちは〝ラディアン〟へと急ぐ事にした。

 

 

 






〝ナイトオブナイツ〟と〝血盟騎士団〟が五十層で犠牲者を出したから攻略のペースは少し遅れるって。でも攻略開始して一週間でボス部屋までのマッピングは終わらせてるって。

ストレアのヒロイン力が天元突破してユウキチとシノノンがグヌヌっているけどウェーブからはイロモノ枠認定されているので手遅れなんだよなぁ……でも愛しているって真顔で言えるくらいに愛されてるからそれで許して。


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