ディアベルがガチのペド野郎だと判明して全員がドン引きし、鼻フックした上で簀巻きにしてフィールドに投げ捨てておいて今日のところは解散する事にした。勿論、飲み代はすべてディアベルのポケットマネーから。キリトは初めて酒を飲んだからなのかフラフラしながら宿屋に向かい、クラインはエギルの店で飲み直すらしい。
そして俺は三十五層で借りていた宿屋で一人酒を楽しんでいた。未だに雪化粧が施されている三十五層の街並みが丸々の満月に照らされている光景は見ていて飽きない。その光景の中でユナが五十層の攻略を歌にして歌っていて、ノーチラスが法被を着てオタ芸を披露しているので景観をぶち壊しているが面白いので放置しておく。
本当だったらここで日本酒でも飲みたいのだがSAOではまだ米は見つかってないので米から作られる日本酒も存在しない事になる。良い加減に米が食いたい。炊きたてコシヒカリをそのまま掻き込みたい。
そんな思いを紛らわすようにディアベルの金で買った酒を飲んでいるとメッセージの着信が鳴る。確認すれば女子会に参加していたはずのシノンからで、今どこにいるのかという質問だった。なので三十五層の宿屋で一人酒してると伝えると今からこっちに向かうという。
断る理由も無いので了承し、到着を待ちながら酒を飲んでいたら手荒く扉がノックされた。シノンが来たのかと思い、扉を開けるとそこにはシノンとユウキ、そして二人に肩を借りているがほとんど引き摺られている物凄い顔色をしているストレアの姿があった。
「何があった」
「ストレアがスピリタスをジョッキでゴーしてバタンキュー」
「ガッデム巨乳が……!!態とらしく押し付けてるんじゃないわよ……!!」
「スピリタスをジョッキでゴーって、生きてるのか?」
「少し飲んで倒れたから大丈夫だと思うけど、心配だからウェーブが面倒見てくれる?ボクたち、これからアスナの家でパジャマパーティーするから」
「捥いでやろうかしら」
「分かった。あとシノンは落ち着け、なんか放送コードに引っかかりそうなくらいにひどい顔してるぞ」
そのまま預けていたら本当にシノンが捥ぎかねないのでなんとか宥めながらストレアを横抱きで預かる。それにしてもスピリタスをジョッキで行くとか自殺志願者なのだろうか。流石に俺でもショットグラスじゃないとスピリタスなんて飲む気がしないんだが。
「あとはお願いね、お休み」
「月夜ばかりと思わない事ね……」
「シノン怖えよ」
ユウキは普通に歩いて去っていったがシノンは暗がりの中に溶け込むようにして去って行った。彼女の成長に喜ぶべきか、それとも嘆けば良いのか、はたまたネタに走っていることを笑うべきなのか。考えた結果、幾ら考えても答えは出ないと判断して考えない事にする。
そんなことよりも今はストレアだ。アルコールの匂いはプンプンさせているものの口からは胃酸特有の酸っぱい臭いは感じられない。前までは嘔吐する機能は無かったのだがSAOが始まって半年程だったところでカーディナルがアップデートと称して嘔吐機能を追加するという暴挙に出たのだ。しかもちょうどその時は祝勝会をしていて、翌日になると転移門広場が吐瀉物まみれになり、やって来た中層プレイヤーが絶叫するという控えめに言ってテロい事態になっていた。
ストレアをベッドに寝かせ、飲み易いように〝異常解除ポーション〟を水で薄めて水差しに入れておく。状態としては飲み潰れたというよりもスピリタスに耐えられなくなって気絶したと言った方がいいだろう。間違いなく明日は二日酔いで死にそうになるだろうなぁと考えているとストレアが目を覚ました。
「ここ、は……」
「起きたか」
話すことは出来ているがストレアの目は虚ろで、意識は覚醒しきっていないようだった。それは当然だろう、スピリタスなんていう酒というジャンルを超越したただのアルコールを飲んだのだから。寧ろ、すぐに目を覚ました方が驚きだ。
「ウェーブ……?」
「三十五層の宿屋だ。あぁ起きるなよ、まだ横になっておけ」
身体を起こそうとしたストレアを止め、薄めたポーションの入った水差しを口元に差し出した。ストレアはそれをなんなのか考えることをせずに、ほとんど反射で水差しを咥えて中身を少しずつ飲んで行く。
「お前さ、なんでスピリタスをジョッキでゴーしたの?死にたいの?」
「えっと……確か……みんなに相談して……ウェーブの事が好きだって気がついて……シノンが泥酔させてウェーブに任せるって……ジョッキ渡されて……」
「うん分かった。シノンが悪い」
ストレアが気絶したのはシノンが原因だったらしい。間違いなくギルティ、情状酌量の余地無しのギルティである。ついでにその場に居ながらも止めなかったユウキも同罪だ。今度致す事があったら二重の意味で泣くまで虐めてやろう。
ゲスい笑顔を浮かべながらそんなことを考えているーーーそう思わせながら、さっきストレアが言っていた言葉を反芻する。
さらりと出て来て聞き流しそうになったが、ストレアは俺の事を好きだと言っていた。恐らくはただの好意ではなくて愛情の意味合いでの好きだろう。それを聞いて拗らせないようにとでも思ったのか何を考えてスピリタスをジョッキでゴーなんて事をシノンとユウキが実行したと思って間違いさなそうだ。
ストレアが〝ホロウ・ストレア〟のようになられたら俺がヤバい。主に精神が。
いつストレアが俺を好きなったかなんて心当たりは一つしかない。五十層で〝ホロウ・ストレア〟がストレアの正体を明かした時だろう。あの時は割とテンションが振り切れていて感情と言動が直結していた。説教じみたことや抱き締めるなんてストレアにやった記憶もある。それ以外には考えられない。
次に考えるのは……本当に俺で良いのだろうかという事。
自他共に認めるほどに俺はキチガイでろくでなしだ。誰かを愛する、誰かに愛される権利なんて存在しないと未成年の頃は本気で考えていた。
「……なぁ、ストレア。本当に俺なんかを好きになったのか?」
「うん……私、ウェーブの事好きだよ……あの時、AIだって言われて訳が分からなくなっていた私を助けてくれた。私は私でAIとかプレイヤーとか関係ないって言ってくれた。私の味方だって抱き締めてくれた……フフッ、そんな事されて惚れない女の子はいないよ」
「キチガイでろくでなしでも?」
「キチガイでろくでなしだとしても、ウェーブは優しい人なの。AIだって分かってなかった私の面倒を見てくれた」
「ユウキとシノンがいるとしても?」
「2人が居たとしても、私は貴方が大好き。普段は2人を見てくれて良い。だけど、偶にで良いから私だけを見て欲しい。それだけで私は満足だから」
「そっか……」
ストレアは、本気で俺の事を愛している。
その事をさっきの問答で確信出来た。アルコールが残っていたから聞く事ができた、混じりっけのないストレアの本音。それを反芻し、咀嚼し、脳味噌へと忘れないように刻み込む。
「……ストレアが俺の事を好きだってのは良く分かった。だから、少し時間をくれ。俺なんかでもストレアを好きでいて良いと、そう思えるようになったら、その時には俺からちゃんと言うから」
「うん、待ってる。ウェーブがそう思える日が来るのを、姉さんと一緒に待ってるから……」
煮え切らない俺の返事を聞いて満足したのかストレアは微笑みながら寝息を立てた。やはりスピリタスをジョッキでゴーしたのは辛かったらしい。それでも薄めたポーションが聞いているのか顔色はユウキとシノンに運ばれて来た時よりもマシになっている。
AIというデータで構築されながら、人と同じように感情を持って俺を好きだと言ってくれたストレア。月明かりに照らされて幸せそうに眠る彼女の顔を、俺は眺めていた。
ヒロイン力が天元突破しつつあるストレア。汚れ系ヒロインとの格の違いをありありと見せつけてくれる。