闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

114 / 121


活動報告にてアンケートあり〼。(2017/06/26現在)


恋するAI・2

 

 

「好きに……なる?」

 

 

初めてその言葉を聞いたという風にストレアはボクの言葉を鸚鵡返しで繰り返した。AIであるストレアは本来なら気になる事があればデータベースから検索して答えを出すと茅場晶彦(ヒースクリフ)は言っていたが今のストレアはカーディナルとの繋がりを自覚出来ずにアクセス権を所有していない状態なのでデータベースにアクセスする事が出来ないらしい。だけどそれは言ってみれば知識だけでしか知らないという事。ただ言葉として知ってるのと感情を交えて知ってるのでは大きな差がある。

 

 

そういう意味ではストレアは幸運だろう。ただの言葉としての〝好き〟ではなく、実際に〝好き〟がどういう物なのかを体験している訳なのだから。

 

 

きっと〝ホロウ・ストレア〟は知っていただけなのだろう。だからあんなに拗らせてしまったのだと信じたい。

 

 

「そっか……これが人を好きになるって事なんだ……」

 

「ズルして答えだけ教えた感じだけどどう?」

 

「うん、なんだかスッキリした」

 

 

感じている想いを噛み締める様に胸に手を当てるストレアの顔からはさっきまでの苦悩の表情は消えていた。恐らくは分からなかった感情の正体が分かってホッとしているのだろう。その顔はまさしく恋する乙女の顔だった。

 

 

だけどその揺れる乳だけは許さない。

 

 

「ファッキュー巨乳」

 

「削ぎ落としたい……!!」

 

「シノン、アルゴ!!殺気が凄いわよ!!あとユウキもそんな虚ろな目でストレアを見ないの!!」

 

 

リズから注意を受けて目を擦って元に戻す。シノンとアルゴも殺気は抑えたものの巨乳を許した訳ではないので苛立たしげにいつの間にか運ばれていたラム酒を水でも飲むかの様に勢い良く飲んでいた。

 

 

「あの〜……ストレアさんがあのキチガイを好きだって分かったのは良いけど、二人はそれで良いの?ユウキちゃんとシノンちゃんもキチガイの事を好きなんじゃないの?」

 

「ねぇねぇ、キチガイって誰の事?」

 

「ウェーブの事よ。攻略組の方の〝笑う棺桶(ラフィン・コフィン)〟のリーダーって言った方が分かりやすいかしら」

 

「〝笑う棺桶(ラフィン・コフィン)〟の?確かにキチガイね……え?あ、アンタたちアイツに惚れてるの!?」

 

 

ウェーブの武勇伝とボクとシノン、最近になって加わって来たアルゴの風評操作が伝わっているのかリズはウェーブの事をキチガイで納得されてしまった。

 

 

でも仕方がない事だと思う。噂や見た目だけでウェーブに近づく女を減らす為にボクらで適当な情報を流したが、それよりもウェーブの武勇伝の方が有名過ぎてそちらでキチガイ認定されているのだから。

 

 

例えば、ソロで二十層のフロアボスを倒したり。

 

例えば、クリスマスイベントの時に中層ギルド連合の大半を一人で倒したり。

 

例えば、パーティーを組んで潜る様なダンジョンを散歩でもするかの気軽さでソロでクリアしたり。

 

例えば……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

このゲームが始まる前からずっとウェーブと一緒にいるからその全てが本当だとボクたちは知っている。そんなウェーブの所業を聞いて、中層プレイヤーたちは化け物にでも見えたのかキチガイという侮蔑をしている。攻略組でもウェーブはキチガイと呼ばれているがそれは愛称的な意味合いなので気にはしない。攻略組のプレイヤーたちもボクたちを含めて割とキチガイの部類に入っていると思うのだが。

 

 

なのでリズの反応も見慣れた物だったりする。噂だけしか知らないのならウェーブに惚れるとか頭大丈夫なのかとか、どんな思考回路しているんだとか思うだろう。

 

 

でもリズならきっとウェーブと会って彼を知れば謝って意気投合しそうだ。なんと無くボクたちと同じ気配を感じるから。

 

 

「確かにウェーブはキチガイだけど……キチガイだけど……!!」

 

「言葉が続かないのなら無理して反論しないの……確かにウェーブはキチガイだわ。だけど、それでも、私たちは彼の事を良く知っている。中層プレイヤーたちに伝わる様な事をするって知ってる、気に入った人には面倒見が良いって知ってる。雑な様に見えて本当は几帳面だって知ってる、言動こそアレだけど本質は善良だって知ってる……彼の事を知っているから、私たちは彼の事が好きになったのよ」

 

「そう、そういう事!!」

 

「そんなんだからユーちゃんは〝攻略組のアホ担当〟って言われるんだ」

 

「誰がそんな事言ったの!?」

 

「攻略組のみんな。でも発信元はウェーブだよ」

 

「ウェーブーーーッ!!」

 

 

憎しみを込めてウェーブがいるであろう方向に向かって中指を立てる。一体誰がアホだというのだろうか。このぷりちーできゅーとなぱーふぇくと美少女に向かって。

 

 

「あ〜……御免なさい。噂でしか知らないとは言っても変な事言って……」

 

「問題無いわーーー本当の彼を、私たちだけが知ってれば良いのだから」

 

「シノンシノン!!そのドス黒い瘴気しまって!!あと、顔が見せちゃいけない物になってるから!!」

 

 

テレビ番組で放送されていたら間違いなく〝しばらくお待ち下さい〟というテロップが出て来そうなブラックな笑顔で瘴気を撒き散らすシノンを宥める。SAOが始まってからは見せることは無かったが、リアルでは詩乃(シノン)は良くこうやって〝しばらくお待ち下さい〟スマイルを浮かべていた。主に不知火(ウェーブ)の顔だけを見て擦り寄ってくる女に対して。ちなみにこの〝しばらくお待ち下さい〟スマイルを見た女はその後不知火(ウェーブ)の前に二度と現れなくなった。

 

 

「ハイみんなさっきの忘れる!!良いね!?」

 

「う、うん……でも、確かにウェーブの事が好きだって分かったけど、これからどうしたら良いの?」

 

「確かにそうよね。細かい事に突っ込まないけど、ただ好きだって想うだけは〝好意〟だけど〝恋愛〟じゃないのよね」

 

「同じ好きって事じゃないの?」

 

「恋愛クソザコのアーちゃんに分かりやすく教えてあげると〝恋愛〟は相互関係、〝好意〟は一方通行って感じだよ」

 

「要は一方的に与えるか、相手に求めるかの違いね」

 

 

そう、リズたちが言った通りに〝好意〟と〝恋愛〟は違う。〝好意〟はただの片思いと変わらない。好きだ好きだと想っている……それだけでしか無い。だけど〝恋愛〟はそうでは無い。自分が好きだと想ってる、だから相手にも求める。それが〝恋愛〟なのだ。

 

 

「ぶっちゃけ、ストレアを泥酔させてウェーブに任せたら良いと思うのだけど」

 

「良いね、それ採用」

 

「それで良いのアンタら!?」

 

「大丈夫よ。確かにウェーブはろくでなしのキチガイだけど、人でなしでは無いわ。ストレアの想いに応えるにしても、断るにしても、ちゃんとしてくれるわ。それに、応えるならちゃんと応えるなりに甲斐性だってあるわ」

 

「アルゴも行っとく?スピリタスでゴーしちゃう?」

 

「うぅ……わ、私はまだ……こういうのは順序が大切だって聞いたし……」

 

「良く分からないけどスピリタス(これ)飲んでウェーブのところに行けば良いのね?」

 

「誰かーーーッ!!この人たち止めて下さいーーーッ!!」

 

 

アスナが叫んで周りに助けを求めるがプレイヤーは誰もおらず、店にいるNPCも巻き込まれたく無いのか目を顔ごと逸らしている。

 

 

正直な話、ウェーブがストレアを受け入れたとしてもボクは構わない。ちゃんと彼の事を見て、心の底から愛しているのならそれを邪魔するなんて失礼だから。彼がストレアに応えるという選択をしても、ボクはそれを祝福しよう。

 

 

ウェイトレスが持って来たスピリタスが並々と注がれたジョッキをストレアに手渡す。そしてストレアはそれに警戒する事なく、一気に飲み干した。

 

 






〝好意〟と〝恋愛〟は似ているけど全くの別物。〝好意〟は片思い、言ってしまえば自分だけが想うだけの一方通行。〝恋愛〟は相互関係、自分と相手が互いに求め合う……そんな感じ。作者の持論だけど。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。