野郎どもの馬鹿騒ぎ
「「「「「ーーー乾杯ぁい!!!」」」」」
並々とエールが注がれたジョッキを中身が溢れるのも構わずに叩きつけて乾杯し、口に運ぶ。口の中で暴れる炭酸と苦味を堪能しながら水でも飲んでいるかの様に飲み下し、ジョッキをテーブルに置いた時には中身は空っぽになっていた。
「あ〜エールが美味い!!あ、すんませ〜ん!!ラム酒お願い!!」
「ペース早すぎるだろぉ!?」
「苦っ……良くこんなの飲めるな」
「大人になるとこの苦味が美味いんだよ」
「果実酒もあるからキリト君はそっちにしたらどうだい?」
丸テーブルの上に置かれた焼きたてのソーセージを齧り付きながら近くにいウェイトレスに追加注文。エールは美味いけど少し薄くて物足りん。酔うならば蒸留酒じゃないとな。
〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟を倒して五十層攻略を完了させたのは一昨日。倒したその日は〝アルゲート〟で攻略を成功させた事を全員で喜んでその場でぶっ倒れ、昨日で出現した階段を登って五十一層に到着して夜には攻略組全員で祝勝会をし、今日は個別での祝勝会を開いたのだ。
メンバーはキリト、エギル、クライン、ディアベル。本当ならここにヒースクリフが加わる予定だったのだがギルドの立て直しを優先したいと断られたのだ。
「にしても五十層は本当に地獄だったよな」
「フロアボスはウェーブさんたちが倒してくれたけど防衛戦はギリギリだった……犠牲者も沢山出たしな」
ディアベルの顔が悲しそうな物になるのも無理は無い。五十層攻略の際に〝アルゲート〟防衛戦で久しぶりとも言える犠牲者が出たのだ。出たのは〝ナイトオブナイツ〟と〝血盟騎士団〟と〝風魔忍軍〟で、幸いな事にギルドの運営自体には問題は無いのだがしばらくは団員の育成などで攻略のペースは下がる事になるだろう。
「〝泣くんじゃなくて笑って見送れ〟、だろ?悲しいのは分かるがいつまでも悲しんでたら死んだ奴らも怒るぞ?何やってんだーってな」
「そうだな。死んだ奴らは俺たちに期待をして死んでいったんだ。だったら期待された者の責務として、その期待に応えてやらないとな」
「キリト君、ウェーブさん……」
ディアベルが残っていたエールを全て飲み干し、涙が溢れ掛かっていた目元を乱暴に拭う。それだけでディアベルの顔から悲しみは消えていた。
「やってやる!!やってやるぞぉ!!絶対に俺たちはこのゲームをクリアするんだ!!皆、好きに飲み食いしてくれ!!ここは俺の奢りだ!!」
「キャー!!ディアベルさーん!!」
「素敵!!抱いて!!」
「済まない、メニューのここからここまで頼みたいんだが」
「あ、じゃあ俺は一番高い酒をあるだけお願い」
「少しは自重してくれるかな?」
声が震えながらにディアベルから懇願されるが俺とエギルはガン無視である。奢るという言質はもうとってあるのだ。だったら好き勝手飲み食いさせてもらう。
ディアベルがヒギィと情けない声をあげてテーブルに突っ伏したが気にしてはいけないのだ。
「ーーーよし野郎ども、猥談するぞ」
「ーーー発勁よぉい!!」
突っ伏していたディアベルが開き直って酒を飲みまくり、キリトは果実酒でホロ酔い、クラインは顔を真っ赤にして見るからに泥酔、俺とエギルは程々に楽しみながら飲んでいたらクラインが唐突にとんでもない事を抜かしてくれた。思わず発勁で腹パンした俺は悪く無い。
「悪は滅びた」
「うぐぉぉぉ……」
「圏内の筈なのにダメージが発生してるレベルで痛がってるんだけど……」
「あ、クラインさんちょっと右手借りますね」
「弱肉強食だな」
ディアベルが悶え苦しむクラインの右手を使いウインドウを開き、コルを取り出しても誰も何も言わない。流石にあれはアウトだろ。
「こ、この程度でへこたれるかよ……!!」
「おぉ、立った立った」
「足は子鹿みたいに震えてるけどな」
「良いじゃないか猥談くらい!!野郎が集まってする話なんてそれくらいだろうが!!」
「いや、男の集まりイコール猥談っておかしいだろ」
「クラインがモテない理由が分かった気がする」
クラインは見てくれは悪くないし性格も良い方だ。面倒見が良くて、〝風林火山〟や関わりのある中層プレイヤーから慕われているのは知っている。だけどがっつき過ぎなところが女性からは敬遠されてるんだろうな。
「まずは好みのタイプから行こうか!!エギルからどうぞ!!」
「嫁」
「なんて漢らしい……!!」
「するのかよ!!」
「いや別に猥談自体はしても良いんだ。始め方が気に入らなかっただけでな。俺は……惚れた奴かな?外見とか年齢とか性格とはは気にしてない」
「やーいやーいこの二股ロリコン野郎」
「お?やんのか?十三歳超えたら成人だろうが。同意の上なら複数でも問題ないだろうが」
「いつの時代の話ししてんだよ!!」
だって俺とかいうキチガイが惚れて、それに応えてくれたんだぞ?年齢とかガン無視してゴーするのは当然だと思う。爺さんと母さんはやっと手を出したかと拍手喝采で間違い無く喜ぶだろうし。
あぁでも日本じゃ重婚は出来ないな……出来る国に移住するか?
「そいじゃ次はキリト!!」
「アスナだろ?」
「アスナだな」
「アスナさんだね」
「うぉい!!待てよ!!なんでアスナで決定なんだよ!?」
「いや、だって……ねぇ?」
「お前、アスナに惚れてるだろ?」
「側から見てバレバレなんだよな」
「え、マジで?」
「ここに気がつかなかった年齢イコール彼女いない歴のクソ雑魚野武士がいるな」
「グフッ」
胸を押さえながら倒れたクラインを除いてこの場にいる全員がキリトがアスナに惚れているのは分かっている。多分、アスナの方もキリトに惚れているのだろう。恐らく、向こうはまだ恋心に気づいていないと思うが。
「……ッ!!あぁそうだよ!!俺はアスナが好きだ!!悪いか!!」
「ヒューヒュー!!」
「ヒューヒュー!!」
「命短し恋せよ人よってね。良いぞ、俺はお前の恋が成就する事を祈っている。アスナが他の奴に掻っ攫われない内に捕まえて手放すなよ?」
「ウェーブからマトモなアドバイスが来た事に驚いてるんだが」
「酷い、人の事をなんだと思ってるんだよ」
「26歳児のキチガイ」
「正解、お前に〝キリトちゃん写真集そのよんっ〟の被写体になる許可を与えてやろう」
「止めろよ……止めろよ……!!」
絶望した顔で止めるように懇願してくるキリトを無視して酒をラッパ飲みし、空っぽになった瓶で寝ているクラインの頭部を全力で殴る。メコッと嫌な音がしてテーブルが軋んだがクラインは起き上がった。
「次は俺だな。俺は年上で、ナイスバディなお姉さんだ!!」
「ハイハイ」
「ディアベルはどうなんだ?」
「これほどまでに時間を無駄にしたことは無い」
「辛辣ぅ!!」
クラインの好みを聞いたところで無駄だと思う。もう少し落ち着いて女性プレイヤーと接したら彼女くらいは出来なくは無いと思うのだがいかんせんクラインの押しが強すぎる。去勢したら大人しくなるだろうかと考えながら、流れ的にトリを務める事になったディアベルを見る。
ディアベルはンンッと喉の調子を整え、その場で立ち上がる。
「ーーー幼女こそが至高」
たった一言、しかしその一言に込められた重みが痛いほどに伝わってくる。
それを聞いてクラインを除いた全員が顔を見合わせ、聞かなければ良かったと崩れ落ちた。
五十層攻略後の五十一層での馬鹿騒ぎ。基本身内のネタはノーガードで殴り合うし、殴られる事に慣れてるから被害がデカくなる。
でも何が一番酷いってディアベルはんだと思うんだ。