闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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創世の女神・24

 

 

〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟は9本目のゲージがイエローになった瞬間にタゲを取っていない者たちにも脚でラッシュを仕掛ける様になったが回避に専念すれば恐るる物ではない。唯一の懸念は空間爆撃だけだが視線を向けるという予備動作があるので誰が狙われたか分かりやすく、その間に俺かキリトが視線に割って入って受ければ良い。キリトは過去の無茶苦茶なレベリングで、俺は闇堕ちしていた時にやっていたソロでのダンジョンアタックのお陰で上がったステータスで生き残れるからだ。

 

 

そしてシノンが合流したことにより戦況は完全にこちらの物になった。これまでは出来ることと言えば宝石まで近づいて斬る事だけだったが、弓による遠距離攻撃が使えるシノンのおかげで幅が広がる。宝石に狙撃させると思わせて目を狙う事で視界を奪ったり、矢を足場にして〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟に接近したり、矢に捕まってその場から離脱したり。

 

 

まぁ、後ろ二つが出来るのは俺とユウキとPoHだけで他はやろうとしないのだが。

 

 

オォォォォォーーーッ(〝片手剣:ハウリング・オクターブ〟)!!!」

 

 

そしてキリトのソードスキルの八連撃が叩き込まれ、HPがレッドに突入。

 

 

Dieーーー(〝短剣:ファッドエッジ〟)

 

 

PoHのソードスキルでゲージが砕け、ついに最後の10本目に突入した。

 

 

ここで〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の動きが止まる。いつもならばここで宝石を最後に攻撃したPoHに対して空間爆撃を行うはずなのにそれをしない。息絶え絶えながらも全身に力を込めて何か狙っている様に思える。

 

 

「GAーーーッ!!!」

 

「マジかよ……ッ!?」

 

「ヤベェ」

 

 

咆哮、そして〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の全身に切れ目が入り込み、そこから()()()()()()。それを見ればこれから起こることなんて簡単に想像出来る。

 

 

空間爆撃ーーーそれも、〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟を中心とした、半径100メートルの範囲で。轟音と衝撃が全身を襲う。幸いなことにダメージはそれまでの物と比べれば低い。威力を捨てて範囲を取ったからなのだろう。俺とキリトはグリーンギリギリだが他の皆はイエローまで削られた上に行動不能(スタン)状態になっている。

 

 

誰も動く事が出来ない時間の中で〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟は動かない。それどころかさっきと同じ様に全身に力を込めている。眼球は未だに開かれたまま。まだ何かするのかと身構えていると、

 

 

〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の背中から()()()()()

 

 

そしてゆっくりと翼を動かし、暴風で行動不能(スタン)状態で動けない者を吹き飛ばしながら飛翔する。行動不能(スタン)が解けた頃にはシノン以外は攻撃出来ない高さまで飛んでいた。

 

 

〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の行動はまだ終わらない。シノン以外に手出しが出来ない高さまで来ると龍種に似た口を大きく開いた。龍で口を開くと言えば思い当たるのは龍の代名詞と言えるブレス攻撃しか無い。火を噴くか、火の玉を吐き出すかどちらかのブレスならばこれまでの攻略で出会った龍種のモンスターで見たことはある。

 

 

しかし〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟のブレスは違っていた。口に集まる熱量は桁外れ。丸で小型の太陽を作ったかの様な光量を放っている。このままならばレーザービームの様なブレスが吐き出されるだろう。

 

 

そうなればゲームオーバー。シノン以外に攻撃が出来ず、たとえ矢で宝石を射抜かれようとも〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟は止まらないのだからそのままブレスを吐き出される事になる。そして〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟は〝アルゲート〟へ向かい、防衛戦をしているプレイヤーたちを皆殺しにする。

 

 

そんなことはさせない。そんな結末なんて否定しようと、俺は〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の()()()()()〝妖刀・不知火〟を構える。

 

 

〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟が力を込めた瞬間から俺はこいつが飛ぶのでは無いかと考えて背中の上に移動していた。実際に放たれたのは範囲重視の空間爆撃だったが、最終的には飛んだので良しとしよう。

 

 

全身を脱力させながら〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の翼の根本へ到着。大樹を思わせる程の太さの根本を見て吹き荒む風を全身で受けながら〝妖刀・不知火〟を腰に構える。

 

 

ここまでで〝妖刀・不知火〟の耐久値は10%まで下がっている。それは破損させたく無い武器の限界ライン。本来ならばここでサブ武器と変えて壊れる事を防ぐのだが、俺は敢えてそれをしない。何故なら、壊れる寸前である今こそが〝妖刀・不知火〟の真価を発揮する時なのだから。

 

 

〝妖刀・不知火〟は耐久値が下がると斬れ味を増すという特徴がある。体感で半分下がったくらいで斬鉄を交えずとも斬鉄と同じくらいの斬れ味になっていると感じた。つまり、特殊な斬り方をしなくても鉄が斬れると思える程に斬れていたのだ。

 

 

それが今や〝妖刀・不知火〟の耐久値はたったの10%。この状態で全力で斬ったらどうなるのかと下の皆が絶対絶命な状況なのに興奮が抑えきれない。

 

 

構えは抜刀の姿勢。

 

普通ならば2メートルもある〝妖刀・不知火〟で抜刀術なんて出来るはずも無いのだが問題無い。

 

 

シィーーーッ!!!(〝抜刀術:無納〟)

 

 

鞘に納める事をせずに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。過去最速を自負できる程の完成度で放たれたそれは()()()()()()()()()

 

 

斬ったという手応えは無く、されど斬ったという確信はある。

 

 

そうして、目の前の翼は断ち切られた。まるで始めから分かれていたかの様にスルリと離れる。

 

 

「GAーーーッ!?」

 

 

片翼を失ったことでバランスを崩し、〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟は空に向かってブレスを吐きながら落下する。顔が人型のままならばきっとそこには驚愕と困惑があったに違いない。

 

 

どうして斬られた、いつ斬られた、嫌だ嫌だ、落ちたく無い、死にたく無いと。未練がましく脚で空を蹴っているのが何よりの証拠。

 

 

その姿に満足しながら地面に激突する瞬間に〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の身体を蹴って逃げ出し、地面を派手に転がりながら墜落の衝撃を分散させる。死にはしなかったもののHPは一気に削られてレッドになっている。

 

 

だが〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟も満身創痍。額の宝石はボロボロで虎の子の翼も断ち切られ、墜落が原因なのかHPはイエローまで削られている。人型の姿ならば傷だらけの女神と言えなくもなかっただろうが、龍種の姿になったせいで今の姿は討ち取られる間際の怪物にしか見えない。創世神話に語られていた女神などには到底見えなかった。

 

 

「ーーー俺たちの〝勝ち〟だ」

 

 

態勢を立て直して視界に入ったのは〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟に向かって飛び掛かっているキリトたちの姿。

 

 

ボロボロの〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟にそれを避ける手段も、防御する術も、迎撃する余裕も無く、

 

 

彼らの剣は〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の額の宝石に深々と突き立てられた。

 

 

 






スタン付与の超広範囲空間爆撃→ティアマト飛翔→レーザービームという殺意溢れる攻撃をする筈だったのに背中に乗っていたキチガイに阻止されました。ティアマトは泣いてもいい。なお、キチガイが阻止しなかったらティアマトは飛んだままレーザービームをポンポンブッパしていた。

2メートルの刀を使って空間を鞘に見立てて行う抜刀術を平然と行う変態がいるらしい。

五十層フロアボス撃破!!ハーフポイントで50話近く掛かってる……すまない、こんな作者ですまない……

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