叩きつけられる脚を躱し、ユウキに宝石を斬らせる。〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟が第二形態に入ってから既に30分は経過しているがHPは漸く9本目に突入した。しかしそれだけダメージを与えたので痛みには慣れられてしまい、〝妖刀・不知火〟を捻じ込んでも悶える事はせずに耐える様に唸りながら脚で顔を払われる様になってしまった。
隙は少なくなったが予想していた事なので残念に思うだけで焦る事は無い。今の〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の攻撃で警戒するのは空間爆撃くらいなのだ。あれはユウキには任せられずに俺が受けるしか無い。脚のラッシュは速いことは速いが逃げに集中していれば回避する事は出来る。
タゲがユウキに移り、攻撃しようと脚を振り上げた瞬間に飛び込んで宝石を斬って無理矢理行動を阻害。そこで脚では払わずに地面に顔を突っ込んで潰そうとして来たが顔を蹴って跳躍して別の足場に移る。
「お、漸く来たか」
脚のラッシュを避けながら見えたのは〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の背後の足場を伝いながらやって来たキリトたちの姿。下を見れば〝リトル・ティアマト・ガーディアン〟の姿は見えない。ちゃんと殲滅してから来てくれたらしい。あそこにはユウキがいるから攻撃パターンは彼女の口から伝えられるだろう。
人数が増えればその分手数も増える。それはそのまま死者の出る可能性の上昇にも繋がるのだがこの場にいる全員が
その上で、
だからといってその姿に目を眩ませて現実を見ない訳じゃない。挟み込みによる脚のラッシュの終わり、〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の殺意に満ちた視線を受け止めて、避けられない空間爆撃を受ける。何度か受けてみて分かったのだがこの空間爆撃は俺を起点にして起こっているようだ。
これでは避けようが無い、しかし来ると分かっているのなら堪える事は出来る。全身を蹂躙する衝撃を歯が軋むほどに強く食いしばる事で耐え、左手でアイテムポーチから〝治癒結晶〟を取り出そうとしてーーー左腕が〝部位欠損〟で無くなっていることに気がついた。ならば右手でと握っている〝妖刀・不知火〟を口で持とうとしてーーー
まさかと思い視線を腕があるはずの場所に向ければそのまさかが現実だと突き付けられる。空間爆撃で発生する〝部位欠損〟、それが両腕に発生していたのだ。
「このタイミングでかよ……」
タイミングの悪さに呆れるしか無い。〝部位欠損〟が二箇所で起こる事は分かっていたが両方とも腕に発生するとは思わなかった。別に腕が無くとも戦える手段はあるから戦おうかと思えば戦える。しかし残りのHPは僅かに数ドットのみで回復しようにも腕が無いから〝治癒結晶〟どころかポーションすら使えない。これでは何かしらの拍子に死にかねない。さらに最悪な事にさっきの空間爆撃で着地しようかと思っていた足場が消し飛んでしまっている。
そして、目の前にいる〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟は脚を振り上げていた。今までは空間爆撃をした後には動かなかったのにここに来て動き、俺の事を狙っている。ユウキたちが俺がやったように宝石を攻撃して行動を阻害しようと動いているが遅いし、きっと〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟は止まらない。斬られながらもこの脚を振り下ろして俺を叩き潰すだろう。
頭が全力で生き残る手段を模索するが該当するものは無し。俺にこの死を避ける方法は無く、ユウキたちにもどうする事も出来ない。
「死んだか……ユウキ、シノン……ゴメン」
だから諦めた。最後に愛する少女たちの名前を口にして、迫り来る死を見つめる。殺しは散々して来た事だ。殺される事なんて最初っから覚悟している。
だから俺を殺す一撃を、最後まで見届けてやろうといていたのだが、
「ーーー死ぬつもり?巫山戯てるわね」
どうやら俺はまだ死なないらしい。俺にも、ユウキたちにもこの死を避ける事は出来なかった。故に、この死を避ける事が出来るのはこの場に居ない者だけの特権である。
横合いから高速で飛翔して来たのは鋼鉄製の矢。一本一本が矢としては規格外の重量を持っていると見て取れる物が
そして矢を放った人物は俺を抱き抱え、比較的近くにあった足場に着地する。
「約束したでしよ?負けないって、勝つって、生きて帰って来るって……それを破るだなんてどういうつもりなの?」
「嫌だってどうしようも無かったからな。腕も無いし足場も無いし、あの状況でどうしろと?」
「……気合いと根性で覚醒して腕を生やすとか?」
「流石にそれは無理です、シノンさん」
確かに気合いと根性は基本装備とかいう俺だけど流石に無くなった手足を生やす事は出来ないと、この場に居ないはずのシノンに抗議する。
タゲはさっきの振り下ろしを阻害しようと 宝石に攻撃したキリトに移っている。脚のラッシュをしている様子は見られないので少しくらい話しても問題無いだろう。
「てか〝アルゲート〟どうしたよ?滅びたか?」
「そんなわけ無いでしょ。モンスターの数が少し落ち着いてきたからヒースクリフとディアベルからこっちに来るように言われたのよ。タイミングは良かったみたいね」
「超サンキュー」
「感謝が込められてないわね……これはベッドで感謝の気持ちを表してもらうしか……!!」
「ヒェッ」
腕が無くなった俺をシノンが抱きかかえるという情けない絵面の上にシノンが雌の顔をしながら野獣のような目で俺を見るとかいうとんでも無い光景を作り出してしまった。
止めて、服の隙間に手を突っ込んでお触りしないで。
「シノンさんシノンさん、ポーション飲まして。じゃれ合うのはティアマトぶっ殺してからで」
「しょうがないわね……」
やれやれ仕方がないと言いたそうな顔でシノンは自分のアイテムポーチからポーションを取り出し、蓋を開けて自分の口に含んだ。
そしてそのまま、俺にキスをした。
拒絶するという選択肢が無い以上受け入れるしか無いと口を少し開けばその隙間に舌を捻じ込まれて強制的にディープキスが始まる。存在を知っていても経験がほとんどないシノンの舌使いは拙い。それでも気持ち良くさせようと、気持ち良くなろうと一生懸命に舌を動かしてくる。
それに応じながら口移しでポーションを飲みくだし、〝部位欠損〟を回復させる。HPは未だにイエローまでしか回復していないが最大の問題である〝部位欠損〟は回復する事ができた。
「……ふぅ、ご馳走様」
「お粗末様……ところでユウキが凄い顔で睨んでるんだけど何か一言」
「チャンスを物に出来ない方が悪い」
ドヤ顔で胸を張るシノンの姿は微笑ましい物なのだが背後から感じるユウキの視線が痛くてそれを堪能する事ができない。しかもシノンの発言から、タイミング見計らって登場した可能性が出て来たのだが……違うよな?
「あと2本か……シノンはサポートよろしく。あとティアマトの額の宝石は弱点でそこ以外はマトモなダメージ通らないけど攻撃したらタゲ取られるから気をつけて。それとティアマトに視線向けられたら空間一帯が爆発する攻撃されるから、シノンのステータスだと一撃死すると思うから気を付けて」
「了解よ」
シノンの返事を聞きながらポーションを飲んでHPを全回復させ、別の足場に刺さっていた〝妖刀・不知火〟を回収。背後から〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟に迫る。
残り2本のHPを全て奪い、この戦いに勝利する為に。
シノノン参戦。アルゲート防衛戦が落ち着いて来たからヒースクリフとディアベルはんが気を利かせて向かわせてくれました。
戦場でキス?口移しという治療行為だからセーフセーフ。だけどユウキチは目撃してしまいグヌヌってる。