闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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創世の女神・18

 

 

「キリト君……」

 

「回復を!!早く!!」

 

「う、うん!!」

 

 

本当なら名前を呼びながら抱き締めたかったがそんなことをしている余裕は無い。〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟が新たなモンスターを産み出しているのが見えている。それに気がついたアスナはアイテムポーチから〝治癒結晶〟を取り出して使用。レッドに突入していたHPを即座に全回復させる。

 

 

「ーーーHey come on(〝威嚇〟)!!」

 

「ーーーやぁぁぁぁッ!!」

 

 

そして現れる第二、第三の乱入者。新たに産み出されたモンスターの群れのヘイトをPoHが〝威嚇〟を使う事で自分に集め、ストレアが両手剣の一撃で倒している。

 

 

「攻撃と弱点は?」

 

「手と尻尾の振り回しと頭の蛇の広範囲攻撃!!あと今みたいにモンスターを出して襲わせてくる!!弱点は胸と額の宝石で、それ以外だとダメージはまったく入らないから!!」

 

「面倒だなぁ!?」

 

 

アスナからの報告を聞いたキリトが絶叫する様に叫んだのも無理はない。あの巨体で暴れられれば全ての攻撃が一撃必殺だろうし、広範囲攻撃もさっきのアスナのHPを見れば威力が分かる。取り巻きのモンスターに至っては無限湧きで、唯一ダメージが通る弱点は地面から遠く離れた場所にある。例え他の攻略組がいたとしても同じ事を言っていたに違いない。中層プレイヤーなら絶望して戦意を無くすだろうが。

 

 

「シノンが居てくれたらなぁ」

 

「シノンちゃんは〝アルゲート〟にいるから無理よ。近づいたら援護ぐらいはしてくれそうだけどコレが近づいたら防衛戦しているみんなの士気が下がるだろうから駄目」

 

「って事は俺たちでなんとかしないといけないな」

 

「そういえばウェーブさんは?」

 

「〝ホロウ・ウェーブ〟と〝ホロウ・ストレア〟の相手して疲れたらしくてな、5分くらい休むってよ」

 

「あの人は……!!」

 

 

肝心な時に来てくれないウェーブにアスナは苛立たしげになるが、考えてみればウェーブはたった1人でホロウ2人も相手をしたのだと無理矢理に自分を納得させる。

 

 

そうでもしないとウェーブが来た時にリニアーを叩き込みそうだ。

 

 

「取り敢えず仕掛けてみるか……!!」

 

 

言うのが早いか、キリトは〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟目掛けて走り出し、コタローの様に身体を足場にして登り始めた。ただ違いはキリトの登攀は〝体術〟のソードスキル〝壁走り(ウォールラン)〟によるもの。前者がプレイヤーの技術に依存するものならば後者はシステムに依存するもの。〝壁走り(ウォールラン)〟はどんな足場であれプレイヤーのステータス次第で走る距離を伸ばせる。

 

 

しかし幾らキリトのレベルが攻略組トップクラスで相応にステータスが高くとも、山よりも巨大な〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の宝石のある胸まで辿り着く事は出来ない。30メートル程走ったところで限界を迎えて落下する、その直前に()()()()()()()()()()()()()()

 

 

それを繰り返して胸元までキリトは辿り着く事が出来た。キリトにヘイトは向けられておらず、タゲを取られているのはコタロー。腕と尻尾を振り回し、避けられても産み出したモンスターごと周囲一帯を蛇による空間爆撃で薙ぎ払う。

 

 

よっと!!(片手剣:ソニックリープ)

 

 

ここであえてキリトは胸元の宝石を無視し、額にある宝石をソードスキルで攻撃する。確かな手応えと共に剣先が宝石に突き刺さり、〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の上半身が大きく仰け反った。HPは弱点を攻撃した事で大きく削られたものの未だに1本目のレッドゾーン手前と言ったところ。わざわざここまで移動する事を考えればかなりの長丁場になりそうだ。

 

 

そして〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟のヘイトが全てキリトに向けられてタゲを取られる。

 

 

「LAーーー!!!」

 

 

〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の方が大きく開かれて出て来たのは轟音。ブレスの様な攻撃では無いのだが鼓膜が破られそうなほどの音を直接当てられて無事で済むはずが無く、キリトは空中で行動不能(スタン)状態になり、そこに蛇による空間爆撃を叩き込まれた。

 

 

「ガバーーー」

 

 

行動不能(スタン)はすぐに解除されたものの今のキリトは無防備に空中を落下している状態。HPはイエロー手前のグリーンだがこのままでも落下ダメージで死ぬだろうし、その前に〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟に攻撃されるだろう。

 

 

端的に言って、絶体絶命の窮地だった。

 

 

振り上げられ、下される〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の拳。スピードこそ遅いものの質量で当たれば一撃死しかねない。

 

 

死を目前にしてキリトの脳裏に走馬灯が走る。リアルでの出来事にSAO内での出来事。15年生きて来た人生がたった数秒の間で再生させられる。

 

 

そして脳裏に残ったのはたった二つ。

 

 

一つは〝月夜の黒猫団〟が遺したメッセージ。

 

もう一つはーーーアスナだった。

 

 

「まだ、だぁ……!!ここで死ねるかぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

迫り来る拳は回避不能。故にキリトは片手剣の切っ先を拳に向けて、全身を脱力させる。そして衝突。全身を脱力させた事で衝撃をある程度受け流し、切っ先を拳に向けた事で突き刺して吹き飛ばされるのを防ぐ。そうして地面に衝突する直前に拳を蹴って脱出。地面を転げ回り、HPがレッドに突入しながらもなんとか生き残る事に成功した。

 

 

「死ぬかと思った……!!」

 

 

〝治癒結晶〟を使用しながら〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟から距離を取り、周囲を見渡す。産み出されたモンスターはPoHとストレアが殲滅していて残りは僅か。アスナはユウキとコタローと共に休憩のつもりなのかキリトの取っている距離よりも倍以上離れた場所で皮袋に入れた水と思わしきものを飲んでいる。

 

 

ここまでで〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟は宝石に攻撃したものにタゲを取る事が分かった。しかし攻撃した直後に仰け反り(ノックバック)が発生して強引に振り落とされ、そこから反撃を喰らう。ダメージ的には額の宝石の方が大きいのだがさっきのキリトの様に振り落とされてから轟音による行動不能(スタン)、蛇の空間爆撃に手の振り下ろしというデスコンボを決められる事になるだろう。キリトのステータスでもHPが満タンの状態からレッドまで一気に持って行かれるのだ。他のメンバーが行ったところでデスコンボを食らって死亡するだろう。

 

 

ここは自分が優先して攻撃した方が良いと考え、キリトは再び〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟の登攀を開始しようとして、

 

 

「ーーー完ッ(〝歩法:縮地〟)全ッ(〝歩法:縮地〟)回ィ(歩法:縮地)復ゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!(〝剣術:斬鉄剣〟)

 

 

背後から縮地を連続使用する事で超加速したプレイヤーが〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟に向かって突進して跳躍。そのままの勢いで脇腹の辺りを斬り裂いて行った。

 

 

「ありゃ?ダメージ入ってねぇな?」

 

「遅えよーーーウェーブ!!」

 

 

突然の乱入者の正体は返り血と思わしき血をベッタリと付けて背中に普段は持たないはずの両手剣を背負ったウェーブだった。

 

 

ここにようやく、〝ティアマト・ザ・ロアードラゴン〟攻略のメンバーが揃った。

 

 

 





胸の宝石攻撃してあれだったら額の宝石攻撃すれば良いじゃない!!と思ったらボイスによるスタン→蛇による空間爆撃→ティアマトパンチのデスコンボが待ってるとかいうとんでもない罠。キリトも下手をしていれば即死していたっていう。

登場!!登場!!キチ波登場!!キチ波登場!!そしてここからフロアボス攻略の幕開けよ……!!


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