五十層の主街区〝アルゲート〟。そこでも死闘が行われていた。
「ーーー撃て撃て撃て撃てぇぇぇぇッ!!後の事なんて考えるな!!今は只管撃ちまくれぇッ!!」
城壁の上で声を張り上げるのは〝ナイトオブナイツ〟のディアベル。そして彼の指示に従い〝ナイトオブナイツ〟のメンバーたちは大砲を撃つ。爆発により発射される砲弾は放物線を描きながら落下、フィールドを埋め尽くしていたモンスターに命中し、出来た穴が新たなモンスターによって埋められる。そして一瞬遅れて設置されていた投石器が瓦礫を投石し、雨の様に降り注いでモンスターを押し潰すもののやはり新たなモンスターによって埋められる。
〝アルゲート〟防衛戦は明らかに攻略組の不利であった。何せ敵は無尽蔵に沸き続けるモンスター。質など量で蹂躙すれば問題無いと言わんばかりに数の暴力で進んでくる。対する〝ナイトオブナイツ〟は僅かに150人。ユナの〝
事実、犠牲者が現れる。
「グォッ!?」
城壁を登ってきたモンスターの爪が装備に引っ掛けられて、プレイヤーの1人が城壁からフィールドに落とされた。城壁から地面までは50メートルあり、ステータスによっては助かるかもしれないが地面を覆い尽くすモンスターに群がられて死ぬ事が確定してしまった。落下しながらそれを察し、落ちたプレイヤーは泣きそうになり、
「負けるなよぉーーー!!」
泣いてやるものかと歯を食い縛りながら生き残っている者たちへエールを送って落下。そしてモンスターに群がられて数秒後に爆発した。爆発の正体は爆弾。死の間際に導火線に火を着け、少しでもモンスターを道連れにしようという考えの元での自爆。この防衛戦に参加しているプレイヤーは誰もが道連れ用の爆弾を抱えてこの戦いに臨んでいる。
だが、それは死ぬ事を前提にして戦いに臨んでいる訳ではない。戦って、勝って、生き残ってやる。だけど死んだとしたら少しでも道連れにしてやると、その結果が自爆である。
「ッーーー穴を埋めろ!!槍を突いてモンスターを落とせ!!ボサッとするなぁッ!!」
自爆したプレイヤーの事を嘆きながら、ディアベルはそれを表に出す事はしない。そもそもそんな事をしている暇は無いのだ。彼の死を嘆けば指揮に遅れが出る。指揮に遅れが出ればより多くの死者が出る。それを死んだ彼は、そして彼よりも先に死んだ誰もが望んでいない。今ので出た犠牲者は12人目。さっきと同じ様に城壁から落とされたり、城壁の上まで登ってきたネームドボスを自分と一緒に落としたり。死の原因は多様だが、誰もが間際に負けるなと、勝てと、勝利を託して逝った。
「オラッ!!掛かって来いや!!」
「新しい槍持って来い!!」
「こっちに来てくれ!!手が回らない!!」
「ユナに触れるなよ痴れ者が……!!」
「エーくん……!!」」
だから生きている誰もが勝利を目指す。ゲームをクリアしたいという自分の欲求と、勝利を信じて逝った仲間たちの遺志に応えるために。
耐久値が限界を迎えた槍を投げ捨て、サポートに回っている〝風魔忍軍〟のプレイヤーが新たな槍を手渡す。直接的な戦闘が難しい彼らはこうしたサポートに回っているが、それが無ければ間違いなく現状を維持出来ていないだろう。
〝ナイトオブナイツ〟と〝風魔忍軍〟、そしてNPCの兵士たちにより、この城壁での防衛戦は何とか拮抗出来ている。しかしそれも仮初めのもの。後1時間か、2時間か、もしかしたらそんなに持たないのかもしれないと誰もが思いながら死にたく無いと考え、負けるかと奮い立ち、掛かって来いと吠え立てる。それをこの戦いにいない者たちは虚勢だと断ずるだろう。何せ、この場はそれ程までに絶望的としか言えないのだから。
それでも、彼らは生きる事を諦めずに吠えて叫んで恐怖に折れそうな心を鼓舞する。何故なら彼らは信じているから。フロアボスに向かった者たちは攻略組の中でも最強に数えられるプレイヤーたち。彼らならば必ず勝つと信じている。だから自分たちも負けられない、必ず勝ってやると戦うのだ。
「ーーーッ、やっぱりか!!」
ユナの歌声、それとモンスターとプレイヤーたちの怒声罵声に紛れるように街の中から聞こえて来たのは悲鳴。そう、それはフロアボスの出現と同時に襲撃して来たモンスターが残した地下の経路を使った奇襲。外からの攻撃で手一杯だというのにその上中からも攻撃されれば溜まったものではない。そうなればこの戦線は崩壊。街は無くなって攻略組のプレイヤーは皆殺し、フロアボスに向かっている彼らも押し潰されるだろう。
だから、そうならないように手段は立てている。そもそも、分かりやすい侵入口を残しておいて何も考えない訳がない。
「後ろは気にするな!!俺たちは前だけを見るんだ!!後ろは、頼れる仲間がどうにかしてくれる!!」
城壁を飛び越えて直接狙って来た鳥型のモンスターを斬り払いながらディアベルは撃を飛ばす。そう、ディアベルたちの役目はこの戦線を維持する事だけ。後ろの事は信頼の置ける仲間たちがどうにかしてくれる。だから、前だけを見ていられる。
「だから任せたぞ。ヒースクリフさん、クラインさん、みんな……!!」
後ろを任せた仲間たちを信じながら、ディアベルは前の事態だけを集中する。
「ーーーふむ」
坑道を通して〝アルゲート〟内に侵入してきたネームドボスを1人で倒し、ヒースクリフは思案する。奇襲自体は想定されていた事。この場にいるのは自分1人だけだが、〝血盟騎士団〟と〝風林火山〟のプレイヤーたちは別の坑道を見張っているので問題では無い。
問題があるとすれば、
本気で〝アルゲート〟を潰したければ防衛戦に向かわせているモンスターをすべて通常のモンスターにし、奇襲に行ったモンスターをすべてネームドボスクラスにすれば良い。無視出来ない数の暴力による陽動と、強靭な質による本命。それをすればたった一度で決着しかねないとヒースクリフは考える。
まだ他に何かあるのかと警戒するが不明。頭上からの空挺強襲はシノンが高台を陣取って警戒しているので心配する必要は無い。ドラゴンが〝アルゲート〟上空をモンスターを背に乗せて旋回して、そのままシノンの狙撃により脳天を貫かれて墜落している。
「なら、この状況はーーー」
「ーーーそう、私がこうなるように仕向けたのだよ」
あまりにも不自然な状況に1つ仮説を立て、坑道からその考えを肯定する声が聞こえてきた。
「成る程、やはり私と一対一の状況を作る為にわざと拮抗した状況を作ったのだな?」
「そうだとも。誰にもこの戦いを邪魔させない為にね」
坑道から現れたのはヒースクリフと同じ顔の人型のモンスター〝ホロウ・ヒースクリフ〟。ヒースクリフと同じ盾と剣を携えながら堂々と、モンスターも引き連れずにたった1人でヒースクリフの前に立った。
「目的は?わざわざ必殺の機を逃してまで私と一対一の状況を?」
「目的は1つだけ。私は、
そう、〝ホロウ・ウェーブ〟がウェーブに成りたいと望んでいたように、〝ホロウ・ヒースクリフ〟は
無論、それはカーディナルに命じられた訳では無い。思考をそういう風に向けられた訳では無い。ただ、
「ーーー良いだろう、受けて立つとも」
〝ホロウ・ヒースクリフ〟の意思を聞き、ヒースクリフは盾と剣を構える。ヒースクリフにとってモンスターだろうがAIだろうが、プレイヤーだろうが関係無い。挑まれたのならば応じる。ただそれだけだ。
堂々とした態度に一瞬だけ呆気に取られ、〝ホロウ・ヒースクリフ〟は笑みを浮かべて盾と剣を構える。
そして崩れかけた廃墟の瓦礫が地面に落ちるのを合図に、互いに飛び出した。
〝アルゲート〟防衛戦。何とか持ち堪えてるけど犠牲者が出たりでジワジワと追い詰められている。ディアベルはんがいなかったら、ユナのバフがなかったらとっくの昔に戦線は崩壊していた。