闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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ツーウィークアフター・3

 

 

視界に複数の鎧を着込んだコボルドが入ってくる。彼らは〝番兵(センチネル)〟と呼ばれるタイプのコボルドで、第一層のフロアボスである〝イルファング・ザ・コボルドロード〟の取り巻きのモンスターだ。β版だとコボルドロードと一緒にボス部屋内でしか現れないらしいのだが、今のSAOでは普通に徘徊……いや、動き方的には見回りをしている。

 

 

「ーーー〝隠蔽《ハイド》〟」

 

 

スキル〝隠蔽〟を発動してシステム的な隠密を実行。

 

 

「ーーー〝色絶ち〟」

 

 

続けてリアルで培った気配遮断で、感覚的な隠密を実行。これで番兵(センチネル)からはヘマをしない限りは見つからない。

 

 

そして番兵(センチネル)が通り過ぎたのを確認し、()()()()()()()()()()()()()()。落下しながら反転し、腰に下げていた〝アニールブレード〟でそのまま後ろにいた番兵(センチネル)を両断。

 

 

鎧を断った時の音でシステム的、感覚的な隠密が剥がれて残りの番兵(センチネル)に気付かれたが問題無い。腰に下げていた投擲用のナイフを二本引き抜いて投擲、兜の隙間を縫って番兵(センチネル)の目を穿つ。眼球に走る痛みで仰け反る番兵(センチネル)たち。こうなればあとは簡単だ。

 

 

鎧の隙間に〝アニールブレード〟を滑り込ませて首を断つ。そして番兵(センチネル)の骸二つが出来上がる。

 

 

リザルトウインドウを流し見しながら〝索敵〟で周囲に敵がいない事を確認し、ハンドサインを送れば物陰からユウキとシノン、そしてアルゴが現れる。

 

 

「なんというカ……エグいナ」

 

「え?いつもの事だよ?」

 

「確かにいつもの事よね」

 

「おい狂人、何純粋な女の子を洗脳してるんだ」

 

「素の話し方になる程の衝撃かよ……普通のゲームと違って即死通じる様に設定されてるんだ。安全性とか効率とか考えたら狙わない理由が無いだろう」

 

 

正面から殴り合いというのを求める気持ちは俺だって男だから分からないでも無い。だがそれは普通のゲームだったらなのだ。デスゲームで死ねばリアルでも死ぬのならばそんなものよりも安全に、そして確実に殺した方が良い。

 

 

ユウキとシノンにもそう言ってあるが、正面からの戦闘も叩き込んである。要するに殺せるなら殺せだ。

 

 

だが2人に今日はアルゴを守る事に集中しろと言い聞かせてあるのでそれをアルゴが目にすることは無いだろう。

 

 

「兎も角、安全地帯だったか?そこがここから近いからそこまで移動するぞ」

 

 

その提案に異論を挟む者は居らず、先頭に俺、斜め後ろにユウキとシノン、その間にアルゴという陣形を取りながら俺たちは迷宮区を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの狂気的な飲み会の翌日、案の定ユウキとシノンは〝二日酔い〟のバッドステータスをくらい、一日中二日酔い特有の頭痛と吐き気に襲われていた。アルゴは二日酔いにこそならなかったが目覚めると同時に俺と同衾している事に気付いて硬直、俺が目を覚ましてアルゴを放すのと同時に全力で逃げていった。

 

 

可愛い奴めと思いながらその日は〝アニールブレード〟の強化だけで終わらせて、次の日に二日酔いから復活した2人とフードを深く被って顔を隠そうとしているアルゴと一緒に迷宮区に潜った。

 

 

迷宮区に潜って2時間、大凡迷宮区の半分程来たところに見つけた安全地帯で足を止める。

 

 

安全地帯などと呼ばれているが正確には安全地帯などでは無い。モンスターがここで湧かないというだけで普通に外で沸いたモンスターはここを通るからだ。それでも安全地帯などと呼ばれている辺り、SAOの難易度の高さが伺える。

 

 

安全地帯に着いてモンスターが居ないのを確認し、アイテムポーチから砥石を取り出して〝アニールブレード〟を研ぐ。そしてその間にユウキとシノンは警戒に当たってくれた。

 

 

「にしてもよくも簡単にポンポン殺れるナ。リアルで何か武道でもやってたのカ?」

 

 

ローブを脱いでパタパタと手で扇いでいるアルゴの口調や雰囲気は完全にいつもの通りに戻っている。〝トールバーナ〟を出た辺りではぎこちなかったが、流石に迷宮区でぎこちなさを残さない様に切り替えられる程度の精神は持っているようだ。

 

 

「いんや、リアルでやってたのは武術だな」

 

「?同じじゃ無いのカ?」

 

「全然違う」

 

 

切れ味が回復した事を確認して使い終わった砥石を投げ捨てる。武道と武術、同じように思われるが、実際に修めている者からしてみれば全然違うのだ。

 

 

「武道っていうのはアレはよし、コレはダメってルールとかでガッチガチに守られてるだろ?武術っていうのは()()()()()()()()()。結果的に相手を殺せればそれで良いんだからな」

 

 

要するに倒すのか殺すのか、それが道と術における違いだ。

 

 

「うへぇ、物騒だナ……それならあの暗殺者みたいなのモ?」

 

「教えてくれた爺さん曰く武術だとさ。正面から殺すよりも暗殺した方が楽だよなとかいう軽いノリで仕込まれた」

 

「成る程ナ、全ての原因はナミっちの爺さんカ」

 

「ついでに言えば母さんもかな?あの人、正面から強者を蹂躙するのが趣味だとかいうキチガイだから」

 

「戦闘民族……」

 

「戦闘一族にしてくれ。でないと全日本人が俺みたいになるぞ」

 

 

アルゴからの質問に返しつつ、アイテムポーチからタバコを咥え、火を着けようとして……止めた。コボルドは犬をモチーフとした獣人系モンスターだ。であれば嗅覚が優れている。ワザと誘き寄せるならありだが今日の目的はコボルドロードの偵察なのだ。余計な消耗は避けるべきだろう。

 

 

「んで、β版と比べてモンスターの行動とか違ってるのか?」

 

「違ってるというべきカ……そもそもSAOのモンスターには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。普通のゲームならこれが来る前にこんな事をするとか分かるけド、SAOにはそれが無イ。それがSAOの売りでもあったんだけどネ……」

 

「成る程、ファッキューかやひこ」

 

 

それでもアルゴにとって価値のある情報は転がっている。例えば経験値、例えばドロップアイテム、例えば行動する大凡の数、それが分かるだけでも大きく違う。アルゴもそれを纏めようとメモ帳に何やら書き込んでいる。

 

 

アルゴの情報の整理が終わるまで、ユウキとシノンと見張りを交代して2人を休ませておく事にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安全地帯で休憩を取り、さらに2時間ほどかけて目的地である第一層の迷宮区の最奥にある石造りの巨大な扉ーーーボス部屋の前に到着した。どうもボス部屋の前も安全地帯になっているらしく、コボルドロードに挑む前に武器の点検を済ませておく。

 

 

「切れ味良し、耐久値も……ん、問題無いな」

 

「改めて確認するけど今回の目的はコボルドロードのβ版との違いを確認する事ダ。取り巻きの数や種類、それとメイン武器を無くした時に出すサブ武器の確認をしたイ。だけど死ぬのだけは絶対に許さないからナ。死んだらロリコン野郎とアインクラッド中に広めてやル」

 

「地味に嫌な事してくれるなぁおい!!」

 

 

死ぬ事には文句は無い。それは俺が選んで行動をした結果なのだから。しかしロリコン呼ばわりされるのだけは勘弁願いたい。

 

 

だが、アルゴの声の中に不安が混じっていたので軽く言い返す程度に留めておく。

 

 

「頑張ってね」

 

「待ってるから帰って来なさいよ」

 

「あいよ」

 

 

反対にユウキとシノンはいつも通りだった。それは俺のことをよく知っているが故の信頼だろう。俺が1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、声には微塵も不安が混じっていない。

 

 

アルゴには信じて貰えなかったのだが、俺は1人で戦った方が強いのだ。そもそも俺が修めた武術が一対一、もしくは一対多がメインなので1人の方が慣れているという事もあるのだが。

 

 

SAOが始まってからは常にユウキとシノンに気配りをしていたのである意味では本気で無かった。だが、今日になってようやく1人で戦える機会が得られた。

 

 

「ーーー遊ぼうぜ?わんちゃんよぉ!!」

 

 

〝アニールブレード〟を引き抜いたまま、ボス部屋の扉を思いっきり蹴破った。

 

 





安全地帯?そんなものは無い。MOBがポップしないだけありがたく思うんだな!!

アルゴリズムゥ?軟弱軟弱ゥ!!そんなものあるわけないだろうがぁ!!という殺意溢れる親切仕様。

主人公、実は1人で戦う方が強い。これまではユウキチとシノノンに気配りをしながら戦うという縛りプレイだったがそれから解禁。


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