ポケモン不思議のダンジョン 空の外伝   作:チッキ

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外伝 ウソつき青年と無垢な少女

ウソつき青年と無垢な少女

 

 その村には、口を開けばウソをつく、呼吸をするかのようにウソをつく青年がいました。その青年の名前はウソつきウソッキー、略してウツツキと呼ばれていました。

 しかし、青年にはウソをつく時に、確固たるポリシーを基にウソをつくのです。

『相手を笑わせるウソをつく』ただこのルールだけを青年は絶対に破らないのです。

 それ故に、青年は村の者達から忌み嫌われてはおらず、逆にアダ名で呼ばれる程愛されていました。青年のウソに騙された者達は皆、「騙された!」と笑いながら言うのです。青年はそんな顔を見るのが、とても大好きでした。

 そんなある日、村に新しい子が住むようになったのです。青年はすぐさま、その子に会いに行き、ウソをつくことにしました。

 

「はじめまして!僕はウツツキ、この辺り一帯の支配者なんだ!」

 

 青年のウソに、少女は黙って青年を見上げるのです。まるで、青年がなにを言っているのかわからないかのような表情を、いえ、少女は青年の言っている事を全くもって理解出来ていなかったのです。

 この世に生を得て、騙せなかった者はいない青年のプライドは深く傷付きました。まさか、ウソに騙されないのではなく、言葉が通じないのです。青年はこう思いました。絶対にこの少女に騙されたと言わせてやろうと。

 初めに青年は少女に言葉を教える事にしました。その為に、鉛筆や本を準備し、そして保護者という立場の者に言葉を教える事を許可を貰おうとしました。

 

「おはようございます、調子は大丈夫そうですか?」

「ん?あー、ウツツキ君か。どうしたんだい?」

「ほら、最近貴方が拾ってきた子、あの子に言葉を教えたいんですよ」

「さては言葉が通じなくて、ウソをつけなかったな?」

 

 村の図書館と呼ばれる程聡明な彼に青年の思惑は簡単に見破られました。しかし、だからといって青年の申し出を断るような事はしませんでした。

 

「彼女は全く言葉を知らないからね。教えるにしても、凄く苦労すると思うけど?」

「任せて下さい!必ずしも、彼女にも騙されたと言わせてやりますよ!」

「そりゃ面白そうだ」

 

 保護者の許可を得た少年はすぐさま、少女に言葉を教え始めました。しかし、何も知らぬ無垢な少女に言葉を教えるというその行為は非常に骨が折れるものでした。教える為に使う言葉もわからないのですから。

 だけども青年は諦めません。ウソをつくにも、通じなければ面白くない。青年は少女に丸四角三角の記号を用いて、色んな図形を作ります。まずは彼女にこの世界は記号の集合体だという事を分かってもらう為です。

 少女は賢く、青年の行う事をすぐに理解してくれました。少女に言葉が通じなかったのは教えてくれる者がいなかったからだけなのです。

 時は流れ、彼女もゆっくりとですが言葉を理解してきました。

 

「おはよ…ございます」

「おはよう、今日は何について教えようか…」

 

 日々、言葉を覚えていく少女に青年は喜びを感じていました。ここ最近、言葉を教えることに重きを置いている青年はウソをついていませんでした。村の者達にも「ウソをついてる暇は無い」と言っては、それもまたウソだろうと笑われるのです。

 そしてある日の事、少女は完璧に言葉を理解しました。村の者達も嬉しそうに少女に話しかけます。それを遠巻きに眺める青年は、非常に嬉しそうな笑顔で笑うのです。「ようやく、ウソをつける」と。

 しかし、そんな青年はすぐさま絶望に叩き落とされる事になるのです。青年のつく笑えるウソに、少女は一切騙されないのです。

 

「僕はここら一帯を支配しているんだよ」

「でしたらどうしてここら一帯の交通網をしっかりしないのですか?支配者はそういう所をしっかりすべきだと思いますよ」

「君に言葉を教えたし、長旅にでも出ようと思っているんだ」

「親に無許可でですか?それならしっかり話し合うべきですよ」

「隣の家の子が君の事が気になるんだって」

「そりゃあ、気にもなりますよ。賢いですからね」

 

 堪らず青年は彼に会いに行きました。彼は寝床で寝っ転がったまま青年の悩みに答えました。

 

「いやぁ、騙されてるよ、あの子は」

「しかし…騙されたなんて言わないんですよ…」

「違う違う。僕は君に騙されているって意味で言ったのであって、彼女が騙されているって意味で言ってるんじゃないよ」

 

 彼の言葉に青年は首をかしげる。

 

「ウソって言うのは、ウソをつかれたって感じなきゃウソじゃないんだよ。君は、彼女に言葉を教えてくれたけど、ウソを教えてはいない。だから彼女は君の話すウソにウソだと感じず、真面目に受け答えしちゃうんだ」

 

 自分はウソをついているけど、少女はウソだと思っていない。ならば、少女は騙されていない…一見暴論に見えるその言葉に青年はハッと気付くのです。

 

「彼女に、ウソを教えよう」

 

 ウソつきが教えるウソ。ウソつきが教えたからそれはウソのウソなのか、ウソつきが教えたからこそそれはウソの真実なのか。

 

「ウソは悪いことではない。皆を幸せにするウソだってあるし、一方的にウソは悪い物だとは認識すべきではない」

「それがウソですか?」

「いや、真実」

 

 ウソをつかずにウソを教える。ウソを使わないのだから真実なのか。ウソをつかないというウソなのか。

 どれにせよ、ウソというのは奥が深い。

 

▼▽▼

 

「それで、結局騙されたのか?」

「はい、彼がウソを教えてくれていう時、最後にウソの極意を教えてくれると言ってくれたんですけど…」

「成る程、それがウソだったんだな」

「でもお陰で私は言葉を覚えましたし、ウソというのも理解しました」

「しかし、リフルを騙すそのウツツキって奴…会ってみたいものだな」

「それは無理ですよ」

「…亡くなってるのか…?」

「いえ、そんなポケモンいませんし」

 

 話を聞いていた彼が思いっきりずっこける。そしてヒクヒクと顔を痙攣らせる。

 

「じゃあ…今までの話…全部ウソだっていうのか…?」

「はい、今の私は師匠が全て作ってくれましたし。そんなポケモンいませんし、いたとしても皆に好かれるはずがありません」

 

 呆れたように苦笑をもらす彼はポツリとあの言葉を出した。

 

「…騙された」

 

 このウソつきの話が、私の師匠というのが本当の話。私はそれを師匠から聞いただけだけど。さて、果たして本当なんだろうか?




エイプリルフールだからこんな話を書いたわけではない。

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