ポケモン不思議のダンジョン 空の外伝   作:チッキ

8 / 48
第8話 再戦 MAD

「…シャンプー?…仲間?」

 

 リフルの言葉を繰り返し、シャワーズは首をかしげる。それもそのはず、イマイチ要領を得ていないからだ。

 

「つまり貴方がビートに負けたら、仲間になれって言ってるんです。シャンプーはあだ名です、理解しました?」

 

 このシャワーズをどうしても仲間にしたいのか、リフルは語る。

 

「私達レガリアは私とビートの2匹だけで、全くもって仲間がいないといいますか、仲間の運勢に恵まれないと言うか…ならば、自ら掴み取るということで、負けたら仲間になりなさい」

「…えっと、なんとなく理解したけど、それじゃあ釣り合わないですよね?」

「負けた時の計算をするようじゃ、貴方はまだまだですね」

 

 シャワーズの顔がムッとした表情になる。どう考えてもリフルの策略に乗せられてるのだが、気付いていないらしい。

 

「いいでしょう!僕が万が一にも、あり得ないですけど、このビートとかいうのに負けたら仲間になってあげますよ!シャンプーでしたっけ?その名前も甘んじて受けます!」

「言いましたね」

 

 非常に邪悪な笑みを浮かべたリフルは俺に近付いて耳打ちをした。

 

「じゃあ頑張って下さい」

「…俺がやるのか、だとは思ったが」

「まあヒントくらいは上げますよ、最下層とはいえ罠に注意して下さいね」

 

 そう言ってリフルは露骨に罠を避けるような動きをして近くの壁に腕を組んで寄りかかった。

 

「ビートが負けたら私達の負けって事で大丈夫ですからね」

 

 レガリアチームの問題だと言うのに、リフルは完璧に興味が無いらしく、寄りかかったまま寝てしまった。

 

「…とりあえず、始めるか」

「手加減はしませんからねー!」

 

 シャワーズは上に向かってハイドロポンプを放つ。一体何をしているのかと思ったが、その隙にシャワーズは俺との間合いを詰めて尻尾を叩きつけようとした。しかし、隙を突かれ慣れている俺がその程度で狼狽する筈もない、軽々と避ける。

 

「…………っ!」

 

 つもりだったが、妙な予感が俺がその方向に避ける事を拒んで、シャワーズの叩きつけが決まった。

 だが、それで良かったのだ。俺が避ける筈だった方向に先程シャワーズが放ったハイドロポンプが落ちてきたのだ。

 

「ちぇっ、外しちゃいましたか」

 

 少し残念そうな顔をするシャワーズとは裏腹に俺は内心ヒヤヒヤしていた。ハイドロポンプが落ちてくる場所に敵を誘導し、そして時間を合わせる。単純な仕掛けだが、単純な仕掛け以上に面倒なものはない。

 このシャワーズ、認めたくはないが歴戦の猛者だ。

 

「じゃあこれはどうですか!!」

 

 シャワーズが俺に向かって冷凍ビームを放つ。俺は火炎放射を放ち、それを相殺する。氷と炎、どちらが有利か考えるまでもない。

 だが、俺のその考えは浅はかだと言うべきだった。氷と炎、どちらが有利かは勿論炎だ。しかし、氷が炎に溶かされると何になるか。

 

「う、うおおおお!?!?」

 

 水となって襲いかかった冷凍ビーム(今となっては水ビーム)が火炎放射を打ち消し、俺を貫こうとする。避けようとした俺は無様に地面を滑る。

 

「ふふーん、これでも僕は巷では有名ですからね。戦闘面に関しては他より他を圧倒しているといっても過言じゃありませんよ」

「…頭痛が痛いみたいな事を言うな」

 

 リフルのそれとは違うドヤ顔に少しイラつきながら俺は悪態をつく。それに気を触ったのかシャワーズは顔をしかめる。

 

「…貴方は今、追い込まれているんですよ。そんな余裕綽々の態度、立場わかっているんですか?」

「どうだろうな、少なくとも俺の勝利で終わる事は確かだ」

 

 リフルとのやり取りでわかったが、こいつは直情型。損得を計算せず、心より先に身体が動いてしまうタイプ。そういう相手は手玉に取りやすい。

 想像通り、シャワーズは怒りの表情で俺に飛びかかる。俺はそれを避け続ける。

 

「絶対に許しません!!」

「あー…言い忘れたが…」

 

 ハイドロポンプを放とうとするシャワーズが踏み込んだその場所。そこにおれは指(前足をさす。

 

「そこに罠があるから、気を付けておけ」

「へ?え、ひやあああああ!?!?」

 

 リフルがくれたヒントを基に、俺はシャワーズの攻略法を練った。ただ誘導して、罠を踏ませる。どんな罠かはわからないから、それで攻略出来るかどうかは不明だが、しかし意表をつく事が出来る。

 罠を踏んだシャワーズは大きく吹き飛んだ。確か、ふきとばしスイッチだったか。吹き飛んだ先にはリフルがいる。

 

「…………あっ」

 

 気配を感じたのだろう、リフルは目を覚まし、自分の方に飛んできたシャワーズに大きく目を見開く。

 そして、そのまま、つるのムチを喰らわせた。

 

「ふぎゃっ!」

「………………………」

 

 地面に平伏したシャワーズと、俺に殺気の篭った瞳で睨み付けるリフル。俺はこの状況をどう収拾つけるべきかわからない。

 

「…しかし、この状況…悪くはありませんね」

 

 リフルはいつもの悪巧みの笑顔を浮かべた。

 

▼▽▼

 

 シャワーズの言い分はこうだ。自分は俺に勝負を仕掛けた。リフルもビートを倒せばいいと言った為、リフルの攻撃によってやられた自分は勝敗に関係無い、と。

 対してリフルの言い分はこうだ。少なくとも、あれは自己防衛だし、シャワーズ自身がビートの挑発に乗って罠を踏まなければ起きなかった事。ビートの挑発はビートの策略の為、それに引っかかってしまったシャワーズは負けである、と。

 そして俺の言い分はこうだ。運が良かっただけだ。…俺の言い分は主張しないけどな。

 

「まあ、貴方の言い分もわかります。じゃあ、こうしましょう」

 

 シャワーズと言い争っていたリフルは埒があかないと思ったのか、妥協案を提示した。

 

「1度、共闘しましょう。所謂、仲間を体験してみようキャンペーンです。そして貴方が入るか入らないか決めるんです」

「………共闘って、何と戦うんですか」

 

 そう聞いてる時点でリフルの謀略という沼に嵌りに嵌っている事を多分一生こいつは気付かない。

 

「そりゃ、貴方の癒しのオアシスを荒らす不遜者ですよ」

 

 リフルはそう言うと、俺達が来た道の方向を向いた。

 

「貴方達ですよね、ここを荒らしてるのは」

 

 物陰から見知った3匹のポケモンが現れる。マニューラ、アーボック、ドラピオン。悪逆非道の探検隊、MADだったかな。

 

「よく気付いたね、気配は隠してたつもりなんだけどね」

「それで、どうしてここを荒らしているんですか!」

「別に荒らす気は無かったんだけどねぇ。そこの生意気な火猫野郎を見かけたから、ついイラッとしちゃったんだよ」

 

 マニューラは俺を指差しそう言う。…あの時のことをまだ根に持っているのか。

 リフルとシャワーズが事情が掴めない顔をしているので、俺は簡単に事の顛末を伝える。

 

「…つまり完全な逆恨みって事ですか。情けない」

 

 呆れた表情でリフルは首を振る。俺もそう思う。

 

「それで?戦うってなら相手になりますよ。ただ、貴方達3匹でビート1匹に負けたんですよね?」

「絶対勝てませんよね〜。3匹で1匹にすら及ばないんですから」

 

 リフルとシャワーズの煽りにMADは怒りを露わにする。しかし、それでいきなり飛びかかってくる事はしないようだ。

 

「あん時とは違うんだよ、アタイ達はなぁ…」

「テメェを潰す事だけを考えてたんだ…」

「んー、じゃあそちらは3匹、こちらも3匹って事で1対1で戦うっていうのはどうですか?」

 

 恐らくリフルは先程からMADの3匹の気配を感じてた故に、シャワーズを仲間に引き入れようとしていたのだろう。

 リフルの提案にマニューラは大きく口を歪ませた。

 

「そいつはいい、ただしそのビートの相手はアタイだ。こいつらの相手はテメェらがやってな」

「じゃあ私は同じ蛇という事でアーボックと戦います。シャンプーはドラピオンをお任せしますね」

「まだ共闘するって言ってないんですけど…まあ、いっか」

 

 お互いが邪魔にならないよう、リフル達は違う場所に移動した。今ここにいるのは俺とマニューラ、ただ2匹。

 

「クックックッ…」

 

 鋭い爪を舐め、俺を見据えるマニューラ。1度敵に回すと非常に面倒だ。どうにかしてこの遺恨を断ち切りたいものだが…

 

「考え事とはいい度胸だね!!」

 

 飛びかかってきたマニューラの爪を紙一重で避ける。しかしマニューラは避けられた程度じゃ追撃の手を緩めない。当てるまで、当たるまで攻撃してくるつもりだろう。

 …だが、妙におかしい。マニューラの爪の攻撃が紙一重で当たらない。俺が避けているのもあるが、マニューラはそれを見越して俺に攻撃を当てる事だって出来るはずだ。しかし当たらない。まるで当たらない。

 

「攻撃が当たってないぞ、マニューラ」

「ッハン!いつまでその強がりが言えるかな!?」

 

 さて、マニューラはどのような策を練っているのか。考え得る事は誘導…本日、誘導策多め。隠れていた事を加味すると何か罠を仕掛けている可能性は非常に高い。

 俺の予想通り、マニューラは思惑通りだと感違いしているだろうが、徐々に壁際に追い詰められている。

 

「………仕方ないか」

 

 俺は何かの成功を喜ぶかのような笑みを浮かべたマニューラの爪を避け、腕に噛み付く。突然、腕を噛み付かれたマニューラは俺を振り解こうと腕を振る。しかし、そう簡単に離す訳にはいかない。

 離す事は叶わないと思ったマニューラは残った腕、つまり爪で今度は当てる気で攻撃を仕掛ける。それでも、技が早く決まるのは俺の方だ。

 

「がえんほうあ(かえんほうしゃ)」

「なっ!?あ、ぐああああああ!!!!」

 

 噛み付いたまま放つ火炎放射。相手に不可避のダメージを与える。更に氷タイプが入っているマニューラには大ダメージだ。

 0距離火炎放射を喰らったマニューラは地面にのたうちまわる。ダメージは深そうだが、ここで手を緩めるような真似はしない。こいつらが、2度と俺やリフル達に因縁を付けて来ないように、恐怖を刻み込む。

 

「お前には、新しく覚えた技の実験台になってもらうとするか」

 

 冷淡な目付きでマニューラを見下ろす。マニューラは逃げようにもダメージがでか過ぎでその場から動けそうにない。

 

「俺を恨むな。お前との因縁はお前からつけてきたものだし、この戦いもお前から仕掛けてきたものだ」

「ぐっ…な、なめるな…!」

 

 残りの力を振り絞って立ち上がるマニューラ。だが、俺にはその姿が滑稽で間抜けにしか見えない。

 

「くたばれ死に損ない、フレアドラ…」

「アーボック・アターック」

 

 そんな俺に突然、後頭部に衝撃が走った。振り向くと、気を失ったアーボックの尻尾を持ったリフルがいた。…まさか、殴ったのか、アーボックで?…アーボックで!?

 俺の困惑を余所にリフルはマニューラと俺を互いに見た後、アーボックを放り投げ俺の顔を掴んだ。

 

「…やり過ぎです」

 

 それだけ言うと、リフルはマニューラに向かっていく。

 

「貴方達の仲間はとっくに倒しましたし、貴方も瀕死寸前。敗けを認めて下さい」

 

 リフルがチラリと向いた先には元気そうな顔でシャワーズが戻ってきていた。

 

「…殺したきゃ、殺しな!敗けを認めるくらいなら…」

「………………おい」

 

 強がりを言うマニューラも、元気そうなシャワーズも、そして俺もリフルの迫力にただ押し黙った。リフルはマニューラを見下ろしながら話す。

 

「お前が死のうと私は悲しみもしないが、お前の死が私達に関わるというなら私はそれを許さない。死にたきゃ、勝手に死ね」

「………………………」

 

 般若のような形相なリフルが一転していつもの表情に戻る。

 

「…それに、貴方は私達に関わる暇があるならもっと強いダンジョンに行けばいいんですよ。ゼロの島の情報でもお教えしましょうか?あそこなら貴方達の欲求も満たしてくれるでしょうし」

「…ゼロの島の事を、知っているのか…?」

「ええ、ええ、そりゃ勿論。師匠が毎日のように通ってましたし、私も連れて行かされて酷い目に遭いましたよ」

 

 今のリフルがあるのはその師匠のお陰なんだろうが、その師匠のせいでリフルに振り回されている俺がいるんだが。

 

「どうです?敗けを認め、金輪際私達に関わらないって言うならゼロの島の事をお教えしますよ?」

 

 マニューラは握り拳を解いてゆっくりと頷いた。

 

「…あんた達の相手という無理難題より、ゼロの島の方が楽そうだ。教えてくれよ、ゼロの島の事をよ」

「でしたらこちらをどうぞ」

 

 リフルはバッグの中から古びた本をマニューラに差し出す。

 

「師匠が書き記したゼロの島の情報です。後ろの方はネタバレなんで注意して下さいね」

 

 なにそれ俺も見たい。

 

「い、いいのかい…?」

「私は全部記憶してますし、いつあの好奇心旺盛猫が覗き見るか内心ヒヤヒヤしてますし。それでしたら譲りますよ」

 

 ちくしょう、バレてやがる。

 

「……………わかった、あんた達には2度と関わらない。というか、今まで様々悪どい事をしてきたけど、ゼロの島を攻略するまでそれはやめだ」

「うーん、まぁ、それでもいいんじゃないですかね」

 

 その後、慣れた手つきでMADをリフルだけではなくシャワーズも一緒に治療した。曰く、怪我は日常茶飯事なので治療は慣れていると勝手に言うので、聞いてないと遮断するとやはり落ち込んだ。

 そしてMADが去って、静かになったこの場所で、シャワーズとリフルは再び対峙した。

 

「それで、どうです?仲間になりませんか?」

「うーん…その、確かに僕のリゾートを荒らしたのも感違いでしたし…」

 

 シャワーズは少し悩む表情をしたが、すぐにあの天真爛漫な笑顔になり、前足を差し出してきた。

 

「シャワーズ改め、シャンプー。探検隊レガリアのチームの一員としてよろしくお願いしますね!」

「はい、これからよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

 

 こうして、探検隊レガリアは俺ことビート、リフル、シャンプーの3匹の探検隊となったのだ。この先、色んなダンジョンに向かっていくけども、俺達ならば負けはない。そう感じたのだった。




シャンプーの性格はポケダン超に出てくるシャワーズの性格。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。