ポケモン不思議のダンジョン 空の外伝   作:チッキ

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Chapter2-8 ガショエーッと
第40話 ガショエタワーを作ろう


「さて……皆、集まりましたか?」

「団長が1番最後に来たんだよ……」

「ご飯の時は真っ先に飛んで来るくせにな」

 

 いつもとは違って、真剣な表情のダンチョーだが、やはり内面に変わりはなく、ジラーチとチークに突っ込まれる。

 

「む……それはさておき、調査団全員の力を総動員して、とあるプロジェクトを遂行したいと思います」

「プロジェクトですか?一体どんな?」

 

 ペロッパフの言葉に、メンバー一同に頷く。どうやら、今回の件に関してはペンネさんですら話を聞いてないらしい。

 

「……これは、私の兄……元調査団団長がやろうとしていた事です。それが叶わなかった今、代わりに私がそれを叶えてみせます」

「心意気は分かったが……それで、その内容ってなんなんだ?」

「私達調査団は、世界各地の謎の調査を主に活動しています。では、その調査の結果はどうやって纏めていますか?」

「…………主に文書だな、いい加減邪魔になってきている」

 

 書類の整理も、主にペンネと一緒に私がやっている。チークの言う通り、そろそろ置き場所に困っている所だ。

 

「それを1つに纏めるデバイス、ガショエタワーを作っていこうと思います」

 

 ダンチョーは設計図らしきものを取り出し、机の上に並べる。正直、私達が見ても何が何だか分からない。ジラーチを除いて、だが。

 

「……ほう、ほう……団長のお兄さんったら、凄い事を考えるね……」

 

 設計図を食い入るように見るジラーチ。その表情からは、興奮が見て取れる。

 

「大体把握したよ、でも、材料が足りないね」

「私もあまり理解していないので、詳しく教えてもらってもいいですか、ジラーチ」

「うん。これは、大きな地図みたいなものだと思っていいね。加えて、僕達が持つ端末の設計図もある」

「それがあるとないと何が違うんだ?」

「僕達が調査した事が端末、ガジェットに保存されて、それを大きな地図……ガショエタワーにインプットする事で、ガショエタワーがアップデートされて、調査の結果だけじゃなく調査のプロセスも保存されるんだ。そうする事で書類の整理や保存も必要無くなって、情報の取り出しも楽になる。それだけじゃなくて、探検隊協会の救援・調査依頼も受信する事で、デデンネの仕事が減るって訳だね。基本的に依頼内容はガジェットに送信されるらしいから、わざわざ指令を出す必要も無いし、緊急の依頼もすぐにガジェットに送られるから、現地からでも対応が出来るって訳だ。そうして、依頼や調査で集めた情報はガショエタワーに接続する事でガショエタワーが……あ、これはもう言った事かな」

「ガジェットに情報を集めて、ガショエタワーに保存する」

「僕の講義を一言で纏めないでよ、リフルちゃん」

 

 そもそも途中からイーゼル達が首を傾げまくっていたので、バカでもわかるように伝えただけだ。そのお陰か、どうやら皆理解してくれたようだ。

 

「確かにそれは便利だねぇ。帰ってきていきなり緊急の依頼が入った事だって度々あったもんね」

「その分、ガジェット?とかいう奴からその依頼が来ればすぐに行けるもんな」

「それで、必要な材料ってのは?」

「うん、基本的な基盤の材料は普通に調達出来るんだけど、まず、正確な時間を測って調節する材料、ガジェットとガショエタワーを繋ぐ為の材料、ガショエタワーに情報を保存する為の材料、主な所はこれかな」

「……その材料に心当たりはありますか?」

「無論、僕は天才だからね。でも、どれも調達に面倒なものだけどね。皆で協力して、材料集めをしなきゃ駄目だね」

「それで、その材料とは?」

 

▼▽▼

 

「…………………」

「…………………」

 

 そびえ立つ果てしない塔。私達はその塔を微妙な表情で眺めていた。

 

「……とりあえず、僕達の仕事を再確認しようか」

「ええ、私達の仕事は……役目を終えた時の歯車、ジラーチ曰く朽ちた時の歯車の調達。その為に、この時限の塔の最上階にいるであろうディアルガに会いに行く事」

 

 言い終えて私は溜息をつく。ビートも、溜息はついていないものの、少し億劫そうだ。それもそのはず、この場所は私達が手痛い敗北を喫した場所で、正直2度と来るつもりは無かった。

 元々この場所に来る為にジラーチに出たって、大陸間の移動が出来る能力を身に付けたけど、そのジラーチが調査団にいたせいで、私達の能力をバラされてしまった。……そして、なし崩し的に私達が時限の塔に向かう事になった。

 

「まぁ、他の材料も面倒だったものに違いないし、逆に行った事のある場所で良かったと思い込もう?」

「……そうですね、嫌な事はさっさと終わらせましょう」

 

▼▽▼

 

 そもそも、私達が闇に染まりかけたディアルガに敗北したのは、慢心があったのかもしれない。ビートと出会って、少しヒヤリとする場面はあったものの、立ち塞がってきた敵々を倒してきた事実が、“私達が強い”という概念を植え付けてしまい、そしてその慢心があったからこそ、ディアルガに対して最強技を放ち、打ち破られた。この技なら倒せるとたかを括って、惨めにも負けた。

 だからこそ、この場所は私にとっては、その慢心を思い起こされる場所であり、訪れたくない場所であるのだ。

 私は並んで歩くビートをチラリと一瞥する。ビートはあの頃とは違った強さを持っている。無論、私もあの敗北以来、自らの力を誇示せず、驕ることなく鍛えてきた。

 

「ねえ、リフル」

「はい?」

「リフルって、負けると悔しいタイプ?」

「……悔しいというか、2度と負けてたまるかって思いますかね」

「そっか、それならいいね」

 

 ビートの意味深な質問の意図を掴めぬまま、私達は時限の塔の上層部まで辿り着く。あの時とは違って、そこまで急を要する訳ではないから、私達は安全な場所で少し休みを取る事にした。

 私達の間に会話は無い。しかし、気分は悪くない。調査団のメンバーになってから、ここまで気分の良い静かな空間は初めてかもしれない。思えば、私の師匠はまあお喋りで黙ってる時の方が少ないくらいだった。ビートもお喋りと言ったらお喋りではあるけど、それでも師匠よりはマシだ。

 ビートは依然として黙っている。まるで集中力を高めるかのように、ただそこに目を瞑って佇んでいる。ふと、私は折角の機会だからとビートの顔をマジマジと眺める事にした。

 出会った当初のビートは、いつも仏頂面だったような気がする。気怠げで、それでも戦いとなると目を輝かせて……。あの時のビートに心中を吐露されても、正直生涯共にしたいと思う事は無かったと思う。

 そう考えると、ビートの記憶を悪戯半分とはいえ呼び起こしたジラーチは多少なりとも感謝はしなくてはならない、しないけど。

 程なくして私達は再び時限の塔の頂上部を目指し始めた。頂上には確実にディアルガがいるだろうが、果たしてディアルガは私達の事を知っている(覚えている)のだろうか?それに、知っていたとしてもそう簡単に朽ちた時の歯車を渡してくれるのだろうか。

 私の心配を余所に、ビートは勇み足でダンジョンを突き進んでいる。なんだかダンジョンに入る前の沈みがちなビートとは大違いだ。この短い間にどんな心境の変化があったのだろうか。

 

「リフル、頂上だよ」

「…………そうですね」

 

 太陽の光が私達を照らす。時限の塔という事を知らなければ、ゆっくりと日光浴でもしたいところだ。しかし、この時限の塔の主が、再びこの場に訪れた私達を紅い双眸で見つめる。私とビートを交互に見つめ、そしてゆっくりと口を開いた。

 

「……そうか、心の片隅に残っていたこの気持ちは、お前達のものだったのか」

「…………覚えて、いらっしゃるので?」

「ああ。リーズイズという探検隊によって正気を取り戻した私だが、しかし、リーズイズだけじゃない誰かが私を止めようとした、そう思えてならなかったのだ」

「まあ、僕達はコテンパンにやられちゃった訳だけどねぇ」

 

 厳かな雰囲気を醸し出すディアルガに若干私は萎縮しているのだけど、ビートのハートは強過ぎる。

 

「して、お前達はどうしてここに?」

「ああ、それはですね……」

 

 私はディアルガにここに来た目的を話す。話を聞いたディアルガはコクリと頷いた。

 

「いくら役目を終えた時の歯車と言えど、普通ならば渡す訳にはいかないが……お前達なら構わないだろう。しかし、わかっているだろうが悪用すれば私にはすぐにわかるぞ」

「流石、時を司ると言われてるだけあるよね」

 

 全く怯えた様子を見せないビートの言葉に、私は頭の中に何かが過った。

 

▼▽▼

 

『ねぇ、どうしても駄目?』

『……お主には色々な恩がある、故に出来る限り力にはなりたいが……しかし、我の力では無理だ。そもそも、我は……』

『ああ、いや、大丈夫。そりゃ、誰だっていつかは朽ちていく定めだもん。時を司る君でも、世代交代っていうのはあるもんね。……無論、僕もね』

『…………そこまでして、お主は……』

『さて、あの子に会いに行くかな』

 

▼▽▼

 

「…………ディアルガさん」

「なんだ?」

「貴方は、時を司ると言われていますが、例えば私を昔や未来に送ったりする事は出来るんですか?」

「無論、可能だ。ただ、無限の時を遡る事は出来ないがな」

「ん?リフル、時巡りでもしたいの?」

「いいえ、私にはこの時代がピッタリです」

 

 完全な確証を得たわけではない、不可解な所もある。

 

「……師匠は、私をこの時代まで飛ばした可能性があります」

「………………え?」

 

 ディアルガに物怖じしなかったビートも、ポカンと口を開け、言葉が継げない様子だ。ディアルガも顔を顰め、私の言葉に首を傾げている。

 

「……かれこれ100年以上生きている私から言わせてもらうと、その間誰かが時を越えて来た痕跡は無かったぞ」

「リフルが言ってる事が嘘だとは思えないけど、どうしてそう思うの?」

「確信してる訳じゃないですし、どうやって来たのかわかりませんけど……でも、師匠の書には存在しないダンジョンがあったんですよ。そう考えると、師匠……そして師匠に出会った私はディアルガさんが生きていた100年よりも大昔に生きていた、という仮説が成り立ちます。……無論、私は元々この時代に生きていて、師匠がこの時代に来た、という可能性もありますけど……」

「うーん、核心に近付いてはいるけどって感じなのかな?でも、これ以上考えても仕方ないし、リフルがどの時代のポケモンであろうとも僕は今リフルと出会えた事が幸せだけどね」

「…………………」

 

 ディアルガが気を使ってか、空を見上げて立ち尽くしている。結構シュールな画だ。

 

「……ま、まぁ、朽ちた時の歯車も貰いましたし、帰りましょうか」

「あ、ちょっと待って。ディアルガさん、ちょっとしたお願いがあるんですけど」

「…………?過去や未来には飛ばさんぞ?」

「そんな必要はありませんよ」

 

 ビートの両目はディアルガを見据えている。

 

「僕達と戦え、ディアルガ」

 

 


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