「よし、じゃあ今日はここまでにしようか」
「お、押忍……ありがとう、ございました……」
ある日の昼下がり、早朝からビートと特訓したアーケンはクタクタのなりながらも、ワイワイタウンのカフェ(というより集会所)に寄るのが日課だった。
「モーモーミルクで頼む……」
「あいよ!」
カフェのマスターであるガルーラにモーモーミルクを頼んでテーブル席に座ると、アーケンの前にとあるポケモンが座ってきた。
「よっ、今日も大変そうだったな」
「ブイゼルか……」
どうやらブイゼルも偶然ここに来たらしく、サイコソーダ片手に疲れた表情のアーケンを見て、笑みを浮かべている。
「あんな無害そうな顔しているビートも、実は結構スパルタなんだな」
「……ビートも、俺の為にやってくれているのはわかるんだがな……」
「ま、感謝して受け取っておくんだな。今のままじゃ全然ダメだ。遠足でも全然役に立ってなかったしな」
「うっ……」
「お前はチーム1弱い。だから俺やビート、他のメンバーも守ってやれる。だが、お前が弱い者を守る立場になった時に俺達のように守らなければならない」
「……同じ事をビートに言われたよ」
モーモーミルクを飲み干し、一息つくアーケン。ブイゼルもサイコソーダを飲み終えたらしく立ち上がる。
「今すぐに変われとは言わねえさ。それよりどうだ、ニャースシアターで面白いダンジョン映画が出たらしいぜ。折角だし観に行こうぜ」
「ブイゼル……そうだな」
▼▽▼
「いやぁ、面白かったな」
「最近あのダーテング良く出るようになったよなぁ」
「あれ?ブイゼルにアーケン?」
ニャースシアターにて公開されている“ダーデングストーリーズ2”を視聴した彼等は、感想を言い合いながらタウンを歩き回っていると、ホルビーとばったり出会った。
「ブイゼル達もダテスト2観に行ったの?」
「そう略すんだ……」
「ああ、今日は暇だからな」
「へぇ〜、オイラも暇なんだ。それでダテスト2の舞台となったフシギ平原に行ってみようかなぁって」
「あれ?ニャースシアターって特別なダンジョンでやるんじゃなかったっけ?」
「その場合もあるけど、ダンジョンアクターとして有名になっていくと、自分で好きなダンジョンを行けるようになるらしいよ」
「へー、所謂聖地巡りみたいなものか。どうせ暇だし、行ってみるか!」
▼▽▼
「ホントにありがとうございました」
「いやいや、気を付けて帰ってね」
あなぬけの玉を使って脱出していったワタッコを見送り、彼等は溜息をつく。
「……どれくらい助けたっけ、俺ら」
「……ざっと10組目くらいかな」
「……オイラ達と同じ目的で訪れていても、実力がなきゃ倒されちゃうよ……」
そう、彼等はダテスト2を観て、触発されたポケモン達がこのフシギ平原に行ってみたはいいが実力が伴わずに救助待ちになってしまったのを助けていたのだ。無論、彼等の目的も同じような理由だったのだが、流石に助けを求めている相手に対して無視するのは罪悪感が残る。
「うーん、あなぬけの玉が無くなってきたなぁ」
「いや、アーケン。オメーどんだけあなぬけの玉持ってんだよ。普通1個、まあ多くても3、4個だろ?」
「いつでも帰れるように20個は……」
「バッグの半分埋まってんじゃねえか!だからあの遠足の時もすぐに食料尽きてたんだな!?」
「流石に20個は持ちすぎだよ、アーケン……食料とか、ピーピーエイダー、後は戦略を広げるためにはタネとか枝とか持ってった方がいいよ」
「…………善処する」
若干アーケンに突っ込みつつ、彼等は進んでいく。
「ところで……話は変わるがよ」
「うん?どうしたの、ブイゼル?」
「お前らって、どんな感じであいつらの出会った?」
「……あいつらってリフルとビートの事?」
「ああ、あいつらの元々の仕事って、調査団のメンバーのスカウトだったらしい。俺も……紆余曲折あって、あいつらと出会って最終的にはスカウトされた訳だが……お前らはどうだったんだ?」
「オイラ、元々は映画作りをしていたニャースの下で働いてたんだけどね……リフルに勇気を貰って、ニャースにガツンと言ってやったんだ。そしたら、ダンジョン巡りをドラマ化するニャースシアターっていうのを始めて……オイラはお役御免になっちゃったんだ。そこにリフルとビートがスカウトしてきた感じかなぁ。仕事も無くなって困ってたし、嬉しかったよ」
「俺は……おうごんのりんごを欲しがっていたビートと一緒にセカイツリーに行ったのがきっかけだな。飛べないし、戦えない俺をビートはなんとかするって言って調査団に誘ってきたんだ。結果が今の状況だけどな」
「へぇ、ビートも結構強引なんだな」
「それで、ブイゼルはどうだったの?」
「俺はビートにコテンパンにされて、リフルにもコテンパンにされた後、なんやかんやあってスカウトされたな」
「なんやかんやってなんだよ」
「なんやかんやはなんやかんやだ。俺は絶対にあいつらをギャフンと言わせてやる。今んとこ全戦全敗だけどな」
「え、ブイゼル、ビート達に戦い挑んでるの?」
「暇さえあればな」
血気盛んなブイゼルに対し、微妙な顔を浮かべるアーケン。
「だがわかった事はあいつらは互いに信用し合ってて、だからこそあんな恐ろしい合体技が放てるんだろうな」
「ああ、氷蝕体を壊した際に出してた技ね。リフル、未進化なのにハードプラントを使えるって結構凄いよね。ますますブイゼルの勝ち目がないけど?」
「馬鹿野郎、合体技には合体技だ。このダンジョンを攻略しつつ、俺達の究極の合体技を生み出すぞ!」
「えっと、俺も……?」
「というか、ブイゼル的にはありなの?」
「俺達対ビート達だったらどうにかいけるんじゃねえかなって」
思わず呆れた眼差しをブイゼルに向けるアーケンとホルビー。その時点で負けを認めているようなものだとわかっていないのだろうか。
「……でも合体技には憧れるよね。アーケンもこれをきっかけにもっと戦えるようになるかもしれないし、やってみようよ」
「……わかったよ、やってみるだけやってみるさ」
「よーし、ブイゼルアーケンホルビートリオここに結成だ!!」
▼▽▼
彼等がそんな誓いを立てていた頃、調査団の食堂でペロッパフは悩んでいた。
「もう少し味付けが甘い方が良いですかね……?」
新作メニューを考案し、作ってみたはいいが、美味しいものの何か欠けているように思えるのだ。是非とも他のメンバーの意見を聞きたい所だが、生憎調査団のメンバーは大抵が出払っており、唯一残っているジラーチも睡眠の時間で無理に起こせない。結果、ペロッパフは自分で作って味見をしてみるのだが……
「ああ!ま、また食材が尽きてしまいました!!」
味見という名の食事をしているペロッパフは、何度も何度もタウンに食材を買いに行っている。
「うぅ……何が欠けているのかわからないですし……でも美味しいからついつい食べちゃうんですよね……」
誰もいないのに言い訳をするペロッパフ。
「ともあれ……買い物に行きますか……」
結局ペロッパフは重い足取りで再びタウンに食材を買いに行ったのであった。
▼▽▼
タウンを歩いていると、ペロッパフは何やらポケモン達が集まっているのを見かけた。少し気になったペロッパフは、その集まりに近寄ってみた。
「………うわー、すごいですねぇ〜」
思わず感嘆の声を上げるペロッパフ。集まりの中心では、バイバニラというポケモンが色んな氷像を作っていた。
「あの方は誰です?」
「ん?ああ、あいつはね……」
近くにいたブルーにペロッパフは話しかけると、ブルーは怖い笑顔を浮かべながら色々と教えてくれた。どうやらあのバイバニラは芸術的な氷像を作る為に様々な大陸間を歩いているらしい。自分が見てきたもの、感じたもの、それら全てを氷の像という形で表していく。美味しさを求める為に色々な場所に幻の食材を探すペロッパフは、バイバニラに対して親近感を抱いた。
「それにしても、綺麗ですねぇ……」
キラキラと光る氷像に目を奪われていると、ペロッパフはふとある事を思い付いた。
「…………そうだ!」
思い付いたからには即実行。氷像を見てみたいという後ろ髪を引かれる思いはあるものの、ペロッパフはすぐさま調査団の食堂へと戻っていく。
▼▽▼
「出来ました!!!!」
ペロッパフが思い付いた事、それは見た目もまた美味しさである事。今まで作ってきたペロッパフの料理は、美味しいものの見た目を楽しませる何かは無かった。しかし、今ペロッパフの前にあるのは調査団のメンバーが砂糖菓子で作られ、ケーキの上で楽しそうに過ごしているように見える。
「流石に皆の形を作るのは面倒でしたけど……だからこそ食べちゃうのが勿体無い程の出来ですね!私がそう思うなら、尚更ですよ!さて、これは今日の晩御飯の後に皆に振舞いましょう」
ペロッパフはそのケーキを上機嫌で冷蔵庫へとしまっておく。
「さーて、他の料理も作りましょうかね!」
その夜のご飯は大層盛り上がったという。