ポケモン不思議のダンジョン 空の外伝   作:チッキ

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Chapter2-7 それぞれのメンバーの過ごし方
第37話 クチート・ジラーチ


 調査団施設の一角に、その部屋はある。古代文字で書かれた文献だらけの本が沢山ある部屋だ。そんな部屋で、調査団の考古学者、クチートは文献を読み漁るのであった。そんな彼女はどこか嬉しそうな表情だった。

 

「珍しいですね、鼻唄とは」

「!!……なんだ、団長か。私は忙しいんだ、構ってる暇はないぞ」

 

 そんな彼女の部屋に訪れたデンリュウはやれやれと首を振った。

 

「全く、いつも素っ気ないですねクチートは」

「私は無駄な時間を過ごす暇は無いだけだ」

 

 文献から一切目を離さず、デンリュウの事を少し足りとも見ない彼女。そんな彼女の様子を見て、デンリュウは再び首を振る。

 

「クチートにお客さんなんですが……これじゃあ梃子でも動きそうにありませんね」

「それを最初から言え!!」

 

▼▽▼

 

 彼女が考古学に憧れた理由は、幼い頃に偶然掘り出した化石だった。幼かった彼女は、珍しい形の石だとした捉えていなかったが、それが世紀の大発見となると、たちまち彼女は有名になった。

 色んなポケモンから褒められるという経験をした彼女は、また新しい発見をすれば注目されると思い、至る所を掘りまくるようになったのだ。

 今はそんな事はしないし、褒められる為にやっている訳ではないが、考古学が好きになるきっかけであったのは確かだった。そんな彼女は、今日とあるポケモンとの対談を予定していたのだ。

 

「散らかっているが、適当に座ってくれ。今お茶を出す」

「あ、ああ……すまない」

 

 先程のデンリュウへの対応と打って変わって、意気揚々と客を出迎えていた。その客とはサザンドラ、何百年何千年も氷漬けにされ、コールドスリープ状態だったサザンドラは、考古学を学ぶ彼女にとっては正しく生きた証言者だった。

 そんなサザンドラと彼女を巡り合わせたのはペロッパフの一言で、リフルが世界中を旅していたサザンドラを捕まえてきたらしい。

 

「あんたの住んでいたというドラーク村という情報から察するに……あんたはおおよそ1000年前の世界に生きていたという事になる」

「あー……その前によ、あいつらには恩があるし、それに応えようと思って来たけど……伝説のポケモンだったり、キュウコンとかじゃ駄目なのか?寿命が長いポケモンは1000年以上生きているだろ?」

「伝説のポケモンはまず出会えないし、そういう寿命が長いポケモンは大抵覚えてないだの言うんだ……その点あんたは長い間眠っていたような感覚で記憶があるだろ?」

「いや、それがよ……鮮明に覚えている訳じゃねえんだ。所々靄がかかってるような……確かに昨日今日の出来事みたいな感覚はあるんだがな?」

「…………そうか、まぁ、あんたの知っている限りでいい」

 

 期待外れだ、と言わんばかりに彼女は溜息をつく。

 

「まずは、これを見てほしい」

 

 プルンゲルのようなポケモンが書かれた文献をサザンドラに見せる彼女。

 

「そいつは……大昔にこの世界に襲ってきた別世界のポケモン……らしい。ポケモンに取り付き、超強力な神経毒を注入する事でそのポケモンを傀儡化すると言う。その性質から、我々はパラサイト、と仮称しているが……詳しい事はよくわかっていない。何か、わかるだろうか?」

「…………俺には関係の無かった話だが、俺の親のその親が幼い頃に、そいつらは現れたらしい。言伝だから、真実かはわからないが……そいつの名前はウツロイド、自らをウルトラビーストと評していたらしい」

 

 彼女の目は見開く。そしてすぐさま紙とペンを取り出し、サザンドラの証言をメモし始めた。

 

「ウツロイドの特徴は、さっき言った通りだが……そのウツロイド以外にもウルトラビーストはいたらしい」

「そいつらの話は聞いた事があるか……?」

「俺が聞いたのは……マッシブーンって奴だったな。事あるごとに筋肉を見せつけ、力強さを誇示していたらしい。その見た目に違わず、拳一振りであらゆるものを粉砕したらしい」

「……なかなか覚えているものなのだな」

「いや、恐らく知識としてだからじゃないか?その話を聞いた俺は……へぇ、そんな強い奴がいるのか!よし、もしも相対した時の為に備えておこう!!とか思ってたんじゃないだろうか。正直そこら辺の区別は曖昧だが……俺の知識の話ならいくらでも提供出来る」

 

 彼女は満足そうに頷いて、サザンドラとの対談を続けた。話し始めて1時間は経った頃、彼女の部屋にお茶を持ったツタージャのリフルが訪れた。

 

「……学者冥利に尽きるのはわかりますが、少し休憩されてはいかがですか」

「あ、ああ……そうだな。ありがとう」

「…………ありがとう」

 

 リフルに対して、少し気後れしているサザンドラを見て、彼女はふとある事を思い出した。

 

「そういえば、あんたを氷漬けにしたであろうポケモン……そいつは確か大きさはリフルくらいで、宙に浮いてたんだよな?」

「……ああ、そうだな」

「残念ながら私も条件に相当するポケモンは見つからない……しかし、ウルトラビーストという可能性はどうだろうか?」

「確かに……それなら皆がわからないのも納得だ。俺も旅をしている中で、色んな話を聞いてたんだが……」

 

 出されたお茶には手を付けず、休憩を促したリフルも呆れて首を振る。しかし、それが彼女、調査団考古学者クチートなのだ。

 

▼▽▼

 

 調査団の最上階、天文学者のジラーチは大抵そこで仕事と昼寝をしている。つい最近まで、メンバー不足に悩まされ、ジラーチもまた寝る間を惜しんで働いていた。

 今はゆっくりと寝る事が出来る、そう思ったジラーチは昼寝をしていると、ニャビーのビートに叩き起こされたのだ。元々調査団のメンバーは知っているのだが、ジラーチは寝起きが非常に悪い。その為、寝ているところを起こすと襲いかかってくる事が多いのだが……

 

「……頼むから寝起きに炎技はやめてね、これでも僕は鋼タイプ有しているんだから」

 

 まさかのビートに敗北を喫してしまった。寝ていた自分に強烈な一撃が不意に来たので、避けられるはずもなかった……とジラーチは自分のプライドをどうにか保ちながら。

 

「というか、ビート君がそんな事するとは思わなかったよ」

「僕達互いに理解し合える程一緒に過ごしてます?」

 

 痛い所を突かれた、と言わんばかりにジラーチは苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

「……じゃあ何?君は僕と仲良くなる為に僕を叩き起こしたの?それならお生憎様だけど好感度減少中だよ」

「寝ているラッチーと過ごしていても意味ないし、それに僕は普段のラッチーの様子が大好きだからね」

「…………リフルちゃんが苦労するのも分かる気がするよ」

 

 ビートのペースに乗せられていると感じたジラーチは、どうにか自分のペースに持っていこうと話題を変える。

 

「ところで、ビート君はリフルちゃんと仲良いけど……」

「仲良いのは当たり前だよ、生涯共にするパートナーだからね」

「……そう」

 

 食い気味に訂正され、やはりペースを取られているジラーチ。

 

「……リフルちゃんとキ」

「それ以上口開いたらまた喰らわせるよ」

 

 ビートの牙に炎が灯ったのを見たジラーチは悔しそうに話題を続ける事を諦めた。

 

「それより、僕はラッチーの事をよく知りたいな」

「……常識の範囲内ならなんでも答えてあげるよ」

 

 叩き起こされた腹いせも、ペースを乱された意趣返しも、全て無意味に終わったジラーチは心の中に敗北感を抱えながら投げやりに答えた。

 

「ラッチーって願い事を叶えるポケモンだよね?現に僕達もラッチーを頼った訳だけど……それを使ってメンバー不足の事をどうにかしようとか思わなかったの?」

「……まず、僕は自分の願いは叶えられないからね。そして仮にメンバーの誰かに代わりに願って貰おうとしても……ここじゃ無理だよ」

「…………ひょっとして、ほしのどうくつじゃなきゃ駄目なの?」

「厳密に言えばねがいのどうくつも。ただ、僕の生まれはほしのどうくつだから、僕はほしのどうくつの、更に最深部じゃなきゃ願いを叶えられないんだよ」

「という事は……ねがいのどうくつ生まれのジラーチもいるって事?」

「そうらしいけど、恐らく眠ってるんじゃない?」

「あれ、そうなるとラッチーはどうして起きてるの?ジラーチって本来1000年に1度7日間だけ目を覚ますポケモンだよね?」

「それはリフルちゃんの師匠が関係あるんだ。リフルちゃんの師匠が僕に1000年の眠りを必要無いようにしてくれたんだよ。あ、言っておくけどリフルちゃんの師匠はジラーチじゃないよ」

「うーん?でも、そんな芸当が出来るポケモンっていたかなぁ?リフルの話じゃ、強力な氷技を使うとも聞くし……」

 

 ビートが悩んでいるのを見て、意地悪く笑うジラーチ。これこそ、自分の求めていたものだと。

 

「そもそも僕以上にリフルの隣に相応しいポケモンなんていないぞ……?」

「油断した所の惚気やめろ」

 

 

 


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