ポケモン不思議のダンジョン 空の外伝   作:チッキ

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chapter2 レガリアとして
第4話 探検隊レガリア


 事の発端は、リフルの住処に届いた手紙だった。パッチールのカフェの店主、パッチールの野郎が俺達の事を店に訪れるポケモンに話を尾ひれをつけて話す所為で、毎日のように探し物や救助の依頼の手紙が届くのだ。

 勝手に勘違いし、勝手に依頼してきたのだから依頼を受ける義務は無いのだが、やはり無下に出来る訳もなく。俺の鍛錬にもなるし、色んなダンジョンにも行けるから(しかしやっぱりリフルの許可が必要だから然程行っている訳ではない。ちなみにリフルの許可が降りなかった場所はリフルが1匹で依頼を遂行してしまう)俺としてはありがた迷惑ありがた多めって感じだ。

 それに依頼と行っても、無茶な依頼をしてくるポケモンもいないし、お礼として色々もらえるし、別に良いかと思っていたのだが…

 

“ボクはあくのだいまおう!君たちのかつやくは聞いているよ!そんな君たちにボクのまりょくの元であるセカイイチをりんごのもりでとってきて欲しいんだ、たくさんほしいなぁ。もちろん、とってきてくれたらお礼もするよ! プクリン”

 

 見ていて頭が痛くなる内容だった。文頭のあくのだいまおうというインパクト、そのくせに依頼の内容はセカイイチを取ってきて欲しいという見当違いな依頼。そして極め付けは自分の正体を書いてしまう阿保さ、しかもそれがかのプクリンギルドの親方。

 

「…どこからツッコめばいいんだ?」

「私はあくのだいまおうと言いつつ自分の正体を明かしてしまう間抜けさですかね」

 

 俺達の活躍があのプクリンに伝わっている、というのは嬉しい所はあるけれど、何もこういう形で出会うのは嬉しくもなんともない。

 

「…が、折角のあのプクリンの依頼だ。無視する訳は無いだろう?」

「ええ、そうですね。場所もりんごのもりなら、良いですかね」

 

 何故だか少し不満そうな顔をしているが、ともあれ依頼を成功すれば、俺はきっとさらなるダンジョンへと行けるはずだ、頑張らない訳がない。

 

▼▽▼

 

 私が彼、ビートが勝手に色んなダンジョンに行く事を禁じているのは何も彼が弱いからとか、そういう訳ではない。

 彼が目覚め、人間であると言い放ち、理路整然と私に説明していた時、彼は聡明であると私は感じた。加えて、ポケモンになってしまった混乱があるはずなのにそれでも彼は冷静だった。

 しかし、不思議のダンジョンというものを知った彼は意気揚々と毎日のようにダンジョンへ出かけるのだ。彼は鍛錬目的だと言って、鍛錬にもなりやしないダンジョンを、私の言い付けを守って、鍛錬に向かっているのだ。一周回って馬鹿なのだと思う。

 そんな彼が私に新しいダンジョンに向かっていいという許可が降りた時、非常に嬉しそうに、非常に興味津々な様子でダンジョンへと向かうのだ。勿論、今まで教えた知識を基がしっかりしているのはいい事なのだが。

 ダンシング・セニョールことルンパと戦った時の彼は、いつもより漲ったようにみれた。大ダメージであろう滝登りを喰らったあの瞬間でも、彼は強敵と戦える嬉しさの笑みを崩しはしなかったのだ。

 だから恐ろしい。彼の目の前に自分より強い者が現れてしまったら、きっと彼は負けるとわかっていても勝負を挑んでしまうのだろう。きっと彼は私が許可していないダンジョンの数々を1匹でも制覇する事は出来るだろう。現に、りんごのもりを1匹で向かわせているし。しかし、未開の地に蔓延る強敵に出会ってしまったら彼は戦ってしまう。戦うだけしか選択肢にない。

 だから私は許可しない。彼が圧倒的な力を手に入れるか、あるいは逃げるという選択肢を手に入れるまでは。

 

「私は私で、もう1つの依頼を受けておきましょう」

 

 プクリンの依頼とは別のもう1つの依頼。彼が見つけてしまったらきっと彼はこちらに興味を抱く筈だから、私は隠しておいた。

 

“突然、トレジャータウンで噂になった君達の強さを知りたい。もし、君達にその気があれば、あんやのもりに来てくれ、いつでも待っている。 レイダース”

 

 かの有名なプクリンギルドの親方の依頼に加え、あの伝説の探検隊レイダースからも依頼が来てしまった。私達はそんなに有名になったつもりはないのだけど。

 

「…だけど、あのレイダースの依頼、無視する訳にはいかないです、ってね」

 

▼▽▼

 

 ダンジョンの敵を倒し、アイテムを拾いながらセカイイチがあるという最奥部を目指していた俺は、突然目の前に現れた3匹衆に呼び止められた。マニューラ、アーボック、ドラピオン。

 

「そこのあんた、あんたの持ってる食糧をちぃーーーっとばかし、いただきたいんだ」

 

 邪悪な笑みを浮かべ、近寄ってくるマニューラに、俺は猫騙しを決めた。

 

「ひっ!?」

「倒れそうな奴にならまだしも、バッグの中から大量の食糧が見える奴らに譲る食糧は無い!」

 

 怯んだマニューラに火炎放射を放つ。しかし、俺の火炎放射はアーボック自身が盾になることで防がれてしまった。

 

「なかなか良い度胸じゃないか…アタシ達、MADを怒らせたんだ…覚悟しろよ!」

 

 3匹が俺を取り囲む。全方向に注意していないと、ヤバそうだな。

 

「凍える風!」

「泥爆弾!」

「クロスポイズン!」

 

 息のあった3匹は俺に同時に技を放つ。避けられる筈もない、3匹の技は俺に直撃…

 

「身代わり」

 

 身代わりに技を受けさせ、近くにいたドラピオンに回避不可能な火炎放射を放つ。身代わりで敵の注意と技をそらし、死角から攻撃する。避けられない火炎放射にドラピオンはダメージを喰らう。顔振りからまあまあのダメージだ。

 そしてすぐに距離を取って次の攻撃に備えようとしたが、俺はその場から動けなかった。

 

「へっへっへっ…持ってて良かったぜ、このリボン…」

 

 ドラピオンは何かのリボンを見せびらかす。

 

「冥土の土産に教えてやるよ、こいつが持ってんのかスコルピのリボン、非常にレアなリボンなんだけど、こいつと進化前のスコルピしか効果が無いんだ。しかし、その効果は近くから攻撃してきた相手を影踏み状態…つまりその場から動けなくさせる効果があんだよ!」

 

 専用装備、そんなものもあったのか。それだったら火炎放射を遠くから放てば良かった。だけども後悔している暇はない。身代わりも体力を削るからあまり使いたくはない…

 

「まずはお返しだ、どくどくのキバ!」

 

 どくどくのキバを喰らい、毒状態にさせられる。モモンの実を食べなくては…!

 

「おおっと、させないよ。さしおさえ!」

 

 マニューラがそう言うと、モモンの実が入っているバッグからアイテムを取り出せなくなる。アイテムを使用させなくする技か、今の状況じゃ非常に不味い…

 

「俺はかみなりのキバで」

「俺はどくどくのキバで」

「じゃああたいはメタルクローで、ジワジワと嬲ってやろうじゃんか!」

 

 再び3匹同時の攻撃、しかし先程とは違って身代わりは使えない。3匹の攻撃を同時に喰らい、身体中の痛みに耐えながら、俺はただ機を待っていた。

 

「………下衆共が」

「あぁ?なんか言ったか?」

「…この下衆共が、と言った」

 

 目に見えて、怒りの表情をする3匹。

 

「どうやらもっと…痛い目をみたいようだね!!」

 

 芸がないのか、またまた3匹同時に襲いかかる。それが俺の策略とは知らずに。

 

「リベンジ!!」

 

 身体から出てきた衝撃波が3匹を貫く。そしてリベンジを喰らった3匹は地面にひれ伏す。どうやら倒したようだ。さしおさえの効果も影踏み状態も治っている。モモンの実とオレンの実を齧って、3匹を放っておき、先へと進む。

 

「あんたの顔…覚えたからな…」

 

▼▽▼

 

 りんごのもりの最奥部にある木に、セカイイチと思われるりんごが生っていた。セカイイチは傷が付いてしまうとそこから旨味が逃げやすく、出来れば綺麗な状態で収穫するのが望ましいらしい。例えば、木を揺らして落とすなどそういうやり方はあまりよろしくはない。

 幸い、俺は身軽だし、木登りも得意だ。さっさと収穫して帰ろう。木に登ってみると、案外沢山ある。確かプクリンは出来れば沢山欲しいと言っていたから、取れるだけ取っておこう。

 しかし、もしかしたら他にセカイイチが欲しいポケモンが来るかもしれないから4、5

匹分のセカイイチは残しておくようにしておいた。

 

「さて、帰るか」

 

 帰り際、りんごのもりに向かっていくポケモン達がいたから、俺の判断は正しかったと言える。後はセカイイチをプクリンに渡せば、依頼達成だ。

 

▼▽▼

 

 沢山のセカイイチを持って、一旦住処に戻るとリフルがいなかった。プクリンのギルドに1匹で行くのもなんだか恥ずかしいし、リフルの帰りを待っていると夜になってしまった。

 

「おかえり…って、リフル、お前怪我してるぞ」

「ただいまです、それは貴方も同様でしょう」

 

 互いに怪我している場所を治療しながら、俺はバッグの中にパンパンに入ったセカイイチを見せた。

 

「ほら、これをプクリンに渡せばいいんだろ?」

「ええ、そうですね」

 

 大分遅くなってしまったが、俺達はプクリンにセカイイチを届けるため、プクリンのギルドに向かった。

 

「………どうやって入るんだ?」

「さあ?私も入ったことありませんから」

 

 入り口の前の地面に、変な格子があるのも胡散臭いし、とりあえずは建物をグルリと一周してみようと思う。

 

「何もないですね」

「そうだな…うっ」

 

 先程の痛みがいきなり現れ、俺はバランスを崩し、横に倒れる。横には崖、俺はそのまま崖から落ちていく。

 

「うわああああああ!?!?」

「何やってるんですか!!」

 

 何故か共に落ちているリフル。よく見ると、倒れた時にどうやらリフルのポーチを一緒に掴んでいたようだ。

 

「くぅっ!」

 

 偶然にも凹んでいた部分に俺は掴めた。

 

「…どうするんだ、この状況…」

「貴方の前足の片方は私のポーチ、もう片方は掴んでいますしね」

「リフルの蔦はどうだ?草タイプだし、出せるだろ?」

「ええ、出せますよ、普段ならね」

「…普段?」

「諸事情により、今は出せません」

「ど、どうすればいいんだよ…!」

 

 徐々に掴む手も疲れてきた。このままじゃ、落ちてしまう。

 

「こっちからセカイイチの匂いがする!」

 

 奇妙な声に奇妙な台詞。どうやら凹んだ部分は、プクリンのギルドの窓の部分だったらしい。そこから、親方のプクリンが顔を覗かせてた。

 

「あっ!君達はリフルとビートだね!君達の活躍は聞いてるよ〜」

 

 今にも落ちそうな俺達に何にも驚くことなく、朗らかに言うプクリンに一瞬脱力しそうになった。

 

「とりあえず、依頼のセカイイチは持ってきたんで、引き上げてもらえますか?」

「セカイイチ!?いいよ、引き上げる!」

 

 そう言ってプクリンが俺の手を掴むと、全く力んだ様子も無く、俺達を引き上げた。引き上げられた場所はどうやら誰かの部屋らしい。

 

「それで、セカイイチは!?」

「………これです」

 

 非常に満面の笑みでセカイイチを受け取るプクリン。そしてそのセカイイチを頭の上で回し始めた。

 

「ルン♪ルン♪セカイイチ♪」

「………なんだか、どっと疲れたな」

「………そうですね」

 

 さっさと家に帰って寝てしまおうと思い、この場からさっさと出ようとした時、部屋の扉が乱暴に開かれた。その瞬間にセカイイチを頭の上で回してたプクリンはそのセカイイチを口の中に放り込んだのを俺は見逃さなかった。

 

「親方様!………って、あんた達誰だい?」

「私の名前はリフル、そしてこちらがビートです」

「これはご丁寧にどうも。…いや、そうじゃないよ!」

 

 部屋に入ってきたペラップは俺達に声を荒げて言った。

 

「ここの弟子達ならまだしも、知らない奴らがどうして親方様の部屋に入っているんだい!ねえ、親方様!?」

「ムグ…ムグムグ…」

「………親方様?まさか、またセカイイチを摘み食いしてるんですか…?」

「ムグッ!?」

 

 口の中にセカイイチを入れたまま、なんとも間抜けな顔をしたプクリンは否定するように首を振る。…いや、騙せないだろ、普通。

 

「私達はそこのプクリンにセカイイチを取ってきてほしいと頼まれたんですよ、この手紙で」

「えっ?どれどれ……………………………………親方様ァーーーーー!!!!」

 

 リフルから手紙を見せてもらったペラップはついにはプクリンに渡した残りのセカイイチを奪い取った。

 

「ムムググ!!」

「親方様がセカイイチを摘み食いするからセカイイチ不足が起きるんですよ!今日も結局は失敗してるけど、リーブイズが取っていったし、ドクローズの皆さんにも取ってきてもらってるのに、どうして外部のポケモンの力を借りるんですか!!」

「多分、内部だとすぐバレるからと考えたんじゃないですかね?」

 

 リフルの言う通りだとは思うが、結局はバレてしまってる。せめて受け取り場所を他の場所にすればよかったのに。

 一通り説教をし終わったのか、ペラップはバツの悪い表情でこちらに振り向いた。

 

「そのー、なんだ。今回は有難く貰っておくが、もし次回同じような手紙が届いたら無視してくれ」

「………ペラップのケチ」

「それと、今回の分も一応お礼をしておこうと思う。思い出したんだが、お前達は最近巷で話題になっているらしいな」

「言うほどでもないですけどね」

 

 しかも原因がパッチール。

 

「それでお前達の所に依頼がしょっちゅうくるとかなんとか」

「まあ毎日1、2通ですけど」

「それらを全部、このプクリンのギルドの掲示板に載せるようにしておく。それとお前達の出入りも可能にしておく。そうすればお前達の都合で依頼がこなせるはずだ」

「加えて、親方様の変な依頼を受けさせなくて済むと?」

「…そうだ」

 

 しかし、願っても無い話だな。毎日ようにくるから、それに時間が潰されてしまうのが少し煩わしかったんだが、そうなれば俺達が俺達のタイミングで依頼を遂行出来る。

 

「そうですね、御言葉に甘えさせていただきます」

「じゃあ僕からも!」

 

 セカイイチを食べ終わったプクリンは何かを取り出した。

 

「…これは?」

「これは探検隊キット。バックは君達は持ってるから説明はいらないよね。不思議な地図は君達が行ったことのあるダンジョンが記されるよ!そしてこの探検隊バッチはつけていれば、色んな恩恵が受けられるんだ」

「それ、実質私達に探検隊になれって言ってますよね?」

「そうだよ?」

「…いいんじゃないか、少なくともデメリットは無さそうだし」

「ま、そうですね」

「うん、じゃあ探検隊の名前をビシッと決めてよ!」

 

 …探検隊の名前だと?…そういえば、途中絡まれたあいつらもMADとか名乗っていたな。

 

「私はそういうの興味無いんで、貴方がお願いします」

「えっ!?あっと…そうだな…」

 

 適当に脳内に浮かんだ単語で良さそうなもの…

 

「レガリア、でどうだ…?」

「いいと思いますよ、言い易いですし」

「レガリアでいいんだね?行くよ、登録登録…タァーーーーー!!」

 

 パッチールの依頼から、まさか探検隊をするようになってしまった俺達。この先一体どうなってしまうんだ…?

 とりあえず、パッチールは1発だけ殴っておく。


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