ポケモン不思議のダンジョン 空の外伝   作:チッキ

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第29話 おうごんのりんごは渡さない

 リフルに、セカイツリーに向かう事を伝え(少し残念そうな顔をしていたけど)僕は、アーケンこと、アウィスと一緒に、苦労して来た道を逆戻りし、セカイツリーへと向かった。どうやら、このルートはアウィスの言うことには空を飛べるなら楽、らしい。

 

「まぁ、俺は空飛べねえんだけどな……」

「そっか、そうだったね」

 

 アーケンという種族は飛行タイプ、そして翼を有しておきながら、空を飛ぶ事が出来ない。

 

「だからなんだろうな……俺、高い所が大好きなんだ」

「……セカイツリーに行きたいって言ったのもそういう理由?」

「ああ、そうだな。そうだと思う」

 

 このセカイツリーがどれだけ高いかわからないけれど、それでアーケンが少しでも喜んでくれるなら、喜んで協力しよう。無論、僕の目的であるおうごんのりんご(というよりみずのいし)もあるんだし、どちらも損はしないはずだ。

 長い間歩いていると、ようやくセカイツリーの入り口が見えてきた。上を見上げると、なかなかの高さがある。ただ、時限の塔を登ったことのある僕としては少し拍子抜けするけど、どうやらアウィスは違うみたい。早く登りたい、という気持ちが表情からヒシヒシと伝わってくる。

 

「よし、早速行こうか」

「ああ、よろしく頼む」

 

▼▽▼

 

 セカイツリーという名前から仰々しさを感じるが、実際の所は拍子抜けだ。迫り来る敵々も大したことは無い。

 

「うーん、油断する気は毛頭無いんだけどさ、ちょっと期待外れかなぁ」

「まぁ、ダンジョンの名前なんて最初に見つけた奴が付けるものだからな、そいつはここがセカイツリーと思ったんだろうよ」

「へぇ……ところでアウィス」

「アウィス……ああ、俺のことだったな。なんだ?」

 

 僕は僕の後ろで気丈に振る舞っているアウィスに振り向き、少し溜息をつく。

 

「……君はちょっと慎重過ぎないかい?」

「へ!?あ……いや、それはだな……」

 

 先程からアウィスの戦いぶりはどうも見ていて危なっかしいというか、勢いがない。攻めるべき場所で攻めあぐね、結果自分を追い込んでいる。

 昔の僕は攻め過ぎてダメージを喰らうのに対して、アウィスは守り過ぎてダメージを喰らってしまう。どちらにせよ、よろしくない戦い方だ。

 

「……俺、戦いとなるとどうしても弱腰になるんだ……」

「君の特性は戦闘中は常に発動しているのかい?」

 

 なんとなくセカイツリーに一緒についていって欲しい理由がわかった気がする。アウィスは全力が出せないタイプだ。その為、本来なら簡単であるダンジョンも攻略が難しい訳だ。

 

「……君のその性格はどうにかした方がいいかもしれないね」

「それは俺だってわかってるんだが……」

 

 まぁ簡単に治せれば苦労はしないって訳だ。しかしそのままにしておくのもよろしくない。

 

「実践経験は積んでいるの?それでも駄目なの?」

「ああ……色んなダンジョンで戦ってみてるが、やっぱりどうしても駄目なんだ……」

「うーん……君、なんか昔にあったとか覚えてる?もしかしたらトラウマが原因かもしれないよ」

 

 アウィスは少し考える素振りをして、首を振った。どうやら心当たりは無いようだ。ならばアウィスはどうしてそんなにも弱気なんだろうか…?

 悩んでいても仕方がない、とりあえず当初の目的であるおうごんのりんごを手に入れてからゆっくりと考えてみよう。

 

「……なぁ」

 

 アウィスの行動を逐一確認しながら進んでいると、アウィスが神妙な顔付きで話しかけてきた。

 

「どうしたの?」

「これは俺の問題だから、俺が向き合わなきゃならないってのはわかってるんだ。だが、ビートがそれを手伝う理由は無いんじゃないか……?」

「助ける理由が無くても、助ける価値はあるさ。だから助ける。別に自己満足の為にやってる訳じゃないし、君に恩を売ろうとかいう偽善的な意味でも無い。所謂、投資って奴だよ。君の可能性の蕾を咲かせるためのね」

「……でも、ビートは子供ながらいい奴だな」

 

 忘れた頃に子供扱い。風の大陸にいるって言うのに、水の大陸でされた子供扱いって事は、アウィスはきっと水の大陸出身か?それに、正直見た目で判断出来るものじゃ無いと思うけど……見た目で判断しているっていうならイーゼルとかルビー、このアウィスだって充分子供っぽいよ。

 

「……実は僕、草の大陸からやってきたんだけどさ、水の大陸のポケモンに子供扱いされることが多いんだけど……それってどういう基準なのさ?」

「水の大陸の奴…俺を含めてだが、普通に年齢で判断してるんじゃないか?生まれて7、8年って所だな」

「水の大陸のポケモンは年齢がわかる能力が付いているのかな?」

 

 正直、リフルの年齢も、調査団のメンバー全員の年齢も全くわからないし、自分の年齢は正直曖昧で覚えていないってのが正しい。

 でも待てよ、不思議のダンジョン内で倒したポケモンが仲間になった場合はどうなんだ?不思議のポケモンは倒して友情が芽生えることで自我が生まれる……しかしその前にも生きてはいたんだから年齢は……ああ、もういいや。考えても仕方ない事だ。恐らく、水の大陸の風習ってものだろう。

 

「最終的な話、どんな年齢であろうとも実力が物を言うんだから関係ないと思うんだけどな。水の大陸の奴らは大抵、子供は未熟者だって捉えてる節があるんだよな……」

「なんでだろうね、本当に」

 

 迷惑って訳じゃないけど、戸惑いはするよね。自分は立派だ、なんて思ってはいないけど、自立はしているとは思うし。

 

「まぁ……そもそも子供に助けを求めてる時点で俺はダメダメだけどな……」

「もう少し気を強く持った方がいいんじゃない?」

 

 情緒不安定なアウィスに少し不安を感じながら、僕達はセカイツリーを登っていく。

 そしてセカイツリー最上階に到達すると、如何にもな宝箱がそこに鎮座していた。

 

「……これがおうごんのりんごかな?」

「恐らく、そうだろうな……」

 

 とはいえ、何かあるかもしれないから、警戒しつつ、僕達は宝箱に近付く。

 

「……罠は、無いみたいだね」

「ここまで来て全滅は避けたいもんな」

 

 罠の有無を確認し、宝箱に手をかけた瞬間、僕は背後からの殺気に思わず振り向いた。アウィスは僕の行動に首を傾げたものの、弱気だから気配に敏感なのか、背後から近寄る影に気が付いたみたいだ。

 

「…………………」

 

 這い寄るゴンベの目は生気の無い瞳をしている。そしてユラリユラリと、僕達に近付いてくるのだ。

 

「彼も、おうごんのりんごを求めてるのかな……?」

「だとしてもヤベエよ、あの目付き!」

「そうだね、あのゴンベには悪いが倒されてもらおう」

 

 鈍重な動きをしているゴンベに攻撃を当てるのは容易い。僕はゴンベに向けてかえんほうしゃを放つ。

 

「…………………!」

 

 かえんほうしゃを喰らっても尚、ゴンベは歩みを止めない。しかし、僕を敵と認識したのか、その生気の無い瞳で僕を睨みつけてきたのだ。

 

「スピードが無い分、タフか。厄介だね……」

 

 ならばスピードで翻弄し、ダメージを与え続けるのみ。一気にゴンベとの間合いを詰めて、打撃攻撃を繰り出す。微弱なダメージだろうと積もれば大ダメージだ。

 ゴンベの動きが止まったと思うと、腕を大きく振り上げた。攻撃の予兆と見た僕は自分の攻撃を中断し、少し距離を置いた。

 振り上げた腕を力強く振り落とし、その腕を地面へと叩きつけた。瞬間、地面が大きく揺れ、地面が割れる。そして飛び出てきた岩が僕の身体にめり込んだ。

 

「ぐっ……!」

 

 ダメージは浅い、だけどこのゴンベ……なかなかの手練れだ。アウィスの方を向くとどうすればいいのかオロオロしている。……力にはなりそうもないか。

 ゴンベは再び宝箱に目線を戻し、歩みを進め始めた。あくまで、宝箱がメインで僕は宝箱を取るに当たっての邪魔者でしか無いって訳か。

 

「そう邪険にされると、こっちに目線を向けさせたくなるんだよねぇ……」

 

 小さく揺らめく炎をゴンベの目の前に放つ。ゴンベは邪魔だと思ったのか、その炎を払いのけようとした。

 

焔陽(ほむらび)

 

 炎はいきなり形を変え、ゴンベに襲いかかる。外部からの衝撃で発動する罠のようなかえんほうしゃ、名付けて焔陽。

 

「………!!」

 

 既に沢山ダメージを与えた。ゴンベのタフさには目を見張るものがあるけど、それもこれでお終いだ。

 

「大きく溜めて…………かえんほうしゃ!!」

 

 いつもより倍に息を吸って、ゴンベに放つ。

 

「………ゥ……」

 

 限界が来たのか、ゴンベはその場に倒れる。僕はゆっくりと息を吐いた。

 

「……なかなかの強さだね」

 

 ゴンベには悪いが、僕だっておうごんのりんごが欲しいんだ。ゴンベの横を通って宝箱を開けようとした。しかし…

 

「……ビート!!」

 

 アウィスの焦った声が響く。その次の瞬間、僕の身体は大きく吹き飛ぶ。薄れゆく意識に、ただりんごを手に入れるという強い意志だけで立ち上がっているゴンベを見た。


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