第28話 束の間の休暇
水中の調査団員、イーゼル。地中の調査団員、ルビー。短い期間で、私達は当初の目標の半分を達成した。それを賞賛するためか、私達は団長の部屋に呼び出された。
「いやぁ、これは天晴れ。まさか、ここまで仕事が早いとは。加えて、別件でしたが、水タイプのポケモンによる泥棒、恐喝による被害の鎮静、ワイワイタウンのさらなる活性化への助力、流石と言わざるを得ないですね」
団長は心底嬉しそうに、私達を純粋に褒めている。……そう言えば、ここまで面と向かって褒められるっていう経験をした事が無かったせいか少し照れてしまう。
「そこで!貴方達の活躍を讃えるべく、こんなものを用意しました」
そう言って、団長は2枚のチケットを取り出した。そのチケットには、風の大陸行きと書いてある。ふむ、風の大陸には行ったことが無かったはずだ。
「これは?」
「最近、自分のパラダイス作りをするポケモンが増えているんです。自分の為の、自分が作るパラダイス。そのパラダイスの中で、訪れたポケモンが口を揃えて楽しいと言うパラダイスがある風の大陸行きチケットです。元々は救助隊をやっていたポケモンが、霧の大陸で流行りだしたパラダイス作りに憧れて、救助隊をやりながらパラダイス作りをしたらしいんですよ」
「へぇ〜、僕達も全てが終わった暁にはそういうパラダイス作りも良いかもね」
ビートが満面の笑みで私の方に振り向く。まぁ、確かに全てが終わったのなら、ビートと一緒に私達のパラダイス作りもいいかもしれない。
「休暇にはピッタリです。どうですか?旅行デートでも……」
「
「リフル!ダンジョンですら使った事無い技をここで使おうとしないで!?」
団長の巫山戯た物言いについカッとなってしまった。…………別に、ビートと旅行デートをするのが嫌って訳では無いんだけど。
何はともあれ、折角貰った休暇だ。存分に楽しむに限る。
▽▼▽
風の大陸。ワイワイタウンからラプラス便を使って、パラムタウンへ到着した。初めての大陸に私もビートも、少し興奮している。
とは言っても、初めての地。そのパラダイスとやらの場所どころか、何処に行くか全くもって検討がつかない。
途方に暮れかけたその時、私達に話しかけてきたポケモンがいた。
「よぉ、お前ら、草の大陸から来たんだろ?」
「水の大陸……まぁ、元々は草の大陸ですね」
「だよな、見知った顔だしな!」
随分友好的なこのオオスバメ。はて、何処かで出会った事があっただろうか?草の大陸って事は、探検隊関係かな…?
「……そうだ、チームタベラレルのメンバーだね、リーダーがケムッソの」
「おお、知ってくれてたか。レガリアのビート、トレジャータウンでは結構有名だったが、そんな性格だったか……?」
少し訝しげな表情を浮かべたオオスバメにビートはしまったといった感じの顔をした。しかし、心配する必要は無く、オオスバメはそんな事より、と続けた。
「お前達も、救助隊チューゴローの作ったパラダイスに来たんだろ?」
「チューゴロー……まぁ、そんな感じです」
「それなら、この地図やるよ」
オオスバメが取り出した地図を受け取ると、丁寧にパラムタウンの場所とそのパラダイスがある場所の道筋が書かれていた。
「俺は十分楽しんだし、もう必要ないからな。結構な道のりだし、必要なら使ってくれよ」
「ええ、ありがとうございます」
一通りオオスバメに礼を言った後、オオスバメと別れ、その地図通りに向かう事にした。
▽▼▽
神秘の森に行き、きのみの森を抜け、キヨラ渓谷を通って、試練の岩山を踏破した所に、救助隊チューゴローの作ったパラダイスがあるらしい。休暇のつもりが、とんだ骨折りだ。
「それでも人気だっていうなら、これくらい苦でも無いんでしょうね」
「でも、僕らのような探検隊とかはともあれ、それ以外のポケモンはどうすればいいんだろうね?」
もしかしたら、他のルートがあるかもしれない。ただ、私達はこのルートしか知らないのだから、仕方なくこのルートで行くしかない。
「ていうかさぁ、このルートって飛行タイプのポケモンだったら楽そうだよね。まさか、あのオオスバメ、飛行タイプ用ルートを渡したんじゃない?」
「だとしたら、間違った善意ですね。1番困る代物です」
とか何とか言いながら、ダンジョン自体が難しい訳では無いのでさくさく進んでいく。今日の内に、そのパラダイスに到着したいのだ。
長い道程を乗り越えて、ついに試練の岩山を越えた私達は、目的のパラダイスと思わしき場所に到着した。門の所に、御丁寧に“チューゴローパラダイス”と書かれている。門を潜り、ダサいネーミングのパラダイスへと入っていくと、早速珍しいものを発見した。
「ツンベアーホッケー、娯楽施設もあるんだね」
「くじびきてん……」
「やる?リフル、くじ引き大好きだったよね」
今回は完全な休暇、こういうことをする為のものだ。早速、くじびきてんに寄ってみるとスピードくじ、スクラッチくじ、けんしょうくじの3つがあるらしい。パッチールのカフェにあるくじはスピードくじと呼ばれるものだ。スピードくじは、自分で削って、出た絵柄によって商品が変わるくじ。けんしょうくじは、買っておいて、後日発表される番号に当たれば商品がもらえるくじらしい。
こういうのは、やっぱり自分で削ってこそだ。私はスクラッチくじを買うことにした。どうやら、このスクラッチくじは6箇所の内、3箇所削って出たマークの数で商品が決まるらしい。
「……………………」
「そ、そんなに真剣にならなくてもいいんじゃないかな……?」
ビートが苦笑いしているのを余所に、私は削るべき箇所を決めあぐねていた。商品をゲットするには、マークの数は最低でも2箇所は出さなくてはならない。6箇所の内、マークが3つしかないかもしれない事を考えると、1つ1つしっかり決めて削るべきだ。
▼▽▼
と、こんな感じでリフルがくじ引きに集中しちゃったから、僕は別の所を見ることにした。そして、僕はそうこ★スッキリというお店を見つけた。
なんとも個性的な名前だけど、ここはどうやら物々交換をしてくれるお店らしい。自分の倉庫にある使い道の無いものを出す代わりに、自分が欲しい物を手に入れられる。どうやら、掘り出し物と呼べる物もあるらしい。
早速、僕の目に止まった物があった。
「これは……!」
綺麗な青色の石。みずのいしと呼ばれ、特定のポケモンの進化に必要な物だ。シャンプー、シャワーズの進化みたいに。つまり、裏を返せば、それ以外のポケモンには無用の長物なんだけど……僕のようなコレクターにも価値があるものだ。
「そいつはおうごんのりんごで交換してやるよ」
「おうごんのりんごかぁ……」
生憎それは持ってないんだよなぁ。仕方なく諦めようとした時、僕に話しかけてきたポケモンがいた。
「なぁ、あんたおうごんのりんごが必要なのか?」
「え?うーん、まぁ、そんな感じかな?」
「おうごんのりんごは、この風の大陸にあるセカイツリーって場所にあるんだ」
「……へぇ、意外な偶然だ」
アーケンの情報に、僕は口元を緩ませる。もしかしたら、手に入るかもしれない。折角の休暇だけど、折角の休暇だからこそ自分のしたい事をすべきかもしれない。
「そ、それでよ……お願いがあるんだが……」
「えっと、何かな?」
「俺と一緒に、セカイツリーに行ってくれねえか?」
1Chapterを3話に抑える流れをしちゃったせいで、何だか展開が早足な気がする…