ポケモン不思議のダンジョン 空の外伝   作:チッキ

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第27話 優しく在れども、厳しく在れ

 天下に武を布く事を宣言したビイト家。しかし、そのビイト家に危機が訪れる。エチゴのドラゴン、ウエスギ家とカイのタイガー、タケダ家による同盟及びビイト家の殲滅。神に愛されし国とはいえ、この戦国を代表する両家の前にビイト家は抗えるのか。

 そんな凶報を受け取ったビイト家の戦略会議では、家臣達は慌てていた。

 

「この両家から、このように攻められますると……」

「我が家は逃げ場を失うのじゃな……」

「し、しかし!我らには神が宿りし国!」

「されど、川中島でしのぎを削りあった好敵手同士のタケダ、ウエスギが組んだのであろう?神の力にうわまわらん力であろう……」

「嗚呼、我らには手はないのか……!?」

 

 最早これまで、そう思った家臣達だったが、ビイトは格が違かったのだ。

 

「皆の者、これより、この城を空にするんだ」

「空城の計というわけですかい。しかし、相手にはツツケラ戦法を考案したタケダ家とそれを看破した軍神ことウエスギでっせ。そう簡単に騙せますかい?」

「それがしの行う空城の計は、これまでの待ちの構えの空城の計ではない。これは攻めの空城の計だ!」

 

 ビイトが考案した攻めの空城の計、これは後に釣り野伏せと呼ばれることになる。この策に、ウエスギ、タケダ連合軍は敗北を喫することになったのだ。

 この一戦を機に、ビイト家は全国に大々的に伝わる大名となり、そして天下統一を成し遂げたのであった……

 

「……はーい、オッケーでーす」

 

 全ての撮影が終わり、ようやく面倒な案件が終わった。ニャースも満足そうだし、クオリティに目を瞑れば、結果は上々と言ったところだろう。

 しかし、私が焚きつけたホルビー……ビート命名、ルビーはどうなったのだろうか。果たして、正しい答えを出す事が出来たのだろうか?

 

「あ、あの、ニャース、さん……ちょっと、いいですか?」

「んにゃ?なんかようかニャ?」

 

 撮影が終わって嬉々としているニャースに向かって、ルビーが話しかけた。そして、何処かに連れて行った。

 私は気になって、彼らの後ろをバレないようについていった。彼らはポケ通りの少ない裏道に入っていった。そこでルビーは意を決したようにニャースに言い放った。

 

「あの映画……今のままじゃ絶対に売れないよ」

「……おミャー、良い覚悟してるニャ。ニャーの脚本にケチをつけるとはニャ」

 

 2匹の間に険悪な雰囲気が流れる。

 

「それに、路頭に彷徨ってたおミャーを救ってやったのは誰ニャ?同級生のよしみで助けてやったのに、よくもまあいけしゃあしゃあと言えるニャ」

「……それは、今でも感謝してるさ。だけど、君の間違いを僕は正さなきゃならない!」

「はっ、優等生は頭が違いますニャあ」

 

 真剣な表情のルビーに対して、全く危機感を持っていないニャース。ふむ、2匹は同級生だったのか。やはり、甘い者が損をする、そんな世界なんだろう。

 

「彼の言うことは正しいよ、ニャース」

「ニャ!?ビート!?」

 

 そこに助け舟として現れたビート。ルビーがどう説得するか私は見ておくつもりだったけど、やはりビートは優しい。……私には、その優しさも少し馬鹿馬鹿しく見えるけど。

 

「まず、戦国時代の小大名が天下統一するっていうストーリーだけど、これに関しては文句は言わないさ。確かに群雄割拠の下克上の世界だし、そういうことはあり得る。しかし、二言目には神のお陰神のお陰と、その小大名の本当の力がわからないまま、第1章が終わってしまうのはどうかと思うんだ。加えて、第1章の終わり方も、これからって展開で終わってるし、普通に第1章第2章って分けない方が良いかもしれないね。あと、ウエスギタケダが同盟を組んで攻めてくるって所は良かったんだけど、釣り野伏せって彼らの小軍じゃ難しいからね?まあ、それが成功したとしても、どうしてウエスギタケダを退けた後に天下統一したってなっちゃうのさ。そこまでのプロセスはどうしたの?君は結果さえ良ければプロセスは気にしないタイプ?それは、小説を最終回だけ読んで良い気になってるようなもので、全くもってよろしくないよね。君は自分の力を過信しているんだ、自分なら良いものが作れると。しかも生半可な力を持ってるから、周りは逆らえない……今までのルビーみたいにね」

「ニャ、ニャァ……」

 

 反論を許さないビートの矢継ぎ早の言葉は確実にニャースを追い込んでいる。だけど、その役割は本来ビートの役割ではない。

 それをビートも理解しているのか、ルビーに目配せをした。

 

「……君は昔からそうだ。自分の才能を信じて疑わない。だから周りを振り回して…。君が今まで成功してきたのは、いや、成功したと思い込んでいるのは君だけだ!」

「………………」

「君は、僕達の力も理解すべきなんだよ……。誰だって、1匹で成功するポケモンなんていないんだ。僕が君に真実を伝える決意をしたのも、僕だけじゃ到底無理だった……」

 

 ルビーがビートと、わかっているのか私の方へ向いた様な気がした。

 

「君が今までやってきたのは知り合いの中だけの事だから、立場の都合上、僕達は真実を伝えられなかった。だけど、今回のドラマに関しては君は皆に見てもらおうとしている。その心意気は買うけど、君はそれで残酷な真実を突きつけられることになる。……それくらいなら、僕が伝えるべきだ。これが優しさだと、僕は思った」

「…………じゃあ、全部が全部、ニャーの1匹よがりだったって事ニャ……?」

「そういう事になるよね」

「……………………ニャーはどうすればいいのニャ。ニャーはもう自分に自信が持てないニャ」

 

 ずっと話を聞いていた私も、ついつい彼らの話し合いの場に出てくる。

 

「貴方が作らなければ良いんですよ」

「ニャ!?」

「あれ、リフル、いたんだ」

「…………」

 

 突然やってきた私にニャースだけが驚いた。ビートは驚いた演技をしているだけだし、ホルビーも気まずそうな顔をしている。……ふむ、少しは隠密にするって事を鍛えるべきか。

 

「不思議のダンジョンでは思いがけないドラマが生まれます。それをどうにかして映像に残すことが出来れば……面白そうですね」

「そうだよ、君は創作面では全くもって駄目だけど、長所だってあるんだ。リフルさんの案を元に新しいエンターテイメントを考えようよ」

「…………そうだニャ、叩きが駄目なら引いてみよ、ニャ!ニャーなら出来るにゃ!」

「だからそういう自信過剰な所が……もういいや」

 

 そして、この後、ニャースプロデュース“ニャースシアター”という新しいエンターテイメントがワイワイタウンに登場した。ニャースの伝手を利用して、小型の高性能カメラを用いて、様々な制約の元でダンジョン巡りを撮影させる。そしてその撮影された映像を皆に提供する、という単純なものだったが、これが大流行。そのダンジョンを成功した者の映像を見て、自らのダンジョン巡りの攻略法を探るという新たなダンジョンの楽しみ方が生まれたのだった。

 

「いやぁ、面白かったぁ」

「…ビート、自分の役割わかってます?」

 

 ビートもその1匹。魅せる技と魅せる策で、今や再生数ナンバーワンのポケモンとなっている。そのせいか、ワイワイタウンで知らないポケモンはいないと言われているくらいだ。

 

「リフルも一緒に行こうよ、これもまたコミュニケーションの輪が広がる元だよ」

「私は遠慮しておきます、早く自分の役割を全うしたいので。まだ水の調査団員しかスカウトしていないんですよ?」

 

 私の言葉に、ビートはニヤリと笑った。

 

「そんなリフルに朗報だよ、僕が遊んでいる様に思いきや、地中調査に相応しい調査団員をスカウトしようと思うんだ」

「…………へぇ」

「誰だかわかるよね?」

「……ルビーですかね」

「うん、大正解。後は説得だけだよ。実は彼、ニャースの下にいる事で生計を立ててたみたいなんだけど、今はちょっと苦しいらしいんだよね。それだったら、スカウトしない?彼の実力はリフルも知っているでしょ?」

「……優しくみえて強かですね、ビートは」

「厳しく見えて優しいよね、リフルも」

 

 こうして、私達はルビーのスカウトに成功し、ルビーは新たに地中調査団員として調査団で働く事になったのであった。

 

 

 

 

 


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