ポケモン不思議のダンジョン 空の外伝   作:チッキ

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第26話 脇役と主役

「さぁ、氷漬けになりなさい!!」

「お断わり!」

 

 ユキメノコが飛ばしてきた氷柱を、ビートは火炎放射で撃ち落とす。炎天の状況下でも、タイプ相性でも、炎タイプのビートが有利だ。逆に、私は不利だから下手に前に出る事は出来ない。

 逃げるにしても、ホルビーを助けなくてはいけない。しかし、ホルビーはユキメノコの後ろに倒れている。ユキメノコの目を盗んで助けようにも場所が悪い。

 まあ、それでも氷漬け永久保存は私だって嫌だ。このユキメノコ、討ち倒させて貰う。

 

「出し惜しみは無しです」

 

 ビートに気を取られているユキメノコとの間合いを詰め、無防備な体にアイアンテールを決める。

 

「ぐうぅっ!小癪な……!」

「エナジーボールばっかり使ってたけど、アイアンテールも使えるんだね、リフル」

「アクアテールも使えますよ、ビート」

 

 草タイプはタイプで不利になる相手が多い。それ故、不可避の戦いでも相手に有利なタイプの技を覚えておくのが、戦闘の基本じゃないだろうか。

 距離を詰めれば私が、距離が遠ければビートが。遠近揃ったコンビネーションだ。

 

「ぬ………」

 

 しかし、ここで転機が訪れる。ビートの放った光球が、力弱く消えていったのだ。ビート曰く、この技はそう何発も連発出来るものじゃないらしい。これは思わぬ失策だ、さっさと決着を付けるべきだった。

 好機を逃す訳もなく、ユキメノコは再び吹雪を発生させる。吹雪が続くと、霰のせいで体力が削られる。ユキメノコを攻撃しようにもゆきがくれの特性で、こちらの攻撃が当たりにくい不利な状況に追い込まれている。

 

「氷漬けはお断わりですけど……このままじゃ本当に凍っちゃいますね……」

「流石の僕も寒くなってきたよ……」

 

 ビートにそう言われちゃ、私はとっくに凍え死んでいる。気合いでどうにか踏ん張っているけど、これが長く続くのは避けたい。

 しかし、ユキメノコは攻撃を仕掛けない。私達が何処から来るかわからない攻撃に気を配らせている間でも、自分が圧倒的有利な立場にいる時でも。恐らく、持久戦に持ち込むつもりだろうか。ジワジワと嬲り痛めつける……成る程、性格が悪い。

 

「ビート、貴方は体力を温存しておいてください。そして再び放てるようになったら、すぐさま使って下さい」

「い、いいけど……その間耐えられるのかな…?」

「耐えられるんじゃありません。耐えます」

『やれるもんなら、やってみなさい!』

 

 吹雪の中から飛んできたシャドーボールをアイアンテールで撃ち落とす。

 

「さて……」

 

 私はシャドーボールが飛んできた方向と反対にエナジーボールを放つ。

 

『うぅっ!?』

 

 呻き声が聞こえる。やっぱり予想通り、攻撃を放って、反対に回り込んでいた。性格の悪い奴が良くやる技だ。それでも、ダメージは与えたとはいえ、大打撃とは言えない。

 

『調子に……乗るんじゃない!』

 

 吹雪が一層強くなる。そして、真正面からユキメノコが私目掛けて突進をしてきた。思わぬ突撃に対応出来なかった私は、ユキメノコに首を掴まれ、そのままビートと離れ、凍結の木の幹に叩きつけられる。

 

「ぐっ……!」

「もう逃がさないわ……」

『リフル!何処!?』

 

 ビートの声が聞こえる。私は声を出そうとしたが、首を絞められた状態では微かな息の音しか出なかった。

 

「声の方向に攻撃でもされたら厄介だからね……」

 

 ユキメノコの首を絞める力が一層強くなり、そこから私の身体が凍っていく。私は振り解こうとするあまり、トレジャーバッグの紐を切ってしまう。

 

「おやおや……慌てん坊ね……」

 

 ユキメノコは落ちた私のバッグと散乱した中身を一瞥し、私の身体に視線を戻した。

 

「わかるでしょう?徐々に凍っていくこの感覚……。私は凍っていく恐怖に怯えていく顔を見るのが、1番楽しいの」

「あっ……く…………しゅ、み……な……!」

「貴方は冷たくなっていく身体に、いつまでその虚勢を晴れるかしら……?」

 

 意識が薄れてきた。私は寒いのが苦手なのだ。

 

「…………私の、仲間達を……なめないでください……!」

「あら、まだ強がりを言えるのね。さっさと凍らせてあげましょう」

 

 凍る速度が早まっていく。チェックメイトだ。

 

「火炎放射!」

 

 ユキメノコの横っ腹から火炎放射が飛んでくる。火炎放射はユキメノコに直撃し、私はユキメノコの拘束から逃れられる。ただ、身体は凍ったままだけど。

 痛む身体を無理矢理起こして、火炎放射を飛ばしたビートに向けて睨みつけたユキメノコ。

 

「ど、どうして……あんたが……!」

「オイラもいるよ」

 

 ユキメノコの地面から、ホルビーが飛び出て、ストーンエッジを当てる。火炎放射のダメージとストーンエッジのダメージ、ユキメノコはついに力尽き、その場からピクリとも動かなくなった。

 

「……上手くいって、良かったです」

「そうだね……って、リフル!すっごい凍ってるじゃないか!僕が暖めるよ!」

 

 ビートに抱きつかれながら、私は自身の策が上手くいったことに安堵する。

 ユキメノコに凍結の木の幹に叩きつけられた時、私はとある策を思い付いた。どうにかして、凍結の木の側に倒れているであろうホルビーにふっかつのタネを食べさせる事だ。その為に、焦っているように見せかけてトレジャーバッグを落とした。

 まぁ、ふっかつのタネを入れてきたとはいえ、ホルビーの近くにふっかつのタネが落ちなくては、満足に身体を動かせないホルビーは食べられないし、運に頼りっきりの策だったけど。

 ビートが来たのは、恐らくホルビーが呼んだのだろう。地中なら視界は関係ない。地中で進むポケモンは音を頼りにしていると聞いたので、私を心配して声を上げるビートを見つけるのは容易だっただろう。

 いずれにせよ、誰1匹欠けても出来なかった策だ。策の成功と運の良さに感謝しよう。

 

「…………それでも、疲れました」

「……リフル、流石に重いよ……」

 

 全気力を使ってしまった為、もう立ち上がれない。全体重をビートに預けている。ビートは文句を言いながらも、私の身体を気遣うかのように抱きかかえる。

 

「枝も手に入れましたし、帰りましょう」

「うん、そうだね」

「あ、あの〜……」

 

 枝を拾って、帰ろうとした所に、ホルビーから声がかかる。

 

「どうしました?貴方が力になったことは、私もしっかり評価していますよ」

「そ、それはありがとう。じゃなくて、あの……ユキメノコ……」

 

 未だ動かないユキメノコをチラリと見て、気まずそうな顔をするホルビー。

 

「それはどっちの意味ですか?放っておくと、また同じ事をやらかしそう。もしくは、自分達が倒したから介抱すべきか。どちらです?」

「えっと……後者の方、かな……?」

「モモンのハチミツシロップ漬けより甘いですね、貴方」

「想像するだけで胸焼けするね!」

「なんにせよ、貴方は本当に甘い。甘過ぎる。自分に襲いかかり、私達を氷漬けにしようとした相手に情けを見せたり、いつか自分が脚光を浴びれるという生活や未来に対しても」

「うっ………」

「まあ、良い方に見れば優しいって言えるんでしょうけど……貴方はその優しさに、甘さに漬け込まれている。ビート!」

「うむ!」

 

 ユキメノコの方に振り向いたビートが小さな火をユキメノコの腕に当てる。

 

「きゃあああああ!!」

 

 ユキメノコの手からは鋭い氷柱が落ちる。

 

「ほらね、貴方が介抱でもしてたら貴方はきっとザクリ、ですよ」

「じゃ、じゃあオイラはどうすればいいんだよ……」

「貴方の優しさを否定している訳じゃありません。貴方が優しさに漬け込まれて生きている事を私は危惧しているんです。優しさでいえばビートも優しいポケモンです。ですが、それ以上に厳しい」

「……えっと?」

「考えるんです、貴方とビートの、脇役と主役の差を。それが出来ない限り、貴方は永遠に泥役者だ」

 

 話を打ち切り、私達はワイワイタウンへと戻る。ニャースに御要望の氷の枝を渡し、再び撮影が開始される。私はそれを遠目で眺めながら、ビートの一挙手一投足全てを観察している隣のホルビーに聞こえないようにそっと呟いた。

 

「きっと、答えはすぐ側にあるはずです」

 


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