ポケモン不思議のダンジョン 空の外伝   作:チッキ

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第24話 衝突、ブイゼル

 絶え間ない川のせせらぎと、何も発さぬ両者。ブイゼルの方は、攻めあぐねているが、リフルは余裕そうにブイゼルを見ている。ブイゼル対リフルの戦い、実況、解説はビートがお送りします。

 突如、一陣の風が吹き抜け、その瞬間にブイゼルが動き出した。なんの変哲も無い、ただの拳。解説をすると、タイプ相性というのはポケモンの技にあるのであって、こういう肉弾戦を好むポケモンはタイプ相性は関係ない。つまるところ、ゴーストタイプ以外のポケモンに有効だって所だ。幽霊には、実体が無いからね。

 最小限の動きでブイゼルの攻撃を交わすリフル。その顔はやはり余裕たっぷりといった感じだ。ブイゼルは連続で拳を飛ばすが、やはりリフルは平然としている。

 ブイゼルが距離を取った。その瞬間を狙って攻撃、なんて事をリフルはせず、ただただブイゼルを挑発的な目線で見ていた。

 苛立ちを隠せない様子のブイゼル。ブイゼルが攻撃している間に、リフルならきっと何発もカウンターを仕掛けられただろうに、それをあえてしなかった。所謂、なめてかかっている。僕でそう推測出来るんだから、恐らく、対峙しているブイゼルは更にわかっているだろう。

 わからないのは、それをする理由。今、ブイゼルを苛立たせる理由は無いし、リフルの趣味だって言われたら、それはもう引くレベルである。きっと何かしら意味があるのだろう…

 僕がそう思った時、リフルがようやく動き出した。ブイゼルの拳を避け様に掴み、そして投げ飛ばした。飛ばされたブイゼルはすぐさま体勢を立て直し、リフルを睨んだ。

 

「さっきからよぉ……テメェ、何のつもりだ!」

「何の話です?」

「とぼけるな!お前、さっきから全く全力を出してねえだろ!ただ俺の攻撃を避けて……攻撃するチャンスを見逃して……何がしたいんだ!?」

「ああ、それですか、ただの趣味です」

 

 引いた。

 

「……冗談ですよ、貴方の実力を図ってます」

 

 チラリと僕の方を向いたリフルは、少し口を尖らせて言った。

 

「はぁ!?図ってどうすんだ、そんなもの!」

「そりゃあ勿論、適正審査です」

 

 なんとなく、リフルがしたいことがわかった気がする。恐らく、ブイゼルを調査団に入れるつもりだ。確かに水タイプだし、実力の有無は今図っているって所だろう。問題は、いかにしてブイゼルを調査団に入れるか、だ。今や、僕らのブイゼルの間にある溝は深まるばかりだ。果たして、リフルはどうやって仲間に引き入れるつもりなんだろう。

 

「さあ、貴方の必殺技でも見せて下さい。私は見事耐え切って見せましょう」

「テメェ……言われなくても、やってやる!!」

 

 ブイゼルの身体に水が纏う。アクアジェットかと思ったけれど、そのまま突進しないから違うのだろう。それにしても、どうやって水を纏ってるんだろう。それを言えば、僕だって炎を纏ったりするけど。

 その纏った水を拳に集めるブイゼル。そのまま殴るのかな?

 

「必殺!水拳……」

 

 リフルとの間合いを詰め、水の拳をリフルにぶちかま、さずにリフルの眼前でその拳を止めた。

 

「爆発!」

 

 突如、ブイゼルの拳が爆発した。いや、正しくはブイゼルの拳に纏ってた水が爆発した。水蒸気爆発みたいなものだろうか。だとしたら、ブイゼルの拳自体が非常に熱くなったって事だけど……

 ともあれ、リフルの虚をつくことは成功したみたいだ。だけども、リフルは宣言通り、隙をつけども、余裕で耐え切った。まぁ、タイプ相性もあるんだろうけど。

 

「これは中々、しかし、敵に近づかなきゃならないっていう弱点がありますね」

 

 淡々と自分の受けた技を分析するリフル。正直、とてつもなく心にくる。

 

「それでは私の番です」

 

 飛んできたブイゼルの拳に、自らの足を当て、拳の威力で飛んで距離を取ったリフルは、地面に手を当て、ブイゼルを見据えた。

 

「言っておきますが、これは必殺技の中でも最も弱い必殺技です」

「あぁ!?最弱だろうと、最強だろうと、耐え切ってみせてやる!!」

 

 リフルの言葉に激昂したブイゼルは、リフルの追撃を止め、その場に立った。自分で言った通り、耐え切るつもりなのだろう。先程、リフルが必殺技を言葉通り耐え切って見せた。それがブイゼルのプライドを傷付けた。そして更にプライドを傷つけるような発言。完璧にリフルの手の内で弄ばれている。

 だけど、再三言うけど、本当に仲間にするつもりなのかな?

 

「では、必殺」

 

 ブイゼルを中心に円状に大きな木の根がが、意思を持ったように這い出てくる。ハードプラント、本来は特定の草タイプの最終進化しか使えない技だけど、どうやらリフル曰く、頑張ればなんとかなるらしい。

 木の根はブイゼルを覆い隠す。隙間なく、逃げ場なく。

 

深林之檻(フォレ・ハウラ)。言っておきますが、炎タイプの技でも無い限り、脱出は不可能ですよ。根は地面にも張っていますし、地面を掘っても、ね」

 

 出来た木の根の檻の中に向けて、リフルはそう言った。その返事をするかのように、檻の中から何かを叩くような音がした。

 

「そうそう、ちなみに……酸素については気にしなくても大丈夫ですよ。木の根が光合成をして、しっかり酸素を作ってくれますから。ですから貴方の選択肢は2つです、諦めて敗けを認めるか、この檻を壊すか。そうしない限り、貴方は永遠にここに幽閉されます。さて、どうしますか?」

 

 音が更に激しくなる。だけども、リフルの檻はビクともしない。

 

「ま、それが貴方の選択肢なら私は否定しませんよ」

 

 リフルは僕の方に寄ってきて、隣に座った。

 

「……ねぇ、リフル。ブイゼルを仲間にするつもりだよね……?」

「ええ、そうですよ」

「だったら、こんな事しても大丈夫なの……?更に恨まれない?」

「あんな檻を壊せないようじゃ、調査団にいりません」

「……いや、さっき炎タイプの技じゃないとって……」

「木の根を燃やして脱出する場合は、ですよ。攻撃を加え続ければ、あの檻は脱出出来ます。なんたって、最弱の必殺技ですし。彼の水拳爆発……は、きっと非常に優秀な技に成り得ます。それを、あのような形で廃れさせるのは、勿体ありません」

 

 リフルがそう言った瞬間、檻が大きく吹き飛ぶ。大きな衝撃に、身体が吹き飛びそうになった。

 

「おお、思いの外早かったですね」

 

 拳を突き出した状態で立ちすくんでいるブイゼルに近付くリフル。

 

「提示した2つの選択肢に縛られず、新しい選択肢を作る。それこそが命の炎が輝く時!です」

「………………俺が、やったのか……?」

「はい、私に閉じ込められた貴方が、私に対しての怒りを胸に、無我夢中で水龍爆拳(アトミス・エクリクシス)を進化させた」

 

 リフルが勝手に名前をリニューアルしている。

 

「さて、戦いの続きをしますか?」

「…………いや、この技が進化したからって、あんたには勝てねえよ」

 

 敗北宣言をするブイゼル。だけども、瞳には諦めの意思は感じれない。

 

「けど、いつか絶対テメェを倒してやる!」

「でしたら、互いに切磋琢磨すべく、貴方も私と共に来ませんか?」

「は?」

「私、調査団に属しているのですが、そこでは今、水辺を調査するポケモンを探しています。調査するにあたって、色んな所に向かうでしょうし、修行になりますよ。同じ場所で過ごすんですし、私はいつでも貴方の相手になってやります」

「……けど、俺には大切な仲間いるんだよ」

「海って広いですよね……。広くて広くて……1匹だけじゃ無理でしょうね。でも、水タイプのポケモンを纏めるポケモンがいたら、きっとそのポケモンの調査に付き合ってくれるでしょうね」

「………………少し、考えさせてくれ」

「はい、私達はワイワイタウンの調査団にいます。私達の名前…リフルかビートと出してくれれば、取り次いでくれるようにしておきますので、気が向いたら来て下さい」

 

 リフルは振り向き、僕に帰るように促す。……説得は成功したのか、な?

 

▼▽▼

 

「………………それで、どうだったんだ?」

「いや、わかりません。まぁ、仲間になってくれたら頼りになるんですけどね……」

 

 調査団に帰ったその夜。僕は、ダンチョーと話しにいったリフルと別れ、チークさんの元に訪れていた。チークさんは手元の本からは視線を外さず、僕の話を聞いていた。

 

「だが、悪い事をしてきたやつだろう。信用して大丈夫なのか?」

「大丈夫か大丈夫じゃないかはスカウトしたリフルを信じて下さい。僕はリフルを信頼していますし、リフルの決定に異存はありません」

 

 チークさんは本から目線を外し、呆気にとられた表情で僕を見た。

 

「……驚いた、お前とリフルはデキているのか?」

「それは恋愛感情の話ですか?僕はリフルを信頼してますし、大好きですよ」

「…………つくづくお前との相手は疲れる」

 

 そう言うチークさんの顔は少し笑みが浮かんでいる。

 

「そこまで信頼しているなら、きっと大丈夫なんだろうな。私もお前を信じてやるよ」

「……やっぱり、信頼されるっていうのは良いものですね。期待に応えなきゃいけないって、辛い思いをしているポケモンもいますけど、それでもされないよりはマシですね」

「まぁ、そうだろうな。私達も、なんにせよ、団長を信じているからな」

「そう言えば、団長が代わる時にいざこざがあったって聞いたんですけど、あれって一体……?」

「ああ、それはな……」

 

 チークさんがその話をしようとした時、調査団の扉がドンドンと大きく叩かれた。突然の大音に、僕達は全員扉の前に集まった。

 

「も〜なんだよ……折角ぐっすり寝ていたのに……」

「デデンネ君でしょうか?忘れ物でも…?」

「いや、きっと違うだろう」

 

 リフルは何も言わずに、扉を開く。そこには、決意の灯った瞳で立つブイゼルがいた。

 

「…………決めましたか?」

「ああ、俺を調査団に入れてくれ!」


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