「豪火演舞!」
飛び上がったビートが地面に向かってかえんほうしゃを放つ。炎は地面を這って、花のように広がっていく。広がった炎は未だ困惑している水タイプ連合のポケモンを巻き込んでいく。
ちなみにこの技は敵味方問わず、無差別に巻き込まれる為に私と一緒の時は基本的には使わない技だ。今は私が物陰にいて隠れているからこそ使ったのだろう、対多数には有効な技だし。
しかし、そうだとしても炎タイプの技は水タイプには今ひとつだ。ダメージを与えど、完全に倒しきれていない。結果、ビートは水タイプ連合のポケモン達に囲まれることになる。
「それをカバーしろって、言ってるのは承知済みです」
ビートに釘付けになっている水タイプ連合のポケモン達、隙だらけだ。
「
私の放った複数の不思議な玉サイズのエナジーボールは敵に当たっては跳ね、また別の敵に当たっては跳ねる。完全に私の計算から離れたこれまた無差別系の技。
ビートの豪火演舞、私の翠跳弾。完全な不意打ちに数十匹はいたであろう水タイプ連合のポケモン達は地に伏せていた。
そしてビートは先程の発言をした、キバニアのヒレを踏んで、ドスの効いた低い声で話し始めた。
「おい、お前。さっき、フシギダネから金を奪わなかったか?」
「ヒィィィィ!!」
「答えろ」
「しましたぁぁぁ!!ごめんなさいぃぃぃぃ!!!!」
ビートの圧力にビビったキバニアは、シギネがアバゴーラから託されたであろうお金の入った巾着を差し出した。ビートはそれを奪い取り中身を確認した。
「一銭たりとも使ってないだろうな?」
「つ、使ってません!!アルセウスに誓って!!」
怯えた様子のキバニアに興味を無くしたビートはその巾着をバッグの中にしまった。
「さて、依頼完了……戻ろうか?」
「いえ、まだ依頼は終わってません」
私はあなぬけの玉を取り出したビートを制する。不可解な行動にビートは首を傾げた。
「えっと、シギネが奪われたお金を取り戻すっていうのが目的だよね?」
「まあ、細かく言えばですけど」
先程のキバニアとは別の水タイプのポケモン、ハリーセンの尻尾を掴んで問いかけた。
「貴方達のリーダーはいますか?」
「い、いねえよ……」
「正直に言ってください、嘘吐きには針千本飲ましますよ」
「い……いねえ…………」
「仲間を想う気持ちは美しいものですけど、しょーじきに答えて下さい」
「…………うっ」
ハリーセンは辺りに倒れる仲間を見渡し、覚悟を決めて話し始めた。
「俺らの……チームアクアマリンをまとめてくださっているのは、総長ブイゼルだ。あの方は、行き場のない俺らの世話を……」
思わずハリーセンを地面に叩きつけた。私の中に怒りがわき上がったからだ。ハリーセンが悲痛な声を上げたが、気にする事など、気にかける事など、ない。
「幼子から金を奪って、世話?巫山戯たことを抜かしているんじゃありません。貴方達がやっている事は、ただの犯罪です。その上、それを楽しそうにやっている、私はそれを許せない」
過去の自分を投影して、少しバツが悪そうな顔をしているビートを一瞥しつつ、話を続ける。
「貴方達は間違っている、貴方達の総長とやらも。貴方達の為に、私は貴方達を全力で否定する!」
「これ以外の方法がねえんだよ……俺らには……」
キバニアが声を上げる。
「いえ、あります。あらせます。貴方達の総長の元に連れて行きなさい。私が彼と貴方達を幸せにしてやる」
▼▽▼
所変わって、ニョロボンリバー。チームアクアマリンの総長であるブイゼルは、ここの最奥部にいるらしい。
適当に選んだメンバー、ハリーセンとキバニアを先導させつつ、ビートが小声で話しかけてきた。
「ねぇ……あいつらが言うブイゼルって……」
「恐らく、あのニャスパーを恐喝してた奴でしょうね」
「それに……君に何か秘策があるの……?」
「ビート、覚えておいて下さい。悪者をとっちめるだけじゃなく、無力化することが大切だっていうことを。もし、MADを力の限り叩き潰しても、奴らはきっと何かと因縁をつけてきたでしょう」
「そっか……リフルがゼロの島っていう絶好の標的を提示したから、彼らが僕達に絡まなくなったよね」
「ええ、チームアクアマリンも、ただ強さで押さえ込んでも、きっと繰り返します。なんたって、それ以外の生き方を知らないんですから。ですから、私達は導く必要があるんですよ」
そうこうしているうちに、最奥部到着。まずはハリーセンが話をつけてくるとの事で、私達は待機することになった。待機している間、暇だった為、私は居心地の悪そうなキバニアに話しかけた。
「ブイゼルと出会う前はどうしてたんですか?」
「へっ!?え、えっと…………海に居場所が無くて、陸にも居場所が無くて……ゴミ箱を漁るような生活、です」
「ブイゼルと出会って良かったと思いますか?」
「そりゃあ、勿論……」
「その感情は無駄にはしないで下さい。方法がどうであれ、貴方の生命の炎を輝かせてくれたんですから。まあ、私はそれをさらに輝かせるわけですけど」
「そ、そうは言うけど……どうやって……」
「それには貴方達の総長の力が必要なんです」
妙に怯えた様子のハリーセンが戻ってきて、話はそこで打ち切りになった。
「それで、総長はなんですって?」
「やれるもんなら、やってみろ…です」
「まあ、ここで折れるような奴じゃないですよね。じゃあ行きますよ、ビート」
やれやれと首を振って私達はブイゼルの元へ向かう。ブイゼルが私達の姿を見ると、驚愕の表情に変わった。
「なっ!!お、お前ら……!」
「1日振りですね、こんにちは」
「まさか、話の相手がテメェらだったとは……だったら話が早い!テメェらをぶちのめす!!」
「おや、不思議の玉で頭を殴られてKOした御仁が何か言ってらっしゃる」
「あれは不意打ちだったからだろうが!正々堂々勝負したら俺が勝つ!」
「でしたら、こちらは正々堂々、私がビートのどちらかが戦いましょう。無論、もう片方は手出しもしませんし、ただ……それで負けたらどうします?」
「はぁ!?俺が負けるなんてありえねぇよ!決めた!テメェからぶっ潰す!」
どうやら標的が私に決まったらしい。タイプ相性的にはビートを選ぶべきだけど、まあブイゼルの単純な性格なら選ばせてるようで選んでない状況を作るのは簡単だった。
「まぁまぁ、どんな状況でも何か策を講じておくのが強さですよ。さあ、負けたらどうします?正々堂々と、敗北してしまったら」
「だったらテメェらの言う事を聞いてやらぁ!ただし、テメェらが負けたら、一生テメェらは俺達の金ヅルになってもらうからな!」
「蛇と猫ですけどね」
「減らず口を……!」
場の緊張が最高潮になる。戦いの火蓋が、今切って落とされる。