「………これが、真実だよ」
全てを話し終えると、手を組みながら僕の話を黙って最後まで聞いてくれたリフルが口を開いた。
「貴方が今まで成してきた悪い事すら、全て闇へと葬ってきた訳ですか?」
「……そういうことだね」
「じゃあ貴方の咎を知る者は、貴方と私しかいないって訳ですか」
リフルはニヤリと笑う。
「じゃあ大丈夫ですね、私以外に知られていないんですから、貴方は誰にも咎められません」
「………………え?」
「私自身は貴方に被害を受けてませんし、咎める必要が無いですね。それなら、黙ってましょう」
「……ど、どうしてそんな事が言えるんだ…?そんな事…あり得ないよ…!」
「じゃあ貴方は責められたいんですか?」
リフルの真剣な顔が、僕の体を竦みあがらせる。
「貴方が糾弾されたいというなら、その真実を全世界に伝えましょう。きっと、完璧に隠蔽された訳じゃないですし、何処かからの綻びで、貴方の罪は明らかになるでしょうね」
「そ…それは……」
「だったら黙ってればいいんです。黙れば誰にもバレません」
「そんな事!!」
思わず大声が出る。
「出来るならしたいよ!でも、僕は君を裏切ったんだよ!!そんな事許される訳が無い…!」
僕の悲痛な叫びにリフルはやれやれといった様子で首を振った。
「裏切ったって、どういう意味で?」
「……え?」
「人間だと思っていた自分は実は大罪を犯したポケモンでしたって?」
「………………」
「だとしたら、別に私は気にしてないですし、どうでもいいです」
「ど、どうして…どうしてそう淡々としていられるんだよ…」
「…貴方は」
近付いて来たリフルの顔が、僕の顔の前に来る。思わず後ずさりすると、逃さないと言うかのようにリフルは距離を詰めてくる。
「……自身の咎を、私に糾弾させようとしている。自分自身が許せないから、でも自分を自分で責めたくないから、ただ私に責めさせようとしている」
「そんな事は…」
「認めろ、過ちを。私に審判を任せるな」
「う、うぅ…!」
ついに逃げ場を失った僕はリフルとほぼゼロ距離とも呼べる程に顔を近づけあっていた。
「過去を理由に、今から逃げるな。貴方が今まで私と築いた絆は、貴方の失われた過去の真実程度で壊れると思っているんですか?貴方が私の立場だったら、貴方は私を糾弾していますか?」
「その…………」
「つまるところ、貴方は私を信じていない。それこそが、裏切りじゃないですか」
「………………っ!!」
そうだ、僕は自分の過ちを認めたくないあまり、リフルに許されないからと勝手に決めつけて、リフルの気持ちを一切考えていなかった。確かに、それは裏切りだ。僕を信じてくれているリフルを、僕は信じていなかったから。
一通り言い終えたのか、リフルは僕との距離を話し、腕を組んで黙った。
「…………リフル」
「はい」
リフルはいつもと変わらない様子で応えてくれた。
「……正直、僕が犯した罪って許されるべきものではないと思うんだ」
「ま、そうですよね」
「……僕を恨んでいるポケモンももしかしたらいるかもしれない。僕を探しているポケモンもいるかもしれない。だけど、あの時の自分と今の僕は、全くの別物だ。皆に裏切られ、全てを壊すと誓った悪感情の塊である自分と、リフルに出会い、色んな所に行って、色んなポケモンと交流して笑いあった自分。レガリアである僕と、ビートである僕。今の僕の感情は、ビートのものだ。レガリアとビートは違う。なら、僕は自分の過去を捨てる。僕はビートだ、傷付け、悲しませたレガリアなんかじゃない。都合のいい話かもしれないけれど……」
「……知ってるのは私達しかいない」
「うん。リフルは僕のこの秘密を誰かに喋ったりなんかしない、絶対にだ」
「……まあ、過去に決別出来たようで良かったですけど、それでも私達の探検隊の名前ってレガリアですけど」
「うっ……それは……2度とそんな事が起きないように戒めとして、残しておこうかな……」
僕の言葉にリフルは思わず吹き出す。
「それなら、いいんじゃないんですか。ビート以外は巻き込まれてますけどね」
リフルの言葉に僕は思わず苦笑いをする。
顔を見合わせて、笑い合う。随分と久しぶりに心から笑った気がする。
▼▽▼
時の停止は食い止められた。私達が、敗北を喫したディアルガに対し、リーブイズの2匹は勝利を収め、時の歯車を時限の塔に納める事が出来た。私達が負け、リーブイズが勝ったという事実に私は少し頰を膨らませたいが、きっとリーブイズの2匹は互いに全てを信用しあっていたのだろう。
だけども、時の停止を食い止めても嬉しい事ばかりではなかった。リーブイズのリオル、リオーネと呼ばれる元々人間だった彼は未来世界から時の停止を食い止める為に自身の消滅を覚悟でやってきたのだ。そして見事時の停止を食い止めた今、リオーネに、ヨノワール、そのヨノワールを自身を道連れに未来世界に連れて帰ったジュピタも消滅してしまった。
時限の塔から帰ってきたとり残されたイーブイ、イブは涙ながら、今までの経緯に、時限の塔で起きた事を語ってくれた。きっと、託された思いなのだろう。リオーネやジュピタ、彼らという存在を忘れないよう、彼らから託された思い。
平和な日常が戻って、私達レガリアも探検隊活動を再開させた。だけど、ビートは如実に変化していた。
「あ、モンスターハウスありますよ、ビートさん」
「よし、迂回して別のルートを探そう。無さそうだったら、仕方ない。慎重に突入だ。縛り玉はあるか?それを使えば無事にやり過ごせる」
骨を切らせて肉を断つ、といった自身が傷付くことを厭わず、相手にダメージを与える事を好んでいたビートの戦法は、自身を最小限のダメージに抑え、相手に最大限のダメージを与える戦法に変わっていた。
他にも変化した所は色々あるが、特に変化した場所と言えば…
「あ、おはよう、リフル。今日も良い天気だね」
「早起きですね、ビート。おはようございます」
ビートが私だけに、本当の自分を見せてくれる所だろう。
「おっっっはよーーーございまーーーす!!」
「ああ、シャンプーか。朝から元気だな」
「そうですか?ともあれ、今日の依頼はなんですか!?」
今のビートなら、大丈夫だろうと、私は古びた依頼書を取り出す。
「これです」
「…………?随分昔の手紙ですね、依頼者は……えっ!?レイダース!?!?」
「ええ、あの伝説の探検隊レイダースです」
「そんな奴らからどうして俺らに……?」
「戦ってみたいんですって。実は、私1匹でこの依頼を受け続けてたんですけど、いっつもレイダースにボコボコにやられてたんです」
「い、いつのまに……」
「レイダースはロズレイド、ドサイドンとリーダーのエルレイドです。1匹でも大変なのに、それを3匹相手って……そりゃやられますよ、リフルさん」
「ええ、そうですね。正直、ビートに行かせたくなかったんです」
「……あー…確かに、俺が聞いたら何度も挑戦してただろうな…」
「でも、今のビートなら大丈夫です。私はそう信じている。シャンプーもいますし、これで3対3です」
「ちょっと怖い気もしますけど…頑張りましょう!」
「………ああ」
レイダースとの戦いの勝敗をここで語るは無粋なものだろう。
これにて第1部はお終いとなります。今までご愛読ありがとうございます。
まあ、第2部と続くんですけど。