ポケモン不思議のダンジョン 空の外伝   作:チッキ

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外伝 ジラーチの願い事

「今日は何の日だかわかる?」

「いきなりどうしたの?今日は…ああ、そうか。今日は君の日だね、ラッチー」

「そう、そうなんだよ!僕が生まれて、2度目の七夕だよ」

「2度目、そっか。君、長い間ずっと眠ってるもんね。せめて、毎年、七夕の日に目覚めたいよね」

「そうなんだよね、僕、折角君と出会えたって言うのに、明日からまた長い間眠る事になるだろうね。いくら君でも、そこまで生きていられるかな?」

「可能か不可能かって言われると可能だけど…まあ、流石にそれは遠慮したいかな」

「そうだよね…僕って天才的になんでも出来るけど、ずっと一緒にいてくれる友達っていうのは出来ないよね…」

「君自身が願い事を叶えるポケモンなのにね。所で、七夕は短冊に願い事を書いて笹にかけるっていうのが俗世間の風習なんだけど、知ってた?」

「へえ、そうなんだ。ずっと寝てるからそういう事には疎いや」

「だったら、皆の願い事を見てみようよ。僕なら、皆が短冊に記した願い事を念写する事が出来る」

「それは面白そうだね!なんだったら叶えてやってもいいかもしれない」

「という事で、早速1枚目。“お金持ちになりたい”だってさ」

「願いが叶うなら何を願うランキングで堂々の1位を獲得する願い事だね。僕も、生まれて間もないっていうのに現れたポケモンの大半からお金持ちにしてくれって言われたもん。まあ、その時はお金っていう存在を知らなかったから、叶えてやらなかったけど」

「今なら知ってるよね、なんたって僕と君とこの数日色んな所に巡ったもん」

「まあ、だとしても叶えてあげないよ。お金持ちになりたいって言うポケモンがお金持ちになったって意味無いもの」

「なんで?」

「金の次を求めるから」

「納得。じゃあ次の願い事、“親の険悪な仲が治りますように”だってさ」

「あー……家庭の事情をほぼ絵空事とも呼べる風習に縋っちゃう奴ね。可哀想だとは思うけど、わざわざ叶えてやる程ではないよね」

「結構冷たいね、ラッチーって」

「そりゃあ…僕、知らないもん。そいつの事。だってそうでしょ?可哀想とか、相手の気持ちを考えた事あるの?とか言う奴って決まってそいつの気持ちから目を逸らしているんだもん」

「言わば、自分に言い聞かせている、みたいな感じかな?」

「それにそういう家庭に生まれたポケモンが救われる世界なら元よりそんな家庭は生まれないし。……そいつ自身が自分の力で僕の所に来たなら叶えてやってもいいけどね」

「君はもう眠りにつくだろ。その頃にはとっくにお生憎様御愁傷様さ」

「それで?次の願い事は?」

「“自分に誇れる自分になりたい”」

「却下」

「わあ、一刀両断」

「自分に誇れる自分ってさぁ……一体なんなんだよ?女の子にモテる自分?賢い自分?運動の出来る自分?そんなの自分でどうにかしろよ。それに、さっきもいったけど、そういう奴って決まって……」

「次を求めるって?」

「現状に満足しないから何かを求めるけど、いざそれを手に入れてもまたさらなるものを求める。まあ、仕方ない事だけどさ」

「ガチャで欲しいキャラが当たったけど、それより強い奴が出る事を望んじゃうパターンか」

「……ガチャ?……キャラ?」

「んにゃ、こっちの話。それではお次の願い事。“金のリボンが欲しい”」

「……それはクリスマスに頼めばいいんじゃないかな?」

「七夕とクリスマスって似ているよね。欲しい物を願うって点では」

「その子はクリスマスに手に入れるか、いつかダンジョンに行って自分で手に入れる事を期待してるよ」

「さてさて、“友達が欲しい”だって」

「……僕だって欲しいよ」

「えー、僕は君の事、友達だと思ってるけどなー」

「……無論、僕だって思ってるけど、僕も願い事を書いたその子も“ずっと一緒にいられる友達が欲しい”って意味でしょ」

「ま、そうだろうね。出会いは欲しいけど、別れは欲しくないもの。でも、何事にも出会いの裏に別れがあるんだぜ。諦めな」

「……それでもこの子には親友と呼べる友達が出来るよう叶えておくよ」

「君には友達が欲しいとかそういう願い事を言えば叶えてもらえそうだね」

「……寝れば治るもん」

「……じゃあ、最後の願い事だ。“彼女の声を出せるようにして欲しい”」

「……………………」

「……………………」

「それ、君の願い事だよね?」

「ああ、そうだよ。だって七夕だもの。実現不可能であろう事を願ったっていいだろう?」

「君の言う彼女ってあの子…だよね?」

「うん、そうだよ。彼女、喋らないんじゃなくて、喋れないんだよね。いつになっても言葉を発してくれないからちょっと調べてみたら…って奴だよ」

「先天性なんだね。でもさ、生まれてからずっと目が見えなかったり、耳が聴こえない子にとっては、確かにそれは幸せかもしれない。だけど、それってその子の普通を壊す事になるよね?」

「関係無いさ。その子の普通を壊しても、きっと壊された普通が異常だと気付いて、新しい普通を再び形成するさ」

「……まあ、君には世話になったし、いいけどさ。それでも、正直君なら普通に出来そうなんだけど?僕は天才だけど、君は…」

「全能だからね。でも、ほら。折角の七夕だから君に願い事を叶えてもらおうとね」

「誰も僕の願い事を叶えてくれないのに…」

「そんな君には僕が叶えてやろう」

「…………え?」

「君の願い事を叶えられない原因ってのはそのジラーチの長い間眠ってしまう性質だからね。それを取っ払ってやるよ」

「……出来るの?」

「そりゃあ、全能だからね。でも僕がするのはそこまでだ。君の願い事が叶うか、君の命の炎が輝くか。それは君次第だ。さあ、火種を生かすか殺すか、君の自由だよ」

 

▼▽▼

 

 それでも、僕にはずっと友達と呼べる存在は現れなかった。それはきっと、僕がほしのどうくつで篭り切って、その火種を消しかけていたからだろう。

 

「どうしました?調査団の建物はこちらですよ」

「ああ、今いくよ」

 

 調査団、僕はここで友達を作れるのかな?

 でも、天才だからね。僕は。




間に合わなかったーーー!!

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