朝、日差しが差し込み目を覚ます。リフルと出会って2日は経った。大きな欠伸をし、強張った身体を伸ばす。リフルの方を向くと、すでに起きているらしく、そこにはいなかった。リフルは夜明けと同時に起き、日光浴をするのが毎日の日課らしい。
若干残る眠気を振り払い、リフルの住処を出てリフルを探す。リフルは日の差し込む木々の隙間に座って日光浴をしていた。
「おはよう、リフル」
「おはようございます」
俺に気付いたリフルは微笑んだ。俺は微笑み返し、リフルの隣に座った。
「それで調子はどうですか?」
「身体の方は平気、記憶は全くだな」
「そうですか、それじゃあ今日はトレジャータウンに向かいますよ」
トレジャータウンという聞き慣れない単語に俺は首を傾げる。
「トレジャータウンは、数々のポケモンが利用する町です。本当は昨日行きたかったんですけど、貴方が身体を鍛えたいっていう事でずっとダンジョン巡りしてたじゃないですか」
確かに俺は昨日は身体の動かし方を学ぶために何度もオレンのもりに行っていた。お陰様で、中々感覚が掴めたと思う。
「ダンジョン巡りするなら行っておいて損はない場所です、さあ行きますよ」
リフルは立ち上がって、肩掛けポーチを肩に掛け、歩き出して行く。俺としてはもう少しゆっくりしていたかったけど、仕方ない。昨日は俺の我儘を聞いてくれたんだしな。
▼▽▼
トレジャータウンへと向かう途中、俺達は雑談に花を咲かしていた。
「リフルはあの森の生まれなのか?」
「いえ、私の生まれは別ですよ。鳥ポケモンに攫われて、落とされた場所がここです」
明かされた真実に開いた口も塞がらない。
「でも、私のことを心配して、育ててくれたポケモンのお陰で今の私の生活があるんですよ」
「そのポケモンって?」
リフルが悲しげな顔をし、聞いてはいけない事だったと思った俺はすぐさま謝罪をしようとした。しかし、何者かが俺にぶつかってきたせいで俺は謝罪の言葉を口に出せなかった。
「ご、ごめんなさい!急いでいるので!」
「い、いや、俺も余所見を…」
俺の謝罪の言葉を聞かず、ぶつかってきた深刻そうな顔をしたイーブイは走り去って行く。その後を、これまた深刻そうな顔をしたリオルが追っていく。
しかし、そのせいで俺は謝罪する機会を逃した。
「なんだ…?」
「探検隊ですね、リオルの方に探検隊バッチがつけてあるのが見えました」
「探検隊…?」
「はい、前に話したお尋ね者の確保、要救助者の救助、未開の地を探検するポケモンの事です。そういうポケモンは探検隊バッチという高性能なバッチをつけているんですよ。別の大陸には救助を主にした救助隊や、調査を主にした調査団とかありますけどね」
「沢山あるんだな」
気にしていない様子のリフルに少し安堵する。
「あれ、あの建物見えますか?」
リフルが指差す先にはプクリンの姿を模した奇妙な建物があった。
「あれはプクリンギルドといって、探検隊を夢見るポケモンが弟子入りする場所です。しかし、修行が厳しく脱走するポケモンも後を絶たないとか」
「プクリンって奴が厳しいのか?」
「そういう噂は聞きませんが、不思議なポケモンだという噂はしょっちゅう聞きます。それでも、プクリンは有名な探検隊なんですよ」
あまり凄さが伝わらず、適当に相槌をうっておく。
「そのプクリンギルドを過ぎると、トレジャータウンです」
心配そうな表情を浮かべるマリルに気を取られながら、プクリンギルドを過ぎるとトレジャータウンが見えてくる。数々のポケモンがいて、色んな種類の店がある。
「じゃあ店の紹介をしますね」
リフルに店について教えてもらう。ポケというお金を預けたり、引き出したりできるヨマワル銀行。ポケでは無く、アイテムを預け、引き出せるガルーラの倉庫。技の連結が出来るエレキブル連結店。どうやらここは留守らしい。宝箱の鑑定を行うネイティオ鑑定所、タマゴの世話をしてくれるお世話屋ラッキー、自身を鍛えるガラガラ道場も同じように留守だ。
「最後に、カクレオンの店に行きますよ」
リフルに連れられて1つの店の前に着く。それぞれ体色の違うカクレオンが店番をしているらしい。
「ここではオレンの実やリンゴやピーピーマックスが売ってます」
「リンゴは知ってるが…ピーピーマックスって?」
昨日のダンジョン巡りをしている際、俺は徐々にお腹が空いていき、最後には動けなくなってしまったのだ。リフルが最初から知っていたような表情で差し出したリンゴを食べる事によって、腹が満たされたが。
曰く、不思議のダンジョンでは徐々にお腹が空いていき、最終的には体力が削られていくらしい。それを防ぐ為の食べ物がリンゴらしいが、どうしてそんな大事な事を黙っていたのか問い詰めると、リフルは「身を以て良く知るべきだと思ったので」と悪びれる様子無く言い放った。
「ピーピーマックスはPPを回復出来るアイテムですよ〜」
「PPはパワーポイントの略で、技を放つ際に使う力です。それぞれの技にはPPがあって、そのPPが尽きてしまうとその技は使えません。そのPPを回復するアイテムがピーピーマックスです」
昨日のダンジョン巡りではそんな事は無かったが、ダンジョンを巡っていたらPP切れもあり得るということか。
「他にはこういうのがあります」
リフルは肩掛けポーチからタネと玉を取り出す。
「これは復活のタネ、効果は知ってますね?」
「瀕死状態から回復するアイテムだな」
「はい、しかしこの復活のタネ以外にも様々なタネがあります。食べたポケモンを睡眠状態にさせる睡眠のタネ、食べたポケモンを混乱状態にするフラフラのタネなど、タネによって効果は様々です」
「へぇ、それでそっちは?」
「これは不思議玉です。効果はタネと同様に多種多様ですが、タネは食べることで、不思議玉は掲げることで効果が出ます。不思議玉の方が有用な効果があるものが多いですね」
「そのタネは緑色の私、カクレオン商店が」
「不思議玉の他に技マシンを販売しているのが紫色の私、カクレオン専門店です」
恐らく技マシンは技を覚える為の道具だろう。しかし、リフルに火の粉が使えないように全ての技マシンを覚える事は出来ないだろうな。
「どちらもポケを使ってお買い物するんですが…貴方お金持ってないですよね」
「ぐっ…」
「ポケは不思議のダンジョンに落ちている事もあるんですが、オレンのもりには落ちてませんしね」
という事は、ポケが欲しけりゃ別の場所に行けと。
「今の貴方のレベルなら、トゲトゲやまとかどうですかね?あそこならポケも拾えますよ」
「よし、トゲトゲやまだな」
リフルの助言に従い、俺はトゲトゲやまに向かう事にした。
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「…別にリフルが一緒に来る理由は無いんじゃないか?」
「別に貴方と一緒に行っちゃ駄目な理由は無いんじゃないですか?」
特に1匹でいたいというわけでもないし、別にリフルが足手まといになるとは思わないし、構わないけれども。
「ところで、どうして俺にこのトゲトゲやまがぴったりだと?」
「正直、トゲトゲやまはさほど強い訳じゃないんですし、貴方強いですけど、知識が伴ってないじゃないですか」
こちらに向かってくるイシツブテに対して、俺は火の粉をぶつける。
「伴っていない?一体どんなとこ、グハッ!」
「そーいうとこですー」
全く持って油断していた。倒したと思ったイシツブテの体当たりを思いっきり喰らって吹き飛んでしまった。オレンのもりのキャタピーやケムッソの体当たりより痛いし、重い。
「貴方の放った火の粉は炎タイプ。岩タイプのイシツブテには効果は今ひとつです」
俺には気にもとめず、イシツブテは今度はリフルに向かっていく。それに対して、リフルは腕から緑色のボールを発現させ、イシツブテにぶつける。今度こそイシツブテは倒れたようだ。
「私のエナジーボールは草タイプで、岩タイプのイシツブテには効果は抜群です」
つまり、タイプ相性というものがあったから、俺の火の粉ではイシツブテを倒し切れなかったという訳だな。
「じゃあ貴方の火の粉を私に放つとどうなると思います?」
リフルは恐らく草タイプだから、炎タイプの火の粉を喰らえば…
「効果は抜群だろうな」
「加えて、技のタイプと技を使うポケモンのタイプが一致していると技の威力が上がります」
先程のエナジーボールとリフルのタイプは一致しているから技が強くなったのだろう。いや、俺も同じだったんだろうが、そこはタイプ相性のせいで耐えられた感じか?
「タイプ相性を理解したところで、今度はあのポケモンに物理的な技で攻撃してみて下さい」
技には相手と接触する事でダメージを与える物理技、相手を遠くからダメージを与える特殊技、自身や相手のステータスを変化させる補助技と例外はあるものの技の性質はこの3つに分けられる。
俺は二ドリーナに向けて、牙に炎を込め噛み付く。二ドリーナのタイプはわからないが、多分炎タイプでも大丈夫だろう。その予測は当たっていて、二ドリーナは倒れた。しかし、俺の身体中に痛みが走る。
「ポケモンにはタイプの他に、特性があります。二ドリーナの特性は、どくのトゲ。接触してきた相手を毒状態させることのある特性ですよ」
「そ、それを試すために…!」
身体中の痛みは動かなければ落ち着いているが、少しでも身体を動かせば、鈍い痛むが全身に走る。
毒状態に苦しむ俺に、リフルはオレンの実とは別の木の実を差し出した。
「モモンの実です、毒状態を回復する効果がありますよ」
モモンの実を一口齧ると、オレンの実では味わえない甘さを感じた。凄く美味しい。
本当に毒状態を治す効果もあるらしく、先程まで身体を動かす度に走っていた痛みが綺麗サッパリ消えていた。
「木の実って凄いな。オレンの実はどんな効果があるんだ?」
「体力を回復する効果です。…あ、着きましたよ、頂上」
そうこう言っている内に、随分とひらけた場所に着いた。ここが頂上なのだろう、しかし随分と荒れている気がするな。
「誰か戦ってたんですかね?こんな場所で珍しい」
「それより、リフル。あれはなんだ?」
俺は岩に小さな穴があるのを見つけた。
「さあ?私は入れませんし。中には財宝が隠されているとの噂がありますけどね」
「………俺なら入れそうだな」
財宝と聞いて心踊らない訳が無い。俺は嬉々として穴の中に入っていく。中には、なんとも綺麗に輝く金の棒が5つもあった。
どうですか、と穴の外から尋ねてくるリフルに穴から金の棒を渡し、俺も外に出る。
「これ、金塊ですね。こんなところにあるんですね」
「そうだな、使い道も分からないし、記念に1つ残して後は売ろうと思うんだが」
「確かに高く売れそうですけどね…」
リフルの承諾を得た俺はトレジャータウンに戻り、カクレオンのお店で金塊を売ろうとした。
「ごめんなさいね〜こちら買い取りが出来ません〜」
「マジか」
買い取りたいには山々らしいが、カクレオンも使い道が無いらしく、無用の長物らしい。
結局、金塊はリフルの住処に置いておくことになったが、こんなにピカピカで綺麗なのに使い道が無いとはなんとも可哀想な話だ…。