ポケモン不思議のダンジョン 空の外伝   作:チッキ

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第17話 師匠の講義

「そもそも、探検っていうのは何かしら目的を持って探検するものだと僕は思うんだよね。誰かを養う為に探検するような経済的な理由しかり、世界の真理を掴む為に探検するような学問的な理由しかり、何者かから逃げる為に探検するような反社会的な理由しかり、皆からの期待に応える為だけに探検するような表面的な理由しかり、アイテムを売る為に探検するような営利的な理由しかり、富や名誉に目が眩んで探検するような偽善的な理由しかり、仲間に裏切られて虚心のまま探検するような悲劇的な理由しかり、ただ頼まれて探検するような事務的な理由しかり、周りと同じように探検するような因習的な理由しかり、自分しか成し得ないだろうと信じて探検するような天才的な理由しかり、自分の論理だけ信じて探検するような思弁的な理由しかり、最終目標の足がかりにする為に探検するような漸進的な理由しかり、周りが勝手に決めつけて探検するような外発的な理由しかり、自分の居場所を見つける為に探検するような排他的な理由しかり、普通とは違う事をしたいが為に探検するような変則的な理由しかり、自らの死に場所を探す為に探検するような破滅的な理由しかり、俗世間と離れる為に探検するような禁欲的な理由しかり、頭より先に身体が動いてしまって探検するような盲目的な理由しかり、成すべき事がそこにある為に探検するような第一義的な理由しかり、いずれにしろ目的があるのは理解出来ると思うんだ」

「……………?」

「じゃあ僕が探検する目的は、だって?僕はこの世界の面白さを皆に伝えたいっていう生まれもっての本質的で啓蒙的な理由だよ。キュウコンの様な寿命の長いポケモンでも、テッカニンの様な寿命の短いポケモンでも、それでも僕達のポケモンの命ってのは1つしかない。自殺他殺病死寿命、その他諸々…命の炎が消える理由は沢山あれども、僕は命の炎が消える最後の瞬間まで、その炎を輝かせる事こそが、最高の命だと思ってるし、その為に努力も惜しまないさ」

「……………」

「君に出会えた事も、僕の命の炎を輝かせる一因だよ。君が何処で生まれ、どうやってここに辿り着いたのかは全くわからない。わからないけど、だからこそ面白いと思う。君のその謎を解く、今の僕の目的だ。その目的の補助的な意味合いで僕は色んなダンジョンに巡っている訳だ。世界各地の不思議のダンジョンを全て巡り、全て記す。そんな事が出来れば僕は探検家としても、ポケモンとしてもさらなる伝説へと昇華できるんじゃないかな。そして、全てのダンジョンを巡ったという事は、世界の全てを巡ったという事に等しい。つまり、相対的に君の謎も解けるわけさ。それなら僕はもう努力を惜しまないさ!なんたって、メリットしか無いんだぜ」

「…………………………?」

「ん?それじゃあ、その目的が達成されたらどうするんだって?…ああ、君は心配しているんだね?およそ誰も成し得ないであろうその目的を達成してしまったら、僕はそれ以上の目的を見出す事が出来ないんじゃ無いだろうかって。でもさ、それでも大丈夫だよ。確かに、目的を失い、ただ死んだ様に探検をするかもしれない。だけど、それは新しい目的を探す為という想像的な理由で探検する事になる。つまるところ、最初に行った通り、何も目的が無く探検するようなポケモンはいないって事さ。だから安心したまえ、僕は自らの目的を達成したくないからって、わざと手を抜いたりするような非効率的な事はしないさ」

「…………………」

「うむ、わかってくれたようで何よりだよ。だから君は安心して僕と共に来るがいいさ。僕は君を絶対に守り切るし、絶対に傷付けないさ。僕だけじゃない、君の命だって輝く権利はあるんだ。だから、君もその命を輝かせる為に精一杯努力するべきだよ」

「…………?」

「そうだね、まずは喋れるようになりたいね。君は言葉の意味はわかっているけど、未だに喋れないからね。言葉っていうのは重要なものだよ。ペンは剣より強し、どんな時でも最終的に役に立つのがコミュニケーションさ。僕も君が喋れるようになる事をとても期待しているよ」

「……………」

「…いや、僕はともあれ、今のままだったら他のポケモンとはコミュニケーションが取れないからね?」

「…………………!」

「………僕としては非常に嬉しいけど、それだけだったら絶対駄目だよ。じゃあ君は、僕がいなくなったらどうするつもりなんだい?僕以外とのコミュニケーションを一切取らず、徹底的に1匹狼…じゃなかった、1匹蛇を貫くつもりかい?それだったら、僕は君を甘やかし過ぎた、僕は君から距離を置かなきゃならない」

「………!…………!!」

「そんな目に涙浮かべて絶望的な顔しないの。尻尾を掴まない。…冗談だから、今のままで君を放っておいたら僕の方が夢見が悪いよ。それでも、もし君が僕しか必要無いって言い続けるなら本当に側を離れる事を忘れないで欲しい。僕だって、君が嫌いだから言っている訳じゃない。それどころか、君が好きだからこそ、君が心配だからこそ僕は君に言うんだよ。愛の形は様々あれども、依存する事は、それは愛なんかじゃないからね。愛が愛である為には、時には厳しくする事も必要だ」

「…………………」

「その冷たい眼差し!まるで、僕が面白いから厳しくしているって感じの視線だね!まあ、正解っちゃあ、正解だね。先程も言ったけど、僕が命の炎を輝かせるには“面白い”と思うべき事を成す、それが僕だからね。おおよそ探検が初めてのポケモンが行くダンジョンじゃない場所に無理矢理連れて行ったり、罠の存在を知っておきながら忠告しなかったり、モンスターハウスに遭遇して慌てる君を遠目から眺めていたのも、厳しさ余って面白さ100倍って奴だね!…まあ、わかっていると思うけど、何も君を傷付けたい訳じゃないからね?現に、君は何1つ怪我した事は無いはずだ。言葉の反対は暴力だ。何も言わず、ただ暴力を振るえば大抵のポケモンは従ってくれる。だけど、そこにはコミュニケーションは全くない」

「……………?」

「ああ、確かに言葉の暴力という言葉もある。だけど、僕が言った言葉っていうのはコミュニケーションの換喩的表現さ。言葉による暴力を振るうような奴に、コミュニケーションが取れると思うかい?答えはNoだ。そりゃ、出来るやつもいるかもしれないが、そいつもまた暴力に魅力を感じている馬鹿さ。だから言葉がコミュニケーションを取る最善の方法に対して、暴力っていうのはコミュニケーションを取れない最悪の方法なのさ」

「………?」

「殴り合って生まれる友情、ね。まあ確かにあるね、そんなもの。だけど、殴り合ったから友情が生まれたんじゃなくて、殴り合って、これ以上殴れないって状況になって、ようやく言葉によるコミュニケーションを図ろうとしたからこそ、友情が生まれるんだよ。結局、暴力ってのは良いものは何も生みやしない。不条理な暴力なんぞ、全て排斥すべきものだと僕は思うがね」

「………………」

「君も不条理な暴力を武器に使うんじゃないよ?そんな奴は、僕は絶対に許さないよ。…まあ、残念ながら世界にはそういう奴らが蔓延ってはいるんだけど…。それでも、そんな奴らのせいで輝くべき炎が消えてしまう…それが僕には許せない」

「…………………?」

「…いや?助けないよ。いいかい?不条理な暴力に、不可解な思考に、不愉快な中傷に、その命の炎を輝かすことの出来ない奴は沢山いる。だけど、僕がそいつを助ける義務も無いし、というより理由が無い。何度でも言うけど、命の炎を輝かせるのは自分自身だ。僕がそいつらを助けても、そいつらは輝く事は無い。せいぜい僕がするのはきっかけ作りだけだよ、いわば火種の準備。それを活かすか、もしくはそれすらも消してしまうか。それはそいつ次第だ。僕は全てのポケモンがその命を輝かせるべきであり、その権利があると思ってはいるが…別にそれを押し付けるつもりは一切合切無いよ。聞き上手なポケモンは、まず最初から否定しないって事だと思うんだよね。自分の趣味に合わないから排他する。自分の意見と違うから否定する。自分の思い通りにならないから憤慨する。つまるところ、こういう奴らは言葉の暴力を使う奴だな。そういう奴らは僕は許せないけど、そういう奴らを排斥するつもりなんてない。無論、僕や君に被害が及ぶなら別だけどさ」

「……………………」

「向こうは否定するのに、こちらは肯定するのかって?いやいや、別に肯定はしないさ。そんな奴らに相手をしない。それが僕らの対処法だよ。自分を否定し、排斥し、排他しようとする奴らがいるならこう思えばいい。“それはそいつの想いであって、自分は違う想いなんだ”って。否定する奴らを相手してたら、自分自身もそいつらに引っ張られちゃうよ。そんな奴らは相手にしない、他にいる、自分を肯定する相手だけを見る。それこそが僕の処世術さ。それ故に僕は言っておく、ここまで冗長に君に語ったけど、君が肯定出来ることだけを参考にすればいい。否定はいらない、肯定と、無関心。賛成と無干渉。ポケモンってのはそうであるべきだと思うね」

「……………………………」

「ただ、君にこれだけは否定されたくないな…。命の炎を輝かせるっていうのは、やっぱり大切なものだよ」

 

▼▽▼

 

 私は、ビートと一緒にいたい。

 私は、ビートと共に笑いあいたい。

 私は、ビートと共に苦難を越えていきたい。

 それが、私の命の炎が輝かせる。

 

「…ビート」

 

 とうに意識を失ったビートの身体を抱き締めながら、私達は時限の塔から落ちていく。地面に墜落すれば、私もビートもタダでは済まない。

 

「賭けてみましょう」

 

 徐々に近付く地面に、少し恐怖を覚えながら、私は手を差し出す。

 

「………大陸渡し(コンティネント・コネクティッド)

 




何言ってんだこいつ…

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