目を覚ますと、住処に戻っていた。寝っ転がったまま辺りを見渡すと、リフルが腕を組んでこちらを見ていた。
「目が覚めましたか?」
「えっと…俺は………」
何があったのか思い出そうとしても、何も思い浮かばない。
「あなたと同じ姿のニャビーが、あなたをここに運んできた時は少々驚きましたよ」
「同じ姿のニャビー…」
間違いない、メタモンだ。俺はメタモンと戦って勝利したはずだ。そこでメタモンと会話を交わして…駄目だ、これ以上は思い出せない。
「それにこれも」
リフルが時の歯車を取り出し、ひらひらと団扇のように扇ぐ。
「それって…!」
「ご存知の通り、だいしょうにゅうどうの時の歯車です。あなたを運んできたニャビーが言ってましたよ。『僕なんかが持つより、あなた達が持っていた方が良い』と」
「…あいつ」
何があったかわからないが、メタモンは俺の言うことを信じてくれたのだろう。ここにある時の歯車が何よりの証拠だ。
「それで、キザキの森の時の歯車は?」
俺の問いにリフルはふるふると首を振る。
「まだ戻ってすらいませんでした。行動が少し早過ぎましたね」
「じゃあ、今俺達は時の歯車を1つ手に入れた訳だな?」
「いえ」
リフルは複数の時の歯車を取り出す。合計、4つ。
「………え?」
「ビートが丸々1日寝ていた間にシャンプーが集めてきましたよ、3つ」
「え、えっと…どういうことだ?」
「湖の時の歯車を守るユクシーアグノムエムリットの懐柔したらしいです。それでなし崩し的に3つの時の歯車ゲッチュです」
「シャンプーすげぇ…」
素直にそう思わざるを得なかった。きっと俺だったら不可能だっただろう。
「そんなシャンプーは今ねっすいのどうくつ奥のきりのみずうみでユクシー達と遊んでるらしいです。ビートが起きたら向う約束ですから、行きますよ」
▼▽▼
所変わってきりのみずうみ。時が止まって、美しさというのは微塵も感じられず、ただ虚無感を覚える。
リフルが言っていた通り、ユクシーエムリットアグノムの3匹の真ん中でシャンプーは楽しそうにお喋りをしていた。
「お待たせしました、シャンプー」
「あ、リフルさん!ビートさんも目を覚ましたんですね、よかったよかった!」
「………………」
「………?リフルさん?」
リフルは腕を組んで、ユクシー達を見つめ、何かを考えていたかと思うと、突然ユクシー達に指をさした。
「ユクリア、アグレア、エムクト…ですね」
「何を考えてたかと思うとあだ名か!」
「あはは…聞いてた通り、個性的な子だね…」
「いいじゃないか、私は気に入ったよ!」
苦笑いのアグレア、嬉しそうなエムクト、無表情で何を考えているかわからないユクリア。時の歯車を守る守護者にも色々いるものだな。
「…さて、探検隊レガリアさん」
「はい、何でしょうか?」
「私達にも、聞かせてください。ジュプトルの本当の感情や意思を、貴方達の口から」
「…わかりました」
ジュプトルじゃなくてジュピタです、と意味のない前置きをしつつ、リフルは語り出した。あらかじめ話を聞いておいたお陰かユクリア達3匹は黙って話を聞いていた。
「…と、こんな感じですかね、ジュピタと対峙して感じた事と、私達が考えた推理は」
「そのリーブイズって探検隊は私、戦った事あるよ!」
「僕は助けてもらったって感じかな。ジュプ…ジュピタに襲われている時に
「私は、リーブイズのリオーネが元々人間で、記憶を失っていると聞きました。記憶を司る私だからこそ、聞いてきたのでしょう」
「ということはリフルさんの推理は大正解なんじゃないですか!?」
確かにユクリアの情報を合わせると、ヨノワールがリーブイズも一緒に未来世界に連れ去った訳だ。
「…しかし、じゃあビートはなんなんですかね?」
「はい?」
「ビートも同じ様に元々人間で、記憶を失っているんですよ。似たような境遇からして、何か慣例性があると私は推測します」
リフルの言葉に、ユクリアは首をかしげる。
「ビートさん、もですか」
「んー、確かに何か関係あるのかもしれないな…」
「僕もそう思うよ…ん…?」
ふと、アグレアが何かに気付いたかのように俺達の背後に目線を向ける。俺達も振り返って後ろを見た。
なんとそこには、未来世界に連れ去られたはずのジュピタが、俺達と同じく驚いた表情でそこに立っていた。
「ジュピタ」
「…リフル、ビート」
ジュピタは首を振ると、俺達の後ろのシャンプーらに目線を合わせて、臨戦態勢を取る。
「何か勘違いしているようですけど、彼らは味方ですよ」
「なに…?」
「ほら、貴方が集めているものってこれでしょう?」
リフルがバックから4枚の時の歯車を取り出す。それを見たジュピタは再び驚いた表情をし、グッと口を噤み、ほぼ直角に頭を下げた。
「すまない…!俺を、信じてくれたというのに俺はお前達を心の底から信用出来なかった…!」
「私は貴方じゃなくてビートを信じる事にしたんです。謝るならビートに謝って下さい」
「ああ、本当にすまない」
ジュピタは俺の方に向いて、頭を下げた。
「…未来世界に連行される時、俺はお前達が何もしないのを見て、一瞬だけだが裏切られたと思ってしまった。だが、お前達はこの世界に暮らす者、それ故派手な動きは出来ない…そういう事だったんだろう…」
「………気にしないでくれ、まさしくその通りなんだからな」
ジュピタに対してそう言った俺だが、何故だか寒気が止まらなかった。
「……………それで、一緒に連れ去られたリーブイズ達は?」
「あいつらは別の情報を探している。俺の目標は、達成されたが」
どうやらジュピタはキザキの森の時の歯車を取ってきたらしく、時の歯車を取り出した。
「これで5つ、これを時限の塔に嵌めれば…時の崩壊はおさまるはずだ」
「ちょっといいですか?その時限の塔って何処にあるんですか?僕、聞いた事無いんですけど…」
「ああ、それは…」
「幻の大地ですよ」
ジュピタの言葉を遮って、リフルはが答えた。
「…あれ?どうしてリフルが知ってるんだい?私達ですら知らなかったんだけど…」
エムクトの言う通りだ。だが、リフルならば知っていてもおかしくないという気持ちも、今まで一緒にいた所為か感じてしまう。
「…恐らく、私は時限の塔に行ったことがあるんですよ。私の師匠は自由奔放なポケモンで、色んなダンジョンに連れ回されましたから。ただ、行き方は知りませんよ。記憶が曖昧なので」
そういえば、前にリフルはゼロの島という場所にも行ったことがあると言っていた様な気がする。その師匠とかいうポケモンに1度でも良いから会ってみたかったな。
「ともあれ、その幻の大地に時限の塔があるんだね?それで、その幻の大地にはどうやって行くんだい?」
エムクトの質問にジュピタはふるふると頭を振る。
「それは…まだわからないんだ。だが、そんな事は壁ですらない。今、俺には、頼りになる仲間が沢山いる」
ジュピタは俺達を見渡して、深く頷いた。それに対して、ユクリア達は当たり前だろうと言わんばかりに微笑んだ。その中で、唯一俺だけが純粋に笑顔になれなかった。
「私達も私達で、伝説のポケモンコネクションで幻の大地について調べてみましょう」
「手がかりが全くないけど、その方が燃えるじゃないか!」
「…まあ、こういうのって大概近い所に正解があったりしますけどね」
わいのわいのと見知らぬ幻の大地について、皆で話し合っていたその時。
「あ、ユクシーさん…って、ええええええ!?!?」
「ひええええええ!?!?じゅ、ジュプトルゲスかーーー!?!?」
プクリンギルドの弟子、スズと…ビッパだ。ジュプトルを目撃して、動揺しているらしい。俺達は目を合わせて、コクリと頷く。
まるで、前から決めていたかのような動きでスズとビッパの2匹を取り囲む。ここでバレてしまっては、作戦が台無しだ。申し訳ないが、2匹を口封じする。
「…悪いが、少し痛めつけるよ」
「…心苦しいですけど、ね」
「えええ!!待って、待って下さいよ!」
「あっし達の話も聞いてくださいよ〜!!」
「………聞くだけ聞いてやる」
ジュピタの返答にスズ達は声を震わせながらも話し始めた。
そこで、驚くべき事実が発覚する。俺がメタモンに、シャンプーがユクリア達に、その真実を話したように、リーブイズの2匹はプクリンギルドの皆に真実を話したのだ。勿論、ギルドの皆も信じられない様子だったが、親方のリーブイズを信じる発言を皮切りに全員が、リーブイズの話を受け入れたのだ。
そしてギルドの皆はそれぞれ、トレジャータウンのポケモン達や、ユクリア達に話に来たらしい。
「どう説得するか、悩みましたけど…レガリアの貴方達も知ってたんですね…」
「僕が知ったのもつい最近ですけどね!でも、僕はリフルさん達が嘘を付くとは思えなかったんで」
「ともあれ、良かったでゲス。今、リーブイズは幻の大地の情報を集めているでゲス」
「…そうか」
ジュピタの顔が綻ぶ。そして手紙を書き始める。
「…これをあいつらに頼む」
書いた手紙をスズに差し出すジュピタ。そして踵を返す。
「…何処へ行くんだ?」
「俺は俺のアプローチで幻の大地を探す」
「リーブイズに会わなくていいんでゲスか?」
「ああ、あいつらはあいつらできっと上手くやってくれるさ。あいつらは、いいパートナーだ」
そう言ったジュピタは俺とリフルを横目にニヤリと笑った。
「…お前達もな」
▼▽▼
目的は達成。新しく出来た目標を立て、帰ろうとした所に俺はエムクトに呼び止められた。
「なあ、ビート」
「なんだ?」
「…あんたがジュピタに謝られた時、あんたからドス黒い感情を感じた」
図星を突かれたように、俺の心臓は跳ね上がるように高鳴る。
「…あんたは、裏切りに対して酷い憎悪がある。それは恐らく、失われた記憶のせいだ」
「………………」
「…いつか記憶を思い出した時、あんたはひどく狼狽するはずだ。だが、忘れないでくれ、あんたには、あんたが信じて、あんたを信じている一連托生の仲間がいる事を」
「………肝に命じておく」
エムクトにそっと感謝の気持ちを抱きながら、俺は先に行ったリフル達を追いかけた。