ポケモン不思議のダンジョン 空の外伝   作:チッキ

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chapter5 時の歯車奪取作戦
第12話 奪取作戦始動


 俺達がトレジャータウンに戻った時には、ジュプトル捕獲の話で持ちきりだった。皆、ヨノワールを讃え、この世界が守られたと安心しているのだ。

 しかし、俺達レガリアは違う。ヨノワールだけでなく、ジュピタにも出会った事によって、俺達はいち早く真実を知ることが出来た。その真実を周りに伝えるのは、些か難しい話だが。

 いつの時代だって真実を語る者は少ない。それ故、真実を語る者は理解されないのだ。

 

「明日、ジュプトルさんとヨノワールが未来世界に帰るみたいですねぇ」

「名目上は、時の歯車を盗んだジュピタの輸送」

「…しかしその実はヨノワールの策略です」

「さて、どうする?暴れて止める…というのはリフルは考えてないだろう」

「少しは考えてますよ。リスクを考えると駄目な策ですけど」

「でしたら、ジュプトルさんとヨノワールが未来世界に帰ったのを確認して、僕達が時の歯車を集めるってのはどうですか?」

「もしかしたら、未来世界で再びジュピタが逃げる可能性もありますしね」

「今の所、俺達が把握している時の歯車の場所は、キザキの森、すいしょうの洞窟、だいしょうにゅうどうの3つだったな」

「すいしょうの洞窟もだいしょうにゅうどうも時の歯車を守る者がいるんですよね?でしたらキザキの森の時の歯車を取るべきですかね?」

「確かに…他の守護者を撃破し、時の歯車を取る事が出来たとしても、キザキの森の時の歯車を守る者が現れるかもしれないな」

「ええ、確かにそうです。確かに、キザキの森の時の歯車を最初に取るという考えはありだと思います。しかし、だからこそ私達は他2つの時の歯車を取るべきです」

「…それはどうしてです?ビートさんが言ったように、キザキの森の時の歯車が取りづらくなったら…」

「キザキの森の時の歯車を最初に取った場合、他の時の歯車を取る時に、守護者を増やされる可能性があります。キザキの森を取られたからの警戒ですね」

「成る程、元々いる守護者に加えてって訳か」

「時の歯車を守る者達がそう簡単に一筋縄で行くと思いませんしねぇ…どちらにせよ、大変なのは確かですね。でしたら、僕達は丁度3匹なんですし、3つの時の歯車を同時進行で取るってのはどうです?」

「…なかなか良い策なんですよね。誰かが倒され、捕まったとしても、私達は無関係の振りをすればいい。ただ、1匹という事もありますし、キザキの森はともかく倒されやすいのは事実ですよね」

「それでもレガリア全員が時の歯車を狙っている事を悟られるよりはマシだろう」

「………ええ、そうですね」

 

 長い時間、3匹で会議をした。最終的には3箇所の時の歯車を3匹でそれぞれ取りに行く、という策で決定した。そしてキザキの森はリフルが、すいしょうの洞窟はシャンプーが、だいしょうにゅうどうの時の歯車は俺が担当する事になった。

 今更後には引けない、俺達レガリアは理解されなくとも、世界を救う。ジュピタもきっと同じ気持ちだったのだろう。

 

▼▽▼

 

 トレジャータウンでは、いつにない活気を見せていた。それもそのはず、時の歯車泥棒のあの極悪ポケモンにされられたジュピタが未来世界へ帰還させられるというのだから。全員が全員、勿論俺達は除いてだが。全員、時の停止に恐怖する事はないと、安堵してしまっている。

 トレジャータウンの広場には、時空ホールと呼ばれる所謂未来世界へ行く為の片道切符があった。先程、それに近付こうとした者がジバコイル保安官に止められていた。

 程なくして、ヨノワールとその手下であろうヤミラミと共に体を縛られ、口を封じられたジュピタが連れられた。

 

「…ジュピタ」

 

 リフルはボソリと呟いた。すると、ジュピタがこちらを見たような気がした。

 

「…後は、任せておけ」

 

 恐らく伝わらないだろうが、それでも俺はその言葉を言わない訳にはいかなかった。

 ヨノワールが何かを言っている。しかし、そんなものは上辺のものに過ぎないし、聞く価値も無い。俺達がその場から離れようとした時だった。

 

「それじゃあ、リーブイズのお二方に…」

「私達が呼ばれてるよ、リオーネ!」

「………………」

 

 ヨノワールに呼ばれた2匹の活発そうなイーブイとそれと対照の無口なリオル。確か、プクリンギルドの1番新しい弟子で、リーブイズという名前で活動していたはずだ。

 一体何を話すのか、少々気になった俺は興味を戻し、立ち止まった。話の内容はよく聞こえなかったが、恐らく他愛もない話だろう。そう判断した俺は立ち止まらなくて良かったな、とそう思った。その瞬間だった。

 

「お前達もな!」

 

 ヨノワールがそう言うと、リーブイズの2匹を掴み、共に時空ホールへと連れ去っていった。リーブイズはヨノワールと一緒に未来世界に連れ去られてしまった。

 取り残されたトレジャータウンの面々は、驚き、周りと顔を見合わせていたが、結局リーブイズの2匹がバランスを崩して入ってしまったという結果になった。

 

▼▽▼

 

「そんな訳、無いだろうが…この脳内お花畑共が…!」

「プクリンギルドで情報集めしてきましたけど、あのリーブイズのお二方は特にヨノワールと関わりがあったらしいですよ〜」

「関わりがあったとはいえ、どうしてヨノワールはリーブイズを連れ去ったのでしょう…?」

 

 一連の騒ぎがあった後、拠点に戻り、俺達は再び議論を始めた。

 

「それについては僕は心当たりありますよ」

「それはどんなだ?」

「リーブイズのリオーネと呼ばれるリオルは元々人間だったらしいですよ」

 

 突然の変化球に顔を強張らせる。

 

「…それで、それだけの理由ですか?」

「いえ、そのリオーネさんは“じくうのさけび”という特異な能力を使えるらしいです」

「“じくうのさけび”…」

「特定の過去や未来を見る事が出来る能力らしいんですけど、海岸でヨノワールとリーブイズのお二方が話してるのを盗み聞きしちゃいました」

 

 何度も思った事だが、本当にシャンプーを仲間にしておいて良かった。こいつ以上に優秀な情報屋はいないんじゃないだろうか。

 

「元々人間で、“じくうのさけび”を持つリオル…不思議な存在ではあるな」

「元々人間なのは貴方もじゃないですか」

「えっ!?ビートさんも!?」

 

 そう言えば、シャンプーにはその事を話していなかった。驚くシャンプーに説明をする。

 

「む、まあなんとなく理解しましたけど…ということはビートさんも何か能力を?」

「いや、そういうのは無いな…」

「なぁんだ…」

 

 そう露骨にガッカリしないで欲しい。

 

「ともあれ、リオーネが元人間で“じくうのさけび”を持つって事は関係しているでしょうけど、それだけの事で未来世界に連れ去る必要性はありませんよね」

「………ジュピタと同じだったら?」

「ジュピタと同じ?どういう事ですか?」

 

 俺は頭の中で組み立てた仮説をリフル達に話す。

 

「…ジュピタは未来世界から時の停止を食い止める為にやってきた…ように、そのリオーネとやらも一緒だったとしたらどうだろうか?」

「えっと…元人間のリオーネさんも未来世界の住民だったって仮説ですか?」

「そういうことだ、シャンプー。その際、何かしら原因があってリオーネはポケモンへとなってしまった…」

「何かってなんですか、とツッコみたい所ですけどビートも解ってませんしね、置いておきましょう」

「そして、恐らくリオーネは記憶を無くしたのだろう。人間からポケモンに変わった者は記憶を失う何かがあるんだろうか…」

「まあ、リーブイズとしてプクリンギルドの弟子入りしてますしね。己の役目を覚えているならヨノワールなんて目の敵にするはずです」

「そして、なんらかがあってヨノワールにその正体がバレた…それ故に連れ去られた、という説だ」

「なんだか、なんらかとか曖昧な所が多いですけど…」

「しかし、そう考えると腑に落ちます。もう片方のイーブイの方は恐らく巻き込まれただけでしょうけど」

「あの子の名前はイブですよぉ〜、僕の進化前ですね!」

「…とまあ、長々話したが…それが判明した所で何かあるって訳じゃ無いんだがな…」

 

 それにこの話を皆に話したって信用して貰える筈も無いんだし。

 

「いえ、もしもの時にもしかしたらほんの少しひょっとしたら役に立つ可能性が僅かながらあると思います」

「それ無いって言ってるのと同然だって思わないか?」

「何言ってるんですか、もしかしたら交渉の時に使えるかもしれないじゃないですか!」

 

 もしかしてシャンプーは時の歯車頂戴ってお願いするつもりなんだろうか。無謀も無謀過ぎやしないか?

 

「さて、作戦会議はおしまいです。それぞれ、各地の時の歯車を取りますよ、まさしくふたつの意味で時間との勝負です」

「ああ、武運を祈る」

「誰に物を言ってるんですか〜!」

 

▼▽▼

 

 再び、だいしょうにゅうどう。1度ここに来ている俺はだいしょうにゅうどうの謎なんてあってないようなものだ。実際、壁があるように見せて無かったしな。

 道中の敵も取るに足らない。あの時は親方と一緒だったが、実質俺が1匹で戦っていたからな。

 何も苦労する事なく、俺はだいしょうにゅうどうの最奥部に辿り着いた。

 

「…………………」

 

 幻想的な時の歯車の辺りを見渡した。

 

「また、来たんですか?えっと、ビートさん、でしたっけ?」

「ああ、違いない」

 

 岩だと思っていた物が姿を変えて、メタモンになった。そう、このだいしょうにゅうどうの時の歯車の守護者はこいつだ。その変身能力を用いて、時の歯車を守護する。

 

「…一体何の用ですか?」

「時の歯車を盗み続けていたジュプトルの話は知っているか?」

「えっと…ごめんなさい。僕、いつもここにいるんで、外の情報に疎いんですよ」

 

 そのような気がした俺は、メタモンに外の世界について話した。

 

「そ、そんな!じゃあこの時の歯車も盗まれるかもしれないんですか!?」

「いや、そのジュプトルは捕まったからそれは無いんだがな…どうやらここは無事だったようだな」

「それを確認しにここにきたんですか?」

 

 不思議そうな顔のメタモン。

 

「まあそれが1つだ。後1つ、場合によっては2つになるが…用事があるんだ」

「はぁ…」

「………時の歯車、貸してもらってもいいか?」

 


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