ポケモン不思議のダンジョン 空の外伝   作:チッキ

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Chapter4 時
第9話 語られる真実の裏側


 またあの時の夢を見た。

 いつの間にやら私はあのポケモンの家に連れて行かれていたようだ。暖かい毛布にくるまりながら、私の鼻腔に美味しそうな匂いが漂ってくる。

 

「おはよう、目を覚ましたみたいだね」

 

 相変わらず、彼の言っている事は理解出来なかったけど、差し出されたシチュー(少しぬるめ)を私は受け取った。

 美味しそうな匂いについついすぐに食べ終えてしまった。初めてのご飯はとても美味しかった。

 

「さて、これからどうしようかな」

 

 彼は悩みの表情で唸っている。私はそんな彼の様子をただ首を傾げて眺めていた。

 

「言葉も喋れないなら、意思疎通も図れないからなぁ…だからといって、ゆっくりと言葉を教えてあげられる時間は僕には無いんだよな…」

 

 やれやれといったような感じで首を振る彼。顔を上げた時には覚悟を決めたような顔になっていた。その顔のまま、彼は私の頭に手を置いた。

 

「…君に、知識を授けよう」

 

▼▽▼

 

「おはようございます!朝ですよ!起きてくださ〜い!」

 

 最悪の目覚めだった。普段は自身で起きたり、リフルが起こしてくれる事もあるが、朝っぱらからシャンプーのこのテンションは辛いものがある。

 

「聞いてくださいよ聞いてくださいよビートさん!すっごい話があるんですよ、すっごい話!!」

 

 リフルは仲間には俺達に無い元気の良さが欲しいと言っていたが、こんなにエネルギッシュだとそれはそれで困る。

 

「…ご飯食べながら聞いてやるよ」

「ご飯なら僕が作っておきましたよ!ささ、あちらへ!」

 

 シャンプーに連れられて、リフルが普段日光浴をしている木の下に着く。そこには美味しそうな見た目の料理がズラリと並び、死んだ目をしたリフルが座っていた。

 

「…えっと、どうしたリフル」

 

 俺の到着に気付いたリフルは俺に耳打ちをしてきた。

 

「…気を付けて下さい。シャンプーの料理…」

 

 まさかこんな美味しそうな見た目をして不味いのか、そう身構えた俺だったが…

 

「すっっっっごく、普通です」

「………え?」

「…とりあえず食べてみて下さい」

 

 リフルに言われ、まずは木の実サンドウィッチを頂く。一口食べただけでリフルの言いたい事はすぐに伝わった。

 不味くはない。しかし、美味しくもない。特徴が無く、感想が言えない。食べられないものじゃないから不満も言えない。なんだこれ。

 

「どうです!?どうです!?美味しいです!?」

 

 期待に満ちたシャンプーの顔。

 

「あ、ああ…美味しいよ」

 

 そんな顔をされては俺はただそうやって答えるしか無い。これなら不味い方がマシだと言えるくらいだ。

 

「…えっと、それで、話ってなんだ?」

 

 微妙な料理を食べつつ、シャンプーが言っていた話題に話を戻す。

 

「そうそう!今、あの有名な探検隊のヨノワールさんがここらに訪れているんですよ!」

「…ヨノワール…?」

「…私も、聞いた事無いですね」

「まあ突如彗星の如く現れ一躍有名になりましたからねぇ、知らないのも無理はないかもしれませんが」

 

 まるで自分の事のように誇らしげに胸をはるシャンプー。

 

「しかし、いきなりそこまで有名になるものですかね?」

「そりゃあ、今まで夢物語だと思われていた秘境の発見や、かの有名なポケモン武将が遺したと言われる宝物…それらを瞬く間に見つけ出したんですよ!」

「そうですか…」

 

 そう言うリフルの表情はどこか暗い。このヨノワールの話、俺にはどうもきな臭く感じる。瞬く間に数々の発見をしたと言うが、何故今なのか。そして、リフルも知らないほどの、昔までの無名さ。シャンプーや噂にしている者は凄い凄いと囃し立てるが…

 ふとリフルと目が合った。リフルも同じことを考えていたらしく、小さく頷いた。

 

「そうですね、折角ですから、会いに行きましょう。そのヨノワールさんとやらに」

 

▼▽▼

 

 トレジャータウンは非常に騒がしかった。耳を澄ませば、ヨノワールの話ばかり。

 

「あ、そう言えば聞いて下さいよ。僕、さっき海岸でスゴイもの見つけたんですよ」

「スゴイもの?」

「まあ僕には無用な物ですけど、水のフロートって知ってます?」

「ルリリの専用道具ですね。非常にレアでPPの最大値を上げる効果があります」

「それが海岸に落ちてたのか…?」

「流れ着いた感じでしたよぉ。持ち主が泳いでる時にでもつい手放しちゃったんじゃないんですかね?」

「まあ、どちらにせよ私達には不必要な物です」

「僕もそのまま放っておきました」

 

 …拾っておいてトレジャータウンで持ち主を探すっていうのは駄目なんだろうか?

 

「おや、あそこにポケだかりがありますね」

「中心にヨノワールさんがいるんですかね?」

 

 ポケだかりに近付いてみると、恐ろしい見た目とは反面、トレジャータウンの皆と笑顔で話し合っているヨノワールの姿を見つけた。

 

「あ、あの、僕…ヨノワールさんみたいに強くなりたいんですけど…」

「ヨノワールは強いのか…?」

 

 つい足が前に出そうになった所をリフルに頭を叩かれる。

 

「鍛錬中毒の戦闘狂はいい加減にして下さい」

「…ビートって変なポケモンなんですね」

 

 少なくともシャンプーには言われたくない。

 

「まずは好き嫌いせずにご飯を食べる事ですね。逃げてばかりじゃ強くなりませんよ。だからといって、逃げないって言うのもいい事とは言えませんけどね」

「うーん…難しいや…」

 

 成る程、トレジャータウンの皆に質問攻めにあっているのか。しかしヨノワールは嫌そうな顔を一切せず丁寧に答えている。

 

「スゴイですよねぇ、なんでも知っているんですよ」

「なんでもだと…?」

「はい、ヨノワールさんのスゴイところはやっぱり知識ですよ。なーんでも知ってるんですよ!まるで未来から来たみたいですよね!」

 

 その瞬間、俺に衝撃が走る。笑い飛ばす所だろうが、俺は未来からやってきたポケモンを知っている。

 聞くに、時の歯車は全て見つけにくい所にあると言われている。リフルがキザキの森で時の歯車を見つけたのも、唯の偶然らしい。しかし、ジュピタは何のヒントも無しにキザキの森の時の歯車を見つけた。…もし未来で、時の歯車のある場所を知っていたとしたら、ジュピタは今もその情報を頼りに時の歯車を集めているだろう。

 ヨノワールがもし未来から来たポケモンだと言うのなら、今まで無名だったと言うのも納得出来るし、その膨大な知識量も、未来世界で調べて来たのなら納得出来る話だ。その功績だって、本来は別の探検隊が手に入れるものだった筈だ。

 しかし、問題はヨノワールの目的だ。ヨノワールが未来の世界から来たと仮定して、この世界で何をしたいのか?ジュピタの目的は、この世界で時の歯車を集めて、未来世界の時の崩壊を喰い止める事だ。ヨノワールが同じ目的だとしたら、ジュピタと共に行動しててもいい筈だが…?

 

「ビートさんも何か質問あります?」

 

 気付くとシャンプーはこちらを見て問いかけていた。どうやら一通り質問し終わったみたいで、シャンプーは俺にヨノワールへの質問を促していた。

 

「…いや、大丈夫だ。俺は特に」

 

 変なことを言って怪しまれても良いことは無い。ここは黙っておくのが得策だ。

 俺はそう思ったが、リフルはそうでは無かったらしく、ヨノワールに近付いて問いかけた。

 

「時の停止ってどう思います?」

 

 ヨノワールの顔が驚愕の表情に変わる。なんとも核心を突いた質問だろうか。

 

「そ、それは一体どういう意味で?」

 

 ヨノワールは驚きを取り繕うように首を傾げた。

 

「そのままの意味です。私の故郷であるキザキの森の時が止まってしまいましたが…ヨノワールさんはそれについてどのようなお考えを?」

 

 まるで記者のような質問をするリフル。…リフルがキザキの森の出身だとは聞いてないし、恐らくあれは嘘なんだろうけど。

 

「…とても心が苦しい事です。時が動かない状況で、私達は生きていけるでしょうか?そんなもの到底無理に決まっています。だから私は時の歯車泥棒の犯人を血眼で探しているのです!」

「わかりました、ありがとうございます」

 

 愛想笑いでリフルはこちらに戻ってくる。そして俺達をすり抜け、そのままサメハダー岩の方へ向かっていく。

 歩きながら俺はリフルに問いかける。

 

「…それで、どうしてあんな質問をしたんだ?」

「ジュピタの仲間か否か調べる為ですよ」

 

 小声でそう言うとリフルはシャンプーの方をチラリと見る。俺らの内心を知らずにニコニコしたままこちらを見ている。

 今ここで話してしまうと、シャンプーにバレる恐れがあるから詳しくは話せない。そんなリフルの意図を感じた。

 

「あれ、誰かいますね?」

 

 サメハダー岩に着くと、そこには海を見ながら落ち込んだ様子のルリリとそれを励ましているマリルがいた。

 シャンプーはそれを見てすぐさま駆け寄って話しかけた。…俺もあんなコミュニケーション能力があればな。

 

「そこのお二方!何かお困りですか?お困り事ならこの探検隊レガリアがお助け致しますよ!」

 

 勝手に巻き込まないでほしい。

 

「え?…えっと」

 

 ルリリもマリルも少し困惑した様子だったが、シャンプーの朗らかさに警戒心が解けたのか話し始めた。

 

「実は…ルリリが大切にしていた物を失くしてしまって…ここんところずっと探しているんですけど、なかなか見つからないんです…」

「ほうほう、つまり探し物依頼という訳ですね!その探し物とはなんですか?」

「水のフロート、なんですけど…」

 

 ルリリの言葉に俺達は同じ場所を思い浮かべた。

 

「…海岸です」

「…海岸だな」

「…海岸にありますよ」

「え?え?ええ?」

 

 状況が読み取れずマリル兄弟は混乱している。

 

「…僕が海岸を散歩している時に見かけました。そのままにしていますし、多分そこにあると思いますよ」

「え!?本当ですか!?」

 

 シャンプーの言葉にマリル兄弟はとても嬉しそうな顔をしている。

 

「こうはしていられない、早く取りに行こう!」

「うん、お兄ちゃん!」

 

 マリル兄弟は足早に海岸へと向かっていく。しかしルリリは戻って来てペコリと俺達におじきをした。

 

「…良い子ですね」

「…本当にな」

「今回は僕のお陰でズバッと事件解決ですね!」

「最初から貴方が拾っていたら、ズバッと迅速に事件解決だったんですけどね」

 

▼▽▼

 

 そんな事があった夜。俺はリフルと例の木の下にいた。

 

「まず、私はジュピタの話が真実だという前提で話します」

 

 注意起きをしてリフルは切々と語り始める。

 

「私の時の停止をどう思うかという質問に対して、ヨノワールの返答は心が苦しいという返答でした。そして、その気持ちは嘘では無いと思います。しかし、だからといってヨノワールはジュピタの仲間だと言えません」

「だが、時の崩壊を防ごうとしているんじゃないか?」

「いえ、時の崩壊を防ごうとするなら名声を稼ぐ必要なんてありません。加えて、ヨノワールはこうも言いました。『時の歯車泥棒を血眼で探している』とも」

「………待てよ、それはつまり?」

「はい、ヨノワールはジュピタを探しています。そしてきっと未来へ連れて帰るつもりでしょうね」

「しかし、それじゃあヨノワールは時の崩壊を目論んでいるのか?」

「ジュピタの言う通り、時の崩壊を食い止めた場合、未来の世界で暮らすジュピタやヨノワール達は消える事になります。ジュピタは、それを覚悟の上でこの世界へやってきましたが、未来世界の全員が全員、自身の消滅を引き換えに時の崩壊の阻止を望んでいる訳では無いのでしょう」

「時の止まった世界でも、消滅するよりはマシだと?」

「きっとそうでしょう。私も、私やビートが消滅したら嫌ですし。それ故にヨノワールはジュピタの目論見を止めに来たんでしょう。さて問題です、ヨノワールがこの世界で名声を稼いだ目的は?」

「………ジュピタを悪者と仕立て上げる為、か」

「皆から尊敬されているヨノワールの言葉と、片や禁忌とされている時の歯車泥棒のジュピタの言葉、どちらを信じるでしょうかね。ヨノワールが『ジュプトルはこの世界にやってきて時の歯車を盗んで時の崩壊を目論んでいる』と言えば、皆がジュピタを敵視するでしょうね」

「しかし、もし、もしだぞ?ヨノワールの言葉が真実だった場合はどうなんだ?」

「それはほぼあり得ないですよ。ジュプトルという種族は時を渡る能力なんて持ち合わせていませんから、誰かきっと協力者がいるんでしょう。貴方が協力者だったら『この世界と過去の世界の時を止めるから過去に送って欲しい』って頼まれたらどうします?」

「…普通、首を縦に振るはずが無い」

「ええ、ですからジュピタの言う事は真実だとほぼ断言してもいいでしょう。…万が一、協力者が可笑しな者だったら、という可能性もありますけど」

「じゃああのヨノワールは悪だと考えていいんだな?」

「皆を騙しているって点では悪ですけど、きっとヨノワールも純粋悪な訳では無いのでしょう。先程も言いましたけど、自身が消滅するってのはすぐに決心出来るものじゃありません。ヨノワールだって、きっと優しい方なんですよ、本当は」

 

 リフルはそう言って首を振る。

 

「しかし、そんな優しいポケモンですら悪に染める時の崩壊は喰い止めなければなりません。明日から私達は時の歯車の場所を探し出す事にしましょう。無論、シャンプーには内緒で、ですが」

 

 ジュピタと先に出会った俺達ならまだしも、ヨノワールを妄信しているシャンプーや皆に話をしてもきっと無駄だろう。

 寝床に戻ると俺の寝床にシャンプーが寝ており、俺は仕方なく入り口近くのシャンプーの寝床で寝ようとすると、リフルは俺の尻尾を掴んできた。

 

「一緒に寝てあげてもいいですよ」

「え?いや、狭いだろ」

「それでも良いって言ってるんです」

 

 少し不機嫌そうなリフルに無理矢理寝床に連れ込まれ、俺はリフルの温もりを感じならが寝る羽目になった。

 別に嫌と言う訳では無いが、リフルの寝息が俺の顔にかかるたびに俺はリフルの事を意識してしまう。

 思えば、荒唐無稽な話を信じ、この世界での生き方を破天荒な教え方だったとは言え、教えてくれたリフル。俺は、リフルにどうやって恩を返せば良いのだろうか。

 


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