なくならないもの   作:mn_ver2

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なんとなく書いてみた小説が思った以上に反響があり、ちょっとそっちに浮気してました。
やっぱりシリアスはいいね!


カボチャ大騒動

「ごめん、もう一回」

 

「その……私たちの発注ミスで大量のカボチャが届いてしまいました」

 

「おうふ」

 

 間宮と鳳翔が申し訳なさそうに提督の前で頭を下げた。

 基本的に食料などの管理は彼女たちと伊良湖に任せている。この鎮守府に所属する艦娘や職員、言うまでもなく提督の食欲を満たしているのはこの三人なのだ。それはともかくして、このようなミスはとても珍しい。

 提督はふたりに頭を上げるように言った。

 

「誰にでもミスはあるからそこまで気にするな。でも……これはとうぶんカボチャ料理だな……」

 

「本当にごめんなさい……」

 

 また間宮が頭を下げようとしたので提督はそれを手で制した。

 

「まあ別に深刻な事態ではないんだ。適当に赤城の辺に食わせておけばすぐになくなるだろ」

 

「提督の赤城さんへの見方がかわいそうです……」

 

「でも事実だろ?」

 

「そうですけど……」

 

 間宮も否定しないあたり、もはや赤城の大食いは揺るぎないものへと固定されてしまった。

 だが、どちらにせよカボチャをなんとかして消費し尽くさなければならない。赤城だけでなく空母系にも手伝ってもらうべきか。龍驤に成長できるからと勧めると間違いなく悪意のカケラもないのに、変に裏を読んでピーピー騒ぎ始めるだろう。

 

「じゃあ今晩にでも空母の奴らを……」

 

 呼ぶか、と言いかけた提督の口が閉じた。

 ふと気づけばドアが少しだけ開いていた。しかもそこから誰かがこちらを肉食動物が如く見ているのだ。

 提督の動きが止まったのを不思議がったふたりは提督の視線の先へと頭を向けた。

 空いた僅かな隙間から目がキラリと光っている。このような真似をするのは青葉以外にありえない。しかし、このカボチャの件に関しては特に記事にする必要もないはずだ。

 ……そして、主が乱入してきた。

 

 ◆

 

「皆さんには! 野菜が! 足りま! せん!!」

 

 青葉……ではなく彼女……涼月はメドゥーサ顔負けなほどに、荒ぶる美しい銀髪をブンブンと振り回しながら提督の机を4回叩いた。

 

「現在我が鎮守府は大変な危機に陥っています。それは艦娘たちの食事バランスの明らかな偏りです」

 

 ググッと机に身を乗り出し、涼月は提督に顔を急接近させる。

 

「うんうん」

 

 対して提督は少し引き気味に頬を引きつらせる。

 

「カレーやカレーやカレー。そしてスイーツを挟んでカレー。なんですかここはインドですか⁉︎」

 

「日本です」

 

「駆逐艦や軽巡、潜水艦の方々は甘いもの。重巡や戦艦は肉。空母に至ってはもはや雑食じゃないですか!」

 

「ステイ! ステイ!」

 

 提督はここにはいない目の血走った赤城たちを手で押さえつけ、なんとか防いでいる。

 鳳翔を尻目に、提督は次に背中に冷や汗がダラダラと流れるのを感じた。

 

「知っていますか? カボチャにはビタミンやβカロチンがとても豊富に含まれているんです。その中でもβカロチン! これは艦娘以前に心ときめく女の子である私たちには必須なのです!!」

 

 これは涼月の皮を被った全くの別人ではないか? と疑念を抱かざるを得ないほどの積極性に提督そして間宮に鳳翔はマジマジと涼月を観察する。

 顔をジッと見つめ、徐々に視線を下へと移し、自己を主張する魅惑の白いタイツまで視覚すると本人であると確信する。

 

「お肌の美容は女の子の務め! βカロチンはそれにとても有効なのです! この涼月、これはとてもいい機会だと思うのです」

 

「そ、そですか。お前がこんなに荒れるなんて珍しいな」

 

「これはもう荒れずにいられません!」

 

 涼月は机から降りると、間宮から発注数の書かれた紙を受け取り、上の空でなにやら怪しげにぶつぶつと唱え始める。

 やがて詠唱が終了した涼月は拳を強く握りしめて、こう高らかに宣言したのだった。

 

「本日より、私が料理を担当します! カボチャの恩恵を受けるがいい! です!!」

 

 ◆

 

「今日も一段と動いたなぁ。これは明日の筋肉痛は確実だな」

 

 武蔵はペキペキと首の骨を鳴らしながら、そんな独り言を漏らした。

 時は、もう夕暮れ……を通り越して夜へと移り変わる頃だ。夕日が水平線の彼方に沈むのを見届けると、武蔵は沖へと上陸した。

 ぐるりと周囲を見回して忘れ物がないかを確認する。さらに練習用に用いた的を直し忘れていないかも確認して、問題ないとひとつ頷いた。

 巨大な武器艤装を降ろし、次に脚部艤装を解除する。トテトテと寄ってきた四人の妖精にメンテナンスをお願いする。

 

「よろしく頼む」

 

 妖精たちは了解と敬礼し、早速作業に取り掛かり始めた。

 今日の練習は個人でだった。電からもらった評価はいったん棚に上げて、基礎に還りたかったのだ。自分の部屋の机の引き出しの中にしまっているから、戻ったら最優先で見よう。

 そうぼんやりと考えながら武蔵は工廠を出た。

 トンカチか何かで金属を力強く叩く音が聞こえる。おそらく明石が何かしているのだろう。装備開発や改修、その全てを妖精たちが助力しているとはいえ、彼女一人で担っている。もしかすると一番腕力があるのは彼女なのかもしれない。

 バカな、と一蹴にできない冗談を自己完結させ、武蔵は次はどうするかを考えた。先に食事に行くか、それとも風呂に入るかだ。

 本音を言うと今すぐにでも食事にありつきたい。明石の作業音でかき消されたが、お腹の虫は確かに空腹を知らせをボリュームMAXで鳴らしていた。

 だがこんなにも汗をかいた状態で食堂に行くもの気がひけるし、他の艦娘たちの不快を招くかもしれない。髪だって海水を浴びたせいで少しパサパサしていて気持ち悪い。

 ここはやはり風呂が先か。

 結論が出ればあとは早い。半ば足早に自室へ向かい、クローゼットから入浴後に着る服を取り出し、消費した燃料や弾薬などを提督に報告するための報告書を机の上に広げておく。これを提督に提出する度に「ん、気にすんな」とそよ風にすら吹き飛ばされそうな声で言われるのが、正直なところ申し訳なくてたまらない。

 それはともかく、自室を出た武蔵は真っ直ぐに入浴場へと足を運んだ。

 

「まあ、そうなるな」

 

 どこかの瑞雲友好者のセリフを頂戴し、四人の先客がいることを確認する。

 長いストッキングを脱ぎ、次にスカートを脱ぐ。引き締まった肉体に、触れたくなるほどのスラリと伸びた健康的な美しい脚。その二本にパンツがずり落ちろされる。胸にまで巻きついた腹巻を解き、これはそのままゴミ箱へぽい。

 首の艦首を外し、電探カチューシャと髪ゴムを解いてようやく武蔵は糸まとわぬ姿となった。

 準備完了となったところでようやく武蔵は風呂場へと突入した。

 

「あはは〜、お酒が〜こんなにいっぱい〜〜」

 

「こら! それはお湯よ!」

 

 湯桶にたっぷりすくったお湯を口元に持っていこうとするポーラをザラがひったくる。

 

「ああああぁぁぁぁ!!! へぶしッ」

 

 ザラに掴みかかろうとしたが、それはなんなくと避けられ、頭にチョップを食らった。

 なんとも騒がしい姉妹だ。だが金剛姉妹に比べるとまだかわいいものだ。武蔵はバスチェアに座り、黙々と体を洗い始めた。

 

 直後、背後から誰かに抱きつかれる。

 

「ん?」

 

 手を止めて顔だけ後ろを振り向く。するとそこには泡まみれの子がいた。

 武蔵は無言でシャワーを掴み、水を出してその子の泡を流してやった。頭はすぐに流しきれなかったから、両脇を持って自分の膝の上におろし、わしゃわしゃと丁寧に流した。

 

「ぷはぁ!」

 

 姿を現したのは清霜だった。ふるふると子犬のように頭を振ると、ゆっくり顔を上にあげた。つぶらな瞳が武蔵を捉える。

 

「ああっ! 武蔵さん! こんばんは」

 

「ん、こんばんは。清霜」

 

 よいしょ、と清霜は武蔵の膝の上から降りた。

 するとすぐに沖波が寄ってきて軽く清霜に一喝入れると、武蔵に向き直った。

 

「ああ、もう……。ごめんなさい、武蔵さん」

 

「なに、気にすることはない」

 

「もおー、沖波姉さんが泡だて過ぎたからでしょー?」

 

 ぷんすこと頬を膨らませた清霜が言い合いを始めた。

 やれひとりで洗えばよかったじゃんとか、やれそんなに洗剤使ったからじゃんとか、やれ戦艦みたいに大胆によろしくって……と、ぴぃぴぃエスカレートしていく。

 戦艦みたいに大胆とは訳のわからないことを。

 そんな様子を黙って見ていた武蔵はガシッとふたりの頭を鷲掴みした。

 

「んにゅっ」

「ゆんっ」

 

「はいはい、喧嘩はそこまでだ」

 

 喧嘩している間に身体と髪を洗い終えた武蔵はふたりをわしゃわしゃとやや乱暴に頭をしごくと、片腕で持ち上げると、そのままザブザブと勢いよく湯船に入っていった。

 

「私の、私による私のための酒……あぶぶぶぶ」

 

 まだ酔いの覚めないポーラを波が襲い、完全に気の抜けていた彼女をザラごと流した。

 

「うはは〜!」

「ひゃーー!!」

 

 両腕のふたりな対照的な反応をよそに、武蔵は深く身体を浸かった。

 

「あ、あああ〜〜……」

 

 おじさんみたく、身体の芯にまでじんわりしみる熱に唸る。

 豆鉄砲を食らった鳩のように腑抜けた顔を晒すポーラを、ザラはこれ好機と引きずり、武蔵に軽く会釈して風呂場を出た。

 

「やんだかもう、怒る気をがせてしまいました……」

 

 沖波が口を沈め、ぶくぶくと泡を吹く。

 

「うんうん、器の大きい沖波が大好きだよ! ……戦艦みたいにね!」

 

 大きいイコール戦艦の公式が清霜の中では制定されているらしく、「ねー?」と無邪気な笑顔で武蔵に問いかける。

 無下にするわけにもいかず、武蔵は反射的に「そ、そうだな」と返してしまう。

 太ももの、鉛のような重りが降ろされる感覚が気持ちいい。空を仰ぎ、ゆっくりと瞳を閉じて享受する。

 

「ところで武蔵さん」

 

 両手で水鉄砲の練習をしていた清霜が武蔵に尋ねた。

 

「ん?」

 

「戦艦になるにはどうしたらいいでしょう!!」

 

「う、うーん……」

 

 なんと答えればいいか。それは今日の練習よりもはるかに難しく、かつ細心の注意を払わなければならなかった。

 常識的に、駆逐艦が戦艦になるのはほぼ不可能と断言してもいい。かといってそれをそのまま伝えるのはあまりにも清霜がかわいそうだ。

 ジッと清霜に見つめられ、つい武蔵は視線を逸らしそうになってしまう。沖波は武蔵の考えていることがわかるのだろう、申し訳なさそうな顔で明後日の方向を向いている。

 

「戦艦になるには……だな?」

 

「なるには⁉︎」

 

「そ、そう! よく食べてよく寝る、だ!」

 

「おおーー!!」

 

 本当にすまない、と心の中で謝りながら武蔵はさらに言葉を紡いだ。

 

「それとだな、日々の鍛錬も大事だ、戦艦の艤装は大きいからな。力がなければ持ち上げられないぞ?」

 

「すっごく参考になります!!」

 

「というわけで私はこれから食事に行こうかと思うのだが、どうだ?」

 

 謝罪の連撃を放ち、いい感じに話を切り上げる。

 ざぱぁッ! と力強い脚が湯船に屹立し、すかさず清霜が右脚にしがみついた。

 

「う〜ん、太〜い!」

 

「こら清霜!」

 

 沖波が喝を入れるも、キョトンとするのみ。

 

「ちょっと傷つくから太いはなしだぞ?」

 

 そんなつもりで言ったのではないことはわかるのだが、武蔵もやはり乙女なのだ。清霜をひっぺはがすと、生意気だぞ、と放り投げた。

 

「!!??」

 

 清霜の身体は見事な放物線を描き、ちゃくだーん、なう! と水しぶきを高く上げて着水した。

 

「ちょっ!」

 

 沖波が類を見ないほどの焦りを見せて清霜にじゃぶじゃぶと寄るが。

 

「うーん、面白い! もう一回! もう一回やって!!」

 

 と武蔵にせがむしまつだ。

 

「清霜よ、戦艦ならばこの程度のこと、容易くできなければならないぞ?」

 

 まあ少し危ないから気をつけるんだぞ、と釘を刺しておく。

 おおーー!! と宝石みたく目を輝かせる清霜に、罪悪感ましましの武蔵はそそくさと風呂場を出た。

 さっさとバスタオルで身体を拭き、髪をドライヤーで乾かして手櫛を少々。最後にウォータークーラーの水を紙コップ半分飲む。

 このキュッとくるなんとも言い難い感覚に、気持ちよくふぅ、と息を漏らすと腹の虫のご機嫌を伺いながら食堂へと向かった。

 もちろん清霜の後のことは全て沖波に全投げである。

 

 合掌。

 

 ◇

 

 武蔵の鼻腔を突如くすぐったのは、明らかにいつもと違う香りだった。たいへんお腹の空いている今の武蔵は嗅覚が洗練されている。

 これは決して肉の匂いではない。カレーのルーの香りの欠片も感じ取られなかった。その代わりが……。

 

「……カボチャ?」

 

 それにしても匂う。まるでカボチャしか食堂にないような、圧倒的カボチャだ。

 ……いやいや、おかしい。

 武蔵はピーピー騒ぎ立てる腹の虫を押さえ込みながら頭を稼働させる。今日は確か金曜日のはずだ。ならば当然カレー。つまりカレーの匂いでなければならないのは然りである。

 なんだか嫌な予感がする。

 そう思いながら武蔵は食堂へと入っていった。

 

「そんな……そこをどうにかできないのか」

 

「ダメです」

 

「君には特別な瑞雲をやろう。これで……」

 

「ダメです」

 

「瑞雲を」

 

「ダメです」

 

「ず」

 

「ダメです」

 

 瑞雲友好者は意気消沈して渋々突如お盆に乗せられた料理の数々を見下ろす。そして重く息をつく。

 

「なんだ……これは」

 

 彼女とすれ違う瞬間、チラリと『見てしまった』武蔵は絶句した。

 

 カボチャ。カボチャ。カボチャ。そしてカボチャ。最後に申し訳程度にカボチャをどっさり。

 

 彼女の様子にも心底納得だ。

 だが間宮はどうした。伊良湖はどうした。鳳翔は。

 いったい誰だ。

 武蔵は料理場を覗きこんだ。

 

「違います! もう少し煮込むのです!!」

 

「ええっ! もう揚げちゃったよぉ!」

 

「……もう、そのまま出しちゃってくださいッ!」

 

「えええええぇぇっ!!」

 

 ……見なかったことにしておこう。

 照月の失敗作が空母系の艦娘の胃に届くことを願う。

 武蔵はジト目で視線を逸らすと、自分の席を探し始めた。

 ピークは過ぎた頃だ。混雑も随分と空き、席も空き空きだ。ぐるりと見回り、ふとピンク色の花園をふたつ発見した。いや、してしまった。

 

「北上さん ああ北上さん 北上さん」

 

「うーん字余り!」

 

 ふと大井と目が合ってしまい、慌てて武蔵は視線を彼方へ投げる。

 

「さあお姉様、私のカボチャをどうぞ!」

 

「あ、榛名ずるい! なら私も!!」

 

「ならばこの霧島、その倍を……」

 

 金剛はとうの昔に白目だ。だが、武蔵に気づいた瞬間、サッとハイライトが戻り、目力で武蔵に助けを求めた。

 一瞬悩んだが、やはりそばを通り過ぎた。

 

 ……すまん、金剛。

 

 絶望に染まった表情の金剛に、沖波以上だ、心の中で土下座するほどの勢いで謝った。

 ……とりあえず、席より飯。

 武蔵はメニューを見て、さらに絶句した。

 全て、カボチャ料理なのだ。普段なら酒などの飲み物も注文できるのに、それすらもカボチャジュースOnlyとなっている。

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

 ひょこっと窓口から顔を出した照月に、悩んでいた武蔵は不意打ちを突かれ、メニュー表を落としそうになってしまう。

 

「今日はなぜカボチャ料理しかないのだ? 私はカレーを楽しみにしていたのだが」

 

「うーん……涼月がちょっと覚醒してしまって」

 

「は?」

 

「覚醒」

 

「覚醒」

 

 ついつい鸚鵡返しになってしまい、すぐさまいやいやと頭を横に振った。

 

「ちょっと待った。そんなこと、提督が認めるものか」

 

「涼月は本当に悪気はないんです……ただ皆に食事のバランスを考えてほしいだけで……」

 

 そう言いながら照月は手元にあった適当な紙を武蔵に見せた。

 

『数日間、涼月に調理場に立つことを許可する 提督』

 

 ひょろひょろとミミズのような文字で確かにその旨が書かれており、しかも正式な書類用の判子までご丁寧に押してある。

 血迷ったか⁉︎ と武蔵は腹の虫の怒りを代弁した。だがしかし提督の心労を考慮すると何も言えない。

 涼月の言う通り、食事のバランスは大切だ。だが、だが、だからといってカボチャパーティーは違うだろう⁉︎

 

「本っ当にごめんなさい……」

 

 起きてしまったことはもうどうしようもない。

 とても不満だが、涼月は艦娘たちを思って行動したのだ。その行動力は評価されるべきだろう。

 清霜は言った。戦艦とは器の広い人だと。そうだ、その通りだ。武蔵は己が意地を貫き通す、我儘な艦娘ではない。

 たいへん遺憾だが、戦艦になるにはと語ったのだ。そのためにはまず自分が見本を見せなければならない。

 

「わかった。わかった。お前たちの案にはもう反対しない。……とりあえずこれを」

 

 武蔵が指差したのはスペシャルメニュー。先ほど見た瑞雲友好者のそれよりはるかにボリューム満点なカボチャカボチャだった。

 

「……大丈夫ですか?」

 

「私はお腹が空いているんだ。質より量を求める。くれぐれも半端なカボチャを入れるなよ?」

 

「は、はいいぃぃぃ!!」

 

 何のことかわかったようだ。

 少し涙目で返事した照月は調理場へと逃げるように走っていった。

 そして7分ほどの時間を経て料理が運ばれてきた。

 

「……」

 

 なんというカボチャ。

 これぞ圧倒的カボチャ。

 さっき後に回した席探しをして、再びハイライトの取り戻した金剛のもとに仕方なく失礼することにした。

 

「武蔵、あとは任せるねッ!」

 

「なッ!」

 

 武蔵が席に座った瞬間、金剛は島風顔負けの速さで逃げてしまった。

 さっきまでの死にそうな顔は演技だったのか⁉︎ そう思ってしまうほどの急変ぶりに、武蔵は反応する時間すら与えられなかった。

 

「「「逃がしませんよ!!」」」

 

 しかもさらに比叡たちも変に声をハモらせて、自分の飯も食べ終わっていないのに食堂を去ってしまった。

 なんだ、結局一人ではないかとひとり虚しくもそもそと食事を始める。

 

「……美味い」

 

 カボチャだけというのがネックなのだが、十分に美味しいからそのことは流せる。

 ペロリと平らげた武蔵は食器を返そうとーー……。

 

「武蔵さん、お残しはいけませんよ?」

 

「おお⁉︎」

 

 川内もびっくりといつの間にかすぐそばにいた涼月に声をかけられ、思わず武蔵は後ずさった。

 

「お残しなんてしていないぞ?」

 

「ほら、そちらにたくさんあるじゃないですか、お残し」

 

 涼月は視線を金剛姉妹の置いていったカボチャ料理の山を見て、武蔵を見る。

 

「い、いや、これは金剛たちが残した……」

 

「言い訳無用っ!」

 

 武蔵の言い訳をバッサリ切り捨てる。

 

「戦艦や空母の皆さんには特にカボチャを食べて欲しいのです。さらにあなたは大和型戦艦。この程度、たいしたことないでしょう?」

 

「さすがにこれはちょっと……」

 

 どこかに隙はないのか⁉︎

 どこからどう見てもこの量は武蔵一人では無理だ。戦艦四人分の料理など、誰が食えるものか。周りに助けを求めるも、皆そ知らぬふりだ。

 こういう時こそ一致団結して助け合うべきではないのか。

 

「あ、武蔵さんー!」

 

 清霜と沖波が都合悪く食堂に入ってきた。風呂上がりだからだろう、沖波がひっきりなしに眼鏡の曇りを拭きとっている。

 そしてこの瞬間、武蔵はすべて食べきるしかないと涙ながら心の中でアーメンを1秒間で100回唱えた。

 




次はストーリーを進めます、ハイ。

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