なくならないもの   作:mn_ver2

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皆さん冬イベお疲れさまでした!!!
自分は秋月掘りに最後を費やしましたが、燃料が尽きて無事死亡しました。
その副産物は雲龍三人w
E7の海外艦は全員ゲッチュ! まあいい終わりだと思います。

では。
1話目でも言いましたが、自分はシリアス大好きです。


むかしのおはなし

 精神補強完了。

 江本の言う通りならば、今の衝撃的発言など前座に過ぎないようなものが飛び込むのだろう。ゆっくりと深呼吸をしてから再び続きを再生した。

 

『つい数年前、我々はこの小人たち……仮称妖精たちに出会いました。言葉は何も通じませんが、彼女たちの技術力は眼を見張るものがあり、人間より遥かに高い水準であることは間違いないです』

 

 シーンが映り変わり、妖精が加工したと思われる超精密器具の数々が映される。

 そのどれもがとても小型であり、男の言う通り、精巧さが滲み出ている。

 

『しかし、それだけが彼女たちの行動概念ではありません。『命』を創り出そうとしていたのです』

 

 広場一帯に動揺が広がる。

 大昔に、錬金術などでそれらのような非科学的な試みがキリのないほど検証され、そのどれもが失敗に終わっている。

 それを現代となった今、実現させるというのか。

 もし達成できたとなればそれは神の御技と言う他ない。人間のできることはせいぜい遺伝子組み換えによる生物の本質操作程度だ。

 だが、その予想通り、男は残念そうに首を横に振った。

 

『ですが、妖精たちもまだそれを達成できていない状態でした。なので我々も微力ながら協力することにしたのです。とはいっても我々と妖精の技術力は天地の差。それはもう死に物狂いで勉強しましたよ』

 

 男が乾いた笑いを零す。

 するとここでひとりが手を挙げる。

 

『ご質問ですね? どうぞ』

 

『その妖精……というのはよくわかったが、ならばなぜ今まで姿を見せなかった? なぜ『今』なのだ?』

 

『わかりません。ただ、ツチノコを発見できた、そんな感じだと思ってください』

 

『なんだね? 土の中でも掘り進めたのかね?』

 

『まさか。確かに我々は探検者ではありますが、あくまで科学のですよ』

 

 パンチの効いたボールをカーブのかかったボールで投げ返す。

 

『妖精と我々は頑張りました。しかし三ヶ月が過ぎましたがやはり命の創造は困難を極めるということで断念せざるを得なくなりました。ですから、今度は別のアプローチで、命の創造とまではいきませんが、それに似通ったものを創り出すことにしました』

 

 いやいや。待て待て。

 待て。

 また提督は動画を一時停止させた。

 ここから先はなんとなく想像できる。できるのだが、これは常識を真っ向から否定するものだ。

 世に廻っている定説は、深海棲艦が突如現れ、人類に対し敵対行動。その後『また』突如現れた艦娘により、本格的な戦争が始まった。

 胡散臭いあらすじだが、これが常識だ。

 深海棲艦の正体としては、ある日起こった海底火山の大噴火により海の底から湧き出たという説。そもそも人類の知らない所で台頭し、急激に攻撃的になった別生物説。はたまた宇宙人説。

 艦娘の場合は、その一切が不明。海の上に現れたというだけ。ごく少ないが、新人類であると主張する勢力もいる。

 この動画だと、まるで人類と妖精が艦娘を生み出したかのような流れが作られていた。

 

『魂の譲渡。転移。それを目標に我々と妖精は新たにスタートしたのです。そこで妖精たちは技術の提供、そして我々は論理の確認、修正を施し、一年後、ついに試作品が完成しました』

 

 スクリーン画面が消え、壇上の端からなにやら黒い巨大な装置が運ばれてくる。

 印象的なのは、側面に設置されている、人型の型だ。よほど高身長な人間でない限りすっぽりと嵌ってしまうもの。その周りには細長いチューブのようなものが無数に伸びており、頭部にはヘルメット状の被り物もある。

 反対側にまわると、複数のグラフがモニターに映し出され、その下にはよくわからない透明な球体が音も無く静かにゆっくり回転している。

 

『これこそが! 人類の新たなる文明への鍵! 魂という概念を具現化させる装置!!ーーソウル・テレポーターです』

 

 おお、と重鎮たちが感嘆を漏らす。

 大きさは普通車ほどか。提督は押し黙り、男の説明を待った。

 

『具体的な説明をしようとすると、まる2日はかかってしまうので割愛させていただきます。皆さん気になるでしょう、これが果たして何なのか。なので早速実践してみせましょう。ですがその前に忠告を。未だ魂の定着には完全成功していませんので、失敗する可能性が十分あります。そこはどうかご理解ください』

 

 男の説明が終わると、またソウル・テレポーターと同じように移動式の簡易ベッドが舞台袖から運ばれて来る。それに横たわるのはひとりの少女。白衣に身を包み、静かに眠っている。

 装置の横まで運び、少女を型に納める。その後、ヘルメットを被せ、腕や首、脚に管を刺した。そして暴れないように厳重に拘束を。

 するとここで先ほどと同じ男が手を挙げる。

 

『どうぞ』

 

『その少女はどこから? あと魂と言ったが、『何の』魂だ?』

 

『今や少子高齢化という忌まわしき問題は解決され、逆に人間で溢れかえったこの国。『不慮の事故』なんてザラにありますよ』

 

 質問した男が納得した顔で続きを勧める。

 この瞬間、提督は確信した。

 この集会にいる全員グルだ、と。

 

『魂についてですが、軍艦を用います。かつての大戦で身を粉にして戦い、散った猛者たち。妖精たちもこれが一番やりやすいと言っていたので、決断しました』

 

『それこそ君が始めに言っていたイージス艦とかで良いのでは?』

 

『あれは論外です。魂の年季が違う。例え使ったとしても、未熟な魂が抽出されるだけなので』

 

『ならばその軍艦はどこから入手したんだ? 大半は沈んだのだぞ』

 

『ええ。ですので回収しました。このまま海外艦も含め全てを回収するつもりです。……さて、用意もできましたし、早速始めましょう』

 

 ソウル・テレポーターが低く唸り、起動する。モニターに光が宿り、少女の心拍数などを事細かにモニタリングしている。

 男はばさりと白衣を翻すと、モニター画面を弄り、中から現れたキーボードに機関銃のようにカタカタと打ち込み、エンターキーを力強く押す音が広場に単調に響く。

 すると球体がキュルキュルと音を鳴らしながら回転を始め、仄かに緑色に光った。

 

『これで準備完了です。魂は戦艦大和のものを用意しています。……では』

 

 モニターに触れ、開始させる。

 直後、少女の身体が大きく震え、痙攣を始めた。ボクボクと全血管が浮き上がり、少女はよがり狂う。

 

「う゛ッッ、あ、ああ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーー……ッッッ!!」

 

 人間の発するものとはまるで思えない断末魔。

 叫び。苦しみ。痛み。死。

 それらを必死に拒絶しようとしているように見えてしまう。しかし、全身を拘束具でガッチリと拘束されているため、腰をわずかに浮かせることしかできず、ただ享受することしかできない肉人形と化していた。

 そして変化が訪れる。

 美しかった黒い短髪は徐々に茶色へと染まり、とても早いスピードで伸びている。まだ第二次成長期を迎えてすらなさそうな少女の胸が急な発育を示し、先ほどまでは上から下まで真っ直ぐだったのが明らかな隆起を果たしている。

 今なお苦痛の叫びが虚しく響くのだが、誰もそれについては無関心だった。ただ、この実験の結果がどうなるのかだけが知りたいのだ。

 着々と魂の転移は進み、少女の心拍の波が『反転』する。左から右へと流れるはずの線が右から流れ、真逆の波長を刻む。

 やがて型に横たわるのは数分前とは似ても似つかぬ、全くの別人だった。

 

『……ぅ……ぁ……』

 

 焦点の合わない目でだらしなくヨダレを垂らしながら呻く。まるで薬に溺れた廃人だ。

 作業は終わったようで、あれほど轟々と鳴っていた装置は鎮まり、あとは静寂のみが残された。

 成功か? と穴から顔を出したトカゲのようにざわざわとしだす。

 立ち上がり、成功に手を叩こうとした、その時。

 装置の球体が高速で回転を始めた。

 色は赤。危険を表す信号であるおとを悟よりも先に、少女の反応が顕著に現れた。

 まるで死んでいたように眠っていた少女が突然激しく痙攣しだした。バチバチと赤い電気が少女の身体を駆け抜け、裂傷が無数に、無残に深く刻まれてゆく。

 

『ああああああああああああああああ゛ッーー!! あ゛あ゛あ゛あああ゛ああああ゛あ゛あ゛ッ……! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あッ゛あ゛!!! 嫌ッ! もうッッ!! いやあああぁぁーー……!!』

 

 覚醒した意識、だが目覚めにはあまりの惨さに少女の両目からは大粒の涙がぽろぽろと流れる。

 心臓の波が荒れ、今にも壊れてしまいそうだ。

 そして、少女の口が大きく開き、赤い吐瀉物が撒かれる。それは少女の命を容赦なく削っていく。

 汗ばみ、白衣がべったりと肌に吸い付き、浮き上がる性的な身体が強調されていたが、もはや生物の汚れ物だった。

 その間ですらも皆黙って事の行く末を見守っている。

 やがて心拍数がゼロへと収束し、あれほど荒れ狂っていた少女からは生気が抜け、か細く呼吸を繰り返すだけとなっていた。

 

『……ぉ父さ、ん……お母、さ……ん……』

 

 ーーふわり。

 最後すら報われず、何も見えぬ空に両親を求めて手を伸ばそうとしてもガッチリと拘束された手首が枷となり。何も。何もできずに儚く、あまりにも短い命が無慈悲に

 その輝きを失った。

 モニターがピー、と静かに非検体の死を知らせる。赤色に発光していた球体は何もなかったかのように透明にじっと動きを停止している。

 

『アプローチ317回目。失敗。今までで一番素晴らしい結果を残すことができました。ご覧の通り、完成までは時間の問題になりなす。きっと彼女もこの偉大な実験を手伝えたことに天国で泣いて喜んでいるでしょう』

 

 ここで、動画は終わった。

 提督は無言でウィンドウを閉じ、USBを抜いて引き出しに仕舞った。

 その顔は無表情で、何の感情をも見えない。

 震える手でペットボトルを掴み、水を一気に喉奥に流し込む。

 そっとパソコンを閉じ、横にどけ、机に膝をついて手の上に顎を載せる。

 そしてちょうどいいタイミングで。

 

「明日はいい天気でしたね」

 

 ドアが叩かれた。

 




316回失敗。
たぶん今回の話は読者の偏りが如実に現れるかな? と思います。
そして無事江本が帰還しました。

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