ブラック&ホワイト2 英雄代行   作:あぞ

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第八話 高揚

数年前からヒオウギシティにポケモンジムが開かれるという話があった。

 

実際に建物の建設が始まり、今年の年始には竣工していたのだが。内装やら手続きがまだだったため、来年度からの始動と決まっていたのだ。

 

ポケモンジム建設の話を聞いた当時、オレとヒュウは地元で初のジム戦を迎えられる。とテンションを上げていたのだが、その話を聞いた時、二人揃って項垂れたのだった。

 

だが今、画面の向こうでトウコ先輩は確かに言った。ヒオウギジムが開設されると。

 

 

『あっ、もしかしてヒュウもそこに居る?こんにゃろ、先輩からの電話を無視するんじゃないわよ』

 

憤るトウコ先輩の言葉を聞いて、ライブキャスターの画面を見るヒュウ。

 

それを覗き込むと、確かにトウコ先輩からの着信が来てはいるが。

 

「やべ、サイレントマナーにしてた」

 

「という事らしいです」

 

ライブキャスターは複数人同時通話が可能なので、ヒュウにも一緒に教えるつもりだったのだろう。

 

『まぁいいわ。そのまま二人で聞きなさい』

 

そう言うとトウコ先輩は画面の向こうでライブキャスターを弄った。その瞬間にヒュウのライブキャスターの着信が途切れたので、発信を切ったのだろう。

 

「すんません」

 

謝るヒュウにひらひらと手を振って応える先輩。元からあまり気にしていなかったのだろう、直ぐに本題に入った。

 

『なんでもね、どっかの町のジムリーダーが賄賂かなんかで取っ捕まったらしくて。そのジムの代わりに来年度始動予定のヒオウギジムに白羽の矢が立って、急遽今年度からの開設になったらしいわよ』

 

それが本当なら嬉しい限りだ。まぁ、不祥事が発覚したジムのある町のトレーナーは絶望ものだろうけど。

 

画面の向こうで、挑戦するの?と聞いてくる先輩に、オレたちは揃って頷いた。

 

 

 

 

ポケモンセンターで預けていた手持ちのポケモンたちを回収し、サンギタウンを出てもと来た道を全速力で駆け戻る。

道の途中で、アデクさんが居ないか周囲を見渡す事も忘れなかったが、残念ながら見掛けなかった。

 

因みに、ガントルとウルガモスが対戦した川原はほぼ"暴風"で荒れる前の状態に戻っていた。

きっとアデクさんが整えてくれたのだろう。今度会ったら、謝罪と感謝の言葉を伝えなきゃな。

 

そんな事を考えている内に、生まれ故郷であるヒオウギシティに戻ってきた。

たった1日で戻る事になるとは思っていなかったが。初のジム戦を生まれ育った町で迎えられるのは素直に嬉しい。

 

その喜びを分かち合おうと後ろを振り返ると、ヒュウの姿が消えていた。

 

 

 

 

10分以上経っただろうか、オレがゲートの近くの自販機で買ったサイコソーダをちびちびと傾け、喉を潤していると、ヒュウがゲートを抜けて来た。

 

「鍛練が足りないのではないかね?ヒュウくん」

 

出て来た途端に前傾姿勢になり、両膝に手を置いて荒く呼吸をするヒュウにサイコソーダを放り投げつつ、自分より随分遅い到着となった親友を煽る。

 

それを受け取り、何か言い返そうと口を開くが。一旦口を閉じると、プルタブを開けて一気にサイコソーダを呷るヒュウ。

 

「お前が、体力バカな、だけ、だろうが。あんがとよ」

 

息も絶え絶えに憎まれ口を叩いては来るが、サイコソーダの礼はきっちり言ってくる。

オレもサイコソーダを飲み干すと、自販機横に設置されたゴミ箱へ捨て、二人揃ってジム予定地。いや、ポケモンジムへと向かった。

 

 

 

「遅かったじゃない」

 

ジム予定地改め、ヒオウギジムへと辿り着いたオレたちを待ち受けて居たのは。ジムの門前にある数段の階段に座り、太ももに肘を付いて右手で頬杖をつく、ちょっと拗ねた様子のトウコ先輩と、少し困ったような笑顔を浮かべているベルさんだった。

 

何故トウコ先輩は微妙に不機嫌そうなのか。身に覚えが無いだけに首を傾げる。

まさかヒュウが電話を取らなかった件じゃあ無いだろうし。一体何故。

疑問に思っているとベルさんが事情を説明してくれた。

 

「トウコちゃん。電話掛けてから門の前で二人の事待ち構えてたんだけど。なかなか来ないから拗ねちゃったみたい」

 

「べつにー、拗ねてないですぅー」

 

頭の中でトウコ先輩が腕を組んで、門の前でドヤ顔仁王立ちする姿が容易に想像できた。

 

「いやいや。オレらサンギタウンに居るって出る前に言ったじゃないですか。いくらなんでもそんなに早く着かないですって」

 

「全力で戻るって言ったじゃない。キョウヘイの足なら3分くらいで余裕でしょ」

 

苦笑しつつ言うと、そんな反論が返ってきた。確かに言ったが、いくらオレでもそれは無理だ。何よりヒュウが置いてけぼりになる。

 

ベルさんがトウコ先輩を宥め、オレが苦笑しつつその様を眺める。ヒュウは半ば呆れ顔だ。その顔、トウコ先輩に見られると余計に拗ねるからやめて。

 

 

そんな微妙な空気の中、どうしたものかと困っていると。突然門が開き、オレとヒュウより少し年上の男性が出てきた。

 

「トウコ、ベル。まだ到着しない様なら、いい加減中で待っていれば…おや、キミたちがチャレンジャーかな?」

 

長袖の白いYシャツにネクタイを絞め。スーツのようなズボンを履いた黒髪の男性は。トウコ先輩とベルさんに溜息混じりで声を掛けたところで、オレとヒュウの存在に気付いたらしい。

 

この人がヒオウギジムのジムリーダーなんだろうか。何にせよ挨拶しようとすると。トウコ先輩が勢いよく立ち上がった。

 

「その通り!アタシが2年間育て上げた弟子にボコボコにされると良いわ、チェレン!」

 

そう言ってビシッと男性を指差すトウコ先輩。

 

「はじめまして。トウコ先輩の弟子のキョウヘイです」

「ヒュウです」

 

「僕はチェレン。ヒオウギジムのジムリーダーに、今朝就任しました。よろしく」

 

揃って挨拶をするオレとヒュウに、チェレンさんもにこやかに返してくれた。

 

そんなオレたちを見てトウコ先輩が呆れたように溜息を吐いた。

 

「アンタたち、もうちょっとさ。お前をギタンギタンに潰してやるぜ!とか無い訳?」

 

無茶振りも甚だしい。

 

揃って首を横に振るオレとヒュウ。

 

「君は何を言っているんだ、トウコ」

 

「チェレンもチェレンで。メンドーだけど纏めて相手してあげるよ。とかない訳?」

 

突っ込みを入れたチェレンさんにも飛び火した。

そう言いつつ。クールな表情で鼻の前で人差し指を動かすような仕草をするトウコ先輩。眼鏡の位置を直す動作のようだが、見たところチェレンさんは眼鏡を掛けていない。

 

「昔の僕の真似はやめないか」

 

微妙に焦ったように言うチェレンさん。

今の、昔のチェレンさんの物真似だったのか。今は眼鏡を掛けていない様なのでコンタクトでも付けているのだろうか。

 

「ていうかさ、今更だけど何でベルは眼鏡掛けてるの?伊達でしょ、それ」

 

今度は唐突にベルさんに話を振るトウコ先輩。

 

するとベルさんはえへへー、と微妙に嬉しそうに笑う。どうやら触れて欲しい話題だったらしい。

 

「これはねえ。マコモさんを真似て付けてるの!ちょっと大人で知的に見えるでしょ?」

 

そう言って眼鏡に手を掛けて得意気に胸を張るベルさんの姿は。寧ろ、その理由と相まって、失礼だが子供っぽく見える。

 

「いやアタシ、あの人に大人な印象持って無いんだけど」

 

「ええー!アララギ博士と同んなじくらいカッコいいよお!」

 

あっけらかんと言い放つトウコ先輩に、驚愕した様子で反論するベルさん。

 

「いや確かに二人とも、普段は出来る女!って感じだけどさ。研究に入れ込んでる時と、それを語ってヒートアップしてる姿の方が印象的過ぎて、ね?」

 

ええそんな事ないよお。と更に反論するベルさん。そんな仲睦まじい様子に先程から完全に置いてけぼりを食らっているオレとヒュウ。

 

そこにチェレンさんが、階段を降りて歩み寄ってきた。

 

「すまないね、僕らは同郷の幼馴染でね。3年前に3人で一緒に旅をした仲なんだ。3人で直接顔を合わせるのは2年ぶりでね」

 

なるほど、どうりで仲が良い訳だ。オレとヒュウのような関係なのだろう。

 

「納得です。積もる話も多いでしょう」

 

「うん。だけど先ずはジムリーダーとして、君達の挑戦を受けないとね」

 

そう言って手を2回叩きながらトウコ先輩とベルさんに向き直るチェレンさん。

 

「はいはい、話は後だ。弟子のジム戦を観て行くんだろ?」

 

「勿論。その為に待ってたんだから」

 

それを聞いて、引っ張っていたベルさんの頬を放して言うトウコ先輩。

あなた、何やってるんですか。

 

「あう、ごめんねチェレン。キョウヘイくんとヒュウくんもごめんなさい」

 

「いえいえ全然!」

「問題ないっす」

 

オレたちが待っている事に気付いたベルさんが申し訳なさそうに謝ってくる。慌てて気にしていない旨を伝えるオレとヒュウ。

 

ぶっちゃけトウコ先輩が場を掻き乱していただけで。ベルさんは何も悪くないだろう。

 

因みに件のトウコ先輩は、いの一番にジムの中ヘ入って行った。相変わらず自由な人だ。

しかし不快感はない。そこがトウコ先輩の良いところなのだから。

 

 

トウコ先輩の後を追って。チェレンさん、オレ、ヒュウ、ベルさんの順で中に入ると、先ず受付が目に入り。その奥のに広がる部屋全体は、まるで学校の教室のようになっていた。

 

「僕はここでジムリーダー兼、ポケモン塾の講師をする事になったんだ」

 

そう言うチェレンさんの服装は。なるほど、そう言われてみれば教師のようにも見える。

 

ジムリーダーがポケモンジムをポケモンバトル以外にも使うのはメジャーだ。

ジムリーダーになると、ジム戦用に鍛えたポケモンを使って、地方トーナメント出場者の試験相手を務める義務を背負い、自身はトーナメントに出場できなくなるが。

ポケモン協会に用意された建物をどの様に使うのも自由、という特典がある。

 

ジムによっては水泳教室を開いたり、レストランにしたり、自身のアトリエにしてみたりと。結構自由に改装しているらしい。

因みに、改装費用は自前で用意するらしいが、その辺りは当然と言えるか。

 

しかし、許可の申請や維持費、管理費の一部はポケモン協会が負担してくれるらしいので。それを目的にジムリーダーを目指す人も多いとか。

 

とは言え、当たり前であるが、それなりの腕が無ければ起用される事はないのが実状ではある。

 

チェレンさんのヒオウギジムは、机や椅子。ホワイトボードやロッカーを用意したシンプルな造りなので、それほど大きな改装はしていないのだろう。

 

「来年度からの始動予定だったからね。まだしっかり片付いてなくて申し訳ない」

 

部屋の中を興味津々に見回していると、恥ずかし気にそう言ってくるチェレンさん。

 

そして教卓の後ろに掛かるホワイトボードの横の扉へと促され、それを開けると広々とした空間が広がっていた。

 

建物の大部分を占めているだろうその空間は。部屋と言うよりも体育館なんかに近い印象だ。

 

高い天井に土の床。壁には公式戦用のモニターが架かり。中央には公式戦規準に基づくであろうバトルコートが備えてあり。それを囲うように設けられた観客席には、既にトウコ先輩が陣取っており、ベルさんも小走りでその傍に寄って行く。

 

ようやく実感が湧いてきた。ついにオレたちの町にも、ポケモンジムが出来たのだ、と。

 

その空間を見て目を輝かせていると。オレとヒュウの前に回り込んだチェレンさんが言う。

 

 

「ようこそ、ヒオウギシティポケモンジムへ、チャレンジャー!お互い悔いを残さない、戦いをしよう!」

 

 

武者震いが、全身をかけ巡った。


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