ブラック&ホワイト2 英雄代行   作:あぞ

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第十六話 二振リノ太刀

『3位決定戦を制したのはアルジャーノン・クック選手!!』

 

ポケモンセンターへ足を運んでいる暇は流石に無いので、手持ちのキズ薬と毒消しでガントルの回復を終え。準決勝第二試合と、3位決定戦を観戦していた。

 

準決勝第二戦に勝ち残ったのは、イッシュ地方が誇る大都市ヒウンシティ出身のカツヒコ・ランドルフ選手。予選はシキジカとミルホッグ、準決勝はムーランドを選出して戦っていた。腰のベルトにはモンスターボールが6つある事から、それら以外のポケモンを決勝で出してくる可能性もある。

 

対するオレは予選をヒトモシとその進化した姿であるランプラー、準決勝をガントルで駒を進めた訳だが。ランプラーは進化したてでまだ浮遊による移動に慣れていない、ガントルはベトベトンとの戦闘の負傷が完全には癒えていない事から、フタチマル一択である。

 

フタチマル自身も戦いたくてうずうずしているだろうし、思う存分暴れて貰うとしよう。

 

『10分間の休憩の後、決勝戦を開始いたします!!』

 

どうやらまたインターバルを挟むようだ。先ほどの休憩より短いし、今度は遅れないように控え室で待機しておこう。

 

 

10分間、休憩室で一心不乱にモンスターボールを磨くランドルフ選手と無言の時を過ごし、スタッフに呼ばれて会場へと向かうが。バトルコートがある空間の出入口付近で一度止められた。

 

「司会者の紹介が終わったら、順にバトルコートへ向かってください」

 

笑顔でそう告げるスタッフさん、どうやら手順があるらしい。

タチワキシティはイッシュ地方の中でも、工業都市としてそれなりに大きい街なので、ヒオウギのような比較的田舎町とは大会手順も色々と違う。そもそも、ヒオウギシティで開かれる大会にゲストとか来なかったし。これが財政力の差か、サンギシティを挟んで割りと近いのに、どうしてここまで差が着くのか。

まぁ、オレはバトルが出来ればそれで満足なのだけれど。

 

『それではご登場いただきましょう!旅歴1年目のビギナーとは思えない堂々とした戦いぶりを見せる、イッシュ地方はヒオウギシティ出身トレーナー!キョウヘイ・グレイフィールド!!』

 

司会者の紹介アナウンスが響き渡った瞬間、スタッフさんに促されて会場へと足を踏み入れる。

 

人生でこれまで受けた事もない声援に包まれながら、バトルコートへと向かう。取り敢えず、なるべく笑顔を浮かべて手を振っておこう。

 

Aコートに辿り着くと、既に3人の審判が控えていた。オレは主審から向かって右手側のトレーナーレーンに着くと。

 

「続いて登場するのは旅歴3年!イッシュ地方の最先端を行く街、ヒウンシティ育ちのシティボーイ!!カツヒコ・ランドルフ!!」

 

大きな声援の中現れたランドルフ選手は、堂々とした足取りでAコートに向かって来る。と思いきや、手と足が同時に出ている。

 

『開始の宣言はこの方に務めていただきましょう!ルッコちゃーん!』

 

司会者がそう呼び掛けると、観客全員ルッコちゃんコールで一つになる。これはもう、何のイベントだか分からないな。

 

『はーい!ルッコでーす!!』

 

すると、ルッコちゃんが会場に出てきた。

姿を見せた時に上がった歓声は、ランドルフ選手とオレが手を振ってパフォーマンスした時とは比にならない大きさだ。

ルッコちゃんはその声援に手を振って笑顔で応える。その笑顔は、休憩時間に話していた時の淑やかな笑顔とは違い。元気一杯の、弾けるようなアイドルの笑顔だ。

 

そしてAコートへ駆け寄ると、主審の位置に着き。左手を胸に添えて軽く深呼吸をすると、先ずは左手のランドルフ選手を見て。次に右手の此方を確認する。

視線が交えた時、少し緊張した面持ちに軽い笑みを浮かべたので。オレも口角を少し上げて応える。ルッコちゃんは緊張が解けた清々しい表情で正面を向き、右手を高く挙げると。

 

『それでは、ヒオウギシティのキョウヘイ選手対ヒウンシティのカツヒコ選手による!タチワキシティトーナメント決勝戦を開始します!!』

 

鈴を転がすような声を精一杯張り上げて。

 

『バトル!開始!!』

 

開始の宣言をした。

 

モンスターボールを投げると、意識が引っ張られるようにバトルコート全体が視野に収まる。

 

「フタチマ!!」

 

出場レーンには、いつも以上に気合いの入ったフタチマルと。

 

「リュウズ!」

 

地面と鋼タイプを併せ持った、地底ポケモン。ドリュウズが現れた。

 

『さぁ始まりました!タチワキシティトーナメント決勝戦!!向かい合うは銀色に輝く鋼の爪を備えたドリュウズVS二刀流の剣士フタチマルだ!!』

 

タイプ相性はこちらが有利。だが、油断は禁物。先手必勝。

 

「ハイドロポンプ!」

 

フタチマルに進化した事によって、照準がミジュマルの頃より正確になり。水圧で体勢が崩れる事もなくなり、晴れて遠距離攻撃の要としての座を水鉄砲より譲り受けたハイドロポンプで先手の牽制。当たれば大きなアドバンテージだが。

 

「ドリルライナーで地中に回避!」

 

そうは問屋が卸さない。ドリュウズは腕と頭部の爪と角を連結させ、体ごと回転しながら地面に飛び込み。ハイドロポンプは虚しく空を切る。

 

『カツヒコ選手のドリュウズ!地中へと身を潜めたァ!これではキョウヘイ選手のフタチマルは位置を掴めない!!』

 

「前と足下に集中しろ!」

 

敵が眼前から消えて、周囲を見渡すフタチマルに指示を飛ばす。地中と面前にだけ注意を促し、他から現れる様ならオレが眼になる。

ドリュウズが潜ってからぴったり5秒、フタチマルの右後ろの地面が不自然に盛り上がる。

 

「5時の方向!シェルブレード!!」

 

最小限の言葉で相手の位置を伝えると、左足を軸にして振り向きつつ。2枚のホタチからシェルブレードを展開する。

 

その瞬間ドリュウズが地面から強襲するも、既に応戦の構えを取っ手いたフタチマルは。回転しながら飛んでくるドリュウズの爪と角を左手のシェルブレードで屈んで受け流し、右手のシェルブレードで左から右へ腹を斬り付けた。

 

「ハイドロポンプ!」

 

堪らず体制を崩したドリュウズに、シェルブレードは抜刀したまま。口から放出するハイドロポンプで追い討ちを掛ける。

 

「メタルクロー!」

 

空中で回避行動を取れないドリュウズは直撃を免れず、水圧で吹き飛んだ。

 

『流れるような太刀捌きと、容赦の無い追撃が決まったぁ!!効果は抜群だ!!』

 

しかし相手も決勝戦まで駒を進めた猛者、直前にメタルクローを盾にして最小限のダメージで抑えたようだ。旅歴3年の先輩トレーナーは伊達じゃない。とは言え、優勢は此方。ここは勢いのまま打って出る。

 

「アクアジェットで追撃!」

 

「メタルクローで迎え打て!」

 

相手は錐揉みしつつも地面に爪を立てて着地し、迫るフタチマルを迎える。

 

「シェルブレード!」

 

アクアジェットの慣性をそのままに、一瞬で距離を積めたフタチマルが纏った水を切り裂き、ホタチを抜刀する。

そのまま水の太刀と鋼の爪で鍔迫り合う。空中で踏ん張りの効かないフタチマルが押し負けるも、相手のメタルクローの勢いを利用して軽やかに距離を取り。再び突撃して左右の太刀で相手に斬り掛かる。

相手も両手にメタルクローを展開して応戦するが。鋭さも速さも、こちらが1枚上手。

 

『おっとここで二刀流同士の激しい打ち合い!しかしフタチマル有利!!ドリュウズは防戦一方か!?』

 

「高速スピン!」

 

ここでドリュウズが両手を水平にして高速回転を始めた。その回転にフタチマルのシェルブレードが弾かれ、これでは成す術が無い。

 

訳が無い。

 

「屈んでシェルブレード!!」

 

足下がお留守だ…決勝戦という場で、押されて焦ったか。冷静さを失ったトレーナーが負けるのだ、ポケモンバトルは。

 

フタチマルは一瞬シェルブレードを納刀すると、両手を腰の下で交差させつつ屈み込み。そのまま勢いを付けて抜刀。

斜め十字の刃が腹を切り裂き。ふいに回転を止めたドリュウズが、地面に倒れた。

瞬間、副審を見るまでもなく主審がこちらを指し示し。

 

『ドリュウズ!戦闘不能っ!勝者、ヒオウギシティのキョウヘイ選手!!』

 

ルッコちゃんが試合の終わりを告げた。

 

その瞬間、ルッコちゃんが登場した時と比べても勝るとも劣らない声援が。観客席から巻き起こった。

 

『決着ゥー!!!激しいバトルを制したのは、ヒオウギシティのキョウヘイ・グレイフィールドォ!!』

 

フタチマルは気障ったらしく両手の太刀を振るうと、キメ顔でホタチを腰に収めた。何故か左右の手を交差させながら。

まぁ、様に成っていたので良いとするか。

 

 

 

 

 

 

 

『賞状、キョウヘイ・グレイフィールド殿。貴方は、タチワキシティポケモンバトルトーナメント大会に於いて、頭書の通り優秀な成績を収められましたのでこれを賞します。タチワキシティ町長、ゲンノスケ・タチワキ』

 

「ありがとうございます」

 

町長から直々に表彰状を受けとり、握手を交わすと。2位のランドルフさんと3位のクックさんにも、それぞれ賞状が授与された。

 

『そして優勝者のキョウヘイ選手には、サプライズプレゼントだ!』

 

司会者がそう告げると、特設された壇上にルッコちゃんが上がってきて。

 

『キョウヘイ…さん、優勝おめでとうございます!』

 

そう言ってサイン色紙を贈呈してくてた。どうでも良いけど、今ちょっと「キョウヘイくん」って言いかけたな。

視線を向けると、ちょっとだけ舌を見せておどけて見せるルッコちゃん。何をやっても様に成るから、可愛い女の子はズルいと思う。

 

これは家に送って、母さんにオレの部屋に飾って置いて貰おう。何を言われるか分かったもんじゃないが、大方「ポケモンバトルバカな息子がアイドルに興味あったなんて」とか、そんな辺りだろう。

 

「ありがとうございます」

 

オレが色紙を受け取ると、会場の彼方此方から「ズルい」だの「羨ましい」だのと野次が飛んでくる。貴方たち、先ほどはあれだけ声援を贈ってくれたというのに。

 

取り敢えず、サイン色紙を掲げて見せびらかしてみると。野次が一際大きくなり、ルッコちゃんにもクスクスと笑われてしまった。悪ふざけが過ぎたな。

 

その後、町長の長い話をもう一度聴き。解散となった。

 

会場を出て、一度建物を振り返る。いつかまた、ルッコちゃんとそのポケモンたちと会話する事が出来るだろうか。

そんな事をぼんやりと考えた。

 

 

 

適度に疲れた体を動かして、ポケモンセンターに手持ちのポケモンたちを預け。宿泊施設に申請をする。

宿泊部屋のキーカードを受け取ると、回復の間手持ち無沙汰だったので。冷やかしにヒュウに電話してみようと、ポケットからライブキャスターを引きずり出す。

 

『おう、キョウヘイ』

 

数コールするとヒュウが画面に映った。

 

「やあ、ヒュウ昨日ぶり。元気そう…じゃないみたいだね、どうしたの?」

 

ヒュウの顔は昨日までと比較して、若干窶れていた。一体今日の間に何があったのか。

 

『あ~、いや。ちょっとな』

 

ヒュウにしては歯切れが悪い、らしくないな。

 

『それより、どうしたんだよ。もうタチワキジム攻略したのか?』

 

話題を逸らしてくるし、ますます怪しいな。そういう態度を取るなら、此方にも考えがある。

 

「いや、そのつもりだったんだけどね。タチワキシティで大会開いててさ、飛び込みで参加出来たからそっち行ってたんだ。なんと結果は…知りたい?」

 

『優勝か?』

 

「先に言わないでよ」

 

折角こっちも勿体振ってやろうと思ったのに、面白味のない。

 

『まぁ、お前は俺のライバルだからな。それくらいして貰わないと困る』

 

懐かしいな、その言葉。昔は事ある毎に聞いていた気がするが、いつの頃からか聞かなくなった。

 

「そうそう、もう一つサプライズ」

 

そう言ってルッコちゃんのサイン色紙を取り出す。中央には大きく可愛らしい文字でサインが書いてあり、端にはこれまた可愛らしい文字で「キョウヘイくんへ、優勝おめでとう」と文末にハートマーク付きで書いてあった。

 

それを見た途端にヒュウは。

 

『はああああああっ!?』

 

奇声を上げた。お前、思ってた以上にルッコちゃんに御執心だったんだな。今の叫びで伝わってきたよ。

 

画面の向こうから『お兄ちゃんどうしたの?』『いや、なんでもねーよ!?』という兄妹に遣り取りが聞こえてくる。妹ちゃんに心配かけるなよ、ヒュウ。

 

『んっうん!へぇ、それ…どうしたんだよ?』

 

咳払いして取り繕っても、今のシャウトは無かった事にはならないぞ。

 

「なんか、大会のゲストでルッコちゃんが来てて。優勝したら貰った」

 

『マジか』

 

「マジ」

 

『「…」』

 

何となく沈黙するオレたち。というかヒュウはまだヒオウギに居るのか、妹ちゃんの声が聞こえてきたし、何より背景がヒュウの実家のリビングだし。

 

『あ~。やっぱ、お前には話しておくわ』

 

数秒の沈黙を破り、目線を逸らして頭をかきながらヒュウが口を開く。

 

『俺、今トウコ先輩とチェレンさんにバトルの指導受けてる』

 

それを聞いて全て納得した。ヒュウがやたら疲れているのも、ヒオウギから未だ出ていない事も。

 

「マジか」

 

『マジだ』

 

今度はこっちが聞き直す番だった。なんせ、そんなのはぜったいに。

 

「自殺行為だろ」

 

『俺も今と成っちゃ、そう思ってる』

 

ヒュウが溜息を吐きつつ項垂れる。トウコ先輩は勿論の事、チェレンさんも優し気だけど、バトルの時の雰囲気から察するに結構厳しそうだぞ。ヒュウにそれが分からないとは思えないが。

 

『だけど、まぁ。俺はお前のライバルだからな』

 

そう言って苦笑するヒュウを見て。何を当たり前の事言っているのか、と首を傾げる。そんなのはポケモンバトルを始める以前から、ずっとそうだ。今更それを理由に苦行に身を投じる理由は分からない、分からないが。

 

「なら、次バトルする時が楽しみだね」

 

『…おう』

 

 

ぶっきらぼうにそう応えるヒュウの顔は、最初よりは元気そうだった。


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