私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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今回の話で零の父親の家系が明らかに。
それと、アリアが零に言ったガチガチに考えないと行動できない発言が、ハッキリと証明されます。


推理の時間ーー『武偵殺し』に迫れ

零視点ーー

 

金次君を見送りーー私はベットの上で、ボーッと天井を眺めながら事件を振り返ってみる。

ざあーざあーと降り続ける雨の音が非常に心地いい。落ち着いて思考できる。

バスジャック事件は一通り終わりを迎えたが、コレで終了です。とは到底思えない。奴は必ず再び襲撃してくるだろう。

私が可能な限り、妨害してきたものだから『武偵殺し』はさぞかし、ご立腹だろうね。

 

「さて......君はこの状況をどう打開してくるのかな?『武偵殺し』くん?」

 

私は無意識に両手を合わせて口に持ってくる。同時に、これまでに収集した情報を纏めてみる。

最初の事件ーーチャリジャック。これは私が金次君の自転車のサドルに仕掛けられていた爆弾を回収したので、失敗に終わった。

自転車は寮の外に置かれていたーー誰にでも爆弾を仕掛ける事は可能。

 

チャリジャックが失敗したのでカージャックに変更ーーUZI搭載のセグウェイで襲撃ーー登校ルートは警戒も兼ねて変更していたのにも関わらずーーまるで居場所が分かっていたかの様だった。

 

同時にアリアが現れたーー本人は勘と言っていたが、武偵殺しが発信する特定の電波を傍受して駆けつけた。私の車、登校ルートもそれで掴んだ。アリアが来たせいで、私の車はボロボロの廃車となったが......

 

「だとしたら......通信装置はどこから流されていた?」

 

私の車から発信されていた?ーー同乗していた金次君と白雪さんに調べてもらったが、車内などに爆弾はおろか、通信装置の類は発見されなかった。

車外に仕掛けられていた?ーー私が点検した時には無かった。

点検した時間ーー金次君を迎えに行く前だ。

仕掛けたタイミングーー金次君を迎えにいった後?爆弾ではなく、通信装置だけを何故?爆弾の予備を用意していなかった?

通信装置は特定の電波を発信していたーーワザと傍受しやすくした。

誰かをおびき寄せる為?ーー『武偵殺し』を追っている人物ーー私と金次君は除外ーー神崎・H・アリア。

 

「武偵殺しは何故、アリアを呼び寄せたんだろう......」

 

再び思考に集中する。寝起きなので少しウトウトするが、何とか堪える。

今度はアリアと武偵殺しの接点を考える。

アリアは世間では捕まったとされる『武偵殺し』は偽物だと知っていた。これは金次君のベランダから突き落とされた後で収集した情報だ。本当にヤツについて調べていたよ。

 

アリアの正体は武偵殺し?ーー可能性としたは0%ーーアリアには無理だ。あのピンク頭が自分の正体を隠す事ができるとは思えない。この結果には私の全財産賭けてもいい。爆弾しかけた人間がわざわざ来る筈がないし......

 

アリアが武偵殺しを追う理由ーー彼女の武偵殺しを捕まえようとする志は高く、過去に『武偵殺し』で何かあったのは明白。

武偵殺しの犯行は武偵を狙ったもの。

動機ーー身内、相棒を奪われた?それは誰だ?ーー新宿警察署に留置されている人物。

アリアが武偵殺しを追うのは、新宿警察に留置されている人物の無実を証明する為だ。アレほど必死になる様子からして、おそらく身内である可能性が濃厚だね。

新宿警察に留置ーー『武偵殺し』の偽物ーーアリアの身内。

 

「スケープゴードK氏の味方はアリアだったのか......尊敬するなんて言っちゃった」

 

過去に金次君に言った事を思い出す。今まで気付かなかった自分が恥ずかしい。あの時点で気付けよ⁉︎って、自分に言い聞かせたい。

 

「アリアも『イ・ウー』を追っているのかな......」

 

勾留されているK氏の容疑は『武偵殺し』だけに留まらず、幾つもの罪状、事件に関わったとされている。これら全ての事件の裏には『イ・ウー』が暗躍して間違いない。

K氏は『イ・ウー』の関係者?ーーアリアの身内である人間が何故?自分の無実を晴らそうと、今も奮闘しているアリアを嘲笑う趣味があるようには思えない。『イ・ウー』を知っているが、組織の関係者ではない?これは新宿警察署に行けばハッキリするかもしれない。

 

「目的は同じか。妙なトコで被ったなー。まぁ、それも一興かな♪」

 

アリアが『武偵殺し』だけでなく、『イ・ウー』も追っているなら利用できるかもしれないネ。

『イ・ウー』も気になるが、今は『武偵殺し』の捜査に集中したい。上手くいけば『イ・ウー』の尻尾を掴むことに繋がるかもしれない。

あの組織は本当に目障りだ。早く消したくて堪らない。何度、私の邪魔をしてきたことだが......おっと!思考が脱線していた。

私は気を取り直して、今度は上半身だけ起こして思考する。

 

「武偵殺しの目的は一体......?」

 

過去にヤツが犯した事件はチャチな悪戯程度もあれば、ガチの冗談ではすまないモノもあった。一見して計画性がないように見えて、そうではない。愉快犯とはまるで違うーーそれは私が証明してある。確かな目的があっての犯行だ。

 

犯行の動機ーーターゲットは武偵ーー武偵に恨みがある?個人ばかりを狙っていて効率が悪い。狙うとしたから武偵の総本山である武偵庁か武偵養成施設ーー武偵学校を襲撃すればいい。

 

個人に絞る理由ーー被害にあった武偵達と『武偵殺し』との接点を調べたが、誰一人優良な繋がりはなかった。

彼らは犯行の実験台ーー本番に入る前のプロローグを兼ねたお遊び?ならば本編はなんだ?

 

『武偵殺し』の大きな事件ーー浦賀沖のアンベリール号沈没事故。過去の犯行で目立つモノといえばコレだ。あれ以降、暫くして『武偵殺し』は逮捕された。まぁ、実際に捕まったのはK氏だったがね。

 

再び犯行再開ーーカージャック。せっかく、世間の目を誤魔化せたのに関わらず。世間を騙せるメドが立った?

 

本当の予定はチャリジャックーー本来のターゲットは金次君。彼と『武偵殺し』の繋がりといえば、兄である遠山 金一が被害にあった事だらう。これは身内を嵌めらたアリアと並んで、濃くハッキリとした繋がりだ。

 

「金一さんも『武偵殺し』を追っていたのかな?」

 

金一さんと『武偵殺し』の繋がりーー金一さんは武偵庁のプロ武偵だ。世間では知られていない犯罪者・組織を追っていても不思議ではないーーそれは蜘蛛の糸で検証済み。自然と『イ・ウー』と関わりのある『武偵殺し』を追っていた可能性あり。もしかして、彼個人で『イ・ウー』を追っていた?

 

「もし、金一さんが『イ・ウー』を追って......それで『武偵殺し』に狙われてた?いや......それだとアリアが知っていないとおかしい」

 

そうだよ......おかしいじゃないか。アリアは『武偵殺し』が犯した事件を事細かに知っている。でないと、犯人に辿りつけないだけじゃなく、K氏の無実を晴らせないーーシージャックも立派な『武偵殺し』の事件だ。

そんなアリアが何故シージャック......遠山 金一という''武偵”が狙われた事件を知らない?

アリアが知らないワケーー金一さんの事件だけ周知していない......これだけはあり得ない。世間ではシージャックでなく、事故となっているがアリアほど......認めたくないが、身内であるK氏の無実を晴らそうと奮闘している彼女が取り零すミスをするハズがない。下手すれば余罪として上げられるかもしれない。

 

「アリアが『武偵殺し』を捕まえる方法......ヤツを追う方法か」

 

自分の発した最後の言葉にピンと来る。

通信装置ーー特定の電波か!

アリアは犯行現場で流されていた電波を傍受して、『武偵殺し』を追っていた。裏を返せば特定の電波を発している人物は『武偵殺し』と決め付けられる。電波が流されている、これはヤツの仕業だ!といった具合だろう。

 

「アリアがシージャックを知らなかったのは、その電波を傍受できなかった......しかし、アレは確実にヤツの犯行だ」

 

アリアが知らない理由ーーシージャックだけ特定の電波が検出されなかった。

 

電波が傍受されなかったーー『武偵殺し』は何故シージャックに限って電波を使わなった?金一さんがターゲットなら遠隔操作した船で自由を奪う......いいや、違う!

私は手を払いのけて、推理結果を否定する。

 

「『武偵殺し』はバイクジャック、カージャックで事件を始めてーーシージャックで金一さんを仕留めた。それは直接対決だったとしたら、電波を傍受できなかった」

 

『武偵殺し』は電波を出さなかった。つまりーー船を遠隔操作する必要がなかった。ヤツ自身がそこにいたからだ。

おかしいとは思っていたがーーあの金一さんが船を遠隔操作された位で負けるなんて変だなと思ったんだよね。

かと言って、『武偵殺し』との直接対決で遅れをとるようにも思えないが、そもそも何故、ヤツは金一さんと直接対決した?

 

「ますます謎が深まるね。まさか、金一さん関係でここまで深まるとは......金次君に感謝だね」

 

思わずニヤッと笑みが溢れる。今の私の顔は鏡で見たら酷い状態だろう。

金次君と久しぶりに、金一さん(特に女装関係)についてお喋りしたおかげかなー。安否不明な人物ーーそれも金次君のお兄さんで笑っちゃうなんてイケナイネ。

 

「金一さんと直接対決する限り、余程の自信があったのかな?」

 

今度は『武偵殺し』の人物像を考える。

陽気で前向き、華やかなことが好きで自信に満ちている。同時にそう見られたい。強い変身願望があるーー今回のバスジャックでハッキリした。

シージャックでは金一さんと直接対決したーー金一さんに恨みがある?そんな単純な動機とは思えない。陽気に駆られた気まぐれ?

 

シージャックを後にK氏逮捕ーーK氏に罪を着せ、自分は姿を消した。アリアはK氏の無実を信じている。姿を消しても、アリアに追われるのは明白。

 

K氏に罪を着せた理由ーーアリアに宣戦布告。奴の事件の本編はアリアだ。

 

『武偵殺し』の目的ーーアリアに宣戦布告すること。ターゲットはアリア。

 

「偶然とは思えないね。K氏に罪を着せたの気まぐれではなく、明白な理由ーーアリアに宣戦布告する為か」

 

私の車に通信装置だけ取り付けたのは、アリアをおびき寄せるーー電波を傍受させるだけで充分と判断。或いは、本当に爆弾の予備がなかったものね♪

しかし、まだ謎が残っている。

 

「1件目はバイクジャック、2件目はカージャック、3件目はシージャック。ここで一旦終わり。そして、4件目はチャリジャック......これはカージャックになったが、5件目でバスジャックか」

 

私は指を一本ずつ立てながら、今まで起こった事件を数える。

4件目でヤツは急に小さくなる。てっきり、ハイジャックにでもやると思ったのに......ここでハッ!と気づくーー事件の法則について。

いや、4件目でなく、''1件目''と考えるべきか。

 

「最初の1、2件は遠隔操作、3件目では直接対決。そして......今回の騒ぎも似ている」

 

最初の事件からアップダウンしている。

インターバル後の事件ーー1件目カージャック、2件目バスジャック。

3件目でヤツは再び直接対決をするハズだ。

直接対決する相手ーー宣戦布告したアリア。間違いなくヤツはアリアを狙う。

アリアを囮にすれば、ヤツを始末できるかもしれない。上手くいけば『イ・ウー』にも近づける。

 

「金一さんを狙った理由は?アリアが目的なら最初の事件の3件目で、直接対決すればいいのに......」

 

『武偵殺し』は何故、今までの武偵のように金一さんを仕留めなかった?何故、直接対決にこだわった?

隅にやった金一さんの項目を呼び戻す。

 

金一さんと直接対決した理由ーー気まぐれ......違う!恨み......これも違う!遠隔操作できなかった......違う!

見当違いの答えを手で払う。

 

「直接対決で負ければ捕まるのは明白だし、捕まらない自信があった?うーむ......分からない」

 

私はガサゴソと金次君経由で貰ったーーアリアからのお饅頭をあさる。一つだけ取り出し、パックと一口かじる。

うーむ、これ本当にあん饅なの?違う気がするんだけど......形はあん饅だけど、皮の色が少しピンクぽいし。

チラッと梱包紙に視線を移す。うん、あん饅と書かれている。もしかして、買うときに店員さんが梱包紙を間違えたのかな?

梱包紙には松本屋の名前がある。そこで購入したようだ。

まぁ、いいか。糖分も補給したし、改めて思考に集中しよう。

 

「金一さんといえば、武偵庁の特命武偵。巣鴨在住。女装が趣味......これは失礼だね♪」

 

またしても笑みが溢れる。ぷぷぷ、ダメだ......あの人、どう考えも女装関係が先に頭をよぎる。流石、金次君のお兄さん、いいや、お姉さん!うん?金次君のお兄さん?

 

「インターバル後の最初の被害者は金次君。その次も金次君だったよね。これは偶然?バスジャックは違う人物を狙っていた......いいや、違う!」

 

私はベッドから立ち上がる。同時に手にピンクのあん饅を持って。

そうだよ!インターバル後の事件は、ずっと金次君が狙われていたじゃないか。

武偵殺しのターゲットはアリアだけじゃなく、金次君も含まれていた。

金次君の傍には決まってアリアがいたーーヤツは2人を引き合わせるのが目的。

その推理に行きついた瞬間、私は手に持っていたあん饅を無意識に握り潰した。ボロボロとあん饅がベットに落ちる。

アレ?私はどうしたんだろう?この推理結果が気にくわないぞ。2人が一緒になるなんて......あー、これは置いておこう。

 

「アリアと金次君を引き合わせた......遠山 金次、神崎・ホームズ・アリア」

 

2人の接点はない。会ってまだ間もない。

共通するものといえば、先祖に高名な人物がいるくらいだろう。

金次君のご先祖様は遠山金四郎。北町奉行で活躍。時代劇でお馴染みの『遠山の金さん』だ。

 

「金さんといえば、うちのお父さん、あの時代劇を嫌そうな顔で見てたな〜」

 

昔の出来事が頭の中で蘇る。

お父さんは遠山の金さんが嫌いだった。あれが始まる度ーーOPが始まる時点で嫌そうにしていた。

チャンバラシーンでは、金さんに「くたばりやがれ」と笑顔で言ったり、「北町奉行所の連中に負けるなよ」と反対の南町奉行所を応援していた。特に嫌っていたのが、金さんお馴染みの桜吹雪ーー肌を露出させるシーンでは、「この露出狂の変態が......お前が奉行所にしょっぴかれろ」と一際笑顔で見ていたーー今思えば、アレは絶対にキレてた。お父さーん、アレは金さん本人じゃなく、役者さんだからね。

あと、お父さんに関しては怖い思い出もある。

小さい頃、私が桜吹雪のシーンを遊びで真似たら、恐ろしい目で睨まれた。正直、殺されるんじゃないかって、思わずにはいられないくらいに......のほほんとしたお父さんには見えなかったよ。

もうしないよって、涙目で謝ったら、急にパッと明るくなって、ヨシヨシと頭を撫でてくれたけどさ。

 

「ハッ!いけない。お父さんの事は後回しにしよう」

 

懐かしくもあり、怖い思い出を振り返っていた。気を取り直し、事件に集中!

ベットに座りこむと、再び私は思考の渦に飲み込まれた。

次はアリアについて考えてみよう。

神崎・H・アリアのご先祖は、名探偵シャーロック・ホームズ。彼の伝記は小説にもなっている。そして、私の曽おじいさんーージェームズ・モリアーティのライバル。

母さん......あの小説でジェームズ・モリアーティが余り登場しない事に不満を持っていたっけ。「もっと登場させてもいいでしょう!しっかり書いてよワトソン!」って、当時はモリアーティ教授のファンかと思ってたけど、純粋に自分のお爺さんの登場が少ない事に不満があったんだ。

小説の作者はジョン・H・ワトソン。母さんの言う通り、もっと登場させてよ。彼の経歴といえば、作家であり、アフガニスタンに従軍した軍医。特に目立つのは、シャーロック・ホームズの相棒という肩書き。

 

「そういえば......アリアの実家ーーホームズ家の人間はパートナーが必要って、ルイスが言ってたな」

 

初代ホームズ&ワトソンから始まり、ホームズ一族はパートナーを持つ事で想像以上の力を発揮するそうな。

『武偵殺し』がアリアと金次君を引き合わせたのは、金次君にワトソンの役割を果たさせるため?自分の真のターゲットであるアリアを敢えて、パワーアップさせるのは何故だ?仕留め難くなるだけじゃないか。

 

「パワーアップしたアリアじゃないと意味がない?強いアリアを倒す事が目的か......強いアリアでないと、意味がないのだ!さぁ、パートナーと共に私を倒してみせろ!」

 

一芝居してみるが、虚しくなるだけだった。恥ずかしくなったきた......何が倒してみせろだ。『武偵殺し』が戦闘狂には思えないし。

 

『武偵殺し』の目的ーーアリアと金次君を引き合わせ、パートナーを持ったアリアを倒す。

 

倒す目的ーーアリアを超えるため。誰かを超える証明に使いたがってる気がする。

ヤツは変身願望が強い。努力家で自分を誰よりも有能な存在に変えたがっている。悲痛なまでに一途に......何のためにだろう?

 

「色彩心理学では真っ赤な色が好き。色物を揃えたがる傾向あり。赤を身につけている......赤?」

 

赤といえば、その色物を身につけている人物に、私は心当たりがあったーーりこりんだ。彼女は赤のランドセル・靴、フリフリのロリータファッションにも赤色が含まれていた。よく目にするから自然と目で流していたよ。

 

「赤が好きだと言ってたっけ。振り返ってみれば、あの子の海外主張任務と武偵殺しの犯行時期が重なるなー。怪しいね〜」

 

私はりこりん関係で思い出せる事を可能な限り、ピックアップしてみる。

 

「確か去年、相談に乗ってあげたな。内容はAさんを助けるにはどうすればいいか、だったね。アレがりこりん自信の事だったとすれば......助けを求めていたのか」

 

りこりん=Aさん。

彼女の家は両親が亡くなると同時に没落し、1人残ったりこりんは親戚を名乗るVと呼ばれる存在に引き取られ、監禁された。

何とか逃げ出したが、Vは彼女を追ってきた。りこりんは戦ったが、惨敗した。

そして、りこりんはVに「初代を越えるまでに成長し、その成長を証明できればもう手出しはしない」と言われたんだっけ。

彼女の家は高名な一族。初代を超える証明がアリアを倒す事だとすれば......『武偵殺し』の正体はりこりんか。

まだ、早とちりかもしれないが、候補にしておくかーー可能性は大だけどネ。

 

『武偵殺し』理子の目的ーーアリアと金次君を引き合わせ、アリアを倒す事で初代を超えたという証明にする。そして、Vからの解放。

 

「りこりんが『武偵殺し』だとすると、残念なような......悲しいような気もするなー」

 

金次君はお兄さんの仇を討ちたがっているし、その相手が同級生のりこりんだと知ったら、彼はどうなるんだろう。

兄の仇である彼女を逮捕する?それとも殺しちゃう?はたまた、彼女に殺されちゃうかな?最後のは嫌だな。金次君が殺される所なんて見たくないし。

 

「りこりん=『武偵殺し』を結び付ける決定的な証拠がないしなー。証拠隠蔽が上手いし、コレは誰かが入れ知恵したとしか思えないね」

 

誰かが彼女に協力し、証拠を消している。私でも見つけられなかった。りこりんがやったとは思えない。誰かがやっている。ダレカガ......りこりんの後ろにいるお前は誰だ?何故、りこりんに肩入れする?

 

「ちょっと、りこりんにイタズラしてみるか♪」

 

過去の事を考えれば、りこりんは可哀想な子に思えるが、『武偵殺し』であれば、始末するか......いや、待てよ。

始末するか、しないかは、金次君に委ねてみよう。そこで彼の本質がハッキリするかもしれないーー向かう側か、こっち側かがネ。

次の犯行は3件目ーー直接対決だ。そこで現行犯として現れてくれるハズだよね♪

私は携帯を手に取り、モランに掛ける。数コールもしない内に繋がった。

 

「もしもし、モラン。突然で悪いんだけど、頼みたい事があるんだ」

 

『構いませんよ。何でも言いつけてください』

 

キリッとした声が聞こえる。いつ聞いてもいい声だねー。

電話越しで直立姿勢している光景が目に浮かぶよ。

 

「武偵殺しの正体が分かったような気がするんだー。奴が次に狙う場所の目処が立ったし、その準備をして欲しいんだよ」

 

『分かりました。すぐに準備に取り掛かります。末端ーー枠糸にやらせますか?」

 

彼女の言う末端ーー枠糸というのは私の組織の階級だ。

由来は蜘蛛の網から来ている。中心から放射状に張られた糸を縦糸、縦糸に対して直角に、同心円状に張られた糸を横糸という。横糸は実際には同心円ではなく、螺旋状に張られている。網の中心付近には横糸がなく、縦糸の交わるところには縦横に糸のからんだ部分があり、これを「こしき」という。クモが網にいる場合には、普通ここに居場所を定めている。網の外側には縦糸を張る枠にあたる糸があり、これを枠糸と呼ぶ。

 

縦糸はモランを始めとした信頼できる人材で固めてある。横糸は戦闘特化・情報戦・金銭管理の人材を配置。網の中心部「こしき」は私だ。モランが述べた枠糸は組織の末端、使い切りの人材だ。

 

「この仕事は難しいから、枠糸には荷が重いよ。プランを説明するからよく聞いてね」

 

私はモランに計画を語る。

 

 

ーーーー

 

『畏まりました。全て主の思うがままに』

 

アレを有効活用する日がきたよーー金次君の自転車に仕掛けられていた爆弾をね。

りこりんにイタズラしよう。自分が仕掛けた爆弾でやられるのはどんな気分だろう?アリアを倒せず、自分の一族の初代を超える証明もできず、夢半ばで倒れる。死んでしまえば、Vからある意味で解放されるよ。

まぁ、それはりこりんが”本当”に『武偵殺し』であった場合だ。

これから最初にする事は、いわばテストのようなモノだーーりこりんが武偵殺しか、そうじゃないかをハッキリさせる。ちょっとしたテスト♪りこりんが無実なら生き残ってみせるさ。

 

「それじゃ、後はよろし......」

 

ゴロゴロ〜キュピィィィィーー

 

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ⁉︎」

 

お、お腹がぁぁぁぁ。痛い!超痛いよ!

突然の腹痛に私は耐えらず、前屈みになりベットのシーツを握り締める。

 

『主⁉︎どうされました主!応答してください!』

 

モランが電話越しで叫ぶ。

お願いモラン!叫ばないで!漏れちゃう!漏れちゃうよ!

 

『主、応答してください!主、あるじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ‼︎』

 

頼むから叫ばないで!黙って......いや、待って!

私はお腹を抑えながら、必死の思いで電話を手に取る。

 

「助けてモラン!助けてよ!助けて、助けてぇぇぇ!何か漏れちゃうよー‼︎漏れちゃう!」

 

私はモランに助けを求める。

ーーパリン!

病室の窓を割って、モランが駆けつけてくれた。雨の中を走ってきたのかーー彼女はびしょ濡れだ。

早っ⁉︎しかも、ここ三階だよ⁉︎でも、助かった!

 

「主!どうされました⁉︎」

 

モランは私の側まで来て、ガクガクと私の肩を揺さぶる。

やめてぇぇぇぇぇぇ!私に触らないでぇぇぇぇぇぇ!

私はモランの手を払い除ける。

 

「あ、主?」

 

モランは困惑している。

当然だ。今の私は前屈みになり、お腹を抑えている格好なのだから......自分でも情けない姿を晒している。こんな醜態、アリアだけには見られたくない。

 

「う、うぇぇぇぇん......‼︎」

 

エグッ!グスッ!と涙が出てきた。アリアに見られたら、絶対に馬鹿にされる。何だか悔しいぃぃぃぃぃ!

思わずモランに寄り添う。

 

「モラァァァァァーン!お願いぃぃぃぃぃ!今すぐトイレに連れてっでぇぇぇ!」

 

「分かりました!」

 

私は泣きべそをかきながら、モランに懇願する。自分ではベットから起き上がることすらできん。

モランは私をお姫様抱っこし、一目散にトイレに駆け込む。




次回は理子視点を書こうと思います。
このままだと、武偵殺し編だけで20話いくんじゃないかと最近、思い始めました......そろそろケリつけるか!

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