私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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久しぶりに一万字を超えました。


バスジャック その3

キンジ視点ーー

 

「うわー、外はすっかり大雨だネ。水の滴る良い男になったじゃないか金次君」

 

お台場に入って直ぐに零が空を見上げ、呑気に話しかけてくる。いつの間にか精油パイプを口に咥えている。

外は豪雨に見舞われ、強風も吹き荒れている。走行するバスの屋根にいるのでもろに影響を受ける。数分もしないうちに制服はびしょ濡れだ。おまけにこの風だし、油断すればバスから落下しかねん。

 

「油断するなよ零。ボニーとクライドのおかげでスパイダーは片付いたが、肝心の爆弾が見つかってないんだぞ」

 

俺は未だバスの後方をバックで付いてくるマスタングーー乗車しているボニーとクライドを見る。2人は俺が見ている事に気付いたのか、こちらに手を振ってくる。ニヤニヤとムカつく顔はそのままだが。

兎も角、ボニーとクライドの活躍で、スパイダーたちはトンネルで一掃できた。あの姉妹たちはやる時はやるな。感心したぜ。普段からこれくらい......被害は最小限でやってくれたら文句無しなんだがな。

 

「おっと、そうだったね。ゴメンゴメン」

 

零はパイプを口から離すと、小さな舌を出して「てへ♪」と付け加えるが、今の状況下でやられても可愛くないぞ。現在、俺らが乗ってるバスには爆弾が仕掛けられているし、いつ爆発してもおかしくない。そうなったら、俺たちだけでなくバスに乗ってる武藤や後輩たちまで犠牲になる。

 

「さて、邪魔モノもいなくなったし、早く爆弾を見つけてこのくだらないレースを終わらせようか」

 

よっこらしょとばかりに立ち上がり爆弾捜査に乗り出す。

 

ーーバババババ

 

上空から何かのローター音が聞こえるーーヘリだ。

武高所有の緊急出動時に使用されるヘリだ。バスジャックの知らせを受け駆け付けたらしい。

へリのカーゴハッチが開かれる。搭乗者の姿が見える。見慣れたツインテールの美少女アリアだ。TNK製の防弾ベルト。強化プラスチック製の面あて付きヘルメット。フィンガーレスグローブ。武偵がいわゆる『出入り』の際に着込む、攻撃的な装備ーーC装備を着込んでいる。

それと......一緒に搭乗しているショートカットの美少女、あれはレキか。

レキは入試で俺と同じSランクに格付けされーー今もSの、狙撃科の天才少女だ。身体は細く、身長はアリアより頭半分大きい程度。腕は確かなのだが、その無表情でロボットっぽい性格のため目立たない女子である。

アリアめ。転入生のくせに、いい駒が分かっているな。

 

「ほうー、レキさんか。いい助っ人をチョイスしたネ〜」

 

零もアリアとレキの姿を捉えたのか、ヘリを眺めて笑う。

 

 

「ほら!バカキンジ。しっかり受け止めなさいよ!」

 

受け止めろって、何をだよ?

躊躇いもなくアリアがヘリから強襲用パラシュートを使いつつ、バスにダイブした。マジかよ⁉︎

俺は慌てて、アリアを受け止める。アリアの小さな身体が俺の腕に収まった。本当に小さいな。

受け止めた際、足を滑らかせそうになるが、何とか踏ん張りを利かせて耐える。後ろから零も支えてくれた。助かったぜ。

 

「このバカ!何で電話に出ないのよ。何度も掛けたのに!」

 

パラシュートを捨てたアリアが俺の胸をポカポカと叩く。

やめろ!地味に痛てぇから。それに電話って、何の事だよ?寮を出る前に着信履歴を見たが、誰からも電話なんて貰ってないぞ。勿論、寮を出た後もだ。

 

「何の事だ?俺はお前から電話なんて一本も貰った覚えがないぞ」

 

「嘘よ!あたしは何度も電話したわ!何度も、何度も!それなのにあんたときたら、電話に出ないどころか簡単にバスジャックに巻き込まれて......あたしがどれだけ心配したと思ってるのよ......!」

 

「悪かった、悪かったよ。俺の不注意だ。すまんかった」

 

俺は何とかアリアを宥める。

何がどうなってる?アリアの様子からして嘘は言ってない。ここまで言うからにしては本当なんだろう。アリアは嘘が下手だし、こんな嘘を言っても何もならない。

誰かが俺の電話に細工でもしたのか?アリアからの着信を受け付けないようにして......

 

「あー、金次君。お取り込み中、悪いんだけど今は、ね?」

 

零の声にハッと、我に帰る。いかん、電話の件も気になるが、今はこの件ーーバスジャックを対処しないとな。

 

「あんた誰よ?見かけない顔ね?」

 

アリアが変装した零をジッと捉える。

今の零は変装をしている。普段の姿とは違う美少女だ。アリアが気づかないのも無理はない。俺ですら最初は分からなかったからな。

 

「あれ〜、分からないのかな〜。私、ちょっとショックだな〜」

 

「だから誰なのよ!名前くらい言いなさい!あと、何であんた下着姿なのよ!前くらい隠しなさい。ハシタナイ」

 

アリアが制服の前を開けた零に詰め寄る。

零よ......お前、ワザと声を変えて喋ってるよな。あと、アリアよ。お前も気づけよ。相手を小馬鹿にしたこの態度。零しかいねぇよ。

どうする?ここでアリアにこいつの正体を言うべきか......2人は仲が悪いし、タダでさえ状況が状況なだけに混乱しかねんーー俺が取っ組み合いの末、零を下着姿にしたのがバレたら風穴を開けられかねん!

 

「あー、アリア。こいつはアレだ......えーっと、そう!違うクラスの奴で、前に俺と任務をこなしてた......」

 

「こなしてた、誰よ?」

 

アリアがギラリと睨みつける。怖っ!何で俺を睨む。

俺はない頭を捻って考える。あぁ、くそッ!どうすればいい。まったく思いつかん。何もない......何もない?

そのワードにピンとくるものがあった。

 

「名前はそう......キョウだ!」

 

虚=中身がない。つまりゼロ。零の名前に当てはまる。似たような意味だし、我ながら適当だな。

俺は零に視線を移して、同意を求める。

頼む!合わせてくれ。頭のいいお前なら分かるだろう?

 

「うん!そうでーす。初めまして、金次君と前に任務をこなしてたキョウでーす」

 

目に横ピースサインを決めて、俺が決めた偽名を堂々と名乗る。

分かってくれたか。俺が安心するのも束の間、零が意地悪そうな笑みを浮かべた。

その笑みはなんだ?合わせてやるから、後で何か奢れってか?

 

「そう、よろしくねキョウ。あたしは神崎・H・アリアよ」

 

アリアは納得したのか、変装した零に自己紹介し始めた。納得するんかい!絶対に後で零にイジられるな......

 

「あー、自己紹介してる所で悪いんだが、どうやってバスジャックの事を知ったんだ?いや、『武偵殺し』の事をよ」

 

「ヤツの電波をつかんで、通報より先に準備を始めたんだもの。本当なら、キンジにも来てほしかったけどね」

 

「電波?」

 

「おや?知らないのかい金次君。『武偵殺し』は自分の仕掛けた爆弾やさっきのおもちゃを操る際、特定の電波を使うのだよ。まぁ、犯行ごとに毎回電波は変わるけどネ」

 

「あら、『武偵殺し』について、えらく詳しいわね?」

 

「まぁ、そこは金次君に聞かせてもらったからさ。ねぇ、金次君?」

 

零が俺に話を振りだしたので、俺は思わず「お、おう」と答えてしまう。特定の電波......それを頼りにアリアは駆けつけたのか。ちょっと、待てよ。あの日ーー最初にアリアと出会った時はカージャックだったよな。あの時もこうして、『武偵殺し』が流していた電波をキャッチして駆けつけたのか。だとしたら、おかしいぞ。あの時は車内ーー零の車に爆弾、通信装置の類は発見されなかった。

アリアは爆弾があると、確信して駆けつけた。それは『武偵殺し』の電波をキャッチしたから。ここまではいい。なら、その電波は何処から出ていたんだ?

冷静に考えてみれば、おかしい事ばかりだ。アリアは嘘を言ってない。これは信頼できる。

ならば、零は?車内に通信装置の類を残したのか?

俺はチラッと零を眺める。

 

「うん?どうしたのかな金次君?」

 

零はニコッと俺に笑いかける。その顔を見て俺は思わず、背筋がゾッとした。一気に血の気が引いていくのが分かる。

 

「い、いや。何でもない」

 

俺は急に怖くなったので、適当にはぐらかす。

零はあの時、爆弾が車内にない事を知っていながら、俺と白雪に調べさせた。何の為に?爆弾はなかったが、恐らく通信装置の類は残しておいて......『武偵殺し』をおびき出す為か?俺は兎も角、こいつにとって親友である白雪まで危険に晒すなんて......いや、相棒を疑うなんてどうかしている。仮におびき出すのが目的でも、きっと零なりに安全に対処する方法があったのに違いない。

 

「そう......まぁ、いいけど。取り敢えず、今は爆弾を何とかしないとね」

 

零の眺める向こうにはレインボーブリッジが見える。

 

「爆弾は車内になかった。残るは外しかない」

 

「だとしたら、車体の下ね。あと、キンジ。これ持ってなさい」

 

アリアは俺にポイと無線を投げて渡すと、バスの後方ーーボニーとクライドの運転するマスタングに飛び降りた。

 

「うオ⁉︎びっくりしタ!って、神崎かヨ」

 

「イきなり飛び降りてくるなっての。クラッシュしたらどうすんのよ」

 

突然のアリアの登場にボニーとクライドの姉妹は驚いた様子だ。

思わず俺はヒヤヒヤした。何かの拍子で着地地点ーー車がズレたらどうするんだよ。見てみろよ、零も珍しくヒヤヒヤした様子で見てるぞ。

 

「ボニーとクライドね。あんた達、ちょっと協力しなさい。この速度をキープして」

 

ボニーとクライドに気さくに話しかけてやがる。どうやら、同じ強襲科とあって、顔見知りらしい。

アリアはマスタングのトランクに体操選手さながら足を引っ掛けて、バスの下を覗き込む。

 

『爆弾らしいものがあるわ!』

 

渡された無線からアニメ声が聞こえる。どうやら、爆弾を発見したらしい。

 

『カジンスキーβ版のプラスチック爆弾、「武偵殺し」の十八番よ。見えるだけでもーー炸薬の要積は、3500立法センチはあるわ!』

 

気が遠くなる。

なんだよそれは。過剰すぎる炸薬量だ。ドカンといけば、バスどころか電車でも吹っ飛ぶじゃないか。

 

「ふーむ、3500立法センチ、ネ。アリア、解体はできそうかい?」

 

零が無線越しにアリアに尋ねる。

 

『やってみるわ......って、何なのよコレ⁉︎今まで見た事も無い配線の数に複雑な構造だわ』

 

無線越しでもアリアが驚愕しているのが手に取るように分かる。

アリアの反応からして、余程解体が困難な爆弾なのだろ。どうすればいい?俺にも何かできないのか。

 

「って、ことは解体は『無理』なんだネ」

 

零がアリアの嫌う3つの言葉ーー『無理』『疲れた』『面倒くさい』の内の一つを言ってみせた。

 

『む、無理じゃないわ!解体くらいやってみせるわよ......!」

 

「少しは現実を見たらどうだい。君は言ったよね?今まで見た事も無い構造だと。なら、爆弾の解体は無理だ」

 

『うるさいッ!あたしは諦めない!やってやるんだか......』

 

「いい加減にしなさいッ‼︎」

 

零が無線越しにアリアを怒鳴る。

無線を持つ俺の手がブルッと震える。

 

「そうやって意地を張って無理なモノを無理と認めず、もし爆発させて君は責任が取れるの⁉︎このバスには私たちだけじゃなく、他の武偵達も乗っているんだよ!この現場は君のおもちゃじゃない‼︎」

 

零の言葉が豪雨の中にも関わらず、辺りにこだます。一瞬、辺りがシーンと静かになった気がした。

さっきまでのチャランポランした零とは思えない迫力だ。

 

『......ッ......!だったら、どうすればいいのよ』

 

「アリア、爆弾を車体から切り離す事はできるか?」

 

俺はアリアに尋ねる。何か言ってやらないとマズな。

 

『しっかりと固定されていて、切り離す事はできないわ。無理に切り離した瞬間、爆破するようにできてるみたいだし』

 

「仮に切り離しても、さっき述べた炸薬量では周りに被害も出かねないネ。ふーむ......」

 

零は顎に指を当て、トントンと叩きながら思考している。

これは零のお決まりといってもいいポーズだ。この状況下でよく落ち着いていられるぜ。

 

「ならば、炸薬量を減らせばいいんじゃない?」

 

「減らすって、どうやるんだよ?」

 

「プラスチック爆弾は粘土状だろうし、うまく信管を避けてある程度、千切って炸薬量を減らしてしまえば、爆発の被害は少なくなると思うよ」

 

よく間違えられるが、名称のプラスチックとは合成樹脂のことではなく原義の「可塑性」を意味し、粘土のように容易に変形できることが特徴である。

確かに炸薬量を減らせば、被害はある程度減らせるだろうが......

 

『それでも、爆発することに変わりはないわ。減らしても1500立法センチくらいよ』

 

ーー1500立法センチ。

それでも十分バスを吹き飛ばすには十分な量だ。

 

「確かにねー。だからさ、爆発時にはバスから切り離されていればいいのだよ」

 

「だから、それをどうやるんだよ?アリアは切り離しはできないって......」

 

「彼女がいるじゃないか」

 

零が眺める先には、ヘリに搭載したレキの姿が。まさか、レキに狙撃させて切り離すってか⁉︎確かにレキの狙撃銃ーードラグノフの7.62mm弾なら切り離す事は用意だろうが......

 

「無茶言うな⁉︎いくらレキでも走行するバスのーーそれも車体の下に仕掛けられている爆弾だけを狙撃するなんて......!」

 

「可能性はゼロじゃないさ。できる?レキさん」

 

『できます』

 

無線越しにレキが返してくる。その声は一切の迷いもない無機質な声だ。本気かよ......これしかないのか。

 

「アリアもそれでいいよね?」

 

『OKよ。けど、どこで切り離すのよ?今、走ってるお台場じゃ建物も多いし、被害が大きいわよ』

 

「あそこで切り離そう」

 

零の眺める向こうーーレインボーブリッジが見える。

あそこなら周りは海だし、爆破させるのに好都合だ。

 

「これだけ騒ぎになってるし、警察も交通閉鎖くらいしているさ。武偵だけに手柄取らせるワケにはいかないだろうしネ♪」

 

警察も何もしないワケにいかないか。

確かにな、交通閉鎖くらいはしてくれてるだろうぜ。それなら、一般車両にも被害は出ない。

 

「レキ、聞こえただろうが、レインボーブリッジに向かってくれ」

 

俺が無線で指示すると、レキを乗せたヘリはローター音を響かせレインボーブリッジの方角に向かった。

 

「アリアは可能な限り、プラスチック爆弾の炸薬量を減らしてくれ」

 

『言われなくてもやるわよ!』

 

無線からキーンとする甲高いアニメ声で叫んできた。俺の右耳を通って左耳まで貫通してくるような気がした。

 

「ボニー!アリアが落ちないよう運転頼むぞ」

 

「任せとケ!安全運転してやるよ!」

 

すまんが、お前が安全運転する光景が想像できん。緊急事態だし、こいつでもやってくれるよな。

 

「武藤!このままレインボーブリッジに行ってくれ!そこで爆弾の解体を行う」

 

俺は屋根伝いに歩き、バスの運転席に移動する。そこには零から貰ったバンダナを頭に巻いた武藤が運転を続けていた。

 

「わかった!絶対に成功させてくれよな。そろそろ、ガソリンがヤバイ」

 

「どのくらい持つ?」

 

「持ってそうだな......レインボーブリッジを少し過ぎた先ーー芝浦ふ頭が精々だ」

 

武藤の言う通り、ガソリンのメーターは切れる寸前だ。

レインボーブリッジを抜けた先、芝浦ふ頭はビルや倉庫、商店も多い。橋の上で爆弾を切り離せず、渡りきってしまったら被害はデカい。チャンスは一度切りか......

 

「分かった。爆弾はこっちの方で処理する。このまま運転に集中してくれ。あと、レインボーブリッジに入ったら、全員、安全姿勢を取るよう伝えてくれ」

 

「わかった!」

 

最後にそう伝えると、再びバスの後方に戻る。

 

「やるね〜金次君。やっぱり、私の見立て通り、君には指揮官の才能があるよ」

 

零がピッと俺を指差しながら称賛してくる。

指揮官って、去年のコーヒーで分かったっていうアレか?

 

「そんなモン、俺にはねぇよ。当たり前の事を言っただけだ」

 

「ふふふ、今はそうしておこうか」

 

口に手を当て、可笑しそうに笑う。

その変装顔で笑われるのは、少し変な気持ちだな。新鮮というか、変な感じというか。早くいつもの零の顔に戻ってほしいぜ。

 

「はぁー、これでもし、石灰と塩があれば最高なんだけどなー」

 

「石灰と塩だと?そんなモンが役に立つのかよ」

 

「石灰ーーコンクリートで爆弾を覆って固めてしまえば、爆発の規模を減らせるし、塩を混ぜれば、塩分でコンクリートの凝固を早めることができるのになー」

 

零が「はぁー」がため息をつく。零の何気ない発言に俺は疑問を持った。

それだけの知識がありながら、何故、さっき述べたモノを用意してこなったんだ?『武偵殺し』が犯行に爆弾を使用してくる事は予め、こいつなら予想が付くだろうし、バスでの『武偵殺し』への妨害ぷりは見事だった。どれも『武偵殺し』の意表を突くモノばかり。

でもよ、何故......お前は"爆弾への対策"をしなかったんだ?

俺は零に疑問をぶつけてみようとしたが、お台場のフジテレビを抜けた先で、

 

ブウウン

 

突如、虫の羽音めいた音が耳に聞こえてきた。

何だ?俺は周囲に首を巡らせるが、なにも見つからない。この豪雨の中だから、空耳でも聞いたか。

 

「金次君、アレッ!」

 

零が何かを発見したようだ。上に向かって何を指差している。

俺は上を見上げると、そこにはドローンが飛んでいた。

蜂の羽音を意味する、遠隔操縦あるいは自律式のマルチコプター又は無人航空機。武偵の間でも使用されている。主な用途は探偵科で航空偵察、強襲科では神風アタックに使用する奴もいたな。

それが一機だけじゃない。二、三、四......六機もいる。

その全てに空撮用のビデオカメラ、UZIが搭載されている。

どう見ても民間向けーー一般人が飛ばすような機体じゃない、『武偵殺し』かッ‼︎

 

バリバリバリバリバリバリッ!

 

上空から六機分のUZIの9mm弾が容赦なく浴びせられる。

バスの車内から武偵たちが悲鳴を上げる。

 

「ぐわッ!」

 

「金次君⁉︎」

 

『キンジッ⁉︎』

 

咄嗟の事で躱す事ができず、俺は肩に被弾した。

痛ぇッ‼︎やっぱり防弾制服越しでも痛いな。

思わずその場にうずくまりそうになるが、歯を食いしばって耐える。

 

バリバリバリバリバリバリバリバリッ!

 

銃撃が止む様子はない。スパイダーでの銃撃とは比べ物にならない。

機械越しだが、『武偵殺し』の憤激がよく伝わってくる。

間違いなく奴は怒っている。計画通りにいかないのが気に入らないのか、零に妨害されたのが腹ただしいのかは、分からないがな。

 

バリバリバリバリバリバリッカチッ!

 

銃撃が止み、ドローンたちはそれぞれ三機に別れたーーボニー&クライドたアリアが乗るマスタングと......俺と零を狙う形に。

 

バリバリバリバリバリバリバリバリッ!

 

激しい銃撃が再開された。俺と零は必死に躱す。

躱すと同時に俺たちの足元ーーバスの屋根に大量の銃弾がけたましい音を立てて、被弾する。

 

「イテェな、この野郎!」

 

「Fuck you!!」

 

ボニーが怒鳴り、クライドが中指を立てる。

ボニーとクライドにも決して少なくない銃弾が被弾する。防弾制服で覆われた、肩や肘に被弾しているのがここからでも分かる。

まずいな......あの2人はマスタングーー車とバスの間で爆弾処理を続けているアリアを庇って、車を移動させることができないんだ。

あれじゃ、絶好の的になるだけだ。

 

『ちょっと、どうなってるの⁉︎ここからじゃ、なにが起こっているのか分からないわ!』

 

アリアが状況説明を求める。

バスの下にいるから状況が分からないのか。ある意味でソコは安全地帯かもな。この状況を見せてやりたいぜ。

 

「現在、『武偵殺し』の新しいオモチャと交戦しているところだ。奴め良いもの持ってるぜーードローンときた!」

 

パァン!

 

無線でアリアに話しかけながら、俺は一番手前のドローンに発砲するがヒョイと躱されてしまう。さらに3発続けて発砲するが、これらも簡単に躱されてしまった。くそッ!ここまで腕が鈍ったか。自分を殴りつけたいぜ。

 

『ちょっと、大丈夫なのキンジ⁉︎スゴイ銃撃みたいだけど......!』

 

「大丈夫だ!アリアは爆弾に集中してくれ。お馬鹿姉妹が盾になってくれてるからよ」

 

「「お馬鹿は余計だ‼︎」」

 

ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!

ガガガガガガガガガガガガガガッ!

 

俺の言葉にキレて、ボニーとクライドが反撃に出た。

ボニーはコルト・グリズリーの2丁、クライドはラインメタルMG3を上空のドローンに向けて発砲した。

2人の銃撃をドローンは軽く躱す。

 

「あぁん?」

 

カチッ!カチッ!とボニーがここで弾切れを起こした。

 

「ヤベッ!」

 

カチンッと、クライドがラインメタルの弾帯を撃ち尽くした。

姉妹揃って弾切れだ。

お前ら残弾数くらい把握しとけよ!早くリロードしろ。

俺がリロードの時間を稼ごうと援護しようとすると、一機のドローンがヒューとマスタングの真横に寄って、次の瞬間ーー

 

ドォォォォォォン‼︎

 

爆発したーー自爆だ。あのドローン、神風仕様か⁉︎

至近距離で爆発をくらったマスタングは前輪が吹き飛び、あっという間に上下が逆さまになった。

同時にボニーとクライドは車道に投げ出されたーーゴロゴロと車道を転がる。バスは確実に負傷したであろう、あの2人を残して走り続ける。

 

「ボニーッ!クライドッ!」

 

俺は2人の名を叫ぶが、豪雨にかき消されて届かない。

クソッ!なんてこった......目の前で仲間がやられた。助けられなかった。

 

バリバリバリバリバリバリッ!

 

感傷に浸る間も無く、ドローンの銃撃が再開される。

ボニーとクライドの事に気を取られ、回避動作が遅れた。マズイッ!やられるッ⁉︎

 

「バカキンジ!しっかりしなさい!」

 

「しっかりして、金次君!」

 

ーーガバッ!

ガスンッ!ガスンッ!ガスンッ!

 

零が俺を押し倒し、アリアが発砲してきたドローン三機をガバメントで撃ち抜く。

撃たれたドローンは呆気なく道路に墜落した。

 

「た、助かったぜ。ありがとうなアリア、キョウ」

 

「どういたしました」

 

零が俺の頭を抱えて、自分の胸に押し付ける。柔らかい感触が顔全体に伝わる。こ、これは......!マズイッ!

 

「こんな時に何やってんのよ!」

 

アリアが零の尻をゲシッ!と蹴る。自然と零から剥がされる。今のは別の意味で助かった。

 

「痛いな!お尻を蹴らないでよ!」

 

「あんたが悪いんでしょうが!」

 

俺を挟んで2人がギャーギャーと口喧嘩を始めた。

 

「あぁ!2人とも落ち着けよ!仲間割れすんな!」

 

見てられないので仲裁に入る。この非常事態に喧嘩している場合か。

 

「仲間割れは愚かな行為だぞ。相手の思うツボだ」

 

俺は生き残っているドローン三機を見つめる。

いつまで経っても、残り三機のドローンからの銃撃がこない。ただ、ジッと俺たちの真上を飛行しているだけだ。

弾切れのようだ。ざまあみろ。怒りに任せてバカスカ撃つからだ。

しかし、まだ油断はできない。ボニーとクライドを仕留めた神風仕様ーー爆弾が搭載されているだろう。

 

「アリア、どうやってあの爆発から逃れたんだ?てっきり、ボニーとクライドと一緒に巻き込まれたかと......」

 

「間一髪のところでクライドがあたしをバスの下から引っ張り出してーーバスの後部に張り付かせたのよ。何事かと思っちゃったけど、あたし見たわ。あの2人、ドローンが爆発する瞬間、あたしに覆い被さって守ってくれた」

 

アリアが事細かに説明してくれた。ボニーそしてクライド......アリアを守ってくれたんだな。

 

「それともう一つ。あの2人......車道に投げ出されたのに、あたしに向かって親指立ててたわ。後は任せたって感じでね」

 

あの爆発、しかも車道に投げ出されたのによくやれたな。大方、グッドラックって、意味だろうな。あの2人らしいぜ、まったく......兎に角、生きてる事が分かってホッとした。

 

「ねぇねぇ、アリア。君はさっきドローンを撃ったけど、どうやってアレらが爆弾付きじゃないって、分かったんだい?」

 

今度は零がアリアに尋ねてきた。確かに......俺の見た限り、何の躊躇いなく撃ってたな。

 

「勘よ。あの三機は爆弾付きじゃないって、あたしの勘が言ったのよ」

 

お得意の勘でしたか......まぁ、その勘のおかげで、俺はこうして生きてけどな。

 

「また勘ですか......勘で行動するんじゃないよ」

 

「何よ?あたしの勘に文句でもあるの?」

 

零の一言をコングに喧嘩が始まりそうだ。またかよ......頭が痛くなってきた。

 

「なんかあんたを見ているとレイを思い出すわ。その人を小馬鹿にした態度があの女に似ているし!」

 

「はぁ〜?いつ小馬鹿にしたんですか〜?感性が鈍ってるんじゃないんですか〜?」

 

「何よ?あんた、アイツの肩を持つ気?だったら苦労の連続ね。ご愁傷様」

 

「もう止めろ。今すぐ止めろ。バスから放り投げるぞ」

 

バスジャックの真っ只中、口喧嘩を始める2人に嫌気がさした俺は拳銃を突きつけ、2人を黙らせる。

その間もドローンは何のアクションも起こしてこない。

 

「一旦ストップ。今はこの状況をどうにかするぞ」

 

眺める先にはレインボーブリッジが見えた。時間がないぞ。

あそこで全てが決まる。

 

「アリア、爆弾の方はどうなった?」

 

「大方、炸薬量は減らせたわ。それでも威力はかなりあるわよ」

 

「OKだ。れ......キョウ。お前から見て、あのドローンたちは神風仕様だと思うか?」

 

「うん、見事な神風仕様だね。ドローンと一体化されている。爆弾は外機にないし、爆弾だけを切り離す芸当はできないネ」

 

零がドローンをジーッと観察する。こいつの探偵科での観察眼は信用できる。間近で見てきたーー伊達にコンビを組んでいないぜ。

 

「見ただけで分かるの?」

 

「初歩的な推理だよアリア君」

 

「あんたにそう言われると何だか腹が立つッ!」

 

探偵科なら誰でも習う、あの名探偵シャーロック・ホームズの決まり文句を言う。

こんな時に思う事じゃないが、零が言うと違和感があるな。アリアも違和感を感じ取った様子で......いや、カンカンに怒っているぞ。

 

「この瞬間、何のアクションも起こしてこないのは変だネ〜」

 

「やはり、キョウもそう思うか」

 

「うん。私の推理では、奴は反撃の手を封じるのが目的じゃないのかな。私たちが発砲でもすれば、その瞬間、バスに近づいてドカンッ!といった具合にネ」

 

零は手をパッと開かせて、俺とアリアに説明する。最後にドローンのビデオカメラをジッと見つめる。

 

「まぁ、こういったオモチャの登場に備えて、私はちゃーんと対策を取っているがネ」

 

突然、零は俺の右腕に抱きついてきた。こんな時に抱きついてくるなよ!

 

「あんた何やってんのよッ!」

 

アリアも負け時と零とは反対ーー俺の左腕に抱きついてくる。何故、お前まで抱きついてくる?状況が分かっているのか?

 

「なぁ、この後のプランを聞かせてくれ。抱きつく事に何の意味がある?」

 

「そうよ!説明しなさい。キンジに抱きついて何になるのよ!」

 

アリアよ......お前も抱きついていたんじゃ、説得力皆無だぞ。

 

「抱きつく事に意味はないよ。私がそうしたいだけだよ......いや、意味はあるか。吹き飛ばされない為に、ネ!」

 

零は天に向かって右手を上げると、パチンッ!と指を鳴らした。

その瞬間ーー

 

ドォォォォォォォォォォォォン‼︎

 

「きゃっ......!」

 

上空を飛ぶ三機のドローンが”同時”に空中爆発を起こした。突然の爆発にアリアは驚いて、短い悲鳴を上げる。

爆風によりバスから投げ出されそうになるが、アリアと零に支えられてる事で、何とか耐えられる。

抱きついてきたのは、この為かよ!

木っ端微塵になったドローンの残骸はグシャッと鈍い音を立てて、道路に叩きつけられた。

 

「ちょっと、撃退できるなら事前報告しなさいよ!危うく、吹き飛ばされるところだったじゃ......!」

 

「事前報告なんかできないよ。そんな事をすれば奴に神風アタックを決められていた」

 

零はアリアの口に指を当て、言葉を遮る。私が喋るから黙ってろ的な感じだ。

 

「奴は私たちが反撃するのを見ていた。裏を返せば、私達だけに集中していた事になる。バスにいる武偵達はさっきの銃撃戦で縮こまっちゃってるし、発破剤のボニーとクライドの2人はもういないしネ。よって、他の武偵からの反撃は除外できる」

 

後輩達が反撃できたのは、単にボニーとクライドの2人に踊らされてた感が強かったしな。零の言ってる事は納得できる。

 

「後は簡単。私達だけに集中して、神風ドローンでビビらせながら、バスがガソリン切れで減速し、爆発するのを待てばいい」

 

「そこまでは分かった。ならよ、あのドローンはどうやって破壊したんだ?銃は封じられていたし、お前が何かやった様には見えなかったぞ」

 

「続きはバスの中で話そうか。う〜、寒い......!」

 

零は身体をガタガタと震わせる。あの豪雨の中、下着をさらけ出していたものな。腕越しに零の身体が冷え切っているのが分かる。

俺たちは割れた窓で身体を切らない様、気をつけてバスの車内に戻った。入ってきた俺たちの姿を見て、後輩達が詰め寄る。

 

「遠山先輩!大丈夫でしたか⁉︎」

 

「お怪我は......あぁ、肩に被弾している!私、救護科なので手当てを......!」

 

「だ、大丈夫だ!兎に角、今はそっとしてくれ」

 

「キンジ!外でスゲェ銃声が聞こえまくっていたが、本当に大丈夫なのか?」

 

武藤がバックミラー越しに俺を気にかける。

 

「大丈夫さ。あと、もう銃撃の心配はない。このまま、レインボーブリッジに向かってくれ」

 

「あ、あのボニーとクライド先輩は?姿が見えないんですが?」

 

「2人とも車道に投げ出されたが生きてるよ。今頃、学校の奴らが救助しているハズだ」

 

ボニーとクライドを気遣う後輩を安心させる。アイツらも何やかんや慕われているんだな。

後輩を後にし、最初に座っていたバスの最後部シートに座ろうと思ったが、あの席の真下には爆弾がある事を思い出し、別の空いてる席に腰を下ろした。

 

「それじゃ、説明してもらうわよ」

 

席に着いたアリアが零に説明を求める。

アリアの隣に腰掛けた零はポケットにしまっていた精油パイプを取り出して、再び吹かし始めた。

 

「あんた、それ精油パイプ?意外ね。パイプを吸うなんて......金髪と相まって妹を思い出すわ」

 

妹?アリアには妹がいるのか。初めて知ったぜ。

 

「そうかい......まぁ、それは置いておいて。話すとしようか、さっきのドローンの爆破、アレは私の助っ人だよ。名前は伏せさせてもらうけど、狙撃科に所属している可愛い子だよ」

 

「助っ人って、他にもいたのかよ......」

 

狙撃科の助っ人もいたのかよ。アリアに負けず、こいつなりにいい駒を持っているんだな。上空を漂うドローンを三機”同時に狙撃する”んだもな。

 

「私はもう助っ人はいない、とは一言も言った覚えはないよ?」

 

零はそう言ってふふふと可笑しいそうに笑う。

変装していても、この態度は変わらないな。他にも助っ人を呼ぶなんて、用意周到だな。ルパンかお前は。

 

「だったら、一言でもいいからあたしとキンジに知らせなさいよ」

 

「無理だよ。君は気づいていなかったから言うけど、あのドローンには盗聴器も付いていた。私達の会話は筒抜け状態。そんな状態で助っ人がいる事を伝えたら、奴は間違いなく警戒し、神風アタックを決めていたよ」

 

「なら、バスに避難してからでも......」

 

「奴は私達に集中していた。目を離してたまるか、とばかりにね。そんな犯人が見ている中でバスに避難してご覧よ。何かあるんじゃないか、何かしてくると犯人は考えるんじゃない?」

 

確かに......俺が『武偵殺し』なら何かしてくると警戒するだろう。散々、邪魔された後だしな。もしバスに避難する光景を見せられたら、今度はバスの中から何か仕掛けると警戒し、ドローンを突撃させていただろう。

 

「レキに狙撃してもらう手もあったんじゃないのか?」

 

「そうよ!レキはあたしが引き抜いた狙撃科のエースよ」

 

レキは狙撃科Sの腕を誇る。レインボーブリッジからでも狙撃は用意だっただろう。

 

「確かにね。それも悪くない、けど、私達が走っていた場所からレキさんがいるレインボーブリッジの間には建物が多い。建物群は網目もないくらい密集していた。いくらレキさんでも建物を透過して、ターゲットを狙撃するのは無理さ」

 

「「あっ」」

 

思わずアリアと声がカブる。落ち着いて地理を確認すれば簡単な事だった。最近、ただでさえ建物が多いのに、お台場には新しいビルが続々と建設されている。今まさに走っているここがそうだ。零の言う通り、ビルが立ち並び網目もないーー狙撃手が狙撃できる隙間がない。

そういえば、ニュースなんかで公園まで潰してビルを建てるから、子供たちの遊び場がなくなるって、問題視もされてたな。

 

「まぁ、フジテレビ辺りなら狙撃ができたかもネ〜」

 

窓の外を見て「クックック」を笑う零の姿は昔テレビで見た、悪の組織の親玉を思わせる。妙に様になっているし......日が経つごとにおかしくなってないか?

 

「じゃあさ、レインボーブリッジまで待てばよかったじゃない。そこからならレキだって......」

 

「レインボーブリッジまで来れば、『武偵殺し』はドローンを使ってレキさんの狙撃を確実に妨害していた。同時にレキさんに危険が及ぶ」

 

「どんな危険が及ぶんだよ?レキはSランクの武偵だぞ。ドローンくらい......」

 

「宙を舞う乗り物ーーヘリからの狙撃は困難だよ。かなりの集中力が求められる。そんなところにドローンが邪魔してきたらかなり応えると思うよ」

 

「ドローンを先に始末してしまえばいいじゃない。それからバスの爆弾を切り離せば......」

 

「ヘリよりも旋回能力ーー小回りが利くドローンを相手取ってかい?神風仕様のドローンを?不安定なヘリに乗って?金次君とアリアも身をもって知っただろう?バスに乗ってドローンを相手取るのが如何に大変を。まぁ、ドローンくらいレキさんの敵じゃないが、レキさんの乗っているヘリーーヘリのパイロットはどうかな?」

 

俺もアリアも失念していた......レキに気を取られてばかりで、レキを乗せるヘリのパイロットの事を考えていなかった。レキは兎も角、パイロットがあのドローンの猛攻を対処できるとは思えない。あのままレインボーブリッジに向かっていれば、ヘリは迎撃されていただろう。

だから、零はレインボーブリッジを渡る前にドローンを助っ人に狙撃させたのか。

 

「ドローンの事は予め予想していたのか?」

 

「いいや、私もあのオモチャの登場は予想していなかったよ。狙撃手はあくまで保険としてね」

 

「保険って、何よ?」

 

「今回、私は『武偵殺し』は陸路から攻めてくると踏んで、奴のオモチャーー無人走行車を潰しにかかった」

 

「ちょっと、待ってくれ。それで気になったんだが、お前はいつから行動を開始していたんだ。あの『武偵殺し』への妨害ぷりは1日やそこらじゃあ無理だ」

 

バスでの『武偵殺し』への妨害工作。アレは見事だった。相手の先の先を行く手腕と完璧なタイミング。とても、一日で仕上がるモノじゃない。

 

「どうゆう事?キンジ、説明しなさい」

 

俺はアリアに成り行きを説明した。

 

ーーーー

 

「はぁ⁉︎そんな事ある筈ないわ!どう見たって、意表を突くじゃ説明がつかない!」

 

「でも事実だよ。はぁー、疲れた。『武偵殺し』も面倒くさい事をしてくれたよ。バスに爆弾を仕掛けるなんて回りくどい......あんなチャチなオモチャを使わず、爆弾を仕掛けたレインボーブリッジまでバスを誘導すればよかったのにネ〜」

 

アリアが驚愕している。

当然といえば当然の反応だよな。殆ど、未来予知に近い。細工したスパイダーがいつ来るかなんて、『武偵殺し』の気分次第だし、状況に合わせて使い分けるーーあの時、バスでの取っ組み合いの最中、弾づまりのスパイダーじゃなく、爆弾付きのスパイダーが来る可能性もあったしな。

あとレインボーブリッジに爆弾を仕掛けるなんて言うなよ。お前が言うと冗談に聞こえん。まだバスには爆弾がそのままだし、心臓に悪い。

 

「説明しなさいキョウ!って、キョウ?」

 

「.....zzzZZ」

 

アリアは零に顔を近づけるが、当の本人は寝息を立てている。

頭をアリアの肩に乗せて、スヤスヤと寝てる。

『脳の疲労』か。ここにきて......肝心なところが聞けなかったな。

 

「起きなさいキョウ!寝るなんて許さないから!」

 

ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!

 

アリアが零の胸ぐらを掴んで、零の頬に往復ビンタをお見舞いする。

残像が見える程の手の動きだ。それ程のビンタをくらっても零は起きる様子はない。やめとけアリア。零は一度、眠りにつくと疲労が治るまで絶対に起きない。

 

「起きろ!起きろ!起きろ!起きろ!起きろ!起きろ!」

 

ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!

 

なおもビンタは継続されるーーさらにスピードアップだ。

まるで、極寒の地で眠りにつこうとする零を意地でも起こそうとするみたいだ。これだけやれば、普通は起きるモノだが生憎と零は普通じゃない。

このままじゃ、零の変装マスクが剥がれて正体が露見する。そうなったら、状況がややこしくなる。俺にまで被害が及ぶ!

 

「起きろ!起きろ!起きろ!おき......」

 

「よせアリア。こいつは眠りについたら絶対に起きん」

 

俺はアリアの手を掴んで止める。

零の頬は変装マスク越しでも分かるくらい真っ赤になっていた。最近の変装マスクはスゴイな。血の気まで再現するとは。

 

「離しなさいキンジ。あたしは絶対に聞き出してやるんだから!」

 

「聞き出したい気持ちは俺も同じだ。けど今は目の前に集中しろ」

 

バスのフロントガラスにはレインボーブリッジが見える。今から渡るのだ。ここからが正念場だぞ。

 

「すまんがアリア。キョウを安全姿勢にしてやってくれ」

 

「なんであたしがこいつを......⁉︎」

 

「頼む。こいつは寝たら目を覚まさん。このままじゃ、頭を打ちかねん」

 

「......分かったわよ」

 

アリアは渋々ながらも零を安全姿勢ーー頭を座席よりも低くし、頭を守る姿勢にしてくれた。

その様子は手のかかる妹を......いや、この場合は姉だな。姉を気遣う妹のように見えた。

 

「全員、安全姿勢に入れ!これから爆弾の発破解体に移るぞ‼︎」

 

車内全体に響き渡るよう大声で指示する。

各人安全姿勢に入った。準備はできた。

窓の外を見れば、レインボーブリッジの真横に、武偵高のヘリが併走している。そのハッチは大きく開けられ、膝立ちの姿勢でこっちに狙撃銃を向けているレキの姿が見えた。

建物の多い台場では無かった狙撃のチャンスが、今、この大きな橋の上で来たのだ。

 

『ーー私は一発の銃弾』

 

無線から、レキの声が聞こえてきた。

見れば、バスを狙っている。

 

『ーーただ、目的に向かって飛ぶだけ』

 

これは......強襲科で、何度か聞いたことがある。レキがターゲットを弾く際の、クセだ。

まじないのようなそのセリフを言い終えた瞬間ーー

レキはその銃口を、パッ、パッパッ、パッパッと”5度”光らせた。

銃口が光るたびにギンッ!ギギンッ!と着弾の衝撃がバスに伝わり、一拍ずつ遅れて銃声も”5度”聞こえてくる。

ガンッ、カンガラン、と何かの部品がバスの下から落ちて背後の道路に転がっていく音がする。

それはーー部品ごとにバスから分離された、爆弾。

 

『ーー私は一発の銃弾ーー』

 

またレキの声に続いて、銃声。

ギンッ!

部品から火花が上がり、爆弾は部品ごとサッカーボールのように飛び上がった。

そして橋の中央分離帯へ、さらにその下の海へと落ちていく。

 

ーードウウウウッ!!!

 

遠隔操作で起爆させたのかーー海中から、水柱が上がる。

アリアが炸薬量を減らしてくれたおかげか、橋の高さにも及ばない水柱だ。

爆発音は一つだけだったが、俺の耳には同時に3つ爆発音が重なったようにも聞こえた。

俺のそんな疑問など御構い無しにバスは次第に減速し......停まった。


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