私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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バスジャックその1

キンジ視点ーー

 

ピピピピピピピーー

 

喧しい電子音が響く。

これは目覚まし時計か。前の理子から貰ったヤツとは別ーー零から貰ったヤツだな。

俺は目覚まし時計を止めようとスイッチを押す。

 

バチチチッッッッ‼︎

 

「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇッ⁉︎」

 

突然凄まじい衝撃が俺の身体に走る。同時に目が覚めた。何だコレは⁉︎

俺は目覚まし時計をよく観察する。こ、これはスイッチの所にスタンガンを仕込んでやがる。よく見ないと分からない小型のスタンガンだ。こんな小型でどんだけの電圧だよ‼︎

 

『やっほー、金次君。おはようございます。何で目覚ましにスタンガンを仕込みやがったと、思っているだろうから説明するね。これは『パブロフの犬』の原理で脳に電気ショックの恐怖が刻み込まれ、無意識レベルから寝坊の悪習を撤廃するのだよ。因みに今回使用した電圧は5万ボルトだよ。てへ♪』

 

目覚まし時計から零の声が響く。

何がてへ♪だ‼︎人を実験台にするなよ。あと、5万ボルトとか殺す気か⁉︎

俺は思わず目覚まし時計を投げ捨てようとすると、

 

『言い忘れたけど、この時計は金次君がセットした時間よりも遅くなるようにしてあるから早く部屋を出ないと遅刻しちゃうよ。バス停まで頑張ってね〜。このメッセージは自動的に消去されます。なんちゃって』

 

そんなメッセージが流れてきた。マジか⁉︎

俺は慌てて時計を探す。壁掛け時計を見るが0時ぴったりで止まっていた。くそッ電池切れかよ。最後の頼みは理子が修理してくれた時計だけだ。しかし、何処を探しても見つからない。おかしい......昨日は確かにテーブルの上にあったのに。ならば零から借りた時計は?探してみるが、零の時計も見つからない。くそッ!こんな時に。

 

『やれやれ。君は今時計を探して躍起になっているね。おまけで教えてあげるけど、枕の下に置いてある携帯を見なよ』

 

俺の行動を読んでいたのか、目覚まし時計から再びふざけたメッセージが流れる。

こうなる様にしたのはお前だらうが。俺は渋々、枕の下に置いてある携帯を手に取る。枕の下に通信機の類を仕込んでおくのは、零から教えられた習慣だ。寝ていても連絡が取れるように、だそうだ。

時刻はヤベッ!7時58分のバスに遅れる。

制服の袖に腕を通し、朝食も摂らぬまま慌てて部屋を出た。

朝食と言えば白雪は今日どうしたんだ?いつもなら朝一番にやって来て朝食を作ってくれるのに。

 

 

第三男子寮から大粒の雨に打たれる事、なんとかバス停まで到着した。ちょうどバス停にバスがやって来て停車した。

よかった。何とか間に合ったぜ。こいつに乗り遅れると、遅刻確定だからな。

俺はずぶ濡れのままバスに駆けつけて乗り込む。

 

「おーい!待ってくれー‼︎」

 

俺が乗り込み終えると、丁度武藤がやって来て滑り込む形でバスに乗車した。

 

「やった!乗れた!やったやった!おうキンジおはようー!」

 

間に合ったのが嬉しいのか、入り口のタラップで武藤がバンザイをした。

 

「ああ、おはよう。朝から危ねぇぞ武藤。いくら乗り遅れそうになったからって、この雨の中滑り込むようにして乗車するなんて。滑って頭打ったらどうするんだ?」

 

「ワリーワリー!今度から気をつけるからよっ」

 

メンゴメンゴとばかりに平謝りする。

武藤を最後にバスはドアを閉めて、「発車しまーす」という運転手の声と共に武偵高に向かって発進した。

発進と同時に俺は空いてる座席を探してバスを散策する。武藤は入り口側の座席に座った。俺も早く空いてる座席を探す。

えーっと、空いてる席は......キョロキョロと見渡すと、空いてる席は最後尾の4列シートだけだった。

近づくと丁度シートには1人の女子生徒が座っていた。

金髪碧眼の美少女だった。その深い碧の瞳は、蒼穹の空を思わせるスカイブルー。頭の両脇にリボンで纏めた波打つ黄金の髪は、解けば背中の半ばを超えるだろう。

武偵高のセーラー服を着ているあたり、ウチの学校の生徒か?あんな女子は見た事がないぞ。しかし、見れば見るほど綺麗だ。俺は思わずボーッとその女子生徒を眺める。

立てば零くらいはある身長。制服の上からでも分かるボディライン。スカートから出ている黒のニーソックス。そこから出る綺麗な白い太もも。自分の中で血流が速くなるのが分かる。いかん、初対面の相手にヒスたらマズイ‼︎

俺は女子生徒からできるだけ離れた所で座り、彼女を見ないようにする。

気を紛らわせようと、車内にいる生徒の数を数える。男子女子、1年2年か。みんな隣にいるヤツや親しいヤツと他愛ない話をしている。

ついでにみんなが身につけているアクセサリー、バッグ、日用品なんかも観察する。探偵科では何事も観察せよがモットーだからな。丁度いい時間潰しになる。観察力では零に負けるが、アリアよりはある自信がある。アリアは観察するよりも突っ走って事件を解決するタイプだな。零とアリア。あの2人は見事なまでに性格・性質が逆だ。喧嘩もするし、食い物や飲み物の好みも違う。スタイルも違う。零はスタイル抜群なのに対し、風呂場で見たアリアはツルペタ......って、余計な事を考えるな。

 

『そのバスには 爆弾が 仕掛けて やがります』

 

ーーはぁ?

車内からポーカーロイドの声が響いたーーそれも最近聞いた事のあるセリフを呟いて。

 

「うわっ⁉︎何だよいきなり⁉︎」

 

「えっ?えっ?タチの悪いイタズラ?」

 

車内にいた生徒達が各々、携帯を取り出し確認する。どうやら、さっきのメッセージは携帯を介して届いたようだーーそれも一台だけじゃなく、ここにいる武偵全員の携帯をハックして。

これは、あの時と同じ......『武偵殺し』か‼︎

俺は大声でバスにいるヤツらに警告をしようとすると、

 

「みんな落ち着いて聞いて!携帯から聞こえてきたメッセージで分かると思うけど、どうやらこのバスに爆弾が仕掛けられてる可能性があるみたい。手の込んだ犯行声明からしてイタズラじゃなさそう。そこの貴方!教務課に状況を連絡して。他は爆弾の捜索。さあ!駆け足だ」

 

俺と一緒に4列シートに座っていた金髪碧眼の美少女が突然立ち上がり、車内にいる武偵達に状況説明と指示を出す。

広い車内にも関わらず、綺麗で耳によく通る声だ。

指示を受けた女子武偵、態度からして後輩だろう。彼女は教務課に連絡を入れる。残った生徒達は棚や手荷物、座席下ーー爆弾の捜索を開始する。

 

「はい、ちょっとごめんねー。はい、ごめんよー」

 

金髪碧眼の少女は車内を捜索する武偵を通り抜けながら、バスの運転手の元に向かう。俺もその後を追う。

 

「運転手さん。突然巻き込んですみません。聞こえた通りバスには爆弾が仕掛けられてます。減速したら爆弾するタイプなので、このまま速度を維持してください。これは『武偵殺し』の犯行です」

 

「は、はいっ‼︎分かりました......!」

 

運転手は突然の事で驚いているのだろう。声が震えている。

待って、こいつは今なんて言った。

 

「おい!お前、何で爆弾の種類が分かるんだよ⁉︎それと何故『武偵殺し』を知っている⁉︎」

 

俺は女子生徒に疑問をぶつけた。

『武偵殺し』が本当は捕まっていない事、爆弾の種類まで知っているなんて怪しすぎるぞ。まさか、こいつが『武偵殺し』なのか......!

 

「あ〜、それはね......」

 

俺が言いよると、女子生徒はチラッと窓の外を眺める。俺も釣られて外を見ると、真っ赤なルナー・スポール・スパイダーが、バス入り口を並走していた。

 

「全員伏せてェェェェ‼︎」

 

彼女が叫び声を上げ、俺の頭を掴んで床に伏せさせる。不可抗力で彼女の胸が俺の顔を包む。柔らかいって、いきなり何しやがるッ!

文句の一つでも言ってやろうとすると、

 

ーーバリバリバリバリッ‼︎

 

無数の弾丸が、バスの窓を後ろから前まで一気に粉々にした。伏せる際、僅かに見えたがあのスパイダーは無人だった。その無人の座席に黒っぽいモノがーーあれは銃座。銃声からしてUZIか。

車内を見渡すと、車体を貫通した銃弾に被弾したのか何名かの武偵が呻いていた。

 

「何とか無事みたいだね金次君」

 

彼女は俺の頭から手を離す。

こいつの手、やけに冷たいな。冷え性か?今はそれどころじゃない。

 

「俺を知っているのか?お前は一体......」

 

「あーもう!まだ分からないかな。私だよ!わ・た・し‼︎」

 

彼女の声がよ〜く聞き慣れた声に変わった。こ、この声は......!

 

「お前、零か⁉︎その格好は何だ?」

 

「疑問に思うだろうが、変装の時間がなかった」

 

この声は間違いない零だ。

変装の時間がなかったって、何処からどう見ても別人だぞ。全く分からんかった。

自己紹介を終えると、零は身を低くして窓から外の様子を確認する。

外にはスパイダーがジッとUZIの銃口をバスに向けて、並走を続けている。これでは下手に動けん。

 

「これからどうする?」

 

「こうするんだよ」

 

零は太もものホルスターから愛銃ーーウェブリー・リボルバーを抜くと、割れた窓から腕だけを出すとUZIに向かって素早く発砲した。

 

ーーパァン!パァン!パァン!

 

三発の銃弾を車体とタイヤに受けたスパイダーはクラッシュし、近くのガードレールに激突した。

 

「無茶するなよ!下手したら蜂の巣にされてたかもしれんぞ」

 

「大丈夫。あれは熱源センサーで車内の様子を監視している。私には反応しない」

 

そう言うと零はプチプチとセーラー服のボタンを外しだした。何でここで脱ぐ⁉︎

俺は視線を晒そうとしたが、時遅し。セーラー服の下からは黒の下着と胸、くびれが姿を現した。それだけじゃないベストの様な物も着込んでいる。これはアイスノンのベストか。

 

「これで熱源センサーを誤魔化したのか」

 

「その通り。私の体温をバスの車内と同じにした。おかげで......ハクション!う〜寒い。金次君、温めて」

 

「って、抱きつくな!」

 

零はベストを脱ぐと俺に抱き付いてきた。程よい大きさと弾力の胸が俺の顔に当たる。やめろ!ヒスらせるな。いや、今は緊急時だからヒスるべきなのか?でも、零ではヒスらない。いや、何故か分からないが、零で''ヒスってはいけない"。そんな気がしてならないのだ。

 

「うーむ、これじゃヒスらないか〜。まぁ、いいけど。今の内に動ける人は負傷者の手当を!」

 

零は十分温まったのか、俺を解放し制服のボタンを閉めた。零の指示に武偵は動く。負傷者の手当が先決だからな。

ーー危なかった。

 

「なんで何時もこうなる......‼︎」

 

カージャック、アリア、『武偵殺し』、蘭豹、そしてバスジャック。本当に不幸な事ばかりだ。次はハイジャックか?

 

「あー、気持ちは分かるよ」

 

「嘘付け」

 

「招かれざる客......時間がないよ」

 

零はフッと何かを感じ取ったのか、窓から顔を出しバスの後方を眺める。しかし、道路が続くだけで何も無い。俺も見てみるが、やはり敵の数は無い。しかし、油断はならない。なんたって相手は『武偵殺し』。次に何を仕掛けてくるか分からない。

 

「敵の数が分かるのか?」

 

「7台だよ!」

 

「あれは『武偵殺し』の新しいオモチャか」

 

「『武偵殺し』からの進級祝いだよ」

 

その声と同時に後方から7台の......あれはスパイダー。無人で同じくUZIを装備してやがる。さっきのヤツは先行兵で、あれが本命ってワケか。

俺がホルスターから拳銃を抜こうとすると、零が肩を掴んできた。

 

「今日は一発で目が覚めたでしょう」

 

「あのスタンガン目覚ましの事を言ってるのか?ああ、目覚めたよ。最悪の目覚めだ!」

 

ーーバァン‼︎

 

俺は憂さ晴らしに後方のスパイダーに発砲するが、届かない。この距離じゃあ当然か。

 

「オラッ!次は何奴だ!腕の立つヤツ来やがれ!」

 

ーーバァン‼︎パァン‼︎

 

俺は当たらないと分かっていながらも、ヤケクソ気味にスパイダーに向けて発砲する。すると、ぐらっ。バスが妙な揺れ方をしたので運転席を見るとーー

 

「!」

 

「こりゃマズいね」

 

運転手が、ハンドルにもたれかかるようにして倒れていた。

肩に被弾している。

運転のために、体を下げられなかったのだろう。バスは左車線に大きくはみ出していく。

どうすればいいんだ。前を見ると東京湾トンネル出入り口が見えた。

 

「運転手さん。気をしっかりと持って。運転できますか?」

 

「無茶だ!この怪我じゃ運転できねぇよ」

 

零の問いかけに武藤が運転手に代わって返事をする。

 

「となると......それでは仕方がない。武藤君、運転を代わって」

 

「お、おう。って、君って誰だよ」

 

武藤は疑問に思いながらも指示通りに運転を代わる。素直に従った所を見ると、こいつ今の零の姿に惚れてるな。正体が零と知ったらどうなる事やら。というか、声で気付けよ。

 

「さぁ、運転手さんこっちですよ。武藤君、私がアイズしたらバスのドアを開けて」

 

零は被弾した運転手に肩を貸し、バスの入り口にあるタラップに誘導する。負傷者だぞ、無理に動かすなよ。入り口にやるなんて何を考えて......まさか。

俺は最悪の展開を想像した。

 

「3、2、1......今だ!」

 

零のアイズと共に武藤がバスのドアを開放する。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼︎」

 

同時に運転手をバスの外に突き落とした。運転手の凄まじい叫び声が辺りに響き渡る。

突然の零の行動に俺や武藤、車内にいた武偵達はただ呆然と眺めている。

バスは東京湾トンネルに入った。

 

「武藤君、ドアを閉めて早く」

 

零の指示に武藤は黙ってドアを閉める。この状況で何を言えばいいのか、武藤でも分からないのだ。

 

「やむを得なかった」

 

俺は零を退かし、窓からバス後方を見るが運転手の姿は無い。

 

「もう安心だ」

 

零が見当違いな事をほざく。

安心......だと?運転手を突き飛ばしておいて、何言ってやがる!

 

「完璧なタイミングだった」

 

「運転手を殺したのかッ!勤続20年のベテランドライバーをッ!」

 

俺は零に飛び掛かり馬乗りになった。乗り掛かられた零は抵抗する。

 

「殺したのかァァ!罪の無い運転手をッ‼︎」

 

「殺してないよッ‼︎」

 

取っ組み合いになる。

 

「殺してないィィ?殺してないだとォォ‼︎バスから突き落として、殺してないだとォォォ!」

 

「だから、完璧なタイミングだと言ったでしょう‼︎」

 

取っ組み合いの末、零のセーラー服のボタンをむしり取った。

服の下から黒の下着が丸見えだ。

 

「どういう意味だッ‼︎」

 

「落ち着いてよッ‼︎」

 

零が太ももで俺の頭をクラッチする。零の柔らかい太ももが俺の頭を包み込む。

 

「説明しろォォォ!」

 

「説明してたら、2人とも死ぬよ‼︎」

 

ーーブオォォォン!

 

アクセルを全開にしたような音が耳に入ってきた。

俺と零はフッとバスの入り口の窓から外を見ると、UZIを搭載した無人のスパイダーが今まさに、取っ組み合いをしている俺たちに、その銃口を向けているところだった。この体勢では躱せない!やられるッ!

銃弾が放たれる、その時、

 

ーーガァン!ドォォォォォォォン!

 

突然UZIが暴発を起こした。暴発を起こしたスパイダーは後方の同型機を2台巻き添えにし、派手に大破し炎上した。

整備不良?それとも事故か?

 

「アレは事故じゃない」

 

零は俺を退かすと、スカートを捲り上げーーリモコンの様な物と赤いバンダナを取り出した。スカートの下はスパッツを履いている。

 

「作戦成功!」

 

決まったとばかりに立ち上がり、零は武藤の元に近寄る。

 

「武藤君。コレを頭に巻きたまえ。装備科特製の防弾バンダナだよ」

 

「防弾バンダナ?それよりも君の名前は?」

 

武藤の頭にさっき取り出したバンダナを巻きつけると、武藤の制止を無視して俺の方を向き直す。

 

「詳しい説明を聞きたい?では進もう!」

 

レッツゴーとばかりに窓からバスの外ーー屋根に登る。

 

「ほら、付いてきて!」

 

俺も零の後を追って屋根に移動する。

外に出ると狙い撃ちされるぞ。ただでさえトンネルの中だというのに。危険を冒してまで行く必要があるのか?

 

「まぁ、心配しないで。彼は無事だ」

 

零はグィと顔を近づける。近い!そんなに顔を近づけてくるな。

眼前には零の変装した顔が映る。零って、こんな姿にも化けられるのか。見れば見る程、完全に別人だ。声は零なのに変な感じだ。

 

「私の手配した者が救出しているから」

 

「どうやってだよ。アレは完全にバスから突き落とした様に見えたぞ」

 

俺が見た限り、完全に道路に突き落とした様に見えた。仮に誰かが外でスタンバイしていたとしても、UZIを搭載したスパイダーに感知されずに、負傷した運転手を救出するなど無理だ。

 

「仮に誰か手配したとしても、もっとやり方というモノがあるだろうが!何でこうなるんだ?」

 

不意に後方を眺めると生き残りのスパイダーが猛スピードで此方に接近してくるのが分かる。距離は50メートルもないだろう。

 

「今日はどうしたんだい金次君。イラついているね」

 

「ああ、イラついているよ。目覚ましといい、『武偵殺し』にもな」

 

「......それはそうと、何故今日は白雪さんと一緒じゃないんだい?」

 

零が突然見当違いな事を質問してきた。白雪?何故ここで白雪の名前が出てくる?

 

「今日は白雪が来なかったんだよ」

 

「白雪さんが、ね?おかしいな......私の計算では彼女は金次君を迎えに行くハズなのに......合う様に仕込んだ......目覚ましもそれに合わせて仕込んだのに......金次君がバスに乗るはずはなかった」

 

零がバスの上でブツブツと独り言を呟く。俺には内容がイマイチ分からん。

 

「ならさ、登校する際に何故他の人と登校しなかったんだい?例えば......オススメはしないけど、アリアとさ」

 

「アリアなら出て行ったよ。ゲーセンの後でな」

 

俺は携帯のストラップ『レオポン』を見せながら事の顛末を説明する。

すると零は何故か死んだ魚の様な目になった。なんだよその目は?ストラップが羨ましいのかよ。

 

「あー、よくわかったよ。じゃあ、アリア以外と登校する手も有ったと思うけど」

 

「いねぇよ誰も。お前はどうしてたんだよ」

 

「私と登校するのはやめた方がいい。警戒されるからね。まぁ、結局こうして変装し、君と登校してるけど」

 

目立つ変装ほど目立たないって、やつか。何故お前が警戒されるんだよ?あと、コレはもう登校じゃない。バスジャックだ。

 

「金次君、私は言ったよね。決して1人にならないでと」

 

「どういう意味だよ」

 

スパイダーが距離を詰める。残り25メートルを切った。

 

「『武偵殺し』の狙いは君だッ‼︎」

 

零は俺を指差して怒鳴る。

『武偵殺し』の狙いが俺って、まさか登校時を狙ってくるなんて思いもよらないぞ。

 

「だが、君はツイてるよ」

 

スパイダーはすぐ間近ーー十分射程範囲内に入った。

 

「私が付いてる。落ちないでよ!」

 

カチッ!

 

零は手にしたリモコンのスイッチを入れた。すると、

 

ドオォォォォォォン‼︎

 

間近に迫っていたスパイダーが爆発した。衝撃でバスが僅かにグラつく。俺は落ちない様に体勢を整える。零は爆発したスパイダーを納得がいかない様子で眺めるーーまるで仕留め切れなかったとばかりに。

 

「アレは一体何だ?爆弾でも仕込んでいたのか?」

 

「その通り!自家製の特製爆弾だよ♪」

 

「爆弾を仕掛ける暇があったなら何故、もっと早く教務課に連絡しなかった⁉︎」

 

俺は最大の疑問を零にぶつけた。

爆弾を仕掛ける=『武偵殺し』のオモチャの場所を知っていたーーこの騒ぎの前から準備をしていた事になるぞ。

 

「しようとしたさ。でも、出来なかった。あのオモチャが隠されていた場所にはブービートラップが満載。盗聴器、監視カメラ、熱源センサーを掻い潜って爆弾を仕掛けるので精一杯だったんだ」

 

「なら、隠し場所を見つけた時点で連絡しろ!」

 

「場所を特定したのが、今日の朝一番だったんだよ!仕込みを終え、変装もしてバスに乗るのは大変だったんだからね」

 

そう言うと、零は屋根に仰向けで寝そべった。

 

「隣に寝たまえよ。金次君」

 

「......どうして?」

 

俺は意味不明な事にただ茫然とするだけだ。

この状況下で呑気に寝ている場合か。

 

「まぁ、いいからさ」

 

零に無理やり手を引かれ、彼女の隣に仰向けで寝る。

俺の側で零の香りがする。何だか不思議と落ち着いてきたぞ。

零はスカートのポケットから金字で『M』の刻印が入った精油パイプを取り出すと、落ち着いた様子で吸い出した。

 

「寝てどうする?」

 

「待つんだよ。私を信じなさい。その間、一服させてもらうよ」

 

言われた通り、暫く屋根の上で待っていると、

 

バリバリバリバリッ!

 

再び無数の銃弾がバスに一斉に撃ち込まれてきたーーその数4台だ。

今度は屋根いる俺たちを狙ってやがる。寝そべっている俺たちの真上を9mmが通過する。見ていてだけゾッするぜ。

 

「じーっと待つんだ」

 

「何をだ⁉︎」

 

変わらず銃弾は撃ち込まれ続けている。

 

「その内、反撃の窓が開くからさ」

 

零は俺に一丁のリボルバーを手渡してきた。俺は手に取り確認する。これはシングル・アクション・アーミー。別名ピースメーカーだ。兄さんと同じ回転式拳銃。色はブラックだが、他は兄さんの使っていたヤツと同じだ。

これで反撃しろって事か。

 

バリバリバリバリッカチ‼︎

 

容赦無く撃ち込まれていた銃弾の雨が突然止んだ。UZIを見てみると、弾詰まりを起こしていた。

今なんだな零!

 

「後は頼んだよ」

 

俺は立ち上がりバスの下ーー眼下にいるスパイダーのUZIの銃口に狙いを定めた。ヒステリアモードじゃないが、いけるか。

俺は意を決してピースメーカーを発砲した。

使った弾丸は4発ーーその全てが、UZIの銃口に飛び込んでいき、

 

ズガガガガガガガンッ‼︎

 

スパイダーたちは全て、その銃座のUZIを吹っ飛ばされた。

俺の、ヒステリアモードでもない、たった4発の銃弾で。普段の俺でここまでやれるとは思えなかった。

 

「やるじゃないか金次君」

 

「まさか普段の力でやれるとは思えなかったぜ」

 

「お兄さんが力を貸してくれたんじゃない?」

 

零は俺の手にあるピースメーカーを指差す。それに釣られて、俺は手にある銃を見つめる。兄さん......

 

「零......まさかこうなる事を見越してピースメーカーを......」

 

「まさか。さて、邪魔者も消えたし早く爆弾を......とはいかないか」

 

立ち上がった零の眺める向こうーーバス後方から再びスパイダーがやってきたーー今度は10台だ。まだいたのかよ⁉︎何台車を持ってるんだよ。『武偵殺し』のヤツ、金持ちか?

 

「どうするんだ?あの数を相手にするのは無理があるぞ!こっちには負傷者だっているのに......!」

 

バスには何人もの負傷した武偵がいる。

トンネル内であの数で襲われたら、ひとたまりも無い。

 

「大丈夫!こんな事もあろうかと助っ人を呼んでおいたから!」

 

「助っ人って、誰だよ!」

 

「金次君もよく知ってる2人組だよ。ほーら、噂をすれば来てくれた」

 

バスの前方ーートンネルの台場方面から何かがこっちに接近してくる。

あれはフォード・マスタングじゃねぇか。『武偵殺し』ーー新手か?いや、座席に誰か座ってる。あれは......

 

「「ヒャッハー‼︎助けに来たぜー!」」

 

強襲科の問題児姉妹ボニー&クライドだ。

ボニーは運転席、クライドは助手席に座ってる。助っ人って、アイツらかよ⁉︎

 


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