私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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今回はギャグ回です。


負の遺産(プレゼント)

零視点

 

「うぐぐがぁああぐきゃあぁぁぁぁっ‼︎」

 

「ごがぁあああぎゅぴぃいいっ‼︎」

 

私の部屋でボニーとクライドが断末魔を上げ、床をのたうち回る。

イギリスの件で2人を呼び出し、''補習''を施す際に手料理ーー肉じゃがを差し入れしてあげた。

最初、私があーんして、2人の口に肉じゃがを運んであげたのに食べてくれなかったので、グイグイと強制的に食べさせた。

その結果、ボニーは喉を抑えて天を仰ぎ、クライドはビクッビククと体を痙攣させて今に至る。

 

「モラン、取り敢えずもっと食べさせてあげて」

 

私は同じく部屋に呼んでいたモランに命令する。

この2人にはもっと沢山食べて反省してもらわないとネ〜。

 

「畏まりました(主に食べさせてもらえるなんて、羨ましい)」

 

モランはテーブルに置いてある肉じゃが入ったお椀を手に取り、2人に近づく。

接近してくるモランを見て、ボニーとクライドは床を這って逃げようとするが、呆気なくモランに馬乗りにされる。

 

「ほら、もっと食べなさい。主が作ってくれた特製肉じゃがですよ」

 

「もうやめッ......⁉︎」

 

「許してくッ......‼︎」

 

モランは2人の懇願を無視して肉じゃがを口に突っ込む。

 

「「ンー!ンー!ンー!」」

 

もがき脚をバタバタさせるが、モランからは逃げらない。

あの2人よりもモランの方が何倍も腕力があるからネ。一度、取っ組み合いになったら、勝ち目はゼロに等しい。

3人のやり取りを眺めていると、

 

ピンポーン!ピンポーン!

 

ドアチャイムが鳴った。

バタバタと足音を立て、元気よくリビングに向かってくるのが分かる。

この元気の良い足音はアップルだね。

 

「モリちゃーん、来たよって......これはなんなの?」

 

リビングにやってきたアップルはボニーとクライドを見て呆然とした様子で眺めている。

 

「やあ、アップル。今、2人には''補習''を施しているんだ。そのついでに私特製の肉じゃがをご馳走してあげたんだよ」

 

「ふ〜ん、そうなんだ〜(これって、ご馳走という名の人体実験だよ‼︎)」

 

アップルが何か余計な事を考えている気がするが、今は良しとしよう。

再びボニーとクライドの方に視線を移すと、2人は動かなくなっていた。白目をむいて返事がない。

 

「それはそうとアップル。ここにくる前にジャック君には連絡してくれたかい?」

 

「う、うん!バッチリだよ。多分、そろそろ来るはずだよ」

 

アップルにはジャック君に伝言を頼んでおいた。

今日は日本にいるメンバー全員(内2名は補習)に召集をかけたのだ。内容はアリアについて周知してもらうためだ。

アリアの情報はそろそろ届くとして、ジャック君は来てくれるかな。

 

ピンポーン

 

再びドアチャイムが鳴った。

噂をすれば何とやらだね。

 

「......お待たせしてすみません教授」

 

足音なくジャック君がリビングにやってきたーー赤いエプロン姿で手にはピザを持って。

 

「バイト中に呼び出してごめんね」

 

「......お構いなく」

 

ジャック君は人工浮島からさほど離れていないピザ屋でバイトをしている。

彼には表向きは留学生、それも一般高に通ってもらっている。そのついでにバイトをしているのだ。

こうして見てみると、妙に様になっているね。誰がどう見てもピザ屋の青年だ。間違いない!エプロン姿はジャック君なりのギャグかな?ジャック君だけにギャグ......うーむ、微妙だな。

 

「その手に持っているピザは何かな?」

 

「......差し入れです。因みに海老マヨです」

 

「どうぞ」とばかりにピザを差し出す。

海老マヨか......私はガーリックとチーズが好きだが、ここはありがたく頂きましょう。

私が受け取ろうとすると、横からアップルが掻っ攫っていた。盗って早々、小ちゃなお口でピザを齧る。

気づかなかった。流石泥棒、盗みが上手いね。

 

「うーん、美味しい!ジャック君のピザって、めっちゃ美味しいね」

 

「......ありがとう。しかし」

 

ジャック君はアップルからピザを取り返すと、ふわっと宙に上げ、

 

ーーシュパ!

 

手刀でピザを6切れに分けた。そして、6切れのピザを手にした紙皿に乗せた。しっかりと、アップルが齧ったモノは本人に差し出している。

おお〜見事な腕前で。包丁やピザカッターはいらないね。

 

「......独り占めはいけない」

 

「ありがとうジャック君。カッコよく決めた所で悪いんだけど、本題に入ろうか。ああ、勿論ピザを食べながらで結構だよ」

 

「ねぇ、モリちゃん。ボニーとクライドの分も食べていい?」

 

「それは本人達に聞いてごらん」

 

アップルがピザをねだる。

私はボニーとクライドに尋ねようとするが、2人は白目をむいたままで反応がない。返事がない、ただの屍の様だ。

 

「主、そろそろ本題に入りましょう」

 

「おっと、そうだね。さて、今日みんなに集まってもらったのは、転入生『神崎・H・アリア』について周知してもらう為だよ」

 

「あっ!知ってるよ。イギリスからやって来た、強襲科のSランク武偵でメッチャ強い先輩でしょう」

 

「......私も知っています」

 

「おや?それは初耳だね。どこで知ったんだいジャック君?」

 

「......うちの店のオリジナルメニュー『ももまんピザ』をよく頼む客です」

 

「うん、よく分かったよジャック君。ありがとう」

 

ももまんのピザなんて、想像するだけで吐き気がするよ。うぼぇ、気持ち悪くなってきた。

思わずモランにもたれかかる。

 

「主、お気を確かに」

 

「ありがとうモラン。少しだけ楽になったよ」

 

突然、もたれかかってきた私を嫌な顔一つせず、モランは優しく介抱してくれた。

彼女の胸に頭を預けていると、頭上からスハースハーと、モランの荒い息遣いが聞こえてくる。モラン、どうしたんだい?

 

「さて、気を取り直して......そのアリアについて私達はまだ知らない事が多すぎる」

 

「どういう意味なの?」

 

「不安要素が一つ現れたかもしれない」

 

不安要素......アリアは将来脅威になると、私の勘が言っている。これは自分でも信じられない事だが本当だ。私が勘に頼るなど殆どないのにね。

 

「それは我々の脅威になるかもしれない、そう言いたいのですか主」

 

「モリちゃんの脅威になり得る存在って、この武偵高にいるの?アリアってタダ強いだけじゃん。それだけでモリちゃんの脅威になるとは、思えないんだけどな〜」

 

「......アップルに一票」

 

「まだどれ程の不安要素になるかは分からないけど、念には念を入れてねーーそこでアリアについて彼に調べてもらった」

 

私がそう言うと、この場にいる全員が「ゲェ」っとした顔をした。

 

ーーピピ、ピピピ

 

今度はテーブルに置いてある私のパソコンから電子音が鳴った。呼び出しの合図だ。

パソコンを開き、『スパイダー』にアクセスすると、

 

『や、やぁ。モリアーティ、元気にしているかな?している?』

 

画面には、のっぺりとした顔に死んだ魚の眼をした男が映った。

彼こそが、皆が嫌そうな顔した元凶ーールイス・オーガスタス・ミルヴァートン。

落ち着きのないーー挙動不審で画面の向こうにいるであろう私を見つめている。汗が凄いよ。大丈夫かい?

 

「やぁ、ルイス。元気......そうだね」

 

『元気、うん。ハッピーなのかな?いや、ここはGOOD?いや、そ、れとも......』

 

「落ち着いて。私を見ないで話してごらん」

 

私がそう促すと、彼は画面から目を背けてた。すると、

 

『ああ、ありがとう』

 

さっきまで挙動不審な態度が嘘のように、死魚のような目は生気に溢れ、のっぺりとした顔はキリッとした仕事ができる男の顔になった。

彼は人の目や顔を見て話すのが苦手だ。それこそ、病的なまでに重症だ。

 

『さて、多忙な私に仕事を押し付けたーー見返りはちゃんと払ってくれるのかね?』

 

「勿論だよ。ただし、情報によるけどね」

 

彼はイギリスのロンドンで広告代理店・報道関連に精通している。その道ーー情報の運用に関してはトップクラスと言ってもいい。

犯罪情報・武偵・事件・スクープなんでも御座れ。

これで相手の顔を見ながら仕事ができれば文句ないのにね〜。

 

「依頼した......」

 

『そこまで言わなくてもいい。自分の調べた情報くらい知っている』

 

私が話そうとすると、ルイスは話を遮って勝手にペラペラと語り出す。

後ろにいるモランが今にもパソコンを破壊しそうは雰囲気だ。それ以上は語らないでルイス。さもないと私のパソコンが犠牲になる。

 

『今から教えるから、足りない頭でよく記憶することだ。時間がないので、大雑把に話すぞ』

 

「いいよ。こっちの方でまとめるから」

 

『神崎・H・アリア。16歳。14歳からロンドン武偵局の武偵としてヨーロッパ各地で活躍......」

 

声を低くさせながら、ルイスはアリアについて語り出す。

 

『今まで狙った相手を全員捕まえている。99回連続、たった1度の強襲で。猛進的なヤツだな』

 

連続ね〜ボニーとクライドを始めとした、他の人達は逃しているだろうけどネ。

 

「あー、よく分かるよソレ。それで?」

 

『徒手格闘ーーボクシングから関節技まで何でもありのバリツの達人。拳銃とナイフは、天才の領域。どっちも二刀流。因みに両利きだ』

 

バリツ......バーリ・トゥードをイギリスでは縮めてそう呼ぶ。

私はベランダから海に落下した時のことを思い出す。

あれは凄かった。水中でもがきながらも私のパンチに反撃してきた。関節技を決められないようにするのが精一杯だった。

 

『その戦闘スタイルからついた2つ名が双剣双銃のアリア』

 

2つ名ーー豊富な実績を誇る有能な武偵には、自然と2つ名がつく。

双剣双銃。武偵用語では、2丁拳銃ないし二刀流のことは、ダブラと呼ぶ。これは英語のダブルから来ているのだが、そこから類推するにカトロの武器を持つという意味の2つ名なのだろう。

 

「家族構成は?」

 

『父親がイギリス人とのハーフ。母親が日本人。アリアはクォーターだ。異母妹が1人いる』

 

私は異母妹という言葉にピンとくるモノがあった。

家族の話をすると、アリアはかなり感情的になったね。あれはコンプレックスぽい。その異母妹は自分より出来がいいのか、生まれがいいのか、それらにコンプレックスを抱いているネ。

 

『イギリスの方の家がミドルネームの『H』家だ。高名な一族で、祖母はDameの称号を持っている』

 

Dameーーイギリスの王家が授与する称号。Dameは叙勲された女性、男性はSirの称号が与えられる。

 

「リアル貴族なんだね」

 

『お前が言える口か?お前さんのイギリスの実家は爵位ーー伯爵だろうが』

 

伯爵と言われても、私はいまいちピンと来ない。イギリスの実家に行ったこともないし、そっちの身内に会ったことも、話をした事もないし。

 

『話を戻すが、『H』家は伝統ある探偵業の大家として信用されている』

 

「探偵?」

 

『人が話をしている時に割り込むなグズめ。お前は馬鹿みたいに黙って聞いていればいいのだ』

 

ルイスが不機嫌気味になった。

彼は自分の話を遮られると、凄っくキレるからね〜。別に私は気にしないが、私の後ろにいるモランがキレてる。お願いルイス。それ以上は言わないで。

 

『探偵業を営む『H』家の正体はホームズ。あのシャーロック・ホームズ1世の一族だ』

 

シャーロック・ホームズ。

100年ほど前に活躍した、イギリスの名探偵。拳銃の名手で格闘技の達人。

そして、私はモリアーティ4世。いや、名乗るのは大袈裟かな。

初代ホームズと初代モリアーティはスイスのライヘンバッハの滝で対決し、引き分けになったーーと、あるが初代ホームズはちゃっかりと生還している。

その名を聞いた瞬間、後ろにいるモランが目を見開くのが感じとれた。そして、私もピンと頭にキタ。

ふ〜ん、ホームズ......ね?彼は武偵の大先輩としては“慕っている”。彼の推理・捜査方法なんかは大いに参考にさせてもらった。あくまで参考にしただけであって、決してパクってなどいない!アリアは見当違いな事を言っているのだ!

 

「ありがとうねルイス。大いに参考になったよ」

 

『早く入金しろよ馬鹿め』

 

最後にそう言ってルイスは画面を切った。

 

「さて、皆。聞いての通り、アリアの正体はハッキリとしたね?」

 

「はい、主。まさか、あのかわ.....じゃなかった、小さいピンク頭がホームズの一族だったとは、不覚でした」

 

「まぁ、気にすることはないよモラン。私だって気付かなかったんだならさ。後、学校ではちゃんと先輩と呼ばないとダメだよ。もしも、呼び捨てにしているのが、バレたら私まで被害が及ぶからね」

 

「申し訳ありません。気をつけます」

 

「いや〜、今日はびっくりする事ばかりだね。ねぇ、ジャック君?」

 

「......別に」

 

ジャック君は何でもないかの様にボソッと答える。

 

「うん?今日は?別の日にも仰天する事があったのかい?アップル」

 

「うん‼︎実はさー、そのアリアなんだけど、キンジと同棲しているんだよ」

 

アップルの言葉でピッキン!と私の中で何かが割れる音がした。あれ?幻聴かな?

 

「いやー、アリアって、超やり手だよね〜。キンジの部屋のお風呂借りたり〜」

 

ーーパッキン!

 

「キンジの2段ベッドまで借りて一緒に寝たりもしたんだよ〜」

 

ーーパッキン!ピッキン!

 

「あとあと!キンジが飲んでたコーラを間違って飲んじゃった。間接キスってヤツだよね」

 

「......アップル。それ以上は黙れ。教授のライフはゼロだ」

 

「むぐっ」

 

ジャック君がアップルの口を塞ぐ。アップルは「むー」と呻く。まだ、言い足りないようだ。

金次君と......ね?部屋に、ベッドに、間接キス......私は気にしていないとも!それだけは保障しよう!

私は気分転換にテーブルに置かれている『ホルムアルデビド』をボトルごと飲もうとしたが、モランに止められた。

 

「主ぃぃぃぃぃ‼︎お気を確かにッ‼︎」

 

「離すんだモラン!飲まないとやってられない!」

 

私の手にあるボトルをモランが奪い取ろうとする。私だって鍛えてある。負けてたまるか!お願いだから飲ませてよ!何だか分からないけど、飲まないとやってられない気がするんだ!

 

「こんな物を飲んでは死んでしまいます‼︎」

 

「私は死なない!何度でも蘇るさ‼︎」

 

「いいえ、例え蘇るとしても、飲ませるわけにはいきませんッ‼︎スミスから止められてるでしょう!」

 

「お願い!飲ませてよモラン!一生のお願いだからッ‼︎」

 

「ここで一生のお願いを使わないで下さい!ジャックさん、貴方も手伝って下さい!お願いします」

 

「......承知した」

 

ジャック君がモランの懇願を受け入れ、私の背後に回るとシュッと、首に手刀を打ち込んだ。そして、私は意識が遠のいた。

 

 

 

 

キンジ視点ーー

戻ってきてしまった。

強襲科ーー通称『明日無き学科』に。この学科の卒業時生存率は、98.1%。つまり100人に2人弱は、生きてこの学科を卒業できない。任務の遂行中、もしくは訓練中に死亡して、いや、訓練中の死亡率は零が生徒会長に就任してからゼロになったな。

訓練の見直し、安全性確保、指導内容から何まで変えたそうだ。

発砲や剣戟の音が響く専用施設の中で、今日の俺はーーとりあえず装備品の確認と自由履修の申請など、訓練以外のことで時間を使い切ってしまった。

そのまま専用施設を出ようとすると、フッと隅には見なれた、いいや、嫌でも覚えている顔が見えた。

強襲科の問題児ーーお馬鹿姉妹ことボニー&クライドの2人だ。

2人だけじゃなく、強襲科それも一年生の姿がある。何やってんだ?

何と無く気になったので、近づいてみると隅にあるホワイトボードにはお馬鹿姉妹が描いたのかーーヘリとそのヘリをミサイルで撃墜している様子が描かれている。意外と絵がうまいな。

ボードの横には講師ボニー&クライドとも書かれている。

後輩をパイプ椅子に座らせて、自分達はホワイトボードの前に陣取って何かを教えているようだ。

後輩の訓練指導か?

 

「犯人のチャーターしたヘリかどうか確かめる必要はネェ!」

 

「マずはぶっ放しちまいな。チガってたら違ってたらだ」

 

お馬鹿姉妹は自信満々でヘリを指差しながら答える。

違った......これは指導じゃない。間違った知識を教えているだけだった。

姉妹の演説に感服したのか、後輩達からは「おお〜‼︎」「流石違うな!」「ベテランだ!」と称賛の声が上がる。

中には手帳を開き、メモを取るヤツまでいる。そんな事をメモする要はないぞ。あの馬鹿姉妹は見当違いな事を教えやがって......

 

「「それが......Hard Boiled」」

 

ドヤ顔で決める。

何がハードボイルドだ‼︎後輩に間違った事を教えてんじゃねぇぞ!間違って民間のヘリを、いや、その前に撃墜しちまったら、確実に9条破りだぞ。後輩達がお前らみたいに、ギリギリ殺さずに撃墜できるワケじゃないからな。

 

「おっ!キンケツじゃねぇカ!」

 

「オーイ!キンケツ。元強襲科がここに何の用だよ?」

 

お馬鹿姉妹に気づかれた。講習を一時中断し、手を振りながら俺の方にやってくる。

だから、キンケツって呼ぶな!それも後輩の前で呼びやがって......完全に覚えられたな。

 

「どうしたんだコイツ〜俺らに会いに来てくれたのカ〜?」

 

「ウれしいぜ〜会いに来てくれるなんてよ〜」

 

「そんなワケあるか。後、近づくな暑苦しい」

 

ボニーは俺の横腹を、クライドは頬を小突いてくる。その際に姉妹の胸が身体に当たるが、俺はヒスらない。

この姉妹はデカイ割にこの感触は作り物ーーパッドだな。

兄さんの女装で目が慣れていたのか、俺は本物と偽物の区別がつく。

甘いな。この姉妹は知らないだろうが、こんなのヒスると思ったら大間違いだぜ。パッドを入れて誤魔化すなんて可愛げのある所があるな。

 

「で?実際はどうなんだヨ?ただ、暇つぶしで来たワケじゃねぇんだロ?」

 

「ヒまつぶしって言えばキンケツはいつも暇だよな」

 

「なワケあるか。今日来たのは装備品の確認と自由履修の申請だ」

 

ついでに錆びついた勘を取り戻すつもりで、訓練にも励もうかと思ったが、さっき挙げたことに時間をほとんど使い切ってしまった。

零から強襲科で感覚を磨き直してこいと言われたんだがな。

 

「ツーことは今から帰るのか?モったいねぇな」

 

「ちょっと付き合えヨ。久しぶりに相手になってやるヨ」

 

「あー、それは遠慮しておく」

 

クライドが組手に誘ってくるが、俺はキッパリと断る。

双子姉妹ーーボニーもそうだが、特にクライドの接近戦は洒落にならない。犯人相手に噛みつき・目潰しなど当たり前。拳銃を隠し持ち、相手の膝を撃ち抜く事も平気でやるし、ナイフで足の腱を切ることだってある。

本人に何故こんな戦法を使うのかと聞いた事があるが、本人曰く、オヤジからお前はコレでやれと教わったそうな。

対して、ボニーの戦法は喧嘩殺法だ。拳と蹴りを使うーーただ我武者羅に殴り掛かるのではなく、相手の動きを見て対処するーー戦い慣れた動きをする。

この姉妹の戦法は全く違う。まるで鏡合わせのようだ。

 

「ちぇー連れねぇナ」

 

「ツき合い悪いぞ」

 

「また今度な」

 

俺は軽く受け流して、その場から離れようとすると、ボニーから肩を掴まれた。何だよ?まだ用があるのか?

 

「ワすれるところだった!ちょっと待ってろ。スぐに戻る」

 

そう言ってボニーは強襲科の備品保管庫に向かっていた。

保管庫からガチャン、パリン!と物が倒れる音と割れる音が聞こえてくる。

クライドは口に手を当てて、笑いを堪えている。何がそんなに可笑しいだ?

暫く待っていると、ボニーが布で巻かれた物を抱えて戻って来た。

 

「何だソレは?形からして......何かの銅像か?」

 

「ソうなんだよなー。でも、ダダの銅像じゃねぇ。なぁ、クライド」

 

「おうサ。まぁ、見てみろヨ。スゲェ笑えるからヨ......ププ、もうダメダ」

 

ボニーは布に手を掛けると、バサッと取り下げた。

布の下から現れたソレを見て、俺は思わず腰が抜けそうになった。

目を釣り上げ、口から獣の様に歯を剥き出しに怒りを露わにした、蘭豹の銅像が姿を現したからだ。

タダの蘭豹じゃない、旧日本軍の陸軍将校の軍服と軍帽を身につけているが、何故か似合っている。いや、似合い過ぎている。

俺はこの銅像に心当たりがあった。

こ、これは⁉︎前に零が俺に押し付けてきた怒りの蘭豹像じゃねぇか‼︎

 

「これをどこで手に入れた?」

 

「これカ?実はよ、この前にクライドと一緒に浜辺を歩いてたら、偶々見つけたんダ。なぁ、クライド」

 

「オう!砂浜に顔を覗かせて、ヒろってください感がハンパなくてよ。オもしろそうだから、拾ってきたんだよ」

 

ギャハハハと2人して馬鹿笑いするが、俺は笑えなかった。

あれは去年の事だった......零がプレゼントと称し俺の所にこの銅像を押し付けてきたのだ。

部屋の前に飾ろうだの、口からお湯が出るようにして風呂場に置こうだの言ってきたが、俺は全て断った。作ったのはいいが、絶対に持て余していたなアイツ。捨てようにもゴミ置場にやるワケにはいかなった。蘭豹に見つかる可能性がある。見つかれば、半殺しでは済まないからな。

そのまま、仕方なく部屋に置いたのだが、その後が地獄の始まりだった。

リビングに置けば落ち着いて飯も食えんかったーー蘭豹に監視されている感があったからだ。気になるので、銅像を後ろ向きすれば、突然振り向きそうでますます気になった。

耐えられず、俺は武藤に協力してもらい船を出してもらった。ついでに嫌がる零も乗せて沖まで行き、銅像を海に沈めたのだ。やってることが死体遺棄と変わらん。そのあとは記憶の彼方にやったのに、まさか舞い戻ってくるとは......最悪ならぬ災厄だ。もしも、蘭豹に見つかったから、洒落にならんぞ‼︎

 

「お前ら、これをどうするだ?蘭豹に見つかったら殺されるぞ」

 

「そうだナ〜強襲科のシンボル像にするってのはどうダ?」

 

「イや、待て待て。食堂のインテリアにしようぜー。ソしたら、みんな笑って飯が食えるからよ」

 

「ほう、何を飾るって?」

 

口は災いの元。

姉妹の背後に、般若が可愛く見える程の阿修羅の顔した蘭豹が降臨した。

手には象撃ち銃ーーM500を持って、顔は銅像の500倍はある怒りの表情を貼り付けている。

怖っ⁉︎

 

「オイ。コッチ向けや」

 

ドスのきいた声で姉妹に後ろを向けと命令する。

ボニーとクライドはギギッと錆びついた機械の様に首を反転させ、蘭豹を見る。その顔はサーッと血の気が引いていた。

 

「ヤッホー先生。ご機嫌よー」

 

「今日もメッチャ綺麗ですネー」

 

心にもない事を喋るが、絶対に怯えているだけだ。

 

「こりゃ、何や?お前らが作ったんか?よく出来てるな。そうか、これがお前らが考えちょる普段のウチか」

 

M500で銅像を突く。

ボニーとクライドが蘭豹に見えないように後ろ手で、俺に向かってハンドサインをする。

これは......『助けて』だと?俺を巻き込むな。お前らが撒いた種だ。自分達で回収しろ。

俺はソーッとその場から離れようとしたが、ガシッと蘭豹に襟首を掴まれた。苦しい⁉︎息ができねぇ。

 

「オイ‼︎トオヤマ!何逃げようとしとんのじゃあ!こりゃ、お前も関わっとるやろうが‼︎」

 

はい、その通りです!海に捨てました。

ボニーとクライドが心配な様子で眺める。これは絶対に自分達に被害が来るんじゃないか心配しているだけだな。

 

「俺じゃありません。そんなモノ初めて見ました」

 

「俺じゃない〜?つまり、コレ作ったホシを我は知っとるって事だよな?」

 

ヤバッ!墓穴を掘っちまった。どうする、ここで真実を言うべきか?でも、そしたら零に被害が......いや、そもそもこうなったのは零のせいだ。

俺は諦めて真実を言おうとすると、

 

ピンポンパンポーン!

 

『蘭豹先生!至急教務課までご足労お願いします』

 

校内アナウスが鳴った。

 

「チッ!オイ!ガキども......後で覚えてろよ」

 

蘭豹は重さ50キロはある銅像を抱えて出て行った。

危なかった〜、殺されるところだったぞ。しかし、あのアナウスは誰だったんだ?聞いた事がない声だった。

 




何故、海に捨てた銅像が今になって姿を現したのか?この謎を解く事ができるのか。

コ○ンヒント『潜水艦』

次回はバスジャックいきます。

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