私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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・アリアに恨みは御座いません!
・ツインテールの方に恨みは御座いません!
・タランチュラ愛好家に恨みは御座いません!


空からアイツがやって来たーーピンクの悪魔が

零視点ーー

 

私の推......あー、もう推理でいいや。に、付き合わせてしまった金次君と白雪さんを愛車に乗せ、武偵高に向かっていた。

窓の向こうには、海に浮かぶような東京のビル群。

武偵高校は、レインボーブリッジの南に浮かび南北およそ2キロ・東西500メートルの長方形をした人工浮島の上にある。

そんな浮島を車を走らせながら、私達は眺めていた。

 

「いやー、こうして車で通勤ならぬ通学するのもいいね。特に大好きな学友達と一緒にね」

 

私は助手席に座る金次君、後部座席に座る白雪さんに声をかける。

金次君はブスとした顔で、少々不機嫌気味ーー見ていて可愛い。

白雪さんは、初めて私の車に乗ったのか、少々緊張気味だ。

2人ともシートベルトはしている。安全第一だからね。

 

「本当にありがとうね零さん。車まで出してもらって」

 

「お前が謝る必要はねぇよ白雪。自分の推理に付き合わせたコイツに責任がある」

 

そんな事を言うなよ金次君。君も探偵科に転科したのだから、人前で推理を披露する時が......ダメだ。金次君が「犯人は貴方だ」という光景を想像しただけ笑えてくる。ぷぷぷ

笑いを堪えるあまり、ハンドルを持つ手がプルプルと震える。

手に力が入らない所為か、車が車線をはみ出た。

 

「危ねぇ!おい、零‼︎車線はみ出てるぞ!戻せ!」

 

「えっ?どうしたのキンちゃん?」

 

金次君が助手席で叫ぶ。

その声に私は、ハンドルを切って車を車線に戻す。

うお!危ない危ない。セーフ。

 

「危なかったー」

 

「危なかったじゃねえよ!思い切り車線を超えてたじゃねぇか。お前、本当に車の免許持ってんのか?」

 

「失礼な!私は武偵である以上、武偵免許で車の運転はできます。因みに車の運転は武藤君仕込みだよ♪」

 

最後に「てへ☆」と付け加える。

懐かしいな〜車の運転の際、武藤君が教えてくれたっけ。武藤君だけじゃなく、車輌科のみんなが教えてくれた。

 

「間違ってもアイツーー武藤の様な運転はするなよ?俺だけじゃなく白雪も乗ってんだからな」

 

「零さん武藤君から運転を習ったの?そうなんだ......安全運転でね?」

 

気のせいか、後部座席にいる白雪さんが冷や汗をかいている気がするね。さては、去年の海水浴の事件を思い出したんだね。アレは、アレでいい思い出だと思うけどね。

思い出に耽っていると、車は探偵科の専門棟を横切った。

探偵科ーー私は高1の1学期、金次君は3学期から入った所で、古式ゆかしい推理学や探偵術を学ぶ。

その先にあるのが通信科、さらに向こうが鑑識科、この辺りはよく私がお世話になっている専門科棟だ。

そうしてもう少し先には、去年まで金次君が在籍していた強襲科がある。

私は体育館に向かって、車を走らせた。

よし、この調子なら始業式には間に合いそうだね。1学期の始業式に生徒会長の私と、副会長の白雪さんが遅刻したら何だからねーー

 

「その 車には 爆弾 が 仕掛けて ありやがります」

 

奇妙なーーツギハギにしたような声がした。

 

「何なの今の?キンちゃん何か言った?」

 

「いや、俺は何も言ってねぇぞ」

 

金次君と白雪さんは辺りをキョロキョロする。すると、

 

「車を 降りやがったり 減速 させやがると 爆発 しやがります」

 

再び、妙な声が聞こえた。

あっ、これはあれだね。ネットで人気のボーカロイドじゃん。りこりんやアップルが好きだったね〜。

りこりんとカラオケでボーカロイドの歌を一緒に歌ったけ。

私が「初音◯クの消失」をフリ付きで歌ったら、携帯で動画撮りまくるし。

そんな過去を振り返っていると、聞こえたセリフの一部を思い出す。

爆弾......ねぇ?

私はこめかみに右手を添えて思考していると、私の愛車にはいつの間にか妙な物体が併走していた。

車輌を2つ平行に並べて走る、カカシのような乗り物ーー『セグウェイ』だ。

 

「助けを 求めては いけません。 ケータイを 使用した場合も 爆発 しやがります」

 

セグウェイは無人で、スピーカーとーー1基の自動銃座が載っていたーーUZIだ。

秒速10発の9ミリ弾を放つ、イスラエルIMI社の傑作短機関銃だ。おお〜いい品物を持っているじゃないか。

 

「なっ......何なのコレ。怖いよキンちゃん......」

 

「落ち着け白雪。くそッ!誰のイタズラだっ!」

 

白雪さんは金次君に助け求める。後部座席で震える白雪さんを宥め、金次君は叫ぶが状況は変わらない。

 

「どうやらカージャックのようだね〜」

 

「何呑気に言ってやがる。コッチには白雪がいるんだぞ」

 

「キンちゃん......!キンちゃんが......私のこと......心配してくれた」

 

金次君は後部座席の方にチラッと目をやる。

どうやら白雪さんが心配なんだね。おや、白雪さん。顔を赤くしてどうしたんだい?心配されて嬉しいのかい?

 

「どうする零。このセグウェイが言うには減速するなって......」

 

「うん。よって私は運転に集中するしかないね。まあ、取り敢えずは......ねぇ、君!」

 

私は運転席の窓ーー併走するセグウェイに向かって叫んだ。

私達の様子を観察する為だろうーーカメラが仕掛けてある銃座部分をジッと見つめながら話す。

話しかけられるとは思わなかったのかーーセグウェイが一瞬、動揺したように見えた。

 

「君は減速させたり、車を降りたり、ケータイを使用したら爆発させると言ったね?爆弾を探したりするのはOUTかい?」

 

「なっ⁉︎何でカージャック犯に聞いたんだよ⁉︎」

 

「そ、そうだよ零さん!あ、危ないよ......!」

 

「別に『話しかけたら爆弾させます』とは言ってないし大丈夫だよ。ねぇ!どうなんだい?爆弾を探すのはSAFE?それともOUT?」

 

私は相手の回答を待つ。

向こうは悩んでいるのか、返事が遅い。ただ、無言で併走し続けている。

 

「そんなのOUTに決まって......」

 

金次君が呆れている。

こらこら、諦めるのは早いよ。よく言うじゃないか「諦めたらそこで試合終了だよ」って、監督がさ。

 

「SAFE で やがります」

 

「って、セーフかよ⁉︎」

 

セグウェイからの意外な回答に金次君が驚く。

ナイス!とても素晴らしいツコミだよ。日が増すごとにツコミに磨きが掛かっているね。

 

「さて、相手の承諾も得られたし、2人とも爆弾を探してくれないかい?見ての通り、私は運転に集中しないといけないからさ」

 

「分かったよ......白雪。一緒に爆弾を探すぞ」

 

「うん!分かったよキンちゃん」

 

金次君と白雪さんは車内を調べ始めた。

2人は車内ーー座席下、ボックス、天井などを探すが、爆弾らしき物は発見されたなかった。

 

車内に無いとすると車外か?

車外ーー車体の下?ーー乗る前に点検したのでNO.

エンジンに直接仕掛けた?ーーこれも点検したのでNO.

ガソリンタンクに仕掛けた?ーー発火物を仕掛けるにはリスクがあるーー電気発火で爆発するモノーープラスチック爆発。

 

車を爆発させるなら、プラスチック爆発が相場と決まっている。朝に金次君の自転車に仕掛けられたモノと同じくらいがね。

あの大きさからして、自転車どころか自動車でも跡形なく吹き飛ばせる。金次君がターゲットだったとしても、過剰すぎるね〜。もっと効率のいい仕留め方を伝授したいよーー『武偵殺し』にね。

 

「この手口。白雪が言ってた『武偵殺しの模倣犯じゃねぇか」

 

金次君が朝のやり取りを思い出したようだ。

 

「どうして模倣犯が私達を狙うの?」

 

「いいや、これは模倣犯じゃないよ白雪さん。でしょ?『武偵殺し』さん」

 

私は再び窓の外ーー併走するセグウェイに向かって話す。

セグウェイは又しても、動揺したように見えた。ははは、分かりやすいな〜何だか可愛く見えてきた。

 

「はぁ?何言って.......いや、零。お前、朝も言ってたなーーそのまま信じるな、って事は捕まった『武偵殺し』は......」

 

金次君か思考し始めた。おっ!どうやら、朝の私とのやり取りを覚えてくれたんだね。

 

「捕まったヤツは替え玉か......模倣犯が本物の『武偵殺し』か⁉︎」

 

「正解だよ。その『武偵殺し』が正に私達を狙っております!拍手〜」

 

私は場を和ませるつもりでギャグを言ってみたが、シーンとしていた。白雪さんまで「へ?」とした顔で私を見ているよ。

外のセグウェイーー『武偵殺し』まで呆然している気がしてきた。

 

「この状況でボケてる場合か‼︎」

 

金次君が私の頭にチョプしてきた。

痛っ!運転している人間にチョプはないでしょう!

 

「何をするんだ君は⁉︎私はタダ、怯えてる白雪さんを和ませようとしただけだよ‼︎」

 

「だからって、もっといい方法があるだろうが‼︎その位ご自慢の頭脳で考えろよ!」

 

「私の頭脳でも直ぐに出来ない事くらいあるさ!」

 

「ちょっと、2人とも喧嘩している場合じゃないよ!」

 

「ごめんね白雪さん。直ぐに終わらせるから待っててね」

 

私は後部座席の白雪さんに謝る。

 

「痴話喧嘩 を してやがる じゃない であります」

 

セグウェイのスピーカーから変な単語が聞こえてきた。

痴話喧嘩......だと?

その一言に私と金次君はカチッーンときた。

 

「「うるさい(せぇ)‼︎テメェは黙ってろ‼︎」」

 

私と金次君はホルスターから拳銃を引き抜き、『武偵殺し』が操っているであろうセグウェイに向かって、パァン!パァン!と発砲した。

発砲の際、金次君の腕が私の胸に当たる。

苦しいよ!そんなに腕を押し付けないでくれ!

至近距離から撃たれた為、セグウェイはバラバラに破壊された。

 

「ちょっと金次君!私の胸に腕を押し付けないでよ!」

 

「仕方ねぇだろう‼︎運転席側にいたんだからよ!」

 

「だからってね。もっといい方法が......」

 

「2人とも......やめなさーーーーいッ!」

 

後部座席の白雪さんが叫ぶ。

同時に私と金次君の頭にビシッとチョップが降ってきた。

痛っ!金次君より痛いよ!

 

「もう!2人とも喧嘩している場合じゃないよ!こんな状況下だからこそ協力しないといけないのに!」

 

「いや......白雪。俺は......」

 

「いやね......白雪さん。私ときん......」

 

白雪さんがギロリと睨むーー恐ろしい眼光だ。

目だけで人を燃やせそうだよ。

 

「「すみませんでした」」

 

「はい。よくできましたね。いい子いい子」

 

白雪さんは子供をあやす様に私と金次君の頭を撫で撫でする。

君は保育園の先生なのかい?この状況を収めて見せた。副会長、侮りがたし!

 

「まぁ、零。さっきの射撃は探偵科一筋にしちゃ見事だった」

 

突然、金次君が褒めてくれた。

おやおや、さっきのお詫びのつもりかな〜。

 

「いや〜それほどでも〜」

 

「何処ぞの五歳児の声で喋るな」

 

「そう言わずに。金次君も見事だったよ。セグウェイに爆弾が仕掛けられていないとわかると、すぐに破壊に移るなんてさ」

 

私なら証拠隠滅・反撃防止の為、神風仕様にするけどね。

私が褒めると金次君は「えっ?」と固まった。うん?どうしたんだい?そのヤバそうな顔は?

 

「いや、爆弾が仕掛けられていないなんて、俺は知らなかったぞ」

 

金次君のカミングアウトに私と白雪さんはサーッと顔が青くなった。

 

「そんな事も知らずに発砲したのかい君は⁉︎」

 

「いや、お前が先に撃ったから思わず俺も撃ったんだよ!」

 

「いや、君が早かった‼︎」

 

「いいや、お前の方だ‼︎」

 

「なんて事だぁ!そんな軽はずみで君は......私の胸に腕を押し付けてーーもうお嫁に行けないよ‼︎」

 

ハンドルに顔を押し付けて、うわーッ‼︎と思わず泣いてしまった。

 

「わー‼︎分かった!俺が悪かった!だから前を見ろ!前を......!」

 

金次君が必死に謝ってくる。

 

「だったら今度、『武偵殺し』について私の部屋で話をしようよ。そしたら、許してあげる」

 

涙目で顔を少し斜めにして、金次君を眺める。

 

「分かったよ。今度、部屋に行ってやる」

 

「キンちゃんと......零さんが......2人きりで......」

 

やったぜ。言質は取ったよ。もう少し、要求したかったが、白雪さんがヤバそうなので止める。

 

「しかし......これからどうするんだよ?いつまでも、走りっぱなしとは行かないぞ?」

 

「そうだよね。ねぇ、零さん。ガソリンは後どのくらいあるの?」

 

金次君と白雪さんが心配するのも無理はない。

ガソリンメーターは半分を切った所だ。

 

「心配には及ばないよ。このまま武偵高に向かおう」

 

「何だよ?学校に爆弾処理でも呼んで解体してもらうのか?まぁ、セグウェイもいなくなったし、助けを呼べるが、走る車ーー何処に仕掛けられているのか、わからない爆弾を解体するのは無理だぞ」

 

「あっ!もしかして、爆弾の場所がわかったとか」

 

「いいや、爆弾は仕掛けられていないよ」

 

第2グランドへと車を走らせた。

金網越しに見えた朝の第2グランドには、いつも通り誰もいない。

ここなら誰には被害は出ないね。

 

「何で爆弾が仕掛けられていないって、断言できるだよ?」

 

「この車の車両重量は770kg。『武偵殺し』が十八番として使用するC4ーープラスチック爆発の密度の相場は1.6g/㎤。この車を木っ端微塵にしようなら、約1232立方センチ以上は仕掛けないといけないね」

 

私の知る限り、『武偵殺し』はカジンスキーB型のプラスチック爆発を使う。

中国の蘭幫が開発した「爆泡」ーー無色無臭の気体爆弾も捨てがたいが、アレはクセがあるから素人が使うとなると難しい。

私も使った事があるが、アレを使い熟すのに2日も掛かったよ。

今の『武偵殺し』が使い熟すには、ちょっっっっと難しいかな♪

なので、気体爆弾の線はない。

 

「仕掛けた爆発の分だけ車も重くなるーーそう言いたいの零さん?」

 

「勿論、金次君と白雪さん・私の体重を差し引いてね。何だったら、白雪さんの体重を当て......」

 

「やめて零さん!キ、キンちゃんがいるのに......」

 

白雪さんがアワアワとテンパり始めた。

当ててもいいが、やめてあげよう。下手したら丸焼きにされる。

 

「車に乗る前に点検してみたけど、特に重量に変化はなし。爆弾は仕掛けられていないよ」

 

「でもよ、そんな感覚だけじゃあよ......」

 

「知らないのかい金次君?プラスチック爆発は僅かだがアーモンド臭がするんだよ。車内からはしないだろう?」

 

「それは車内だけで外は......」

 

「断言しよう。この車に爆弾は仕掛けられていない。私を信じてくれ金次君、白雪さん」

 

私は金次君の目を真っ直ぐと見つめる。

 

「はぁー、分かった。勝手にしやがれ。白雪もそれでいいか?」

 

「うん!私は零さんを信じるよ。だって、友達だもの」

 

「2人ともありがとうね」

 

「もし間違って爆発したら、化けて出てきてやるからな」

 

おお〜怖い怖い。でもね金次君。もし爆発したら私も死んじゃうよ?そしたら、化けるもナニもないよ。

私はフッとサイドミラーを見る。そこには後方から、何かが追ってくるのが見えたーーセグウェイだ。

増援といった所かーー

 

「どうやらヤッコさんは遊び足りないみたいだね」

 

「このままじゃ、蜂の巣にされるぞ。一旦、第2グランドに迎え」

 

金次君も気づいたようでーー私にグランドに向かうよう指示する。

 

「うん?何だアレ」

 

「どうしたの零さん?」

 

その時だった。

グランドの近くにある7階建てのマンションーー女子寮の屋上の縁に、女の子が立っていた。

あれは武偵高のセーラー服じゃないか。うちの生徒?

遠目にも分かる、長いピンクのツインテール。

彼女は飛び降りた。

 

「飛び降りやがった......!」

 

「えっ⁉︎何なのあの子⁉︎飛び降りちゃった......!」

 

(自殺?いや、その気配はなかったね)

 

ウナギみたいにツインテールをニョロニョロさせ、虚空に身を踊らせた彼女はーーふぁさーっ。と。予め準備していたらしいパラグライダーん、空に広げた。

へぇ〜器用だネ。車を運転しながらその光景を見ていると、彼女はこっちに降下してきた。

 

「バッ、バカ!来るな!今、この車はーー」

 

金次君は車の窓から身を乗り出し叫ぶが、間に合わない。彼女の速度が意外なまでに速い。小柄だから空気抵抗が少ないようだね。

ぐりん。ブランコみたいに身体を揺らして方向転換したかと思うと、左右のふとももに着けたホルスターから、銀と黒の大型拳銃を2丁抜いた。

 

「ほらそこのバカ!さっさと頭を引っ込めなさいよ!」

 

「危ない!金次君......!」

 

金次君が頭を引っ込めるより早く、バリバリバリバリッ!問答無用で車の後方ーーセグウェイを銃撃した。

ヘェ〜不安定なパラグライダーから、おまけに2丁拳銃。それも水平撃ちとはね。

バックミラーで確認すると、セグウェイはバラバラに破壊されていた。

あんな子、うちの学校にいたかな?転校生か留学生かな。

2丁拳銃をホルスターに収めた彼女は、今度は私の車上に飛んできた。

気のせいだろうか?彼女に上をいかれると何だかムカつく。

彼女を眺めていると、

 

「何だ......コレ?」

 

一瞬、ドドドドと滝の音が聞こえた。

こんな場所に滝などないし、幻聴かな?

 

「助かったぜ。ありがとうよーーえっーと......」

 

「何なのこの子......今、キンちゃんを撃とうしたよね。零さんも見たよね!ねぇ!見たよね⁉︎」

 

どうやら白雪さんは、彼女が金次君ごと撃とうと思ったらしい。

 

「見た違いだと思うよ白雪さん。彼女に金次君を狙うーー敵意が見られない」

 

件の彼女を少しだけ、弁護していると、

 

「ーーバカっ!」

 

金次君の頭上に陣取った彼女は......げしっ!金次君の脳天を踏みつけた。何をやってやがるんだこいつは?

 

「武偵憲章1条にあるでしょ!『仲間を信じ、仲間を助けよ』ーーいくわよ!」

 

「ーーはぁ?」

 

「ど、どうしたの零さん?何だか怖いよ」

 

突然、金次君を踏みつけて武偵法が、何たらを言い出したピンク頭に私はムカッときた。こんな事は初めてだ。

こんな奴は放っておこう。私はグランドに向かってアクセルを全開にした。

 

「バカ!待ちなさいよ!」

 

グングンと離れていく車をピンク頭は追ってきた。

あー!もうシツコイな〜。

もっと加速させようとした時、ピンク頭は前方に回り込んだ。

 

「な、何をする気なんだあの子?」

 

ピンク頭はふともものホルスターから拳銃を抜いた。そしてーー

バリバリバリバリ‼︎と車のフロントガラスを割った。

衝突の際、飛散防止フィルムを貼っていないフロントガラスは粉々になった。割れたガラスがキラキラと車内に舞う。

 

「私の車になんて事をしやがるんだよ‼︎」

 

「うるさい!車くらいで喚くんじゃないわよ!」

 

「この車は車輌科のみんなが探してくれた大切な車なんだよ!」

 

「だから何よ!そんなに大切なら、また同じ車を買いなさい!」

 

「うるさい!弁償しろピンクウナギ頭‼︎」

 

「何よ!真っ黒タランチュラ頭‼︎」

 

走行する車と、それに合わせて滑空するパラグライダー。

それぞれを操作する両者の間でギャーギャーと口論が勃発した。

タ、タランチュラ頭だと〜?この髪は父さんと同じ綺麗な黒だから気に入っているのに......よりにもよってタランチュラ。あっ、タランチュラはペットとして好きだよ。でもね‼︎

 

「そのツインテールは何なの?ウナギを模しているかな?」

 

「あんたの髪は蜘蛛の脚みたいに見えるわ!」

 

「あー‼︎もう静かにしろ!」

 

「2人とも黙ってよ!」

 

金次君と白雪さんが仲裁に入る。

私とピンク頭はいつの間にか、ゼェーゼェーと息が上がっていた。こんな体験は初めてだよ。

 

「君!こんな強引な手段に出たのは何かワケがあるんだろう?」

 

金次君がピンク頭に尋ねる。

何だろう?金次君がこのピンク頭と話していると、いい気分じゃない。この胸の辺りに湧き出る黒いモヤモヤは何?

 

「その車には爆弾が仕掛けられているのよ!ほら、いくわよ!」

 

ピンク頭はグランドの対角線上めがけて再び急降下し、こっちへ向けてUターンする。

そして、ぶらん。ブレークコードのハンドルにつま先を入れ、逆さ吊りの姿勢になった。そのまま更に接近してくる。

これはしがみ付けと言っているのかな?3人も一緒に助けるつもり?

このピンク頭に従うのはイヤだな。

私は車のブレークをダン!と踏み込んだ。

急ブレークに車体がキキィー‼︎と唸る。同時に身体にGが襲ってくる。

私と金次君・白雪さんは前に押し出されるが、シートベルトをしているので大丈夫だ。しかし、接近して来たピンク頭は車体にゴッチン!と身体をぶつけた。

 

「おい⁉︎零。お前......なんて事を......」

 

「遂にやっちゃったね......零」

 

2人が青ざめた顔で私を見てくる。

早とちりしないでよ。大丈夫さ。その証拠に......

 

「いったぁーい‼︎いきなり何すんのよ‼︎って、爆発......!」

 

ピンク頭は起きて早々、「ハッ!」とした顔で車を眺めるが、いつまで経っても車が爆発する様子はない。

ボンネットの上で呆然とすると、ピンク頭に私は車から降りて、

 

「ほーら!ほーら!ほーら!」

 

「う、うるさいッ!どうしてよ減速爆弾が仕掛けてあると思ったのに......!」

 

「思った?ま〜さ〜か〜勘。なんて言わないよね〜」

 

「えぇ、そうよ‼︎勘よ‼︎なんか文句でもある?」

 

「大有りよ‼︎勘に頼って有りもしない爆弾に踊らされて...私の車をこんな風にして......!」

 

私はフロントガラスが粉々になった愛車を指差す。被害はフロントガラスだけじゃなく、ブレーキの際、車体にピンク頭がぶつかってできた凹みもあるが......

 

「悪かったわね!弁償すればいいんでしょう!それで文句ないでしょう......!」

 

「まぁ弁償してくれるならいいけど...勘で行動するんじゃないよ」

 

ボソッと最後の一言が聞こえたのか、ピンク頭は額にD字の青筋が浮かんだ。

 

「勘で行動して悪いのかしら?そう言うあんたは勘で行動する派じゃなさそうね」

 

「勘よりも論理的に思考してから行動するのが良いと思うけど?」

 

「あんたガチガチに考えるから行動が遅いでしょう!」

 

私に向かって、ビシッと指差してきた。

その一言で私の額にM字条の青筋が浮かんだ気がした。鏡があれば1発で分かるのだが......

 

「ご心配無用。私には行動をサポートしてくれる相棒がいますので」

 

「その相棒がいないと、素早く行動できないようにも聞こえるわね」

 

「ハハハ、勘に頼ってばかりのピンク頭」

 

「ノロマのタランチュラ頭」

 

又してもタランチュラ頭と言ったな〜。

不思議だね。次々とこのピンク頭をけなす言葉が浮かんでくるよ。

 

「あんたは自分の思考に頼る余り、勘に頼る事を忘れてしまったようね」

 

「ご名答。君の言う通り、ここ最近は勘に頼った事はないよ。でも、大丈夫さ。勘など必要ない」

 

「思考に頼ってばかりだと、身を滅ぼすわよ」

 

「勘に頼ってばかりだと、早死にするよ」

 

「はぁ?」

 

「あぁん?」

 

お互いの視線が交差する。バチバチと火花が散っている気がするよ。

 

「勘頼りで仲間いや、家族から除け者扱いされているでしょう?」

 

「......ッ!勘を馬鹿にするな‼︎」

 

おや?何かこの部分だけは偉く怒るね。これは使えそうだ。

 

「勘頼り!勘頼り!勘頼りのぶ・て・い!」

 

「何よ‼︎何よ‼︎勘に頼ったら悪い?私の勘を馬鹿にするな......!」

 

「でも、そのご自慢の勘は外れたよね?」

 

私は車を指差す。

 

「〜〜〜ッ!今すぐ謝罪しなさい!私に、いいえ。私の一族の勘を馬鹿にした事を......!」

 

「へぇー、謝罪がお望みなのかい。じゃあ、こうしよう。次、何か事件があったら勘で捜査するといい。もし、当たって解決できたら謝罪してあげるよ」

 

「その時は土下座しなさいよ......!」

 

ピンク頭の一言に私は「ふん!」と鼻を鳴らし、

 

「土下座なんてパフォーマンスだよ‼︎いくらでもやってあげるよ」

 

「「半沢 直樹(かよ)⁉︎」」

 

いつの間にか車から降りていた金次君と白雪さんが仰天していた。

白雪さん、『半沢 直樹』を知っていたんだね。最終回は燃えたね。

このピンク頭を土下座させてみたいなーー土下座させるのは私だ!

 

「おい、零。さっきから聞いてたが、大人気ないぞーーこんな小さな子に対してよ」

 

「そうだよ零さん。まだ中学生なのに.....えーっと、お嬢ちゃんお名前は?」

 

白雪さんが屈んで、ピンク頭に名前を尋ねる。

そういえば、まだ名前を聞いていなかったっけ。尋ねなくても、始業式ーー武偵高の生徒は名札をしているよ。

ピンク頭の名札を確認する。名前はーー『神崎・H・アリア』。

 

「アタシは神崎・H・アリア。名札に書いてあるでしょう!あと、中学生じゃない‼︎」

 

「......悪かったよ。インターンで入ってきた小学生だったんだな。しかし凄いよ、アリアちゃんはーー」

 

金次君が褒めているのに、今度は、がばっ。

ピンク頭改め、アリアが顔を伏せた。そして、ばぎゅんぎゅん!

 

「うおっ!」

 

「きゃっ!」

 

金次と白雪さん、私の足元に2発の銃弾を打ち込んできた。

 

「あ た し は 高 2 だ ‼︎」

 

えーーーー‼︎嘘でしょう⁉︎この子、りこりんよりも小さくない?りこりんは少なくとも中学生。アリアは小学生にしか見えないし。

 

「ププ、小学生に間違えられてやんの」

 

「うるさい!うるさい!風穴開けるわよ‼︎」

 

アリアは2丁拳銃を私に向けて構えた。私もホルスターから拳銃を抜こうとしたが、その時ーースガガガガンッ!

銃声が聞こえた。これはUZIだ。銃声の方角ーーグランドの入り口からはセグウェイが、銃弾を撒き散らしながら入ってきた。

 

「クソッ!まだいたのかよ......!」

 

「どうしよキンちゃん」

 

「とりあえず、あの廃車を盾にするわよ‼︎」

 

3人は走り出した。ちょっと待ってよ。廃車って...私の車ぁぁぁぁ!

車までたどり着くと、情け容赦ない銃弾が撃ち込まれた。

アリアもそうだが、私の愛車を......『武偵殺し』許せん。

 




戦闘シーンは飛ばします。ごめんなさい。




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